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僕の周りに転がる140文字で話せるお話

ココナラで名刺チラシのデザインをさせていただいています、しゅうじデザイン室のブログ動画へようこそ。巷でよくある、140文字のショートストーリーを自分事として動画にしてみました。作中のお話はほぼ実話なので、期待されるような劇的な展開もなく、平熱感覚で読み聞くことが出来る10つのお話です。動画のお時間は4分強なので、ちょっとだけ立ち止まって聞いていただければ嬉しいです。
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ツイノベ 416-420

仕事が辛くて上司に相談する。上司はしばらく悩んだあと「みんながんばってるんだから」と諭す。だからお前もがんばれということなんだろう。すると続けて「だからお前1人くらいがんばらなくてもいいだろう」と笑った。数日の療養期間をもらい、夜は焼肉に連れて行ってもらえることになった/№416 理想の上司 真っ白な部屋だった。ふと気が付くと、床に一本のマジックが置いてあった。どうぞお好きなように。そんな風に囁かれたような気分になって、次の瞬間には壁を塗りたくっていた。どうぞお好きなように、どうぞお好きなように。次から次へと描きたい事が溢れて、何も考えずにひたすら描き続けた/№417 ベストピクチャー 友人の創作活動が世間的に評価されて、今日はお祝いにパーティーを開くことにした。途中、手土産を買うために調味料屋へ寄る。恨味、妬味、僻味。どれも馴染みがないものばかりだ。誰かの成功は素直に喜びたい。味見をすると初めて食べたはずなのに、なぜか、最近味わったことのある気がした/№418 シイハ 「もうすぐ飽き冷め前線がやってきます。心の移り変わりに気を付けてください」とニュースが流れる。この気圧に当たられると、心は否応なく感傷的になってしまう。生きる気力も、誰かを想う気持ちも。飽きて、冷めて、やがて失ってしまう。「今日は家の中にいようか」彼女は眠ったままだった/№419 飽き冷め前線 人間の種というものを買ってきた。興味本位で植えてみると、土から目を覗かせる。僕のことを見つけた途端、歯が剥き出しになって鼻が咲く。このまま育てばやがて人間になるのか。気味が悪くなって庭先に捨てる。あれから数日後、
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ツイノベ 411-415

就職のために積もりに積もった恋を処分しようと袋を用意する。まだまだ燃え上がるから可燃ゴミか、はたまた大きく膨れ上がってるから粗大ゴミか。ところが、何日経っても捨てられた恋は引き取ってもらえなかった。あぁ、そっか。私の恋なんて簡単に冷めちゃうし、とても小さな感情だったんだ/№411 不燃ゴミの恋 世界中からウサギ、ブタ、アザラシ、コウテイペンギンの数が減少した。誰かに狩猟されたのか、自然と数が減ったのか。全てが未だに不明だった。ある日、黒ずくめの男がアザラシをさらう瞬間を目撃してしまう。男がアザラシをティッシュ箱に詰める。箱には小さく「鼻セレブ」と書かれてあった/№412 鼻セレブ 化粧品コーナーで「つけまつ目」なるものが売られていた。形は普通のつけまつげとなんら同じで、お試し品をつけようとすると床に落としてしまう。やがて、まつ目を落とした床がパチ、パチと動いたと思ったら、私のことをギョロリと睨む目が生まれた。もし、まつ目をちゃんと使っていたら――/№413 つけまつ目 肉の食べ比べに訪れた客に「左からザブトン、ミスジ、サンカクです」と説明すると「私は食通だぞ! 言われなくてもわかってる!」と激昂した。そこで店員は「あっ」と気付く。本当は左からではなく右からだったのだ。「さすがザブトン、脂が多くてとろけるなぁ」店員は特に訂正もしなかった/№414 肉離れ おかしな光景を見た。若いサラリーマン2人が名刺を持って地面にはいつくばっているのだ。後日、テレビでマナー講座の番組を見かける。相手より低い位置で名刺を出さないといけない。相手より先にもらってはいけない。前に見たサラリーマ
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ツイノベ 406-410

交通事故にあってから僕は、人の死期が見えるようになった。人々の頭の上には年月日と時刻が表示されて、そのときが来ると最期を迎える。事故、寿命、事件。理由はどうであれ、同時間になると必ず亡くなるのだ。ふと、自分の寿命が気になって鏡を覗くと、そこに自分の姿は映っていなかった/№406 死期視 新商品のスポーツドリンクが発売された。試しにマラソン味を購入して飲んでみると、足に疲労が溜まって途端に立てなくなった。ボルダリング味を飲むと腕に激痛が走る。どうやら、そのスポーツを行ったときと同じ効果・効能が働くようだ。説明文には「新感覚。飲むスポーツ!」と書かれていた/№407 飲むスポーツ 昔、兄から教えてもらった遊びがある。お互いが好きそうな本を選んで、その中から相手が好きそうな一文を探して教えて合う。家にいるのが苦手なわたし達が唯一、心を落ち着かせられる場所が図書館だった。あの日、兄が伝えてくれた言葉の意味を、大人になった今でも、わたしは分からずにいた/№408 ワンダーガーデン 「いもやーきいし。おいし」とおじさんの声が聞こえて、注文したら石を渡された。「俺が売ってるのは特別な芋焼き石だよ。これで焼くとすごくうめーんだ」家で芋を焼いてみると、なるほど。確かにおいしいかもしれない。後日、近所の河原でおじさんが石を拾っているのを見かける。騙された/№409 芋焼き石 7日後の予定が待ちきれなくて時間の前借りをする。あっという間にパーティーの日になった。思いっきり楽しんだ次の日、前借りした分を返すと思うと憂鬱になった。1日の就労時間は体感56時間に、カップラーメンが完成するのに体感2
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ツイノベ 401-405

妻が事故にあって記憶を失ってしまった。思い出のバックアップをするために、IDを打ち込んでダウンロードを始めると認証エラーを起こす。何度も、何度も。誰かのIDを奪えば、「誰か」として意識は取り戻す。でも、奪われた「誰か」は。逡巡する。IDをもう一度入力する。入力した。妻が――/№401 Unauthorized 記憶バックアップのIDが盗まれる事件が多発してから、思い出の移植には高額な費用と複雑な手続きがかかることになった。お金を支払うことができない人達は、記憶を、約束を、人格を、願いを引き継げないまま、他の「誰か」になることも叶わず、存在を失っていく。犯人の行方は未だ不明だった/№402 Payment Required 記憶図書館の管理を行う。今、人々の記憶はバックアップすることができて、思い出が欠損したときにはダウンロードして取り戻せる。私の仕事は保存された記憶の中に未解決事件の手がかり、歴史的情報が埋もれていないか調べることだ。『アルマ』と命名された記憶を調べると、閲覧禁止になった/№403 Forbidden ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ /№404 not found 『迷子の言葉を探しています』と貼り紙が貼ってあった。なんでも「作品の感想を伝えたのに『誰からも感想をもらえない』と言われた」とか「創作物が好きだと話したのに『誰
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ツイノベ 396-400

「ヨル。手を出して」とカヒリが囁く。私は少しだけ逡巡したあと、カヒリの右手を繋ぐ。見えないはずの私の両目に、少しずつ視力が戻っていく。幼なじみのカヒリと手を繋いでいる間だけ、なぜか私は光を取り戻すのだ。真っ暗だった視界のパレットに、風景の絵の具が一滴、一滴と落ちていった/№396 ヨルとカヒリ-アルマ③- 『冷却塔アルマに外の世界へ通じる扉がある』と噂が流れ始めた。この街の生態系は狂って、最近では光の残滓を纏った無数の蝶が空を覆い尽くす。夕景に照らされて様々な色へと変化していく。セルリアンブルー。アリザリンレッド。マゼンタ。画用紙に水彩絵の具を垂らしたように広がっていった/№397 水彩の蝶-アルマ④- 炎熱石採掘場に訪れる。炎熱石を左手でそっと握ると、赤くて淡い光を放つ。ほのかな熱量がカヒリの右手と同じ温度に感じた。夜だけになった世界で炎熱石は貴重な資源だ。不足した自然エネルギーをこの小さな石が補っている。それも今、枯渇まで秒読みとなった。アルマの活動限界が迫っていた/№398 炎熱石-アルマ⑤- 禁止区域に存在する廃病院の入口を抜けると、右手側には手術台やレントゲン台があり、正面には重たい鉄格子がはめ込まれていた。死の光を浴びた人が最期に行き着く場所だ。大勢の人が亡くなったであろう地に思いを馳せる。もしも、魂がこの世に存在するのなら、ここは魂で溢れているのだろう/№399 魂の終わり-アルマ⑥- 部屋を常夜灯にする。私達だけの夜が灯った。目を閉じて、意図して暗闇を作る。次に目を開けたとき、もう光を失っているかもしれない。カヒリがいないかもしれない。でも、それでも。意
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ツイノベ 391-395

黒泥棒が現れた。オセロ、碁石、サッカーボール、チェス、パンダ、シマウマ、ダルメシアン、ホルスタイン。世界中から黒という黒を奪っていくのだ。特に困ることはなく今日も会社に赴く。するといつもは横暴な上司がやけに優しかった。変に思っていると、なるほど。ブラック企業だったのか/№391 黒泥棒 罰ゲームでハンバーガー屋でスマイルを頼むことになった。運の悪いことに店員さんはいつも愛想の悪い女性だ。「スマイル、テイクアウトで」女性が僕をジロリと睨んだあと、なんと笑顔を見せてくれた。家に帰ってからも、授業を受けてるときも、ずっと、持ち帰った笑顔が冷めることはなかった/№392 スマイル 記憶のジグソーパズルを拾っては思い出を埋める。完成したと思っても、ひとつだけ空白が残っていた。最後に残ったひとかけらが、たぶん、僕達なのかもしれない。昔のことなんか思い出したくないのに季節は育っていく。長いあいだ見て見ぬふりしてきた、パズルの溝の繭が、羽化しかけていた/№393 溝の繭 『夜が灯る五分前になりました。各自、準備を整えて下さい』アナウンスが鳴り響く。夜患いの時間だ。全ての電気供給を遮断して、人工の太陽と月の消費電力を抑える。やがて世界中が強制的に夜となる。望んでもいない夜を患わせるのだ。窓から夜空を眺めると、偽りの星々が世界を照らしていた/№394 夜が灯る五分前-アルマ①- 世界の標準気温は今や、四十度越えが当たり前となってしまった。原因は未だに判明していない。文献が残っている限りでは少なくとも五十年前からだそうだ。死の光を放つ太陽と月から身を守るために、私達の住む街は巨大な防熱シェル
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ツイノベ 386-390

私は呼吸が下手だ。馬鹿だから、息を吸っているのか吐いているのか分からなくなる。冬は口から白い煙が漏れ出して、今は吐いているんだなと理解できる。昔、迷子になった私を見つけた姉から「あんたの吐く白い息が目印なのよ」と言われたことがある。思い出して、息を吸うように、息を吐いた/№386 息を吸うように、息を吐く 陸上選手になることが夢だった彼女が『止まれ』と書かれた道の上で動けずにいる。交通事故で足が動かなくなってしまったのだ。「よし、行こっか」「ありがとう」車椅子を押しながら私達は次の『止まれ』を目指す。ペンキを携えて、街中の『止まれ』を『進め』に塗り替えていく。進む。進んだ/№387 ススメ 言葉を飼うことにした。育て方が難しく、扱いを間違えると人を傷付けてしまう。逆に気持ちを込めながら育てると人を幸せにしてくれる。同じ言葉でも誰が飼うかによって姿形が変わるのが面白い。思えば、名前を付けるのを忘れていた。感情が溢れてしばらく悩む。そうだ、この言葉の名前は――/№388 言葉の飼い主 台所で息子が倒れていた。床にはメモ書きが置かれている。ダイイングメッセージだ。メモには「ニンジン、たまねぎ、ジャガイモ」と書かれている。そのとき、息子のお腹が鳴り響いた。ハッとして、私は急いでカレーを作る準備を始める。全く、直接言えばいいのに。ダイニングメッセージだった/№389 ダイニングメッセージ 姓名保険に加入した。旦那の元に嫁いでからは名前を呼ばれることがなくなる。「おい」や「お前」と言われる度に、私の名前を失ってしまったようで悲しくなった。「なんとか君のママ」や「誰だっけ?」と名前を
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ツイノベ 381-385

