ツイノベ 291-295

記事
小説
美容師さんから「髪の毛にはね、記憶が宿っているの」と聞いた。だから失恋をしたら髪を切るそうだ。辛い記憶を忘れるために。思い出さなくてもいいように。美容師さんの長い髪が私の頬に触れる。少し熱く、多量に柔らかい。美容師さんが長い髪を揺らしながら「嘘だけどね」と、小さく笑った/№291 トーエ

カードショップに行くと、動物達がカードゲームで遊んでいて驚いた。人にも似たソレはキーキーワーワーと鳴いて異臭を振り撒く。アニメで覚えたのか何やら台詞のような言葉を喋っている。相手を威嚇するようにシャカシャカと手を動かし、パチパチと警告音を発する。すごい時代になったものだ/№292 カードゲーム動物園

「両親が離婚することは悲しいことじゃなかったのよ。でも、始業式で名前を呼ばれる順番が遅くなったの。名字が変わったからね。なんでだろう。それがすごく悲しかった」と彼女は笑いながら話していた。今にして思えば、僕の名字だけが彼女にあげられる最後のプレゼントだったのかもしれない/№293 せいめいのおわり

声優の仕事は声と語彙力が大事だ。加湿器の電源を入れてのど飴を舐める。役に合う花はどれかなと考えたあと、クチナシが浸されたハーバリウムのボトルを手に取る。専用オイルを飲み干して声の調子を整えると、クチナシの花言葉である「とても幸せです」という感情と語彙力が頭の中に広がった/№294 花譜

「あなた達の思い出をジグソーパズルにします」と露天商に話しかけられる。怪しいと思いつつも買ってみると、後日、まっしろなパズルが届けられた。やっぱり詐欺じゃないかと憤っていると、彼女は完成したジグソーパズルをじっと眺める。「すごいね、あの人。私達より私達のことがわかるんだ」/№295 白日

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す