ツイノベ 211-215

記事
小説
傘を開くと桜の花びらが舞い落ちた。中学生のとき、修学旅行で同級生と見た桜を思い出す。ふたりで花びらをかけ合って、女の子の笑顔がとても美しく咲き誇っていた。高校生になって、いや、私が告白してから会うことはなくなってしまった。「同性を好きになるなんておかしいよ」と泣いていた/№211 春咲センチメンタル(百景61番)

孫を名乗る男性から電話がかかってくる。もうとっくに亡くなっているはずなのに、その声が孫にそっくりで思わず涙を流してしまう。男性はうろたえて「会って話を聞こうか?」と心配してくれる。でも、もしもあなたと会ってしまったら、孫はもうこの世にいないと思い知らされてしまうでしょう/№212 亡日(百景62番)

好きな人の好きなものは無条件で好きになりたいけど、好きな人の嫌いなものを、好きな人の嫌いなものだからという理由だけで嫌いになりたくない。逆に、嫌いな人の好きなものも嫌いにはなりたくないし、嫌いな人の嫌いなものも好きになりたくない。なんて、SNSに呟くことしかできなかった/№213 roots(百景63番)

小説家を目指して先の見えない暗闇を歩く。誰かを蹴落としてでも、誰かに恨まれても。自分が有名になれるのならそれで良かった。不幸を売って、付き合いを犠牲にして、プライドも殺してやがて人気が上がってきた。不安で濁っていた霧が晴れて辺りを見回すと、何人もの「僕」が横たわっていた/№214 造花(百景64番)

絵羽模様の和服を纏った彼女が砂浜で横たわっていた。「私はもう汚れてしまったの」と目を伏せる。波が彼女の茶色い髪を濡らすと、髪の至る部分の色が抜けて変色していた。夕陽が海に融けていって空が橙から群青に移りゆく。彼女も、空の色も、心さえも。病葉のように本来の色を失っていった/№215 橙から群青(百景65番)



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