ツイノベ 381-385

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小説
これからブラック企業に退職届を出しに行く。家を出ようとしたら扉の前に彼女がいた。「いらっしゃい。どれにする?」と両手には『勇気』『適当』『脱力』と書かれた紙が握られている。試しに『勇気』を選ぶと「ここで装備していくかい?」「はい」と答えると彼女が僕の背中を押して笑った/№381 道具屋

2歳の娘が「ままー。おそらにねこがいるよー」と話す。なんのことかと空を見上げると曇り空が広がっていた。しばらく眺めているとゴロゴロと雷が鳴る。娘が「ごろごろー、ごろごろー、にゃーん」と猫の声真似をした。なるほど、そういうことか。雨が降り出すと「ねこさんないてるね」と呟いた/№382 そらねこ

ネット動物園に訪れると、今日は『かコイ』が元気に泳いでいた。一匹の綺麗なメスを見つけると、オスが周りを泳ぎ続けて他のオスを寄せ付けないようにする。エサを集めたり、メスを攻撃しようものならば徹底的に噛み付く。口をパクパクさせる。今日も『かコイ』は、濁った水の中を泳いでいた/№383 かコイ(ネット動物園②)

陶芸教室が終わったあと、友人の中央がクチナシの壷と書かれた作品を割ってしまった。壺の破片が散らばる。その途端、友人の姿が見えなくなった。先生が「かわいそうに。あの子は口を失ってしまったんだよ。だから、1人になったんだ」といつのまにか後ろに立っていた。「この壺って一体……」/№384 クチナシの壷

サナトリウムに入院している同級生に会う。窓辺には千羽鶴が飾られていた。高校生の頃「自分の住む街だけが世界中」と言っていた彼女は、今、世界の外にいるのだろうか。彼女の手が頬に触れる。「私のことは、好きにならない方がいいよ」遠くで空が光る。先の見えない暗闇に、火花が走った/№385 サナトリウムの火花

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