ツイノベ 151-155

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紅葉が流れるあぜ道で、私は飼い主様を待っています。「冬を越えて、春を過ぎるころには戻ってくるからね」と言って、仮小屋を作ってくれました。草の網目が荒いので夜露が染み込むばかりです。何年経ったでしょうか。飼い主様はまだ迎えに訪れません。私の毛は涙で濡れるばかりです/№151 晩秋の犬(百景 1番)
私が社会人になってから三年が経った。家を出て、ベランダの物干し竿を眺める。夏になると干されていた白い制服が、私を見送ることはもうなくなった。代わりに、黒いスーツ姿が記憶の中の白い制服をより映えさせる。蝉が鳴く。季節にも、私にも、いつのまにか春が過ぎてしまっていた/№152 汽空域(百景 2番)
月が地球に大接近してから、日に日に夜が長くなりました。今では朝が訪れることはありません。彼が眠りから覚めなくなってから、どれほどが経ったでしょう。月の影響なのか、人々は次々に眠りへと沈んでいきました。夜が晴れることのない世界で今日も、私はひとりで眠るのでしょうか/№153 朝のない国(百景 3番)
哀しいことや辛いことがあると、私は決まって海岸へ向かう。どうしてだろう。おだやかな心で眺める海より、ボロボロでズクズクになった心で眺める海の方が、やけに澄んで見えた。遠くの山に目を向けると雪がしんしんと降り続く。その雪溶け水が海に流れて、私の足下を優しく濡らした/№154雪融け水(百景 4番)
ひと夏の恋。なんて呼べば聞こえは良いだろう。実際は欲に身を任せただけである。まだ二ヶ月そこらの赤ん坊を抱えて山へと踏み入った。あれから数年。たまに山中を散歩すると、どこからか鹿の鳴き声が聞こえた。その度に、赤ん坊の泣き声と重なって私は、身勝手にも心苦しくなるのだ/№155山の子(百景 5番)



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