ツイノベ 276-280

記事
小説
公園の蛇口に笹舟が置かれていた。蛇口から水を出して、窪んだ水皿の中でどこにも行けない笹舟を揺らす。あの日の記憶も彼女との思い出も、どこにも流れることができずに、笹舟と同じように僕も公園で揺らいでいた。橙に染まった観覧車を見上げる。誰かの歌う声がした。夏が終わる/№276 無題(5).docx

彼女が亡くなったことを知らない誰かの中では、まだ、彼女は生きているのだ。知らない誰かの中では、まだ、彼女は乾燥した唇を気遣いながら笑っていて。まだ、彼女は代々木公園で歌っていて。知らない誰かになって、こんなくすんだ赤い糸だらけの六畳一間を抜け出したいと思った/№277 無題(2).jpg

「みんな幸せが無理なことはわかってるけど、そう思うことは駄目なの?」小説も、短歌も、脚本も、思い出になってくれなくて。人の死を題材にした作品はつまらなくて。金にも有名にもなれなくて。『みんな幸せ』の『みんな』の中に、彼女だけがいなかった。言葉が消える。秋になった/№278 未入稿データ(2019/04/20.ixy)

シャボン玉売りの少女は今日も街でシャボン玉を売ります。誰にも見向きされない中、シャボン玉の膜には人々の思い出や記憶が映し出されました。 街中の人が喜びに溢れる中、少女は哀しそうにシャボン玉を吹きます「優しさや思い出なんていらないのです。お金さえあればいいのです」/№279 シャボン玉

『元号が変わります。記憶の引き継ぎをして下さい』もうすぐ人生の大型アップデートが始まる。忘れたい人や思い出は消去して、大切なものだけ保存していく。平静ではいられなかった色々を蔑ろにして、また新しく人生が0話から始まる『アップデート開始まで、あと、3、2、1ーー』/№280 碧

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