これからブラック企業に退職届を出しに行く。家を出ようとしたら扉の前に彼女がいた。「いらっしゃい。どれにする?」と両手には『勇気』『適当』『脱力』と書かれた紙が握られている。試しに『勇気』を選ぶと「ここで装備していくかい?」「はい」と答えると彼女が僕の背中を押して笑った/№381 道具屋 2歳の娘が「ままー。おそらにねこがいるよー」と話す。なんのことかと空を見上げると曇り空が広がっていた。しばらく眺めているとゴロゴロと雷が鳴る。娘が「ごろごろー、ごろごろー、にゃーん」と猫の声真似をした。なるほど、そういうことか。雨が降り出すと「ねこさんないてるね」と呟いた/№382 そらねこ ネット動物園に訪れると、今日は『かコイ』が元気に泳いでいた。一匹の綺麗なメスを見つけると、オスが周りを泳ぎ続けて他のオスを寄せ付けないようにする。エサを集めたり、メスを攻撃しようものならば徹底的に噛み付く。口をパクパクさせる。今日も『かコイ』は、濁った水の中を泳いでいた/№383 かコイ(ネット動物園②) 陶芸教室が終わったあと、友人の中央がクチナシの壷と書かれた作品を割ってしまった。壺の破片が散らばる。その途端、友人の姿が見えなくなった。先生が「かわいそうに。あの子は口を失ってしまったんだよ。だから、1人になったんだ」といつのまにか後ろに立っていた。「この壺って一体……」/№384 クチナシの壷 サナトリウムに入院している同級生に会う。窓辺には千羽鶴が飾られていた。高校生の頃「自分の住む街だけが世界中」と言っていた彼女は、今、世界の外にいるのだろうか。彼女の手が頬に触れる。「私のことは、好きにならな
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ツイノベ 376-380

プールの授業中、松葉杖の女の子が座っていた。同級生からは「人魚」と笑われる。それでも必ず参加するのは、せめてもの反抗だったのだろう。無口で、ふれたら泡になって消えてしまいそうな白い肌だった。久しぶりに小学校を訪れる。水の抜けたプールの底に、彼女の長い黒髪が見えた気がした/№376 プールの底に 昔、クリアできなかったRPGを起動する。主人公の名前が「ああああ」と適当で苦笑する。ゲームは中盤で止まっていた。せめて、クリアすることができていたら、主人公も報われていたのだろう。世界もお前も救ってやれなくてごめんなと「ああああ」に謝る。データを消して『はじめから』を選んだ/№377 盗作(No.001「ああああ」) 広大な敷地面積を誇るネット動物園を訪れる。お目当は有象無ゾウだ。「人とは違うことをしたい」「新しいことがしたい」そういった名前のない人達が、3分間で作った夢を掲げて鼻を高くする。顔の同じ量産型アイドル。誰にも読まれないと嘆く小説家志望。褒め言葉だけは大きな耳でキャッチした/№378 有象無ゾウ ツイノベを考えるのが面倒になり、思わず書き途中のツイノベを池に捨ててしまった。すると池の中から女神が現れる。「あなたが落としたのは金のツイノベですか? 銀のツイノベですか?」「いえ、銅のツイノベです」「正直者には全部のツイノベを与えましょう」ツイノベのストックが3つ増えた/№379 金のツイノベ 銀のツイノベ 同僚が仕事でやらかした。残業続きで溜まった愚痴を吐き出すと、あろうことか同僚が逆ギレして俺に掴みかかる。罪のつまみを捻ると、体の中からチッ、チッ、チッと音が鳴り響く。「
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ツイノベ 371-375

露天商からアナログ時計を買う。時間を合わせようと針を進めると景色が早送りされていく。試しに針を戻すと景色が戻っていった。観たい番組や雑誌があれば時を進めて、嫌な用事があれば時を戻す。やがて、時間を弄っている内に時計の電池が切れる。時が止まったまま、どこへも行けずにいた/№371 タイムトラブル 自然が好きな彼に振り向いてもらえるように、花占いで考える。好き、嫌い、好き、嫌い。花びらを摘んでいると「相手の嫌がることはやめましょう」と結果が出た。喜んでもらうために花かんむりを作ってプレゼントする。四つ葉のクローバーを探して三つ葉の上を歩く。きっと、大丈夫なはずだ/№372 花占い 夫の浮気を知った。酔っ払って帰ってきた夜、あろうことか左手の薬指に私の知らない指輪がはめられていた。問いただしてみると浮気をあっさり認めた。「これから不自由になると思うけど、もう二度と浮気しないって、指切りしてくれる?」夫は慌てて指を立てる。すぐさま私は夫の指切りをした/№373 ゆびきり 殺神事件が起きる。被害者は右利きの神だ。きっと容疑者は左利きの神だろう。もうすぐ全人類が強制的に左利きとなる。混乱に陥る前に人々の生活様式を変えなければならない。八百万の神は事象を司る。神様の死は、理の消失と同じ意味を持つ。今、この世から『右利き』の概念が消えてしまった/№374 やおよろず殺神事件 『この心は、現在使われておりません。気持ちを御確認の上、もう一度心を御繋ぎ下さい。この心は、現在使われておりません。気持ちを御確認の上、もう一度心を御繋ぎ下さい。 この心は、現在使われておりません。気持ちを御確認の
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ツイノベ 366-370

『あなたの目の前には無限の可能性が広がっている』そう言われる度に不安になってしまう。私の目の前にある無限の可能性は、さながら蜘蛛の巣のように見えて、私はその巣の中心でもがいてる。希望に満ちていると勘違いしてしまえば、可能性の蜘蛛に喰い殺される。私の、たった一本の道は――/№366 蜘蛛の意図 ジリリリ。と、地面で蝉が這い蹲っていた。「あ、タンポポだ」意識してないのか、意図してなのか、花を避けた彼女は代わりに蝉を踏み付けた。ジリリリ。という鳴き声が止まる。「秋が過ぎる速さで光は陰るの」彼女の言葉を思い出す。長い夏が終わりに差し掛かり、もうそこまで秋が迫っていた/№367 光の陰る速度 コンビニへ行ったとき、彼女が珍しく募金箱に寄付する。その日の夜に彼女が自殺した。どこかの、誰かが、寄付したお金で幸せになるのだろうか。彼女のことを知らない誰かが。彼女を残して幸せになっていく。ある日、部屋から遺書が見つかる。達筆な字で書かれた文字の、読点だけが揺れていた/№368 アリア クラスの人気者の影から「存在」をトプン、と掬い出す。黒い塊が手のひらに乗っかる。そっと口に含むと、その人が経験してきた苦痛や幸せの味がした。飲み込む度にその人の影が薄くなる。代わりに私は存在感を増していく。みんなに気付いてもらえるように、今日も泥水のような影を飲み込んだ/№369 影廊 ブラック企業に就職してしまった。食堂のイスに座って同僚のご飯を眺めると、得体の知れない物体が皿の上に乗っかっていた。食堂のメニューは勝手に決められる。同僚が「最近は苦虫や割りばっかり食わされてるよ」と嘆く。上司の失敗やストレ
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ツイノベ 361-365

最近は煙突建築士の発生が問題視されている。どこからともなく人の家に現れては勝手に煙突を建てていく。煙突が建てられた家には、サンタクロースがプレゼントを持ってやってくるけど、たまに泥棒や恥ずかしい思いをした人も入ってきてしまう。煙突建築士は今日も、どこかで煙突を建てている/№361 煙突建築士 透明になる薬を飲む。本当に誰も僕のことが見えなくなって楽しくなる。ある日、集合写真から僕だけが消えていた。それだけじゃない。映像、記憶、僕が関わった全ての事象が失わ⠀ て僕の存⠀ が消えな⠀ ように、急いで文字に⠀ て残す。⠀ 葉が届か⠀ くなる。「⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀⠀ ⠀ 」/№362 私の瞳には秘密があった。涙の代わりに宝石が流れてくるのだ。生み落とされる宝石は瞳を傷つけて、その度に視力が悪くなっていく。親からは宝石欲しさに暴力を振るわれる。人前で泣かないように。気味悪がられないように。悲しみを奪われないように。人魚になって、海の底に沈みたいと願った/№363 深海魚の瞳 庭ではジュゴンが泳いでいた。尾ビレが揺らめき、お腹を数回ほど叩く。私はジュゴンのお腹を枕にして眠ると、体中を安心感が包む。彼に吐き出してしまった苦い感情も、私の救いようもない弱さも、今なら全て許される気がした。やり直すんだ。全てを失ったここから。この、ジュゴンの泳ぐ庭で/№364 ジュゴンの泳ぐ庭 言葉の種を植えた。水の代わりに感情や思い出話を与える。毎日、毎日、言葉にならない気持ちを種に込める。ちょうど一年が経った日、言葉の種が花を咲かせた。それはそれはとても精彩で、鮮明で、繊細で、感傷的な形をしてい
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ツイノベ 356-360

少し前まで、数十万あれば海外で安楽死の権利が入手できたのに、最近は値上がりしているらしい。それだけ人々の『死の価値観』が上がったということだ。安らかな休息さえ、貧乏人には与えられない。「金さえあればなんでも手に入る」という言葉は、あながち間違いではないのかもしれなかった/№356 カフカ 残業も終わって帰宅する。最近は肌荒れが酷いので、アルカリの炭酸電池を湯船に投げ込むと、バチ、バチと音を立てながら炭酸が弾ける。疲れ切った体を電流が刺激した。少し勢いが弱いかなと思って確認してみると、充電用の炭酸電池だった。繰り返し使っているから弱まっているのかもしれない/№357 炭酸電池 牛乳をコップに注いで一分半温める。僅かに張る膜を人差し指で救い上げて口の中に入れる。美味しいわけではないけど昔からの癖だった。ココアパウダーをコップの中に落として軽く混ぜ合わせると、白と薄茶のコントラストがくるくると回転して、やがて一つになる。溶けて、融けて、解け合う/№358 炉心融解 SDカードがなくなって冷や汗が出る。あのカードの中には大事なデータが入っているのに。従事ロボットが僕に迫ってくる。早くカードをロボットに差し込まないと。一歩、一歩、鈍い音を立てながら近付いてくる。ロボットに殺される。カードを。早くSDカードを。ソーシャルディスタンスカードを/№359 SDカード 日課の夜釣りへと赴く。これをやらないと1日が始まらない。今日はいつもより暗闇が深くて手元がおぼつかなかった。空に向かって釣竿を振ると、針が月に刺さって引力に体を持っていかれそうになる。負けじと水平線の彼方に沈めて夜を釣り上
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ツイノベ 351-355

朝、目覚めると体が透明になっていた。血管も筋肉も見えなくて、まるでガラス細工の風鈴にでもなったみたいだ。窓から入り込む風が私の体を揺らすと、リリン、リリンと音が鳴る。『透明になって誰からも忘れ去られたい』と、そう願ってしまったからだろうか。リリン、リリンと鈴がまた鳴った/№351 少女風鈴 海水の雨が降ります。小学校は錆びて朽ち果てます。今日も空ではくじらが泳いでいました。街に迷い込んだくじらは、親の元へと帰れず涙を流しました。そこに傘を差した女の子がやってきて「一緒に探してあげる」と言いました。くじらは女の子を背中に乗せます。1人と1匹の冒険が始まりました/№352 空のくじら 男子三人で廃墟を訪れていた。雨で地面がぬかるんでおり、ズッ、ズッ、ズッと鈍い足音が聞こえてくる。みんな嫌な気配を感じたのか、後ろを振り向くと息を整える者、カメラを構える者、正面を見据える者と三者三様の反応だった。一人が半狂乱になって僕に襲いかかってくる。気づいてしまった/№353 まぎれる 図書室の本から栞が切り取られる事件が起きた。犯人は図書委員の女の子だ。「栞なんかあるから飽きるんだよ。最後まで一気にパーっと読んじゃえばいいの」と笑う。読みかけの文庫本に目を落とす。「いつか、忘れてしまう今日だね」と青い栞のミサンガを、くちびるでほどきながら笑っていた/№354 青い栞 中学校では『そっくりさん』という噂が流行っていた。女の子の顔写真を用意して「そっくりさん、お越しください」と唱えると、見た目が同じ人が現れるらしい。でも、噂はやっぱり嘘だった。女の子に声をかける。「どうしたの?」「ううん。な
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ツイノベ 346-350

今年も夏が侵略してくる。去年は地球温暖化でついに秋が消滅してしまった。このままでは冬までもが夏に支配されるだろう。恋の予感、淡い期待。夏はキラキラとした幻想を見せて人間達を弱体化させてくる。春に溜め込んだ「地に足の着いた目標」を掲げて、季節防衛軍の最後の戦いが始まった/№346 夏戦争 世界中の白と黒が入れ替わってしまった。パンダやシマウマ、ダルメシアンの柄は白と黒が反転して、オセロの駒と囲碁の石、サッカーボールも白と黒が逆転してしまう。世界中の白と黒が入れ替わる。この未曾有の現象に数日は慌てふためいたけど、世界が混乱に陥ることは、まぁ、特になかった/№347 くろとしろ 去年の夏に行った脱出ゲームのフライヤーが出てきた。あの頃はまだ彼と付き合っていて、将来も見えずにだらだらと同棲を続けていた。今でもきっと彼のことが好きだ。この部屋にはまだ彼との思い出がたくさん残っていた。二度と訪れない夏を思い返す。あの日、私達は脱出できていたのだろうか/№348 脱出ゲーム 3歳になる娘が「きょーはしちゅーのひ、きょーはしちゅーのひ」と朝から気分が高かった。そんなにシチューが好きだったかなと思いながら夜ご飯の準備をする。「すたーすてっきがほしいです」とシチューにお願いする娘を不思議に思ってしばらく考えていると、なるほど。今日は『七夕』だったか/№349 シチューの日 おじいさんはクラブへバイブスを上げに、おばあさんがナイトプールでタピオカを飲んでいると、大きな桃がパシャパシャ。中からは男の子が「ぴえん、ぴえん」と飛び出します。お腰につけたチーズハッドグでハムスター、カワウソ、フクロウ
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ツイノベ 341-345

