ツイノベ 361-365

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最近は煙突建築士の発生が問題視されている。どこからともなく人の家に現れては勝手に煙突を建てていく。煙突が建てられた家には、サンタクロースがプレゼントを持ってやってくるけど、たまに泥棒や恥ずかしい思いをした人も入ってきてしまう。煙突建築士は今日も、どこかで煙突を建てている/№361 煙突建築士

透明になる薬を飲む。本当に誰も僕のことが見えなくなって楽しくなる。ある日、集合写真から僕だけが消えていた。それだけじゃない。映像、記憶、僕が関わった全ての事象が失わ⠀ て僕の存⠀ が消えな⠀ ように、急いで文字に⠀ て残す。⠀ 葉が届か⠀ くなる。「⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀⠀ ⠀ 」/№362

私の瞳には秘密があった。涙の代わりに宝石が流れてくるのだ。生み落とされる宝石は瞳を傷つけて、その度に視力が悪くなっていく。親からは宝石欲しさに暴力を振るわれる。人前で泣かないように。気味悪がられないように。悲しみを奪われないように。人魚になって、海の底に沈みたいと願った/№363 深海魚の瞳

庭ではジュゴンが泳いでいた。尾ビレが揺らめき、お腹を数回ほど叩く。私はジュゴンのお腹を枕にして眠ると、体中を安心感が包む。彼に吐き出してしまった苦い感情も、私の救いようもない弱さも、今なら全て許される気がした。やり直すんだ。全てを失ったここから。この、ジュゴンの泳ぐ庭で/№364 ジュゴンの泳ぐ庭

言葉の種を植えた。水の代わりに感情や思い出話を与える。毎日、毎日、言葉にならない気持ちを種に込める。ちょうど一年が経った日、言葉の種が花を咲かせた。それはそれはとても精彩で、鮮明で、繊細で、感傷的な形をしていた。花びらがひとつ落ちる。空白だった心の中に、言葉が生まれた/№365 終わりと始まり

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