ツイノベ 206-210

記事
小説
砂漠で今にも枯れそうだった私に、あなたは水を与えてくれました。乾涸らびて、腐食して、朽ちてしまったあなたの姿がとても美しく思えました。やがて私は民から『砂漠の女神』と崇め称えられます。民は素晴らしい服装で着飾っているはずなのに、なぜか、あなたよりも見窄らしく感じました/№206 乾涸らびた花ひとつ(百景56番)
数年ぶりに故郷へ訪れると、遠くに女性の姿を捉える。髪はボサボサで目にはクマ。手は震えていて全体的に痩せ細っていた。「あ」と声を出すと、私に気づいた女性が驚いた顔で逃げ去っていく。小学生のとき、クラスで一番明るかった子だ。人違いだったのかなと、雲に隠れた月が辺りを暗くした/№207 月の帳(百景57番)
子どものころ、おもちゃの指輪を入れた箱を裏山に埋めた。男の子の「二十歳になったら一緒に掘り返そう」という言葉を思い出す。風のそよそよという音が「そんな約束を覚えてるのは君だけだろ」と聞こえてしまう。そうよ。私はあれからずっと覚えていたのに、忘れたのはあなたの方じゃない/№208 風の落し物(百景58番)
今夜は流蝶群のようだ。月からそっと光の残滓がこぼれて、やがて一匹の蝶へと変容する。いくつもの蝶が流れ星のように、群れを成す光景はとても鮮やかだった。ベランダで流蝶群を待っていると、彼から「行けたら行く」とメールが届く。その言葉を信じて、私は沈んでいく月を一人で眺めていた/№209 月の帳(百景59番)
小説家になりたい。母の反対を押し切って、家を飛び出した僕の元に母から手紙が届いた。あれから数年、すぐに帰れると思っていた故郷は金銭的にも精神的にも遠くて、どうしてもその手紙を読むことができなかった。何かあったのかと思うと、僕は母を言い訳にして夢を諦めてしまうかもしれない/№210 夢路(百景60番)



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