アレルギーなのか鼻がむずむずとする。耳鼻科で診察してもらうと「ぴえん」という症状らしい。本当は心に思ってないのに悲しい気持ちになったり、嬉しくて泣いてしまうそうだ。鼻をこすり過ぎると肥大化して「ぱおん」も発症すると注意されたので、迂闊に鼻をかけなくて心が辛くなる。ぴえん/№341 ぴえん ある日、飼っているオウムが「すきだよ、すきだよ」と教えてもいない言葉を喋り出す。テレビからは恋愛ドラマが流れていた。次の日は「わたしのほうがいいおんなよ」と喋る。全く、変に影響されてしまったもんだ。オウムが暴れる。「いっしょにしのう」え?「きづいて。べっどのしたにいるよ」/№342 誰かの声 その生き物は「ミツデス、ミツデス」と鳴き続ける。視力が良くないのかマスク着用、十分なスペースな確保、手の消毒などの対策をしていても見えていないようだった。「ミツデス、ミツデス」と収束に向かう明かりも見つからないまま、その生き物は最期まで鳴き続けた。「ミツデス、ミツデス」/№343 ミツデス 喫茶店でメニューを眺めていると、氷水なるドリンクが置かれていた。一見するとただのお水なのに、コップを揺らすと氷同士がぶつかったようなカラン、コロンという音がする。まるで氷が入っているかのように、時間が経つと水かさが増していく。口に含むとバリ、ボリと見えない氷の塊が砕けた/№344 氷水 成人式が終わって、タイムカプセルを開けに小学校へと向かう。懐かしい面々が集まる。有名大学への進学、大手企業への就職、家族持ち。誰もが輝かしい日々を送っていた。比べて自分は何をしているのだろう。タイムカプセルが埋まってた跡に空洞が
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ツイノベ 336-340

知らない番号から電話がかかってきた。無視をしているとやがて「他の女に浮気しようとしてるでしょ。あなたが私の体を触ったり、撫でたり、指でこすったりする度に、私の体は熱くなるのよ」とメールが届く。どうして自分の連絡先を知っているのかこわくなり、早く機種変更しようと店に急いだ/№336 携帯電波 「私が死んだらどうする?」と妻が聞いてくる。悲しそうな妻の服を脱がす。「私が死んだらどうする?」背中の扉を開ける。「私が死んだらどうする?」配線の不具合を直した。「ありがとうね」機械になってまで生きたくないという妻の願いを、蔑ろにした僕をどうか、どうか、許さないでほしい/№337 アイオライト 「今日の天気は晴れのち人でしょう」と、病院の待合室に座っているとニュースが流れる。診察室からは「浮力検査の結果ですが、以前よりも体が軽くなっているので重力剤を出しておきます」と聞こえてきた。浮力を制御できない人達は空へ飛ばされていく。やがて、空から大量に人が落ちていった/№338 浮力検査 「タンがすごく安かったの」と母親がにこやかにタンを焼く。僕はこのコリコリとした感触があまり好きではない。聞けば今日はエンマ様に嘘をついて、舌を抜かれる人間が多かったそうだ。母親から味を聞かれて「おいしい」と答えようとすると、なぜか「おーひー」と舌ったらずになってしまった/№339 舌を噛む その夜、国の至る場所で花火が上がる。夜空には光と音が広がるばかりで姿は見えなかった。誰もが色のない花火を探して空を眺める。頼りのない透明な合図だ。下ばかり向いて歩いてきた日々が、意味が。今、多くの人が上を向いて、標として
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ツイノベ 331-335

久しぶりに実家へと戻る。昔、近所の女の子の家では、金曜日になるとカレーライスが出てきたことを思い出す。亡くなった海上自衛隊のお父さんを忘れないようにするためだそうだ。今では更地になってしまった場所を眺める。女の子との思い出と共に、どこからか懐かしいカレーの匂いがしてきた/№331 匂いの記憶 オンライン飲み会を開く。時間になったのでボタンを押すと、不思議な光に包まれて友人達が電脳空間に集まる。食べ物も、飲み物も、味も匂いも感触も、今では仮想現実で体験できる世の中になった。ネットの中で馬鹿騒ぎするのはとても楽しい。でも、いつか、実際にまた会おうとみんなで願った/№332 オンライン飲み会 大切な人が飛び降り自殺してから2年が経つ。腕時計も、未読のLINEも、SNSの更新も、23時14分から先には進まなかった。薄氷の上にある命を割らずに歩く。ゆっくりと冬を思い出に埋める。病葉のように君の顔を忘れていく僕を、どうか、許さないでほしい。夜を泳ぐ。遠雷が鳴った。春が始まる/№333 改稿データ(2020/04/21.siro) 車の窓からペットボトルを捨てる男がいた。マナーがないなと憤っていると、幼い女の子がそれを拾って「おちましたよー」と男に渡す。思わず僕も、通行人も、幼い女の子も、男さえも笑顔になってしまう。みんなが、ちょっとずつ優しくなれたら、みんなが、ちょっとずつ幸せになれるのだろ/№334 ニーナ 列車がトンネルを抜ける。隣の席を見ると男女が向かい合って座っていた。窓を開けていたせいか、男性の顔はすすだらけになっている。なぜか男性は顔を拭こうとはせず、女性が化粧室へと向
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ツイノベ 326-330

「××××? ×××××××××××××?」「××××××××、×××××」「××!」「××××××! ×→×!」「××××。××××【××】×」「ーー×××××!」 「××『××××××』×××?」「××××+×××=××××」「××…」「××××/××/××」「×、×。×、×。×」「×××××&×××」「××%××××」「〒×××-××××」「×××-××××-××××」 「××××ד×××”×××××(××××)××」/№326 言葉狩り 祖父の部屋からわら人形を見つけてしまった。こっそりきき耳を立てると「これであいつを食ってやろう」という祖父のおぞましい声が聞こえてきた。ある日の晩、お皿の上に乗ったわら人形を見て悲鳴をあげる。祖父がニタァとした表情でわら人形の腹を裂くと、中からおいしそうな納豆が出てきた/№327 わら人形 僕が子どものころ、屋上遊園地で着ぐるみから風船をもらったことがある。当時はそんなに多く風船を持っていて飛ばされないかと本気で不安になった。親になった今、久しぶりに屋上遊園地に訪れる。ふと、風船が手から離れた。空の彼方に消えていく赤い風船が、亡くなった子どもの魂と重なった/№328 アローンアゲイン ある日、お笑い番組を観ていると妻の頭上に「笑顔の消費機嫌5秒」と表示された。若手芸人のネタに笑ってる妻が、5秒後に笑い疲れて元に戻った。テレビの音に驚いたのか、赤ちゃんが泣き出すと頭上に「悲しみの消費機嫌1分」と表示される。慌ててあやしていると、1分後に赤ちゃんは泣き止んだ/№329 消費機嫌 入院している同級生のお見舞いに行く。窓際には
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ツイノベ 321-325

大切だった人の墓参りへ赴く。左手で花を供えて、記憶を振り返る。バッティングセンターで汗を流して、喫茶店で焼うどんを食べて、ソフトボールの試合を見て。何年と経っても過去に流せない、嘘偽りのない思い出が透き通っていく。「今度、双子の女の子が生まれるんだ」遠くで花火が光った/№321 difference 廃墟になった遊園地の夢を見た。うさぎの着ぐるみが「いつのまにか、子ども達は遊園地から消えてしまいました」と嘆いている。お化け屋敷も、レストランも、観覧車も、どこにも人の気配はなかった。「明日には着ぐるみの予備もなくなります。仕事を失います。死んでしまいます」と泣いていた/№322 春雷 二歳の娘が私に何かを渡してくる。そこには何もなくて戸惑ったけど、きっと、娘にはちゃんと見えているのだ。それは大人になってしまってから失われたきらきらだとか、わくわくだとか、生きるのに大切なものなのかもしれない。娘がにっこりする。受け取った手で胸をなでて、心の中に閉まった/№323 碧日 動物専門の絵師と出会った。ボトルには黒色のインクがたっぷりと詰まっている。「今日は何を描くんですか?」「なーに、黒色のストックを減らそうと思ってね」と笑うと、筆を使ってしろくまに色を塗っていく。不思議なことにしろくまは実際にパンダになっていき、やがてツキノワグマになった/№324 動物絵師 鼻水やくしゃみが酷い人がいた。その人は「不謹慎アレルギーなんです。今年は特に酷くて」と不思議なことを呟く。聞くと「やれ死を案件にするなとか、やれ芸人が動画配信するなとか。『不謹慎だぞ」という声がすると反応しちゃうんですよ」
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ツイノベ 316-320

大声大会が開催された。死んだ友のことを知ってもらおうと大きな声で叫ぶ。声は届かなかった。どこからか「人の死を利用するな!」と聞こえた。司会者が「名前も顔も性別も年齢もわからない無関係な人が一番声が大きかったです! おめでとうございます! おめでとうございます!」と騒いだ/№316 声の行方 「赤い羽根募金をお願いします」と高校生達が活動していた。若いのに感心だなと、僕の背中から羽をむしって差し出す。空の飛び方を知らない子に、空を自由に飛べなくなった子に、 空に憧れている子のために、空を夢見る子に、今では少なくなってしまった僕の羽を託す。高校生達は優しく笑った/№317 空の飛び方 国語が神の転ぶ。言葉達にめちゃくちゃがなって混乱する。ヒラガナ、かたかな、kanjiが区別の付かなくなって頭痛が痛い。今日わ大変に一日ななるだろう。人間達わ国語に神様の言います「ご願いします。言葉お正だしく戻してください」と。生活が煮詰まる。ニッポン語がむづかしくなりました/№318 言葉の乱れ 政府から「不要不急の夢を見ないように自粛していただきたい」と要請が出る。街からミュージシャンが消える。カメラマンが消える。アイドルが消える。コスプレイヤーが消える。グラフィックデザイナーが消える。小説家が消える。「本当に不要不急だったのかな」と誰かの声が聞こえる。消えた/№319 消えていく 「お前は現世で悪行の限りを尽くした。よって、地獄の釜茹での刑だ!」と、閻魔大王が罪を犯した男を裁きます。邪鬼達に引き摺られてマグマ風呂に放り込まれる男。しかし生粋の江戸っ子であった男は「天にも召される気持ち良さだ
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ツイノベ 311-315

久しぶりに銭湯へ行った。大きい湯船でのんびりしていると、老人が「カポーン、カポーン」と声に出していた。まるでししおどしそのものだ。「なにしてるんですか?」「いやね、これが私の仕事なんですよ」と喉を叩く。不思議な仕事もあるんだなと湯船から出る。銭湯には老人の良い声が響いた/№311 ししおどしの老人 仕事の疲れ。人間関係。暗いニュース。いっそ死んでしまおうかとも思った。そんな毎日に辟易して無人島への移住を決めた。島には人間の言葉を喋るどうぶつ達で溢れている。ワニ、ねずみ、もぐら、いぬ。みんな幸せそうだった。お花見をしながら、みんな、幸せそうだった。新しい生活が始まる/№312 2020/03/20 19:20 全ての人は可視化された糸で繋がっていた。親友なら緑の糸。腐れ縁なら青い糸。必ず誰かしらと繋がって、必ず色に何らかの意味がある。そんな中、私の指が運命の赤い糸で結ばれた。その糸の先を辿るとそこはお墓だった。顔も知らない誰かに祈る。祈った。さよなら、私の大切になれなかった人/№313 赤い糸 「今日は不思議な行事を紹介します」とレポーターが伝えると、画面はとある学校に切り替わる。先生が「雨天決行です」と報告するや否や、生徒達は飛んだり跳ねたり喉を鳴らしたりの大騒ぎ。雨の中みんなで歩いて池までたどり着く。なかよく横一列に並ぶと、かえる達はゲコゲコと合唱を始めた/№314 雨の行事 自殺配信をすることにした。私にはこれしか道が残されていないけど、きっと誰かが止めてくれるという気待ちもあった。コメントが流れる。「不幸を見世物にするな」誰かが。「不謹慎だと思わないのか」誰かが、
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ツイノベ 306-310

