ツイノベ 221-225

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十七時を過ぎてから高校の門をくぐると、不思議な事に三十年前の街へと変化する。私が生まれる前の街を散歩するのはとても楽しい。今はもう閉店してしまった駄菓子屋。私と同い年くらいになった両親。これから私の家が建つであろう田んぼの前でぼぅっとしていると、秋風が私の頬をくすぐった/№221 記憶の門限(百景71番)
大学の演劇サークルで夏合宿に訪れる。みんなが海で遊んでいる間、泳げない私は砂の城を作ることに勤しんでいた。男の子が「泳がないの?」と聞いてくるのを無視すると、すぐに違う女の子と楽しそうに笑い合う。そのとき、横殴りの強い風が吹いて砂が目に入った。涙が流れたのは、きっと――/№.222 海辺の彼女(百景72番)
電柱の上から雀の鳴き声が聞こえてきた。目覚めの悪い僕を叱るように決まった時間に起こしてくれる。目が合うと雀は首を傾げたあとにどこかへ飛び立つ。それから数ヶ月、景観美化のために電柱は地面の底に埋め込まれた。今でもどこかで雀の鳴き声が聞こえるけど、その姿を見ることはなかった/№223 雀の涙(百景73番)
口も聞いてくれない。頭も撫でてくれない。目も合わせてくれない。昔は温かくて優しかったあなたがこんなにも冷たくなってしまった。あなたの心を取り戻したいと御百度参りをしても、体は冷たくなるばかりだった。病床に伏して動かなくなってしまったあなたの冷たい手を、もう一度強く握った/№224 祈る手(百景74番)
高校最後の夏が終わる。野球部がグラウンドに集められて監督が土下座した。監督は「必ずお前達を大会に連れて行くと約束したのにな」と涙を流す。監督のせいではない。誰のせいでもない。じゃあ一体、何を恨めばいいんだ。ふいに問いかけられる球を、誰も打ち返すことができなかった/№225 格子園(百景75番)



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