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母子家庭の始まり

まず私はテルのお母さんに電話をした。 お金を勝手に持ってきてしまったのだから… 家を出た事には、やはりびっくりしていたが、シゲを連れて出たと聞いてホッとしていた。 「お金は必要だろうから気にしないで…」 と言ってくれた。 そして 「いつか必ず返します。ごめんなさい」 と言って電話を切った。 居場所は伝えなかった。 次に電話をしたのは実母である。 言ったら大変そうな父や継母には黙って出て来たので捜索願い…なんて事にならない為に実母には家出の件を知らせておいた。 そして早速ポケベルを買った。 寮には電話は無い… バタバタとするうち夜になり 「お父さんはどうしたの?」 シゲが言い出し言葉に詰まる。 こうして私達母子の生活は始まった。 これからは私が一人でシゲを食べさせて行く。 21歳の母親に出来る事は何か… 考えながら眠った…
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家出の計画

連れて行かれたのは、わりとソフトサービスだというピンクサロンだった。 ソフトと言っても水商売の経験すら無い私にとって怯えるには充分な場所である。 そこで新たに面接をした。 事情を話すと親切に対応してくれ寮の手配だけでなく引っ越しも手伝ってくれると言う。 出て行くまでテルには絶対バレたらいけない。 バレたら計画が台無しになる。 また実家に連絡されて監禁されるに決まっているのだ。 極秘で家出をする為の計画を面接で立て、私はシゲと家へ帰った。 何も知らないテルは、その日も私に嫌がらせをした。 毎週欠かさず楽しみにして見ていたドラマの最終回をわざと私を部屋から閉め出し見せなかった。 【あと一週間…一週間ガマンしたらコイツとサヨナラだ】 家出に対する不安よりテルに対する嫌悪感の方が上回っていたのが救いだ。
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ターゲット

今思えば面接に行ったのは「面接屋」 みたいなとこだったのではないだろうか。 面接をしてあっちこっちの店に女の子を手配してお店からお金をもらう…みたいな。 そして私の様な離婚したがっている無知な若い母親は良いターゲットだったんだと思う。 面接をしたオジサンは言った。 「託児所は12時までなんです。でもお店は2時まで…お子さん2時間寮で1人にさせときますか?」 「心配なら12時で終わるお店を紹介しますよ」 …安心したのも束の間… 12時で終わる店… それはつまり風俗… ピンクサロンだった。 確かに給料は飲み屋より全然良い。 しかしお金の問題では無かった。 「2時にお店が終わったってね、水商売はアフターがあるからねぇ…その点風俗はお店の外での付き合いは絶対無いからお子さんを1人にしないですみますよ」 若い無知なターゲットは悩みながらも分かっていた。 4歳になるかならないかの子供を夜中に1人で部屋に置いて仕事をするなど自分には出来ない事を…
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面接

仕事と言っても住むところがセットで付いていないと生活は出来ない。 いわゆる寮がある仕事だ。 こんな時の為にコツコツ貯めていた定期貯金も知らないうちにテルが解約して使ってしまった。 私は高額アルバイトの求人雑誌を買い、寮のある飲み屋で水商売をしようとアレコレ探してみた。 東京に出れば条件の良い店は沢山ある。 まずは面接だ。 シゲを面接中見ててもらう為、おかちゃんに来てもらった。 おかちゃんは都内に住んでいるので相談相手としても心強かった。 誰も知り合いがいない所へ小さな子供を連れて家出するのは怖すぎる… しかも水商売の経験も無し。 おかちゃんは私の人生の中でピンチな時、必ず現れて支えてくれていた。 しかし… 面接の結果、究極の選択に迫られてしまった。 こればっかりは、おかちゃんも 「決めるのはアンタだよ…」 と。 その究極の選択とは…
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クズ中のクズ

