ツイノベ 321-325

記事
小説
大切だった人の墓参りへ赴く。左手で花を供えて、記憶を振り返る。バッティングセンターで汗を流して、喫茶店で焼うどんを食べて、ソフトボールの試合を見て。何年と経っても過去に流せない、嘘偽りのない思い出が透き通っていく。「今度、双子の女の子が生まれるんだ」遠くで花火が光った/№321 difference

廃墟になった遊園地の夢を見た。うさぎの着ぐるみが「いつのまにか、子ども達は遊園地から消えてしまいました」と嘆いている。お化け屋敷も、レストランも、観覧車も、どこにも人の気配はなかった。「明日には着ぐるみの予備もなくなります。仕事を失います。死んでしまいます」と泣いていた/№322 春雷

二歳の娘が私に何かを渡してくる。そこには何もなくて戸惑ったけど、きっと、娘にはちゃんと見えているのだ。それは大人になってしまってから失われたきらきらだとか、わくわくだとか、生きるのに大切なものなのかもしれない。娘がにっこりする。受け取った手で胸をなでて、心の中に閉まった/№323 碧日

動物専門の絵師と出会った。ボトルには黒色のインクがたっぷりと詰まっている。「今日は何を描くんですか?」「なーに、黒色のストックを減らそうと思ってね」と笑うと、筆を使ってしろくまに色を塗っていく。不思議なことにしろくまは実際にパンダになっていき、やがてツキノワグマになった/№324 動物絵師

鼻水やくしゃみが酷い人がいた。その人は「不謹慎アレルギーなんです。今年は特に酷くて」と不思議なことを呟く。聞くと「やれ死を案件にするなとか、やれ芸人が動画配信するなとか。『不謹慎だぞ」という声がすると反応しちゃうんですよ」と鼻を噛む。確かに、年々と酷くなっていきそうだ/№325 不謹慎アレルギー

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