ツイノベ 181-185

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家出した君を泊めた次の日の朝、雪が街を彩っていた。コートを羽織った君が白い地面に一歩踏み出すとき、一瞬だけ躊躇する姿が嫌いだった。最寄り駅まで送った帰り、店先のシャッターが開いていく。なぜか、中を見てはいけない気がした。それは、僕の後ろめたさだったのかもしれない/№181 夜明けの逃避(百景 31番)
京都旅行から友人が帰ってきた。「お土産に紅葉の天ぷらを買ってきたよ」と言われたときは驚いたけれど、小麦粉と砂糖とゴマを使った、紅葉の形をした伝統的なお菓子らしい。やさしい甘さと香りが口に広がる。喉の奥に堰き止めていたあなたへの気持ちが、今にも流れていくようだった/№182 紅葉の天ぷら(百景 32番)
大学の卒業式が終わり、親しくしてくれた先輩達の姿を見つける。大勢の卒業生に紛れて、いくつもの喧騒に隠れて、先輩達は賑やかに談笑していた。声をかけずに、その様子を遠くから眺める。新たな旅立ちを祝福するべきなのに、なぜか、私の心は騒がしく唸って、輪に入れずにいた/№183 春の嵐(百景 33番)
昔はインターネットがとても流行っていて、声も、性別も、名前も、年齢もわからない友人がいっぱいいたのに。私もすっかり年老いてしまった。いつのまにかすれ違って、失って、疎遠になってしまう。不慣れな手つきでパソコンを開く。あれほど親しかった友人達は、データだったのかもしれない/№184 融雪(百景 34番)
三十歳になった僕達は、タイムカプセルを掘り出すために小学校を訪れる。僕を好きだと言ってくれた彼女には、内気で控えめな昔の面影なんて残っていなかった。茶髪で、耳にピアスが開いていて、子どもを連れている。彼女の心はもうわからないけれど、梅の花を眺める姿が、とても、綺麗だった/№185 梅の花(百景 35番)



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