ツイノベ 241-250

記事
小説
降り止まない雪を静めるために、私と妹は山の上に住む魔女の生け贄に捧げられることとなった。病弱だった妹は頂上へと着く前に倒れてしまう。身を清めたあとに、纏った着物が雪に降り積もっていく。村の人達のことなんてどうでも良かった。私は着物の上に寝転がって、妹の寝顔を静かに眺めた/№241 永久凍土(百景91番)

いつからだろう。私の瞳の中には海が生まれていた。目をつむるとザザン、ザザンと波の音が聞こえて、頭のどこかでは姿の見えない鯨が鳴いた。眼球は常に下向きで青白さが滲む。五十二ヘルツの鯨と同じだ。誰にも気付かれず、誰からも見つけてもらえないまま、私は、涙の代わりに海水が流れた/№242 五十二ヘルツの鯨(百景92番)

仕事をサボって喫茶店で人混みを眺める。今日も至って平和だ。これから先、何もかも変わらないでほしい。星も、人種も、性別も、死も、言語も、病気も。何にもなかった時代もそれなりに楽しかったけど、人間の姿になった現代を過ごすのも悪くない。最高だった。死ぬにはとても良い日だった/№243 アンデライト(百景93番)

子どもの頃、布団が叩かれる音を子守歌にして眠っていた。寝る前は座布団に座っていたはずなのに、起きるといつもふかふかな布団の上に寝転がっている。母がこっそりと布団に移動させてくれたのだろう。と、娘を寝かしつけていると思い出す。窓からはやわらかな風と布団を叩く音が吹き込んだ/№244 別れのあとの静かな午後(百景94番)

何人も犠牲にしてアイドルになった私は、罪滅ぼしに死期が近い人へ影を分け与える。私の存在は少しずつ失われて、影を与えられた人は生気を取り戻していく。見窄らしい見た目になった私が一世風靡したアイドルなんて、今では誰も思わないだろう。女の子の影が濃くなり、私の手を取って笑った/№245 レゾンデートル(百景95番)

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す