テルがお金を返すと両親に約束していた日がやって来た。 しかし返しに行く風でも電話をする風でも無い。 気になったので聞いてみた。 「お金返す日じゃないの?」 するとテルは 「ちょっと遅れる」 と普通に言ってのけた。 あんなに威張って借りたのに… 約束の日に返さない… そんな感覚が理解出来なかった。 「だったらせめて電話して謝りなよ」 そんな私をテルもまた理解出来ない様で 「うるせ~な。オマエには関係無い金なんだから口出すなよ!」 【うわぁーやっぱりコイツとは無理だ!】 結局テルはそのまま両親に連絡も入れず、返すはずのお金はそれから一週間後に深田さんから返済された。 そしてあろう事か、そのお金を少しずつパチンコで使い始めてしまった。 「関係無い」 と言われたから黙っていたが、それが私にある決心をさせたのだった…
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キレる音再び…

テルの元に戻ってしばらくして、心配をかけてしまったテルの両親に挨拶に行った。 そしてしばらく泊まって行く事になったのだが、そこで事件は起こった。 仕事から帰って来たテルがおかしな事を両親に言い出したのだ。 「深田さん(社長)が会社の支払いで今月大変だから20万貸してくれないかな…」 とりあえず黙って聞いてみる事にした。 「そんなお金急に言われても無いよ」 とお母さん。 しばらくそんなやりとりをしていたが思い通りに行かない事にテルがキレ始めた。 「来月返すって言ってんだからいいだろっ!無いなら銀行からでも借りろよ!」 【ぷちんっ】 また何かがキレる音がした。 黙って聞いているのが無理になってしまい、テルの両親の前で素で怒り始めた私をテルもテルの両親もポカンと見ているしかなかった…
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両方は手に入らなかった

結局シゲを手放せない私の気持ちをシュウはお見通しで… 私は、可愛い息子シゲと暮らす為にテルの元へ帰った。 でもシュウの事は忘れられない… テルと居れば尚更だった。 どうしても比較してしまう。 シュウと電話で話す事も無くなってしまったけれど偶然会いやすい場所に買い物に行ったりしていた。 会ったところで 「元気か?」 「うん…」 だけなのだが… こうして私の心の支えは前の様にシゲだけになった。 ただ、まだ自分を好きになってくれる人がいるって事実と自信をシュウが残してくれた。 シュウと出会う前は 【私は終わった…】 と思っていたし、テルからもそう扱われていた。 そんなテルと果たしてうまくやっていけるのか… 結果はすぐ分かる事になる…
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我が子との再会

シュウと別れた事でシゲと離れている事が完全に無理になった。 そしてシゲの面倒を見てくれていたテルのお母さんも孫に手を焼き、やはり無理になっていた。 ある日、電話にたまたま私が出た。 「ハイ。もしもし…」 電話の向うで喋っているのはシゲだった… 涙が止まらない。 会いたくて会いたくて我慢し続けた。 「お母さん…会いたいよ…」 迷わず迎えに行く事にした。 声を聞いたら悩む余地も無い。 そして数か月ぶりにシゲに会いに行った。 「マユちゃん…シゲが精神的に不安定になってるの。全く言う事も聞かないし泣いてばかり…やっぱりマユちゃんじゃないと無理なのよ」 とテルのお母さんは疲れ果てた様子で私に話をしてきた。 さぁどうする!? いや、どうしょうもない… シゲを手元に置くにはテルとやり直すしか無いのだ。 シュウは、私がシゲと居られる様に私を振った… その時に気付いた。 そして、その気持ちを無駄にしない為にも私は大嫌いなテルの元へと帰る事に決めたのだった…
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別れ

しかしそんな悩める日々にも終わりが来た。 突然シュウにフラれたのだ! あまりのショックから何て言われてフラれたのか全く記憶が無い… とにかく 「これ以上は無理だ…」 みたいな結論になった。 悲しくて悲しくて… 男と別れてあんなに辛かった事は無い。ご飯も食べられず睡眠も取れなかった。 そしてなぜシュウが別れを選んだのかが分かる。「これ以上無理」 だったのは私がシゲと離れているのが…って事。 だからシュウは危険な事ばかりに手を出し、わざと私を不安にさせた。 テルの元に帰った方が幸せだと私が思う様に… シゲにとって一番いいのは元のサヤに納まる事だと。 私がもっと強ければ違っていただろう。 しかし精神的に弱い私では、待つ事も耐える事も無理だとシュウは思っていたに違いない。 シュウはそういう男だ。 別れてから気付いた事が多すぎた。 別れなければ気付かないからフラれたのだ。 そしてしばらくは深い悲しみの中でじっと耐える日々を過ごしたのだった…
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道は閉ざされた

