自叙伝「それでも、生きてる(社会人前期編)」
第一話 「新入社員研修」晴れて私は、自由の身となった。長年の私のコンプレックスだった、貧乏な家からの解放である。これからは、私が一社会人として収入を得て、誰にも指図を受けない、充実した生活を送るのだ。まさか、高校卒業と同時に一人暮らしをすることになるとは夢にも思ってなかったが、いざこうして部屋に一人佇んでいると、心の底から希望が湧き起こってくる。「遂に勝ち取った」振り返れば、母には川から拾ってきた子共と言われ、転校を繰り返し、義父に怯えながら生活し、家は貧乏で、ほぼ毎日同じ服、学校で使う備品は大抵兄のお下がりか貰い物、給食費の滞納なんてしょっちゅう。中学になると反抗期を迎え、顔を合わせれば母と口論ばかり。それは高校になっても続き、母を憎み、こんな家に生まれた自分を呪ったこともあった。それが今はどうだ。備え付けのベッドの上に座り、テレビ、エアコン、ロフト付きで、光熱費込みの、1Kの部屋に、静寂の中ただ一人、佇んでいる。一人になるのは多少怖いものなのかなとも思っていたが、なんてことはなかった。それよりも、あの家から解放された嬉しさの方が圧倒的だった。とは言っても、一人暮らしを始めたのも束の間、就職した会社による、一週間程の泊まり込みの研修が始まろうとしていたので、引っ越し早々、私は勤め先の寮に行くことになった。私が勤めることになったその会社は、今ではかなりの大手になっている。家具や家電、生活雑貨に食品等、幅広く事業を展開し、近年目覚ましい成長を遂げている。そんな会社に、少しの間でも勤めることが出来た自分を誇りに思う。そう、私はこの会社を、2年程で辞めることになる。まぁそれはおいおい
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