リーディングセラピー29 夜明けの音
※まずは深呼吸リラックスしてゆっくり読み進めてください湿った空気が頬を撫でていく。足元のアスファルトはまだ昨夜の雨を吸い込んだままで、ひんやりとした冷たさが足裏越しに伝わってくる。その道を歩くたび、何かが胸の奥でじわじわと疼く。遠くから聞こえる車のタイヤが水を切る音さえ、どこかやりきれなさを感じさせた。街灯はその光を惜しむかのように弱く揺れている。見上げれば、夜の端がわずかに色を変え始めていた。青とも灰ともつかない、その曖昧な空の色。しばらく眺めていると、自分の輪郭すらその空に溶けていくような気がしてくる。一歩、また一歩。足を進めるたび、靴が水たまりを軽く弾く音が響く。耳に入る音はそれだけだ。街はまだ眠っていて、聞こえるのは自分の呼吸と、心臓が僅かにリズムを刻む音だけ。ふと立ち止まる。目の前に広がる広場の真ん中に、一本の木がそびえていた。葉を落とし、枝だけになったその木は、まるで静かに何かを語りかけてくるようだった。見ていると、不意に胸がぎゅっと締め付けられる。その木の根元に、何かが置いてあるのが見えた。近づいていくと、それは古びたギターだった。弦はところどころ錆びていて、きっと長い間ここに置かれていたのだろう。誰が置いたのかも、なぜこんなところにあるのかもわからない。でも、不思議とその存在が気になった。手を伸ばしてギターを持ち上げると、思った以上に軽かった。軽いけれど、その重さがどこか心地よい。ふと指先が弦に触れた。その瞬間、小さな音が空気を震わせた。音は不安定で、不揃いで、どこか心許ない。それでも、静かだった空気が少しだけ揺れた気がした。「これでいいんだ」と、どこかから声が
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