「はぁ!?『テルくんと何とかならないの?』って?!アンタ自分の時はどうだったんだよ!『離婚しないで』って泣いて頼んだアタシに『何ともならないんだよ…』って言ったんじゃねぇの?!テメェが何ともなんなかった事を娘には何とかしろって言ってんのかよっ!ふざけんなよ!テメェだって離婚する前から今の旦那と付き合ってたんだろーが!胃潰瘍とか言って行く度に酒飲んでんじゃん! テメェの娘がそんなに迷惑なら今後一切、いい事も悪い事も報告しないから覚えとけ!ふざけんなっ!」 一気にまくしたてて電話を切ってやった。 実母は何も言い返せず…というか言い返す間さえ与えなかった。 言いたい事を言ってスッキリしたが、これでシゲとの生活に対して父方の実家にも母方の実家にも頼れない事が決定的になったのだった…
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ある提案

そんな時、継母がある提案をしてきた。 「どうしてもシゲを手放せないと言うならママに助けてもらえば?部屋借りるお金位出してもらったってバチは当たらないでしょ」 と… 確かにそう言われれば実母に少し位頼ったっていいのでは… と思わなくも無い。 たまに会って子供服のお下がりをもらったりする位の付き合いは続いていたし… そして考えた結果、まるっきり頼るのでは無く私が水商売で部屋を借りるお金を稼ぐ数か月間だけ私とシゲを居候させてもらえないかと… 父方の実家では父も継母も仕事をしている為、シゲを連れて来てもシゲの世話は頼めない。 その点、実母はシゲと2歳違いの子を育てている専業主婦である。 経済的にも安定している。 シゲを連れて実家に帰れない以上、自分達の生活の場をまず確保しなければならない為、私は水商売をする覚悟を決め、その方向で親の離婚後はじめて実母に頼る為に電話を掛けてみる事にした…
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我が子の存在

独身の頃に戻ったかの様な生活。 給料をもらえる様になるとお洒落も出来た。 職場がアクセサリーショップという事もあり、多少は外見を気にした。 17歳で結婚し18歳で母親になった私は、自分自身のお洒落にお金をかけて来ていない。 それをする事により、少しでもシゲと会えない寂しさを紛らわそうとしていた。 そして、シゲの事を諦める様に言っている両親も私の寂しさを紛らわす為ならシュウと会う事を許す様になった。 その頃もシュウが大好きで… しかし… どんなに大好きなシュウと一緒にいても我が子であるシゲの事は忘れられないし諦める事も出来なかった。 みんなに 「堕ろせ」 と言われた中、必死で守り通した息子シゲ。 お洒落や恋愛で諦められるわけなど無いのだ。
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辛い日々

何も無い状態での里帰り。 継母や先輩であるユリちゃんに、いらない服をもらいなんとか間に合わせた。 そして実家でブラブラしているわけにもいかないので仕事を探し始めたのだった。 今回は、ただのケンカでは無いしシゲも置いて来ている。 仕事でもしなければシゲに会えない寂しさに押し潰されてしまうと思った。 今回は小さい子供を保育園に預けながらの仕事では無い為、1件目であっさり採用された。 横浜駅のデパート内のアクセサリーショップだった。 早くお金を稼ぎ、少しでも身の回りの物を揃える必要もあった。 しかし外に出てもシゲ位の子供にばかり目が行ってしまう… 【私の実母もこんな思いをしたのだろうか…娘と離れてこんなにも辛かったのだろうか…】 ふと思った。 そして風呂場で泣く日々が続くのであった。
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寂しさと罪悪感

