ツイノベ 171-175

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「すぐに行くから」と、あなたが仰ってくれました。こちらは退屈です。話に聞くような素晴らしい場所ではありません。あなたにもう一度会えたら、話したいことがあります。あのね、あのね、あのね。口から言葉が溢れてきます。でも、天国に来るのは、あと何十年か先でも構いませんよ/№171 あのね(百景 21番)
昔、祖母から「山には魔女が住んでいて、凍える息を吹いては農作物を駄目にするのよ。だから、秋が終わる頃には慎ましく生きなさい」と呪文のように呟いていた事を思い出す。今にして思うとあれは、やがて訪れる冬に対して、私が強く生きられるように願った言葉だったのかもしれない/№172 山の魔女(百景 22番)
遥か昔、地球には「季節の移ろい」があったらしい。それが今ではどうだ。圧倒的な技術革新で人類は、四季を完全にコントロールできるようになった。「お知らせします。10月1日を以って、季節は秋になります」と、アナウンスが響く。余韻もなく、私達の季節は流されていくのだ/№173 虚ろう季節(百景 23番)
彼女の病気が悪化していった。投薬治療の影響なのか、彼女の髪の毛は日に日に抜けていく。世界でも類を見ない難病だそうだ。神頼みをしようにも僕には捧げるものなんて何一つなかった。代わりに、髪飾りが必要なくなった彼女の頭に、紅葉で編んだ頭飾りをプレゼントしようと思った/№174 花飾り(百景 24番)
ご近所に住むおばあちゃんの家へ遊びに行くと、庭先にさねかづらが咲いていた。「この蔓は隣の家まで伸びていてね。私の若いころは蔓を揺らして、隣の男の子と会話のないやり取りをしていたのよ」と、微笑みながら語る。私は蔓を揺らしながら、今は誰も住んでいない隣の家を見つめた/№175 運命の赤い蔓(百景 25番)



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