海外旅行から帰ったあと、僕はコロを飼いました。でもコロは繁殖力が高いから、みんなもコロを飼いました。みんなコロに夢中で、学校には誰も登校しなくなりました。テレビもネットもコロの話題で持ちきりです。コロの餌がありません。本日は入荷しておりません。街から人が消えていきました/№306 コロ 明け方、歓楽街でバイトを始めた彼女が帰ってきた。絨毯にはウイスキーと煙草の灰、猫の毛が交じり合っている。彼女が眠ったのを見届けたあと僕は始発に乗った。小田急線の窓から朝日が射し込む。未来も、仕事も、お金も、何もなかった。何者かになれると思っていた。始発のはずだったんだ/№307 名前のない街 いっそ飛び込んでしまおうと駅のホームに立つ。ふいに肩を叩かれて振り向くと怪しい男が佇んでいた。男から「楽しくなる薬がありますよ」と飴を手渡される。どうせ死ぬなら。そう思って飴を舐めると、ヘリウムガスを吸ったように声が高くなって、思わずふふっと笑う。今日はもうやめておくか/№308 楽しくなる薬 いかにも柄の悪そうな男がコンビニに入ってくると、無愛想に「メビウス1箱」とだけ答える。私が「あの、番号でお願いします」と返すと「お客様は神様だぞ! さっさとしろ!」と怒鳴られた。先輩に愚痴ると「神様は神様でも疫病神様だったな」と笑う。なるほど、疫病神様かと思って私も笑った/№309 厄病神様 廃夢処理場に訪れた。ガラクタの山になった夢を清掃員のおじさんが片付ける。扱いきれなくなった夢、身の丈に合わない夢。軽い気持ちで見た夢。勝手に生んで、簡単に捨てていく。この世界は夢に破れた人で溢れていた。今、夢の残骸が空
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ツイノベ 301-305

誰もいない体育館に入って椅子をひとつ置く。今日は中学校の卒業式だ。電気が消えて暗い中、壇上を見つめる。本当ならみんなで卒業式をできたんだろう。まさか急にみんなと会えなくなるなんて。ふと、誰かが入ってきて体育館が明るくなる。「死んじゃったあの子、一緒に卒業したかったなぁ」/№301 3月9日 アフロの友人が「これ見て」と頭を下げると、タマゴがちょこんと乗っかっていた。親鳥が巣と間違えて産んでしまったらしい。ひな鳥はすくすくと成長して、代わりに友人がやつれていった。ある日、虚ろな目をした友人がふらふらと屋上に進んでいく。柵を飛び越えるとアフロから鳥が羽ばたいた/№302 頭鳥化操 メールの返信がないまま、9年間が経った。思い出はいつのまにか病葉になってしまう。夜患いの朝を泳いでいた。気づけばきみより歳上になってしまった。狗尾草が揺れる。言葉が失われた。手を合わせて、祈る。命は不平等だ。でも、それでも。春風が吹いて振り返ると、きみの忘れ音が聞こえた/№303 Re:Re: 深刻なマスク不足が続いて、買い占めや高額に転売されたりする。外で咳をしようもんなら犯罪者扱いだ。みんなもマスクが足りないのだろう。ネットでは予防マウントやストック不足を馬鹿にした。嫌い、嫌い、嫌い。醜い本音を隠す為に、笑顔型マスクで顔を覆い被せる。表情はにこやかになった/№304 覆面 「いちにちいちぜん」がおかあさんのくちぐせでした。「あなたのため。みんなのため」とわたしにいいきかせました。だからいちにちいちぜんがあたりまえなんだとおもいました。みんなはへんだとわらいました……。……。……。「続いてのニュ
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ツイノベ 296-300

「ひな人形を見に行ってくる」と娘が家を飛び出した。私も前に見せてもらったが、お隣に越してきた老夫婦の家には立派なひな人形が飾られている。まるで本物の人と勘違いするくらいに。いつのまにか空き地になったお隣を眺める。ひな人形の姿が頭から離れない。あれから娘は行方不明になった/№296 ひな人形 「『月が綺麗ですね』って知ってる?」と、鏡に向かって指で広角を上げている彼女に質問する。「知らない。なにそれ?」「夏目漱石がI love youをそう和訳したんだって」「ふーん」「君ならどう和訳する?」「『作り笑いが下手になってしまった』かなぁ」と言って、彼女は鏡ごしにほほえんだ/№297 月が綺麗ですね 子どものころ、雨の日にだけ見える友達がいた。いつのまにか部屋の中にいて「わたし、雨のひはそとであそばないといけないから」と困りながら笑う。彼女がどこから来て、どこへ消えるのか。大人になった今でもわからない。遠い日の思い出だ。ヘッドフォンで耳をふさぐ。雨の音だけが聞こえた/№298 雨うつつ 「××君が××さんの給食費を盗んだと思う人」と先生が質問する。生徒達のほとんどが次々に手を上げていく。僕は本当の犯人を知ってるけどこわくて言えなかった。××君は「僕が盗みました」と身に覚えのない自白をする。多数決で決まったことは、少数派となった人の「本当」になってしまうのだ/№299 少数欠 僕の作ったアプリの感想を見ると「リリース以降、特に面白いイベントがない」「登場人物が少ない」「課金したのに恩恵がない」「何度も同じバグが発生する」と散々だった。もう、潮時なのだろう。説明文に「『僕の人生』は
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ツイノベ 291-295

美容師さんから「髪の毛にはね、記憶が宿っているの」と聞いた。だから失恋をしたら髪を切るそうだ。辛い記憶を忘れるために。思い出さなくてもいいように。美容師さんの長い髪が私の頬に触れる。少し熱く、多量に柔らかい。美容師さんが長い髪を揺らしながら「嘘だけどね」と、小さく笑った/№291 トーエ カードショップに行くと、動物達がカードゲームで遊んでいて驚いた。人にも似たソレはキーキーワーワーと鳴いて異臭を振り撒く。アニメで覚えたのか何やら台詞のような言葉を喋っている。相手を威嚇するようにシャカシャカと手を動かし、パチパチと警告音を発する。すごい時代になったものだ/№292 カードゲーム動物園 「両親が離婚することは悲しいことじゃなかったのよ。でも、始業式で名前を呼ばれる順番が遅くなったの。名字が変わったからね。なんでだろう。それがすごく悲しかった」と彼女は笑いながら話していた。今にして思えば、僕の名字だけが彼女にあげられる最後のプレゼントだったのかもしれない/№293 せいめいのおわり 声優の仕事は声と語彙力が大事だ。加湿器の電源を入れてのど飴を舐める。役に合う花はどれかなと考えたあと、クチナシが浸されたハーバリウムのボトルを手に取る。専用オイルを飲み干して声の調子を整えると、クチナシの花言葉である「とても幸せです」という感情と語彙力が頭の中に広がった/№294 花譜 「あなた達の思い出をジグソーパズルにします」と露天商に話しかけられる。怪しいと思いつつも買ってみると、後日、まっしろなパズルが届けられた。やっぱり詐欺じゃないかと憤っていると、彼女は完成したジグソーパズルをじっ
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ツイノベ 286-290

今年の福袋が売られていた。「言い値」と書かれたそれを試しに1円で買ってみると、倍の2円になっていた。これは倍になる福袋なのか。僕は何度も通い詰めて、貯金全額を叩いて福袋を買うと、中には何も入っていなかった。「詐欺じゃないか」と怒鳴ると、店員は「お客さん、もう年明けですよ」/№286 福袋 人生格付けチェックが開催された。進学、就職、人間関係と、私達は成長するごとに、AかBの人生を強制的に選ばないといけない。ひとつずつ選択肢を間違えるたびに、一流人生、二流人生と転落していく。そうして私は何度道を間違えたことか。高らかに結果を告げる声がする「生きる価値なし!」/№287 人生格付けチェック 人を殺せるという噂がある黒いノートを手に入れた。奴の苦しむ姿をこの目で見てやろうと、目の前でノートに名前を書き込む。「や、やめるんですの!」「こんなときにふざけてる場合か?」「まだ死にたくないですの!」奴の語尾を不思議に思い、表紙を確認すると『ですのート』と書かれていた/№288 ですのート 今日は高校最後のバレンタインデーだ。彼のために手作りチョコを用意して学校に行く。3年間打ち明けられなかった想いを伝えたくてドキドキした。授業が終わってから彼の元へと向かう。震えながら「ずっとずっと大好きでした」と呟いて、チョコレートを供える。お墓の前で、私は手を合わせた/№289 溶けない 明日で僕は誕生日を迎える。世界では今、二十歳になると強制的に夢をダウンロードされる時代だ。身の丈に合わない夢を見ないように。夢に破れて自殺しないように。機械がいくつかの要素から『正しい夢』を弾き出す。辞めた筈のピ
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ツイノベ 281-285

「まもなく2020年になります。人生のアップデートをしてください」液晶を押すとリストが表示される。嫌いな人、忘れたい思い出などを選ぶと、新年には全く覚えていないのだ。ひとつずつ、鐘が鳴るたびに記憶が消えていく。昨日のことも、明日のことも。きっと、本当は大切だった誰かのことも/№281 群青 街を散歩していると、移動図書館が公園の前に止まっていた。車に絵本や小説を乗せて、図書館のない地域に本を貸出するサービスだ。僕は懐かしくなって『浦島太郎』を手に取った。「これ借ります」と断りを入れた瞬間、景色が歪んで海辺に変わる。目の前には子どもにいじめられている亀がいた/№282 移動図書館 「俺、仕事辞めようかな」「次の就職先は決まってるのか?」「ここにしようかな」と就職先を告げると「お前マジかよ。そこは休みもなくて、やり直しができなくて、死ぬまで働かされるんだぞ」と憤る。なんだ。そんなにブラックなのか『人間』って仕事は。じゃあ俺は、働きアリのままでいいや/№283 ギルド 海外のお店で「インスタンドラーマンかちかち山味」というカップ麺を見つける。変な翻訳だなと気になって購入してみる。フタを開けたら石と味噌がごろごろと入っていた。タヌキの素を先に入れて、熱湯を注いですぐにウサギの素を入れる。3分経ってフタを取ると、湯気の中から物語が始まった/№284 インスタンドラーマン ユーカリの木を植えた次の日、天井を突き破って高くまで伸びていた「空の上にはすごくおいしいユーカリがあるらしいぞ」噂を聞いたコアラ達は、動物園を次々と抜け出して登っていきます。先に行かせるものかと出遅れたコアラ達が
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ツイノベ 276-280

公園の蛇口に笹舟が置かれていた。蛇口から水を出して、窪んだ水皿の中でどこにも行けない笹舟を揺らす。あの日の記憶も彼女との思い出も、どこにも流れることができずに、笹舟と同じように僕も公園で揺らいでいた。橙に染まった観覧車を見上げる。誰かの歌う声がした。夏が終わる/№276 無題(5).docx 彼女が亡くなったことを知らない誰かの中では、まだ、彼女は生きているのだ。知らない誰かの中では、まだ、彼女は乾燥した唇を気遣いながら笑っていて。まだ、彼女は代々木公園で歌っていて。知らない誰かになって、こんなくすんだ赤い糸だらけの六畳一間を抜け出したいと思った/№277 無題(2).jpg 「みんな幸せが無理なことはわかってるけど、そう思うことは駄目なの?」小説も、短歌も、脚本も、思い出になってくれなくて。人の死を題材にした作品はつまらなくて。金にも有名にもなれなくて。『みんな幸せ』の『みんな』の中に、彼女だけがいなかった。言葉が消える。秋になった/№278 未入稿データ(2019/04/20.ixy) シャボン玉売りの少女は今日も街でシャボン玉を売ります。誰にも見向きされない中、シャボン玉の膜には人々の思い出や記憶が映し出されました。 街中の人が喜びに溢れる中、少女は哀しそうにシャボン玉を吹きます「優しさや思い出なんていらないのです。お金さえあればいいのです」/№279 シャボン玉 『元号が変わります。記憶の引き継ぎをして下さい』もうすぐ人生の大型アップデートが始まる。忘れたい人や思い出は消去して、大切なものだけ保存していく。平静ではいられなかった色々を蔑ろにして、また新しく人生
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ツイノベ 271-275