実家に帰るのも手ぶらである。 持ち物は全てテルに捨てられた。 やはりテルとは無理だと話をすると両親は 「テルくんがシゲを育てるって言うならやっぱりアンタは諦めな…1人になって人生やり直すんだよ」 と言った。 【そんな事、本当に出来るんだろうか?シゲの事を諦める事なんて出来るのだろうか?】 そんな気持ちで別居生活は始まった。 シゲのいない空間は静かすぎた。 そしてお風呂に入っては毎日シゲを想い泣いていた。 それまで毎日シゲとお風呂に入っていたのだ。 テルがシゲをお風呂に入れたのは赤ちゃんの時に一回だけ。 そんな父親の元にシゲを置いてきた事への罪悪感にも苦しめられるのだった。 そして、寂しくて…寂しくて…
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涙の別居

私の様子がおかしい事に気が付いたテルの両親も現実に直面し言葉を失った。 私がシュウの元へ行ったのが余程悔しかったのだろう。 ただ、もうどうにもならなかった。 シュウを愛する気持ちもテルを憎む気持ちも変わらない。 テルの両親と無言でそれぞれが悩み苦しんでいる空間… そこへ遂にテルが帰って来た。 シゲもいっしょだ。 そして話し合い… 「やっぱりやり直せない。離婚してほしい」 と言うと 「ならオマエ1人で出て行け。シゲは絶対に連れて行かせない!」 その時になったらなんとテルの両親も 「そうだ!そうだ!」 と言い始めた。 そして私は1人で家を出た。 「とりあえずシゲのいない環境で1人で考えます。シゲが隣にいると冷静にじっくり考える事も難しいので…」 そう言って私は一人、泣きながら家を出た。 こうなると実家に帰るしか無く、シゲを生んでから初めてシゲのいない生活を送る事になった。 そしてたたただ泣きながら歩き続けたのである…
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ある重大な変化

家に帰る途中… 家の近くでなんとテルの両親に会ってしまった! テルから話は聞いたが(私の浮気について) その後、連絡が取れないから心配になりやって来たという… テルから逃げ出しシュウの所に泊まっての帰り道に一番会いたく無い人達だった。 それでも家にいっしょに行き、お茶位出さなければ… お湯を沸かしながら部屋を見回すと何か様子が変。 【なんだろぅ…】 お湯が沸く前に気が付いた。 その瞬間、血の気が引いた… 変化とは、その家から私の物が全て消えていたのだ! 必死に探したが何もなかった。 洋服…小物…下着…クルクルドライヤー…アルバム…小中の卒業アルバムまで… そして玄関の脇に1つだけあったゴミ袋を開けてみると、ビリビリに破られた私の写真とアドレス帳の破片が出てきた。 私はその時に身につけていた物以外の全ての物を失った。 テルの両親にお茶を出すのも忘れてただただ呆然とヤカンから出る湯気を眺めていた…
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ウジウジ悩む

逃げた先は実家では無くシュウの所だった。 実家の両親はテルに騙されているので私を助けてはくれないと思った。 久しぶりにシュウと抱き合い、久しぶりに幸せな気持ちになった。 現実から逃れてずっとこうしていたい… 私はテルとは無理だという事、離婚の際はシゲを手放せと親から言われている事などをシュウに話した。 そしてテルが危ない人間になりつつある事も… それでもシュウはテルの事を悪く言わない。 逆にウジウジ悩んでばかりの私が怒られた。 「オマエさぁ…どうしよう、どうしようばっかじゃん!自分がどうしたいかだろ!旦那や親や俺の意見にいちいち振り回されんなよ。強くなれよ」 と。 しかし、この時は、この言葉の本当の意味を理解する事は出来なかった。 そして次の日テルのいない時間に家に戻ると… 想像以上にスゴイ事になっていた。 私はますますウジウジ悩む事になるのである。
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優しさの仮面

自宅に戻ったものの監視が厳しくなってしまったのでシュウとは偶然会える様にシュウが働いている店の近くで買い物をしたりしていた。 そして電話でも連絡は取っていた。 やはりシュウが好きだった。 なのにテルと暮らすのはつらくて… テルは何とか私の気持ちを自分に向けようと必死で優しくして来たが、そんな表面上の優しさで3年間の恨みは消えるものでは無い。 手遅れなのだ。 そして私の気持ちが思い通りに自分に向かない事にイラつき、優しさの仮面はすぐに剥がれた。 毎日毎晩私を責め始めた。 寝かせてももらえず、ひたすら今後についての答えを求められ責められ続けた。 いよいよ肉体的にも精神的にも限界になり私はテルから逃げ出した。 うるさく喋りつづけるシゲもまた私の考える時間の邪魔をしており私は1人、キチガイに近いテルの手を振り切って家を飛び出したのだ…
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葛藤

