ツイノベ 356-360

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少し前まで、数十万あれば海外で安楽死の権利が入手できたのに、最近は値上がりしているらしい。それだけ人々の『死の価値観』が上がったということだ。安らかな休息さえ、貧乏人には与えられない。「金さえあればなんでも手に入る」という言葉は、あながち間違いではないのかもしれなかった/№356 カフカ

残業も終わって帰宅する。最近は肌荒れが酷いので、アルカリの炭酸電池を湯船に投げ込むと、バチ、バチと音を立てながら炭酸が弾ける。疲れ切った体を電流が刺激した。少し勢いが弱いかなと思って確認してみると、充電用の炭酸電池だった。繰り返し使っているから弱まっているのかもしれない/№357 炭酸電池

牛乳をコップに注いで一分半温める。僅かに張る膜を人差し指で救い上げて口の中に入れる。美味しいわけではないけど昔からの癖だった。ココアパウダーをコップの中に落として軽く混ぜ合わせると、白と薄茶のコントラストがくるくると回転して、やがて一つになる。溶けて、融けて、解け合う/№358 炉心融解

SDカードがなくなって冷や汗が出る。あのカードの中には大事なデータが入っているのに。従事ロボットが僕に迫ってくる。早くカードをロボットに差し込まないと。一歩、一歩、鈍い音を立てながら近付いてくる。ロボットに殺される。カードを。早くSDカードを。ソーシャルディスタンスカードを/№359 SDカード

日課の夜釣りへと赴く。これをやらないと1日が始まらない。今日はいつもより暗闇が深くて手元がおぼつかなかった。空に向かって釣竿を振ると、針が月に刺さって引力に体を持っていかれそうになる。負けじと水平線の彼方に沈めて夜を釣り上げる。暗闇が晴れていき、空には太陽が浮かび上がった/№360 夜を釣る

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