私は高校でいじめられていた。最近は露骨になって、机に花瓶が置かれていたり、同級生に話しかけても無視されることが多い。出席を取るときになっても、私の名前だけ呼ばれなかった。窓を眺めると私の姿が映ってないことに気付く。……あぁ、そっか。私、本当に死んじゃったんだ/№271 プロット 都内の高校で女子生徒が飛び降り自殺を図った。なんとなく、女の子の死を創作にしたいと感じた。それは悪いことなのだろうか。不謹慎なことなのだろうか。だから、この小説を最後に僕は言葉をやめようと思った。ふと、僕の彼女が亡くなった日のことを思い出す。どこにもない夏だった/№272プロット(2018/04/20.pdf) 彼女が亡くなる数日前、僕達は些細な事で喧嘩をした。「歌を歌うことは、私の本当にやりたい事じゃなかった」と。君の事を認めた上で、君の事を嫌いになりたかった。「憧れを捨てた東京には、君のような人が大勢いるんだね」と、彼女の背中に向けて吐いた言葉が、最後の思い出だった/№273 無題(4).doc 昔、彼女が「憂鬱に名前を付けて、それを水風船に書いて割りたいね」と言っていたことを思い出す。彼女は自分自身の名前を水風船に書いて割ってしまったのだろうか。あの日と同じ公園のベンチに座る。翠緑をした炭酸飲料の気泡が弾けて、どこへともなく消える様をただただ見ていた/№274 無題(1).txt 「『幸せじゃなくてもいい』」と言える人はさ、初めから幸せな人だからだよ」と彼女が笑いながら呟いた言葉が印象的だった。「有名になりたい」が口癖だった彼女は、憧れを抱いて東京に移り住んだそうだ。夏にも関わらず長袖を
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ツイノベ 266-270

正論を撒き散らしながら、言葉の暴力で殴ってほしい。君の事を認めた上で、君の事を嫌いになりたい。「幸せじゃなくてもいい」と言える人は、最初から幸せな人だからだよ。憧れを捨てた東京には、君のような人が大勢いるのですね。去年を置き去りにして、また、今年が始まりました/№266 帰郷 新年を迎える度に、何か目標を見つけなくては。何か結果を出さなくてはと意気込む。街の景観が変わることが細やかな調整であるように、新年を迎えることは人生の強制大型アップデートなのだろう。偶然見つけたバグを利用して、なんとか生き抜いた日々を、これからも生き抜くために/№267 橙 目が覚めると、天井の高い長方形の部屋にいた。テトリスのBGMと共に様々な形のブロックが落ちてくる。慌ててよじ登ったり、避けたり、向きを変えたりと、ブロックに挟まれないように、両腕と両足を揃えて縦一直線になる。その途端、ブロックと自分の体が明滅して消えてしまった/№268 テトリス 去年の手帳を見ながら、新しい手帳に親しい人の誕生日を書き込んでいく。その様子が思い出の引き継ぎ作業のようにも思えた。一通り書き終えて、嫌いになってしまった人の誕生日を書いていないことに気付く。そうやって誕生日を失ったあの人は、まだ、どこかで生きているのだろうか/№269 サイハテ 「この言葉ください」私が指差したのは『大好き』だ。今や言葉を買う時代になった。『令和』の言葉が買えなかった人達は世界が終わってしまう。元号が変わろうとするグレーゾーンにて、運命がとおせんぼする「平成の内に死んでしまうので、せめて、この言葉を一人へ伝えたいんです」/№270
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ツイノベ 261-265

コンビニでバイトを始めて数週間が経った。「お客様は神様です」と言うけれどそうは思えない。ある日、先輩が「神様は神様でも、疫病神と思えばいいんだよ」と笑っていた。なるほど。「お客様は(疫病)神です」か。気が楽になり「いらっしゃいませ」と、久しぶりに明るく呟いた/№261 お客様は神様 不思議な自販機を見つけた。そこには「苦労」と書かれており、見本には透明な缶が置かれている。「苦労は買ってでもしろ」と言うので、120円払うと飲み物が落ちてきた。取り出そうとすると中で引っかかる。四苦八苦の末、数分後にやっと取り出せた。え、苦労ってこういうこと?/№262 苦労自販機 人生で嫌なことがあったので、気分転換に心を入れ替える。胸部を開いて滅入った心を取り出し、ストックしてある「前向きで明るい心」と交換した。胸部を閉めて数分、たちまちと元気を取り戻して力が湧いてくる。よぉし、明日もがんばるぞ。………………なんて、できたらいいのになぁ/№263 心入れ替え装置 五時脱字す人が苦手だ。正だしい送り仮名が分からなかったり、間違った言葉の使い方を見ると呆れて失笑してしまう。日本人なのにちゃんとした言葉を使えないことに違和感を感じる。本当に語彙力が少ない人が本当に苦手だ。「やれやれ、面倒だは」僕わ日本語の乱れに頭痛が痛くなった/№264 正だしい日本語 「『人生』をアップデートする為の容量が足りません。不必要な思い出を消去して下さい」好きな小説繋がりで知り合った女の子を選択する。新年に向けたカウントダウンが始まる。あの子の記憶が不鮮明になっていく。いくつかの嫌いを置き去りにして、また、素晴らし
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ツイノベ 256-260

彼女が僕の料理を食べたいと言ってきた。彼女からのお願いなんて滅多にないので、食材の自腹を切り、目を剥き、骨を折り、手を焼き、心血を注ぎ、頭を抱え、身を削ってなんとか料理を作る。偏食な彼女もこれできっと満足してくれるだろう。彼女に食べられるのを、嬉しそうに待った/№256 僕の料理 子どもの頃、一つ飛ばしずつ電車の席に人が座っていることに気付く。「なんで間を空けてるの?」と母に聞くと、「人と人との間には『嫌い』が潜んでいるのよ」と答えた。 今にして思えばあのとき、僕を挟んで座っていた母と父の間にはもう、『嫌い』が潜んでいたのかもしれない/№257 「嫌い」の席 語彙力ガチャとゆーなんかすごいのがあるらしい。出てきた言葉が身につくとかそんなのだそうだ。僕はやばいと思って回したら、なんだか語彙が増えたみたいな気がした。回す。回す。回した。頭の中に流麗な言葉が溢れ出して、千種万様な表現がある事に感嘆する。まさに幸甚の至りだ/№258 語彙力ガチャ 彼女に「」いいところを見せようと散歩√をーして地面を×。そしたら:で眼鏡を÷。彼女が@驚いて目を、にしたけど怪我はなかったから&した。もっと♯に走れたら良かったのに。.疲れた〜帰宅する。今日の晩ご飯は彼女特性の#ドビーフだ。おなかいっπ食べよう。いただき〼/№259 記号言葉 目が覚めるとゲームの世界に入り込んでしまったらしい「困ったな」住民に話しかけても同じ台詞ばかり繰り返す。どうやらNPCのようだ「困ったな」 帰り方も分からず、同じ道を右へ左へ往復する「困ったな」冒険者が教会へ入っていくのが見えた。すると、目の前が真っ暗
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ツイノベ 251-255

私が幼いころ、母に「マニキュアを塗ってほしい」とせがんでいたそうだ。母はいつも「その長い爪には似合わないわよ」と口実に、私の爪を切っていた。大人になった今、三日月を見ると思い出す。普段から化粧をしない母の細い指を。薄化粧をしたあの朝の、静かに眠っていた母の横顔を/№251 薄化粧 痩せる秘訣を知るために友人の家へお邪魔した。「食べ過ぎはよくないよ」と言われたけれど、出されたデザートがあまりに美味しかったので何口も食べてしまう。すると体が軽くなるのを感じた。軽くなる。軽くなる。あれ? 気付けば、骨と皮だけになっていた。「だから注意したのに」/№252 夕闇が丘③ 「反省するまで戻りません」そう言って先生は職員室に帰ってしまった。「別に謝りに行かなくても良くない?」先生はノイローゼで学校を辞めることになった。同窓会で先生が自殺を図ったことを知る。それを聞いた同級生達が笑う『反省するまで戻りません』先生はまだ帰ってこなかった/№253 反省会 「病葉って知ってる?」と、入院していた彼女から聞かれたことがある。秋の落葉期を待たずに、病気によって夏に変色してしまう葉のことだ。彼女は病葉のような人だった。公園のベンチに座る。翠緑をした炭酸飲料の気泡が弾けて、どこへともなく消える様をただただ見ていた。夏だった/№254 病葉 最近は透明飲料ブームだ。新商品の透明飲料を飲みながら高校へ向かう。教室に入ると私をいじめるグループが無視をしてくる。呆れながらも隣の友人に声をかけたけれど返事がない。どころか、出席確認の際に先生まで「今日は休みか?」と言うのだ。どうしてみんな私を無視するのだろう
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ツイノベ 241-250

降り止まない雪を静めるために、私と妹は山の上に住む魔女の生け贄に捧げられることとなった。病弱だった妹は頂上へと着く前に倒れてしまう。身を清めたあとに、纏った着物が雪に降り積もっていく。村の人達のことなんてどうでも良かった。私は着物の上に寝転がって、妹の寝顔を静かに眺めた/№241 永久凍土(百景91番) いつからだろう。私の瞳の中には海が生まれていた。目をつむるとザザン、ザザンと波の音が聞こえて、頭のどこかでは姿の見えない鯨が鳴いた。眼球は常に下向きで青白さが滲む。五十二ヘルツの鯨と同じだ。誰にも気付かれず、誰からも見つけてもらえないまま、私は、涙の代わりに海水が流れた/№242 五十二ヘルツの鯨(百景92番) 仕事をサボって喫茶店で人混みを眺める。今日も至って平和だ。これから先、何もかも変わらないでほしい。星も、人種も、性別も、死も、言語も、病気も。何にもなかった時代もそれなりに楽しかったけど、人間の姿になった現代を過ごすのも悪くない。最高だった。死ぬにはとても良い日だった/№243 アンデライト(百景93番) 子どもの頃、布団が叩かれる音を子守歌にして眠っていた。寝る前は座布団に座っていたはずなのに、起きるといつもふかふかな布団の上に寝転がっている。母がこっそりと布団に移動させてくれたのだろう。と、娘を寝かしつけていると思い出す。窓からはやわらかな風と布団を叩く音が吹き込んだ/№244 別れのあとの静かな午後(百景94番) 何人も犠牲にしてアイドルになった私は、罪滅ぼしに死期が近い人へ影を分け与える。私の存在は少しずつ失われて、影を与えられた人は生気を取り戻してい
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ツイノベ 236-240

「当たって砕けろ」の精神で挑んだ結果、私は見事に振られてしまった。橋の手すりに体を預けていると、波に映った月が揺れて光の残滓が広がる。その様子がまるで破片に見えた。私と同じように月も誰かに当たって砕けたのだろうか。ふいに涙が落ちては波紋が広がる。瞳に欠けた月が映り込んだ/№236 月の破片(百景86番) 季節の変わり雨が降ってくる。夕陽を溶かしながら落ちる黄金色の雨は、山や花々、風や人や命さえも濡らして、また別の季節に塗り替えていく。山は紅葉が色づいて風には生ぬるい温度が纏う。夏の対する憧れを消費できないまま、季節の変わり雨は季節を、心を、感傷を。強制的に次へと進ませた/№237 季節の変わり雨(百景87番) 雨風を凌げる場所もなく、頼れる人もいない。寒さで震える私をあなたは家に泊めてくれた。ご飯を食べさせてくれて、毛布を与えてくれて、何度も頭を撫でてくれる。一夜が明けてあなたと別れた後、私は遠い街に住処を見つけた。もう二度と会えないあなたに向けて、私は「にー、にー」と鳴いた/№238 ミオ(百景88番) 魔女にお願いして寿命を伸ばしてもらう。代償として私は恋を封印された。誰かを想うたびに、心臓が高鳴るたびに、刻一刻と死へ近付いていく。恋を失ってまで得たいと思った命だけど、あなたのためなら捧げても構わなかった。絶えるなら絶えてもいいと想いを告げる。息が止まる。呪いが消えた/№239 もうひとつの命(百景89番) 鏡を見ると瞳が青色に染まっていた。どうやら感情によって瞳の色が変わるらしい。悲しいときは青色。悔しいときは緑色。嬉しいときは黄色。ある日、彼の浮気を知って泣き
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ツイノベ 231-235

小学生の時、命の授業としてウサギのラビ太を飼っていた。喉元を撫でると「プゥ、プゥ」と鳴き声を漏らす。いつだったか、ラビ太は近所の中学生に殺されてしまった。大人になった今、夜道を歩く。どこからか鳴き声が聞こえた気がして振り向くと、空にはウサギの模様が映った月が浮かんでいた/№231 卯月(百景81番) 終末戦争が終わってから私は、地下図書館に閉じ込められたままだ。あの日から1000年は経っただろうか。私を造った博士はもう戻ってくることはないだろう。破損した左腕からは配線ケーブルが覗いて、胸部ハッチからは心臓の形をした動力炉が錆びる。瞳からは涙に似せた『何か』が流れた/№232 少女終末(百景82番)  人生に疲れてしまって神隠しの山に訪れる。木には多くのロープが括ってあった。僕は遺書を置いて滝から飛び降りると、遠くで鹿の哀しい鳴き声が聞こえてきた――/滝から男が流れてくる。人間に荒らされた山では食物がなくなった。今日も不味い人肉を食べるしかないのかと哀しい声を上げる/№233 夜鹿(百景83番) サナトリウムの窓から海を眺める。夏になれば遠くで花火が見えるらしい。夏になれば。先生の話では私の寿命はあと3ヵ月ほどだそうだ。写真に映る恋人と目が合う。病気のことを言い出せなくて私から別れを切り出してしまった。桜が散る。あと3ヵ月だ。夏になれば。夏になれば。夏になれば――/№234 サナトリウムの火花(百景84番) 目の見えない私は、不思議なことに彼女と手を繋ぐ間だけ視力を取り戻すことができる。ある日、友人と遊んでくると言ったまま連絡のない彼女を待って、私は明けない夜をひとりで過ごした
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ツイノベ 226-230

