ツイノベ 166-170

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目を覚ますことはできないけれど、意識は確かにあった。花を摘んでは冠にしてくれた彼女は、そうやって何年も、いくつもの季節が過ぎる間、ずっと僕の病室を訪れてくれた。外を見ると雪が降っている。「もういいんだよ」と君に願うことしかできない僕を、どうか、許さないでほしい/№166 祈りの花(百景 16番)
世界から夕陽が消えて何十年が経つだろう。太陽と月の周期。オゾン層の破壊。理由はいくつもあった。特異環境の影響なのか、人々が亡くなる割合はどんどん増えていった。亡くなった人の命を弔うために、この時期には精霊流しが行われる。淡く揺らめいた光が、消えた夕陽にも似ていた/№167 夕陽の街(百景 17番)
「絵描きになりたい」と言っていた君の夢を思い出す。水彩絵の具で汚れた君の顔や、ペンだこでごつごつになった君の手が印象的だった。「私、綺麗じゃないよ」と小さく笑って、描き終えた絵をゴミ箱に丸める君が嫌いだった。「私の絵は、人に見せられないよ」と、隠す君が嫌いだった/№168 セルリアンブルー(百景 18番)
祖父の葬式で従妹と再会した。何年振りだろうか。僕達は昔、付き合っていた。若気の至り。という言葉で片付けてはいけない。そのことが互いの両親に伝わり、僕達は疎遠になっていった。ふと、彼女の横顔が目に入る。記憶の中にないその表情が、僕達のすり減った時間を物語っていた/№169 翳りゆく部屋(百景 19番)
人魚が海底の岩に座り、別の人魚に話しかけています。「私も昔は人間だったのよ。学生のころは先生のことが好きで、だけど、身分違いの恋だったから、諦めるしかなかったのよね。だから、先生の元へと駆け出さないように、声を上げて泣かないように、私は人魚になろうと思ったの」/№170 まどろむ人魚(百景 20番)



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