ツイノベ 331-335

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小説
久しぶりに実家へと戻る。昔、近所の女の子の家では、金曜日になるとカレーライスが出てきたことを思い出す。亡くなった海上自衛隊のお父さんを忘れないようにするためだそうだ。今では更地になってしまった場所を眺める。女の子との思い出と共に、どこからか懐かしいカレーの匂いがしてきた/№331 匂いの記憶

オンライン飲み会を開く。時間になったのでボタンを押すと、不思議な光に包まれて友人達が電脳空間に集まる。食べ物も、飲み物も、味も匂いも感触も、今では仮想現実で体験できる世の中になった。ネットの中で馬鹿騒ぎするのはとても楽しい。でも、いつか、実際にまた会おうとみんなで願った/№332 オンライン飲み会

大切な人が飛び降り自殺してから2年が経つ。腕時計も、未読のLINEも、SNSの更新も、23時14分から先には進まなかった。薄氷の上にある命を割らずに歩く。ゆっくりと冬を思い出に埋める。病葉のように君の顔を忘れていく僕を、どうか、許さないでほしい。夜を泳ぐ。遠雷が鳴った。春が始まる/№333 改稿データ(2020/04/21.siro)

車の窓からペットボトルを捨てる男がいた。マナーがないなと憤っていると、幼い女の子がそれを拾って「おちましたよー」と男に渡す。思わず僕も、通行人も、幼い女の子も、男さえも笑顔になってしまう。みんなが、ちょっとずつ優しくなれたら、みんなが、ちょっとずつ幸せになれるのだろ/№334 ニーナ

列車がトンネルを抜ける。隣の席を見ると男女が向かい合って座っていた。窓を開けていたせいか、男性の顔はすすだらけになっている。なぜか男性は顔を拭こうとはせず、女性が化粧室へと向かっていく。どういうことだろうと不思議に思っていると、僕の顔を見た男性も化粧室へと向かっていった/№335 すすけた列車

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