三年に一度、この国は海の底に沈んでしまうほどの満ち潮に見舞われる。1人に1台が当たり前になった舟で国の上を渡る。海が引くまでの十日間は隣の国に避難するのだ。あなたに会えなくなるわずか十日間が苦しかった。遠くの海を眺めると、まっしろな雲に包まれた隣の国が姿を現した/№226 水槽都市(百景76番) 不要不急の恋が解除されてから一週間が経った。街には前と同じく恋人同士が溢れている。けれど、その幸せの裏にどれだけの恋が失われていったのだろう。私と彼の間にも透明な幕が下りて、日常の、人生の流れが変わってしまった。それでも、いつか、きっともう一度、彼と再会できる日を信じた/№227 不要不急の恋③(百景77番) 灯台守の元に一羽の千鳥がやって来る。足に括り付けられた文書には名前が書かれていた。灯台守が鐘を三度鳴らして黙祷を捧げると、島民も手を合わせる。この島の風習として亡くなった人を島全体で偲ぶのだ。五十年以上も鐘を鳴らしてきた灯台守は、その日、息子の死を知って静かに泣いていた/№228 祈りの鐘(百景78番) 文化祭の演し物で僕のクラスは創作ダンスをすることになった。誰も主役をやりたくない中、根暗で、内気で、前髪が伸びきって表情がわからない女の子が手を上げた。みんなからは馬鹿にされていたけど、放課後、一人でかろやかに踊る女の子の前髪の間から、澄みきった瞳が覗く瞬間が好きだった/№229 ネクライトーキー(百景79番) 大雨に降られて髪をぐちゃぐちゃにしたまま帰ると、美容師である彼が髪を整えてくれた。ふと「私の髪が綺麗じゃなくなったら別れる?」なんて聞くと彼は俯く。心が乱れた。彼
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ツイノベ 221-225

十七時を過ぎてから高校の門をくぐると、不思議な事に三十年前の街へと変化する。私が生まれる前の街を散歩するのはとても楽しい。今はもう閉店してしまった駄菓子屋。私と同い年くらいになった両親。これから私の家が建つであろう田んぼの前でぼぅっとしていると、秋風が私の頬をくすぐった/№221 記憶の門限(百景71番) 大学の演劇サークルで夏合宿に訪れる。みんなが海で遊んでいる間、泳げない私は砂の城を作ることに勤しんでいた。男の子が「泳がないの?」と聞いてくるのを無視すると、すぐに違う女の子と楽しそうに笑い合う。そのとき、横殴りの強い風が吹いて砂が目に入った。涙が流れたのは、きっと――/№.222 海辺の彼女(百景72番) 電柱の上から雀の鳴き声が聞こえてきた。目覚めの悪い僕を叱るように決まった時間に起こしてくれる。目が合うと雀は首を傾げたあとにどこかへ飛び立つ。それから数ヶ月、景観美化のために電柱は地面の底に埋め込まれた。今でもどこかで雀の鳴き声が聞こえるけど、その姿を見ることはなかった/№223 雀の涙(百景73番) 口も聞いてくれない。頭も撫でてくれない。目も合わせてくれない。昔は温かくて優しかったあなたがこんなにも冷たくなってしまった。あなたの心を取り戻したいと御百度参りをしても、体は冷たくなるばかりだった。病床に伏して動かなくなってしまったあなたの冷たい手を、もう一度強く握った/№224 祈る手(百景74番) 高校最後の夏が終わる。野球部がグラウンドに集められて監督が土下座した。監督は「必ずお前達を大会に連れて行くと約束したのにな」と涙を流す。監督のせいではない。誰のせい
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ツイノベ 216-220

妻が植物状態になってから数年が経つ。わずかでも感情を呼び起こせるようにと、小学生時代に演じた花咲じいさんのビデオを見せる。同級生は誰も覚えてない遠い昔の思い出だ。「枯れ木に花を咲かしましょう」と心の中で呟く。元の状態に戻るまで、僕は一体どれだけの涙を流せばいいのだろうか/№216 黙樹(百景66番) 夢のレンタルショップを訪れる。お店で夢を借りれば誰でも等しく夢を見ることができる時代だ。私は「誰かと一緒にいたい」という夢を手に取る。昔は当たり前だった現実が、今では常に貸出中の夢になってしまった。誰かと会って話がしたい。そう思うこと自体はきっと、悪いことじゃないはずだ/№217 unravel(百景67番) 地球温暖化が進んで世界は防熱壁に包まれた。空では人工の太陽と月が浮かぶ。本物の光を失ってから何十年が経っただろう。今の子ども達は教科書でしかその存在を知ることはなくなった。業火に灼かれて死ぬとわかっていても、いつか壁の外に出て、もう一度夜更けの美しい月を眺めたいのだ/№218 造光(百景68番) 五歳になる娘に対して感情的に叱ってしまい、私自身のふがいなさで布団に塞ぎ込む。ふと目を覚ますと娘が折り紙を折っていた。私に気付いた娘は「ごめんね、ごめんね」と謝りながら色とりどりの花を私の側に並べる。思わず涙が溢れて花の折り紙の上に落ちると、鮮やかな染みが広がっていった/№219 花筏(百景69番) 両親との折り合いが付かなくなって、なかば家出のように一人暮らしを始める。二十歳そこらの小娘が学費と生活費を稼ぎながら生きるのは難しい。大学の帰り、電車の中で転がる空き缶を拾う。開
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ツイノベ 211-215

傘を開くと桜の花びらが舞い落ちた。中学生のとき、修学旅行で同級生と見た桜を思い出す。ふたりで花びらをかけ合って、女の子の笑顔がとても美しく咲き誇っていた。高校生になって、いや、私が告白してから会うことはなくなってしまった。「同性を好きになるなんておかしいよ」と泣いていた/№211 春咲センチメンタル(百景61番) 孫を名乗る男性から電話がかかってくる。もうとっくに亡くなっているはずなのに、その声が孫にそっくりで思わず涙を流してしまう。男性はうろたえて「会って話を聞こうか?」と心配してくれる。でも、もしもあなたと会ってしまったら、孫はもうこの世にいないと思い知らされてしまうでしょう/№212 亡日(百景62番) 好きな人の好きなものは無条件で好きになりたいけど、好きな人の嫌いなものを、好きな人の嫌いなものだからという理由だけで嫌いになりたくない。逆に、嫌いな人の好きなものも嫌いにはなりたくないし、嫌いな人の嫌いなものも好きになりたくない。なんて、SNSに呟くことしかできなかった/№213 roots(百景63番) 小説家を目指して先の見えない暗闇を歩く。誰かを蹴落としてでも、誰かに恨まれても。自分が有名になれるのならそれで良かった。不幸を売って、付き合いを犠牲にして、プライドも殺してやがて人気が上がってきた。不安で濁っていた霧が晴れて辺りを見回すと、何人もの「僕」が横たわっていた/№214 造花(百景64番) 絵羽模様の和服を纏った彼女が砂浜で横たわっていた。「私はもう汚れてしまったの」と目を伏せる。波が彼女の茶色い髪を濡らすと、髪の至る部分の色が抜けて変色していた。夕陽
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ツイノベ 206-210

砂漠で今にも枯れそうだった私に、あなたは水を与えてくれました。乾涸らびて、腐食して、朽ちてしまったあなたの姿がとても美しく思えました。やがて私は民から『砂漠の女神』と崇め称えられます。民は素晴らしい服装で着飾っているはずなのに、なぜか、あなたよりも見窄らしく感じました/№206 乾涸らびた花ひとつ(百景56番) 数年ぶりに故郷へ訪れると、遠くに女性の姿を捉える。髪はボサボサで目にはクマ。手は震えていて全体的に痩せ細っていた。「あ」と声を出すと、私に気づいた女性が驚いた顔で逃げ去っていく。小学生のとき、クラスで一番明るかった子だ。人違いだったのかなと、雲に隠れた月が辺りを暗くした/№207 月の帳(百景57番) 子どものころ、おもちゃの指輪を入れた箱を裏山に埋めた。男の子の「二十歳になったら一緒に掘り返そう」という言葉を思い出す。風のそよそよという音が「そんな約束を覚えてるのは君だけだろ」と聞こえてしまう。そうよ。私はあれからずっと覚えていたのに、忘れたのはあなたの方じゃない/№208 風の落し物(百景58番) 今夜は流蝶群のようだ。月からそっと光の残滓がこぼれて、やがて一匹の蝶へと変容する。いくつもの蝶が流れ星のように、群れを成す光景はとても鮮やかだった。ベランダで流蝶群を待っていると、彼から「行けたら行く」とメールが届く。その言葉を信じて、私は沈んでいく月を一人で眺めていた/№209 月の帳(百景59番) 小説家になりたい。母の反対を押し切って、家を飛び出した僕の元に母から手紙が届いた。あれから数年、すぐに帰れると思っていた故郷は金銭的にも精神的にも遠くて、どうしても
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ツイノベ 201-205

憧れの人と話をするために、魔女にお願いして人魚から人にしてもらった。このことを誰かに話したら私の身が内側から灼き尽くされるそうだ。でも、なんともおかしな話だろう。誰にも話していないはずなのに、声が出なくなって、足がなくなったように動かなくなって、体の内側が熱を持つのだ/№201 人魚の恋(百景51番) 夜勤が終わって家に帰る。歓楽街で働き始めた彼女とは入れ替わりになってしまうのが心苦しかった。仕事に行く彼女を見送る。きっと、知らない誰かとお酒を飲んで。知らない誰かに笑顔を見せて。知らない誰かに抱かれて。僕達の関係は影のように、朝にはうっすらと消えてしまうのかもしれない/№202 光、再考①(百景52番) 歓楽街でバイトを始めてからは、同棲している彼と会う時間が少なくなった。朝、帰宅してきた彼と入れ替わりでバイトへ向かう。知らない誰かとお酒を飲んで。知らない誰かに笑顔を見せて。知らない誰かに抱かれて。「未来は明るいよ」という彼の言葉を思い出す。今、私は日陰の中にいるだけだ/№203 光、再考②(百景53番) この世界では今や、思いを言葉に、言葉を声にした瞬間、記憶から言葉の意味が抜け落ちてしまう。愛の告白も、再会の一言も、別れの挨拶も交わすことは叶わなかった。それでも、君は私に「好きだ」と言ってくれた。きっと、君の、気持ち、キラキラ、消えちゃうのに。私も言葉にして、伝えた/№204 言葉の消える朝(百景54番) 古いレコードを見つけた。再生してみると鈴を転がすように歌う女性の声が流れてくる。その人のことなんて知らないのに、ただ、歌声を繰り返し聞いていた。いつのまにかレコ
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ツイノベ 196-200

不要不急の恋が自粛されてから、この国の失恋率は8割を超えてしまった。今では恋愛支援施設も人で溢れて、ほとんどが機能しなくなっている。澱を掻き分けていく櫂が壊れた私達は、感情の行く末さえも失っていく。学校で、職場で、ネットで。生まれるはずだったいくつかの物語が消えていった/№196 不要不急の恋②(百景 46番) 山登りをしていると、つる草で生い茂った小屋を見つける。伸びて絡んで移ろって。私がいてもいなくても季節は流れていく。そんな当たり前のことが少しだけこわかった。私の、知らない場所で、川は流れて。私の、知らない場所で、鈴虫が鳴いて。私の、知らない場所で、きっと、誰かが自殺して/№197 砂漠の花(百景 47番) 「海ができた理由って知ってる? 最初は一滴の水だったのよ。水が岩に恋をして何度もアタックしたの。フラれる度に水は涙を流して、涙が波になって、何度も何度も砕け散って海になったのね。だから海はしょっぱいの」と、くだらない話をあなたにするだけで嬉しかった。私の目から海が生まれた/№198 泪の海(百景 48番) かがり火の側にいる旅人の隣に座る。旅人は星を眺めながら「私は夜が明けたらこの国を去ろうと思います」と告げた。あんなにも朝が恋しかったのに、こんなにも夜が明けてほしくないと思ったのは初めてだ。朝のない国で生まれて生きることができたのなら、別れの夜明けなんて知らなかったのに/№199 夜の国(百景 49番) 「砂漠のどこかに言葉を失うほど美しい花がある」という噂を聞いた。長旅の末に見つけると花は枯れようとしている。どうせもうすぐ失ってしまう僕の命だ。わずかな飲み
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ツイノベ 191-195

