ツイノベ 396-400

記事
小説
「ヨル。手を出して」とカヒリが囁く。私は少しだけ逡巡したあと、カヒリの右手を繋ぐ。見えないはずの私の両目に、少しずつ視力が戻っていく。幼なじみのカヒリと手を繋いでいる間だけ、なぜか私は光を取り戻すのだ。真っ暗だった視界のパレットに、風景の絵の具が一滴、一滴と落ちていった/№396 ヨルとカヒリ-アルマ③-

『冷却塔アルマに外の世界へ通じる扉がある』と噂が流れ始めた。この街の生態系は狂って、最近では光の残滓を纏った無数の蝶が空を覆い尽くす。夕景に照らされて様々な色へと変化していく。セルリアンブルー。アリザリンレッド。マゼンタ。画用紙に水彩絵の具を垂らしたように広がっていった/№397 水彩の蝶-アルマ④-

炎熱石採掘場に訪れる。炎熱石を左手でそっと握ると、赤くて淡い光を放つ。ほのかな熱量がカヒリの右手と同じ温度に感じた。夜だけになった世界で炎熱石は貴重な資源だ。不足した自然エネルギーをこの小さな石が補っている。それも今、枯渇まで秒読みとなった。アルマの活動限界が迫っていた/№398 炎熱石-アルマ⑤-

禁止区域に存在する廃病院の入口を抜けると、右手側には手術台やレントゲン台があり、正面には重たい鉄格子がはめ込まれていた。死の光を浴びた人が最期に行き着く場所だ。大勢の人が亡くなったであろう地に思いを馳せる。もしも、魂がこの世に存在するのなら、ここは魂で溢れているのだろう/№399 魂の終わり-アルマ⑥-

部屋を常夜灯にする。私達だけの夜が灯った。目を閉じて、意図して暗闇を作る。次に目を開けたとき、もう光を失っているかもしれない。カヒリがいないかもしれない。でも、それでも。意図して作った暗闇なら、きっと意識して光を生み出せる。私はカヒリの左手を強く握って、一条の光を探した/№400 夜の始まり‐アルマ⑦‐

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す