ツイノベ 231-235

記事
小説
小学生の時、命の授業としてウサギのラビ太を飼っていた。喉元を撫でると「プゥ、プゥ」と鳴き声を漏らす。いつだったか、ラビ太は近所の中学生に殺されてしまった。大人になった今、夜道を歩く。どこからか鳴き声が聞こえた気がして振り向くと、空にはウサギの模様が映った月が浮かんでいた/№231 卯月(百景81番)

終末戦争が終わってから私は、地下図書館に閉じ込められたままだ。あの日から1000年は経っただろうか。私を造った博士はもう戻ってくることはないだろう。破損した左腕からは配線ケーブルが覗いて、胸部ハッチからは心臓の形をした動力炉が錆びる。瞳からは涙に似せた『何か』が流れた/№232 少女終末(百景82番) 

人生に疲れてしまって神隠しの山に訪れる。木には多くのロープが括ってあった。僕は遺書を置いて滝から飛び降りると、遠くで鹿の哀しい鳴き声が聞こえてきた――/滝から男が流れてくる。人間に荒らされた山では食物がなくなった。今日も不味い人肉を食べるしかないのかと哀しい声を上げる/№233 夜鹿(百景83番)

サナトリウムの窓から海を眺める。夏になれば遠くで花火が見えるらしい。夏になれば。先生の話では私の寿命はあと3ヵ月ほどだそうだ。写真に映る恋人と目が合う。病気のことを言い出せなくて私から別れを切り出してしまった。桜が散る。あと3ヵ月だ。夏になれば。夏になれば。夏になれば――/№234 サナトリウムの火花(百景84番)

目の見えない私は、不思議なことに彼女と手を繋ぐ間だけ視力を取り戻すことができる。ある日、友人と遊んでくると言ったまま連絡のない彼女を待って、私は明けない夜をひとりで過ごした。繋ぐ手の先が見つからないまま、空中で左手がさまよう。見せかけの光に、目が眩んでは冷たい夜を患った/№235 夜を患う(百景85番) 



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