私が彼のことを好きだという噂が立っているらしい。彼とは単なる幼なじみだ。なのに、そんな噂が立つものだからどうしても意識してしまう。彼の顔をじっと眺める。私は彼の顔も、歩き方も、性格も、食べ方も、趣味も、生き方も、寝相も、話し方も、夢も、全部嫌いだ。……嫌いだったのになぁ/№191恋すてふ(百景 41番) 「最後まで面倒みるもん」と約束してくれたのは、いつのことだったでしょう。わたしは今、帰る家がありません。惜しむべきいのちがございません。ダンボールの中、毛布でちいさく丸まります。雨がからだを濡らしていきます。最後まで面倒みると約束してくれたのは、いつのことだったでしょう/№192 落日(百景 42番) バイト代をほとんど課金してやっとSSRが引けた。今までなかなか引けずにどれほど悲しい思いをしたことか。入手したあともレベル上げの周回やスキルアップの素材集め、絵柄違いに覚醒するための道具集めが待っていた。この苦行に比べれば、キャラクターを入手するなんて全然楽だったんだな/№193 SSRガチャ(百景 43番) 昔は私のことをあんなにも好きだと言ってくれたのに、今では一年に一度しか会いに来てくれなくなりましたね。まるで織姫と彦星みたいねという私の皮肉もあなたには届かないのでしょう。私は冷たいあなたが嫌いです。だからもう、そんな悲しい顔をしながら、私のお墓参りに来なくていいですよ/№194 砂漠の花(百景 44番) 「不要不急の恋をしないでください。失恋病に罹る危険があります」今や恋を自粛しないだけで不謹慎だとSNSに載せられる。国から一律で恋愛感情を配布されるけど、その気持
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ツイノベ 186-190

大学の夏休みを利用して、僕達は二泊三日の演劇合宿をすることになった。かぐや姫役の女の子に告白する機会を伺う。夜になったら。夜になったら。なんて言い訳している間に朝が明けてしまう。神秘的な雰囲気を纏わせる彼女は、劇が終わると朗らかな表情に戻る。夜が消える。月がどこに隠れた/№186 月の裏側(百景 36番) 幼いころ、彼女の瞳には秘密があった。涙の代わりに真珠が溢れてくるのだ。金儲けのために親から暴力を振るわれて、毎日のように真珠を流していた。あのとき、彼女の頬を拭うふりをして、こっそりと盗んだ真珠が部屋から出てきた。彼女の泣き顔と罪悪感が、ボロボロ、ボロボロと流れていった/№187 深海魚の瞳(百景 37番) 私は亡くなって機械になったと夫から聞きました。何十年と経つ間に、あなたは私のことを忘れてしまうでしょう。それでも構いません。けれど、生前の私ではないと強く感じるのはあなた自身でしょう。私はもう人間ではありません。心変わりをしないと言ったあなたの心が、とても、苦しいのです/№188 きかいのこころ(百景 38番) 幼なじみの男子から冒険ごっこに付き合わされる。高校生にもなってと呆れながら裏山を探索する。そのとき、いっそうと強い風が吹いて茅がさらさらと音を立てた。「  」と思わず声に出てしまう。彼に聞こえていないか慌てて口を押さえる。ざわざわ、ざわざわと、まるで茅のように心が揺れた/№189 揺れる(百景 39番) いつも楽しそうなあの子が、最近はやけに落ち込んでいる気がする。片思いしてる男の子と、仲が悪くなったのかなと思って聞いてみると「今、とてもしあわせよ。なのに
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ツイノベ 181-185

家出した君を泊めた次の日の朝、雪が街を彩っていた。コートを羽織った君が白い地面に一歩踏み出すとき、一瞬だけ躊躇する姿が嫌いだった。最寄り駅まで送った帰り、店先のシャッターが開いていく。なぜか、中を見てはいけない気がした。それは、僕の後ろめたさだったのかもしれない/№181 夜明けの逃避(百景 31番) 京都旅行から友人が帰ってきた。「お土産に紅葉の天ぷらを買ってきたよ」と言われたときは驚いたけれど、小麦粉と砂糖とゴマを使った、紅葉の形をした伝統的なお菓子らしい。やさしい甘さと香りが口に広がる。喉の奥に堰き止めていたあなたへの気持ちが、今にも流れていくようだった/№182 紅葉の天ぷら(百景 32番) 大学の卒業式が終わり、親しくしてくれた先輩達の姿を見つける。大勢の卒業生に紛れて、いくつもの喧騒に隠れて、先輩達は賑やかに談笑していた。声をかけずに、その様子を遠くから眺める。新たな旅立ちを祝福するべきなのに、なぜか、私の心は騒がしく唸って、輪に入れずにいた/№183 春の嵐(百景 33番) 昔はインターネットがとても流行っていて、声も、性別も、名前も、年齢もわからない友人がいっぱいいたのに。私もすっかり年老いてしまった。いつのまにかすれ違って、失って、疎遠になってしまう。不慣れな手つきでパソコンを開く。あれほど親しかった友人達は、データだったのかもしれない/№184 融雪(百景 34番) 三十歳になった僕達は、タイムカプセルを掘り出すために小学校を訪れる。僕を好きだと言ってくれた彼女には、内気で控えめな昔の面影なんて残っていなかった。茶髪で、耳にピアスが開いていて、子ども
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ツイノベ 176-180

五歳になる娘を連れて妻の墓参りへ訪れる。出産してすぐに亡くなった妻を、娘は何も覚えていないだろう。照れた顔が紅葉のように染まることも、頭を撫でる手が秋風のせせらぎのように感じることも。せめて、娘が大きくなるまで妻が生きていてくれたら。静かに、秋は去ろうとしていた/№176 橙の魂(百景 26番) 長らくの間、物置小屋として使われていた旧校舎を取り壊すことになった。机の片付けをしていると、彫刻刀で彫られた不器用な文字が目に入る。「あなたはまだそこにいますか?」言葉の意図は分からないけれど、その文字から哀しみを感じた。ここにいるよと、知らない誰かに返事をした/№177 誰かの言葉(百景 27番) 僕が住んでいた街が冷凍保存されたと聞いた。人口増加、環境維持、事情や思惑はいくつもあったのだろう。スノーボウル都市と呼ばれているそうだ。人や動物、建物が凍てついていく光景を思うとやりきれなくなる。地球が抱える全ての問題が解決されるまで、あの街は眠り続けるのだ/№178 冷凍都市(百景 28番) 世界に突如として蔓延した奇病により、彼女が植物人間になってしまった。文字通り、体の至る箇所が植物に形を変えている。彼女の左手が白菊の花になっていた。触れたら簡単に折れてしまいそうな彼女の左手に、涙でも落とせば元に戻るのだろうか。枯れないように、毎日、涙を流せば/№179 白菊の手(百景 29番) 「私はね、月のお姫様なの」と言っていた、幼稚園時代に友達だった女の子を思い出す。母親に聞いてもアルバムを探しても、どこにも女の子の姿は見当たらなかった。夜中に目を覚ます度に月を眺める。あの子はもしか
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ツイノベ 171-175

「すぐに行くから」と、あなたが仰ってくれました。こちらは退屈です。話に聞くような素晴らしい場所ではありません。あなたにもう一度会えたら、話したいことがあります。あのね、あのね、あのね。口から言葉が溢れてきます。でも、天国に来るのは、あと何十年か先でも構いませんよ/№171 あのね(百景 21番) 昔、祖母から「山には魔女が住んでいて、凍える息を吹いては農作物を駄目にするのよ。だから、秋が終わる頃には慎ましく生きなさい」と呪文のように呟いていた事を思い出す。今にして思うとあれは、やがて訪れる冬に対して、私が強く生きられるように願った言葉だったのかもしれない/№172 山の魔女(百景 22番) 遥か昔、地球には「季節の移ろい」があったらしい。それが今ではどうだ。圧倒的な技術革新で人類は、四季を完全にコントロールできるようになった。「お知らせします。10月1日を以って、季節は秋になります」と、アナウンスが響く。余韻もなく、私達の季節は流されていくのだ/№173 虚ろう季節(百景 23番) 彼女の病気が悪化していった。投薬治療の影響なのか、彼女の髪の毛は日に日に抜けていく。世界でも類を見ない難病だそうだ。神頼みをしようにも僕には捧げるものなんて何一つなかった。代わりに、髪飾りが必要なくなった彼女の頭に、紅葉で編んだ頭飾りをプレゼントしようと思った/№174 花飾り(百景 24番) ご近所に住むおばあちゃんの家へ遊びに行くと、庭先にさねかづらが咲いていた。「この蔓は隣の家まで伸びていてね。私の若いころは蔓を揺らして、隣の男の子と会話のないやり取りをしていたのよ」と、微笑みながら語
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ツイノベ 166-170

目を覚ますことはできないけれど、意識は確かにあった。花を摘んでは冠にしてくれた彼女は、そうやって何年も、いくつもの季節が過ぎる間、ずっと僕の病室を訪れてくれた。外を見ると雪が降っている。「もういいんだよ」と君に願うことしかできない僕を、どうか、許さないでほしい/№166 祈りの花(百景 16番) 世界から夕陽が消えて何十年が経つだろう。太陽と月の周期。オゾン層の破壊。理由はいくつもあった。特異環境の影響なのか、人々が亡くなる割合はどんどん増えていった。亡くなった人の命を弔うために、この時期には精霊流しが行われる。淡く揺らめいた光が、消えた夕陽にも似ていた/№167 夕陽の街(百景 17番) 「絵描きになりたい」と言っていた君の夢を思い出す。水彩絵の具で汚れた君の顔や、ペンだこでごつごつになった君の手が印象的だった。「私、綺麗じゃないよ」と小さく笑って、描き終えた絵をゴミ箱に丸める君が嫌いだった。「私の絵は、人に見せられないよ」と、隠す君が嫌いだった/№168 セルリアンブルー(百景 18番) 祖父の葬式で従妹と再会した。何年振りだろうか。僕達は昔、付き合っていた。若気の至り。という言葉で片付けてはいけない。そのことが互いの両親に伝わり、僕達は疎遠になっていった。ふと、彼女の横顔が目に入る。記憶の中にないその表情が、僕達のすり減った時間を物語っていた/№169 翳りゆく部屋(百景 19番) 人魚が海底の岩に座り、別の人魚に話しかけています。「私も昔は人間だったのよ。学生のころは先生のことが好きで、だけど、身分違いの恋だったから、諦めるしかなかったのよね。だから、先生の元へ
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ツイノベ 161-165

あなたと再会するために、罪を償うために、私は辺境の島で明けない夜を過ごしています。渡り鳥が私を見つけてくれることを祈っています。海に浮かぶ漁り火よ。願わくば彼に伝えてください。私はここにいます。私はここにいます。おばあさんになるころには、あなたに会えるでしょうか/№161 流れる(百景 11番) 自室に篭ってアイドルのライブDVDを眺めた。何年も前から、曲順や振付を覚えるくらい、何度も、何度も。他人から見たら薄気味悪いだろうか。笑うだろうか。それでも、自分と彼女を繋ぐものはもうこれくらいしかないのだ。画面の中では、亡くなった妹の笑顔だけが眩しく輝いていた/№162 青葉の季節(百景 12番) 人里から離れた山の中に、その集落はひっそりと佇んでいた。ダムを建設するために水の底へと沈んだ集落を、水面のレンズ越しに眺める。「この村と一緒に生きていくんだ」と言って命を捧げた彼の悲痛な声が、放流の中から聞こえた気がした。私の叶わない恋心も、水の底に沈んだのだ/№163 水槽都市(百景 13番) 「最近、調子が悪いな」と私の頭を撫でるあなた。私が怪我をすると直してくれたり、やる気が出ないと元気をくれます。そのたびに私の調子はどんどん乱れていきました。機械系統の故障でしょうか。電子回路の異常でしょうか。アンドロイドの私にも、この乱れの原因がわからないのです/№164 あなたのせい(百景 14番) ずっと目覚めないあなたの為に、今日も花を摘んでは冠に施します。そうやって何年、もう何年が経ったでしょうか。何度目の季節が過ぎたでしょうか。やがて、花を摘む私の手に雪が降ってきました。「もうい
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ツイノベ 156-160

彼が眠りについてから何十年と経ちました。時間まで眠ってしまったのか、青年の姿から歳を取ることはありませんでした。今日も私は一人で眠りにまどろみます。夢の中の彼は私と同じ老人の姿をしていて、「だいぶ遅れた青春だ」とデートをしていました。夢だとは承知です。夢だとは、/№156 夜だけの国(百景 6番) 人口密度が限界に達した今、宇宙にもう一つの地球を作ることで問題は解消されました。第二の地球にはごく限られた人間しか住めません。作り物の地球から見る月は、本物の地球で死を待つあなたが見ている月と同じなのでしょうか。あなたとは違う光で見ているのでしょうか。あの月は、 /№157 違う光で見てた。(百景 7番) 人口問題を解決するために作られた、偽物の地球に住むことを僕は拒んだ。君が生きた街で、君が過ごした証を見届けたかったのだ。君は哀しむだろうか。憐れむだろうか。もうすぐこの地球は終わる。空には月が燦然としていた。せめて、君の見ている光と同じであることを、小さく願った/№158 同じ光で見てる。(百景 8番) 色を奪われた街に色売りの老婆が訪れました。「私は歳を代償に色を生み出します。この色で街が美しくなるのなら、私が老いることも気に留めません」と、顔をシワだらけにして微笑みます。色を取り戻した街は静かに時間が動き出します。街を去る老婆の横顔は、まるで少女のようでした/№159 花明かり(百景 9番) もう何年、猫の身分で駅長を務めていますでしょう。田舎は人通りが少ないので、村民なのか来客なのかすぐわかります。余生を過ごしに村へ住む老人と、嫁ぐために村を出ていく女性が、ほんの一瞬
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ツイノベ 151-155

紅葉が流れるあぜ道で、私は飼い主様を待っています。「冬を越えて、春を過ぎるころには戻ってくるからね」と言って、仮小屋を作ってくれました。草の網目が荒いので夜露が染み込むばかりです。何年経ったでしょうか。飼い主様はまだ迎えに訪れません。私の毛は涙で濡れるばかりです/№151 晩秋の犬(百景 1番) 私が社会人になってから三年が経った。家を出て、ベランダの物干し竿を眺める。夏になると干されていた白い制服が、私を見送ることはもうなくなった。代わりに、黒いスーツ姿が記憶の中の白い制服をより映えさせる。蝉が鳴く。季節にも、私にも、いつのまにか春が過ぎてしまっていた/№152 汽空域(百景 2番) 月が地球に大接近してから、日に日に夜が長くなりました。今では朝が訪れることはありません。彼が眠りから覚めなくなってから、どれほどが経ったでしょう。月の影響なのか、人々は次々に眠りへと沈んでいきました。夜が晴れることのない世界で今日も、私はひとりで眠るのでしょうか/№153 朝のない国(百景 3番) 哀しいことや辛いことがあると、私は決まって海岸へ向かう。どうしてだろう。おだやかな心で眺める海より、ボロボロでズクズクになった心で眺める海の方が、やけに澄んで見えた。遠くの山に目を向けると雪がしんしんと降り続く。その雪溶け水が海に流れて、私の足下を優しく濡らした/№154雪融け水(百景 4番) ひと夏の恋。なんて呼べば聞こえは良いだろう。実際は欲に身を任せただけである。まだ二ヶ月そこらの赤ん坊を抱えて山へと踏み入った。あれから数年。たまに山中を散歩すると、どこからか鹿の鳴き声が聞こえた。その度
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ツイノベ 146-150

長い髪が好きと言うから、髪の毛を切った。青色が好きと言うから、緑の服を着た。星が好きと言うから、地面の水たまりを見た。甘いものが好きと言うから、辛いものを食べた。恋愛物が好きと言うから、SF作品を読んだ。それでも、私が好きと言うから、なぜだろう。なにもしなかった/№146 あまのじゃくし 8文字の#twnovelと、スペースの1文字を除いた131文字で、短い文章を紡いでください。それがツイノベです。それが物語になります。どうぞお好きなように。どうぞお好きなように。これは見本です。では次に、あなたの物語を。どうぞお好きなように。どうぞお好きなように/№147 どうぞお好きなように この中に一つだけ問違いがあります。探してみてください「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」/№148 問違い探し 冬になると、彼女と訪れた公園を思い出す。水の流れない噴水の絵を描いていた左手には、いくつもの吐きダコが滲んでいた。そっと写真を撮ったことに気づいた彼女は、なぜか哀しそうに見えた。今頃、君は、あの公園で泣いていて。今頃、渡り鳥も、あの公園で鳴いているのかもしれない/№149 代々木公園 その花は言葉を肥料としています。挨拶をしたり、愚痴をこぼしたり、花を告白相手の代わりにしたり。150個目の言葉を与えると、やがて橙色の花が咲き、種を落として枯れていきます。再び種を蒔いて、今、151個目の言葉を与えようとしています。花
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ツイノベ 141-145

ホームの向かい側に若い夫婦が見えた。少し眺めていると赤ちゃんが人形だと気づく。子どもに恵まれない人や亡くした人が、人形を赤ちゃんの代わりにする話を聞いたことがある。それは救いであり光だ。なのにどうしてだろう。私はその風景が、とても気味の悪いものに思えてしまうのだ/№141 ひかりのまち② 今日はハロウィンだ。妖怪や怪物の仮装をして、夜な夜な街に繰り出す。無駄に騒ぎ立て、ゴミを散らかして、交通の邪魔になる。関係のない人には迷惑な行事だろう。でも、私にとっては大切な日だ。今日だけは仮装する人に紛れて、私は人間に化けることなく、堂々と街を歩けるのだから/№142 妖の街 その不良は指の骨を鳴らすと、不思議なことに音階を生み出します。パキ、ポキと鳴らすと、今日は気分が良いのか、ラシ、シドと高音が鳴ります。調子が良いときにはカエルの合唱を鳴らします。敵の不良もそのメロディーを聞くと戦意喪失します。街は今日も、不良のおかげで平和でした/№143 不良和音 新しい自分を探すために、今日も部屋の扉を開ける。扉をくぐるたびに世界は変わった。海の底に沈んだ街。ヒヨコが空から降る国。何度目かの扉を開けると見慣れた部屋に行き着く。いくつもの光景が私の見識を広げてくれたけれど、やはり私の居場所はここにしかないのだ。「ただいま」/№144 どこでもドア 「また一つ、空から星が消滅しました。依然、原因究明には至らずーー」星借り屋さんに頼んで、星の光を貸してもらう。そうして私の部屋は、借り物の光で満たされている。空から奪った光だ。偽物の光だ。この左手で届く程度の星に触れる。それでも私は、希望にも似た光
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ツイノベ 136-140

電車に揺られながら、住んでいる街へと戻る。ふと窓の外を眺めると、ヒコーキ雲が空を縦に割いていた。バッグから彼女のネックレスを取り出す。窓を開けると秋の気配が漂ってきた。二基目のロケットが飛び立つ。投げたネックレスが夕陽に反射して、轟音のうねりと共に過去へと流れた/№136 未来都市⑥ 古い建物が残る街の風鈴屋を二人で覗いていると、店主から「彼女かい。綺麗な子だね」と声をかけられる。僕が「はい」と答えると、不機嫌そうに女の子が先を歩く。「なんで彼女なんて答えたの?」と怒る。大きなお腹を、優しくさすった。「もう彼女じゃないでしょ」と、優しく笑った/№137 ひかりのまち① 大嫌いな場所から逃げ出すため、私は家を飛び出した。財布。カメラ。携帯。持ってきたのはそれだけだ。制服のまま遠い遠い海岸へ行き着く。この海のようになれたのならば、母親は私を愛してくれただろうか。ザザン、ザザンと寄せては引いていく波のように、私はどこにも動けずにいた/№138 海辺の彼女① 閑静な商店街の路地裏に、古ぼけた文字で「じどうはんばいき」と書かれた機械がありました。ディスプレイには商品が置かれていなく、代わりに「うで」や「あし」とだけ書かれています。一番値段の高い商品は「からだ」です。今日も夜の帳に、ガタンという鈍い音だけが響き渡りました/№139 夕闇が丘① おかーさんとはぐれてひとりぼっちです。わたしのあとをくろいひとが、びしゃ、びしゃとついてきます。おとなたちもみてきます。そのとき、とらっくがわたしにむかってきました。いつのまにかくろいひとはいません。おとなたちもみてきません。おかーさんはまだ
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ツイノベ 131-135

彼女と出会った地へ、五年ぶりに訪れる。電車から降りると、秋だというのに夏のような熱気が僕を包んだ。視界には高層マンションやビルが並ぶ。昔はもっと自然の多い場所だと思っていたのに。変わったのはこの街の景色なのか、それとも、大人なんかになってしまった僕の思い出なのか/№131 未来都市① 遊具もベンチもないただ広いだけの公園で、手押し機械を動かしている男性がいた。「なにをしてるんですか?」と訊ねると、「この機械で地質調査ができるんです。街の発展のためですよ」だそうだ。去っていく男性と機械を眺める。街の発展と引き換えに、草花が車輪に轢かれては散った/№132 未来都市② 流れない噴水を眺めていると、彼女とデートしたことを思い出す。「どうして今まで忘れていたのよ」と、彼女の亡霊に責められているようで目を背けてしまう。落ち葉が噴水の底で静かにたたずんでいる。僕も落ち葉も思い出も、流れることのできないまま、風に揺れてはさまよっていた/№133 未来都市③ 君についてまだなにも知らなかったころ、僕達は目的地もなくこの街を歩き回った。猫の銅像やいくつもの公園。役割を果たさない噴水。ロケットを模した巨大なオブジェがある宇宙施設など、僕達の興味は尽きなかった。「私達の未来は、もしかしたらここにあるのかもね」と彼女が笑った/№134 未来都市④ ロケット発射場に行くと、大勢の人で溢れ返っていた。この街から、宇宙へ。未来を届けるのだ。人々の思いや希望が、灰色の煙を吐き散らしながら上昇していく。大気圏の外に、まだ君はいるのだろうか。『グッドバイ グッドバイ バイバイーー』。昔、大切な人と聴いた歌
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ツイノベ 121-125

アメリカンドッグを食べると眠くなる。消化するのに体の機能をすごく使うから。演劇仲間に話したら苦笑いされた。「渋い俳優ばかり追いかけてないで、彼氏でも作ったらどうだ」と。余計なお世話だ。ならば、小道具のがいこつと踊っていた方がマシだと、度が強いだけの酒を飲み込んだ/№121 がいこつと踊る 魔女によっていくつかの色が奪われた異国の地で、彼女は機織り機で色を紡いでいます。ある日、彼女から手紙が届きました。「大丈夫です。大丈夫です。青と橙と、ほんのすこしの肌色があるので安心です。だから心配しないでください」。その国に色が戻るまで、彼女は色を紡ぎます/№122 色売りの少女 彼女が食事をしている風景が好きだ。「あなたの手料理はおいしいね」と彼女が笑う。なんだか、彼女の体と心の一部になれた気がして満足する。彼女にせがまれるたびに僕は手を焼き、包丁で手を切りながらも、彼女がおいしそうに食べている姿を見ると、僕の体が軽くなるのを感じられた/№123 手料理 カップ焼きそばにお湯を注いでからの三分間を、お気に入りの文庫本を読みながら待つ。昔から湯切りが下手な私の代わりに、彼がお湯を流してくれる。「あ」「なに?」「かやく入れるの忘れた」「いいよ。僕は野菜が嫌いだから」なんて笑って。一つのカップ焼きそばを二人で分け合った/№124 三分間の幸せ 彼女と専門店で万華鏡を作った。「見て。この一瞬がとても綺麗なの」と、彼女は万華鏡を回さずに一つの光景ばかり見ていた。目の前では夕日が夜に沈んでいき、橙から群青へ景色が変わっていく。すぐそばに綺麗な光があるのに。彼女は見せかけの美しさを、ただ、ただ、
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ツイノベ 116-120

私の体には秘密があった。小説を書き過ぎると指がタコの足に変わるし、深夜まで小説を書いてると目元に熊がぶら下がる。この体質を小説のネタにしてしまおう。これで大賞は間違いないゲロ。ゲロゲロ。鏡を見ると体がカエルになっていた。あぁ。どうやら私、井の中の蛙だったみたいね/№116 けものブレンド 彼女が花の髪留めを羨ましそうに眺めていた。「プレゼントしてあげるよ」と言ったら、彼女は「私には似合わないから」と拒む。黒くて、とても長い髪の毛が揺れていた。遠い昔の話だ。入院している彼女の元を訪れる。病床に伏せる君には似合わぬ、花の髪留めがバッグの中で泣いていた/№117 花の髪留め バイクで旅をして、写真を撮るのが趣味だ。真夜中、目的もなく道を走るのが時々とても不安になる。しかしそのたびに、前を走る友人のテールランプが光になって導いてくれた。自分もいつか、誰かを照らすあのテールランプになることができたら。そう思い、今は目の前の光を追いかけた/№118 テールランプ 道を歩いていると、女性が腰まで沼にハマっていた。「大丈夫ですか? 今、助けますから」「いえ、このままでいいです」「え?」「好きなキャラの絵を描いたり、好きな作品の小説を書いてたら、いつのまにかここにいたんですけど、なかなか心地良くて」そう言って女性は沈んでいった/№119 沼 姉のイタズラで女装をさせられた。最初は嫌がったけれど、鏡の前に立って姿を確認すると、驚くことによく似合っていた。女顔も理由の一つかもしれない。ふと、妹なら逆に男装が似合うかもと思い男装させてみる。そこで初めて気づく。着替えのとき、妹にはないはずのもの
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