テルは私の両親と急激に親密になって行った。 「浮気は許します。原因を作ったのは自分ですから…これからは心を入れ替えてやり直したいと思っています…」 この言葉に私の両親は完全に騙されてしまった。 浮気をしたダメな娘を広い心で許す… なんてありがたい… みたいな空気になってしまった。 こうなったら私とシュウは、ただのろくでなしである。 両親からの必死の説得地獄。 私がシゲを手放せない事をテルも私の両親も分かっていた。 その上での説得。 しかし私は、一旦嫌いになったら再び好きになるなんて無理な性格。 その代わり嫌いになるまでは、とことん我慢する。 テルに対しては愛情も憎しみも全部燃えつきてしまっていたのだ。 灰しか残っていない心で又やり直すなんて… 葛藤の日々が続いた。 それは、シゲを手放す事も離婚して育てて行く事も出来ないからであった。 そして年が明け、いつまでも保育園を休ませるわけにもいかないので仕方なく自宅に戻る事になった。 自宅に戻っても葛藤する毎日。 愛する息子… 愛するシュウ… そして二度と愛せないテル… 迷路に迷い込んだ様な日々がひたすら続くのであった。
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第三者を入れての話し合い

久しぶりに自宅に戻ってみると思い出すのはシュウとの事ばかり… テルとの楽しい思い出など何も無かった。 そんな家での話合い。 テルの親友の尾崎さんは、とにかくビックリしていた。 「マユ…どうしちゃったんだよぉ。テルの事は、どう思ってるのさ?」 「テルに対しての愛情はもう無いよ…テルだって私の事なんて大嫌いでしょ?」 逆に聞き返した私にテルは、意外な返事をした。 「嫌いじゃない」 【は!?ありえないっ!!】 「えっ!!そんなわけ無いよ!嫌いじゃなきゃ出来ない事を沢山したはずだよ。私はテルが少しでも私に対して愛情を見せてくれてたら他の人を好きになんてならなかったよ!でも嫌われ続けたんだしこれ以上は無理だよ…」 それでもテルは 「ずっと好きだった」 と言い張った。 そんなの今さら信じられるはずも無く私はシュウとの事は浮気では無く本気だとハッキリと伝えた。 結局、尾崎さんは何も言えなくなり肩を落として帰って行った。 テルが今までどれだけ家庭を粗末にして来たかを知っているだけに… そして自分もそんなテルと遊んだりしていただけに何も言えなくなってしまったのだ。 しかしテルの次なる弁護人はあろう事か私の両親だった。 尾崎さんと違いこれはとても強敵であった。
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恐ろしい言葉

継母に言われた恐ろしい事とは… 離婚するならシゲをテルの所に置いて来い。というものだった。 まだまだやり直しがきく歳。 なにも子連れで苦労しなくても…と。 実際、私がシゲを連れて離婚し実家に帰れる状況では無かった。 親は自分達の生活を守るのもやっと。 金銭的にも相当キツイ状態。 とは言えシゲを手放すなんて!! 「それが出来ないならテルくんとやってくしか無いよ」 と言われた。 何日か泣いて過ごした。 シュウには隙をみて公衆電話から電話をかけていた。 そんな時テルから呼び出された。 会社の友達に間に入ってもらって話がしたいと… 会社の友達とは私も知っている人で結婚前には、よくみんなで遊んだ。 テルにとっては親友だった。 そんな訳で私はいったん自宅へ帰る事になったのだった。
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責められる私…

実家では継母が嘆いていた… 「アンタ一体何してんの!?男とは別れてここで反省しなさい!」 しかし親も友達もみんな分かっていたはず… テルとは幸せな家庭など築けない事を… 私は親に本当の気持ちを打ち明けた。 ただの浮気なんかじゃなく真剣にシュウを愛している事を。 私の気持ちは多少は理解してくれたがシュウに対しては 『パチンコ屋の若造』 としか思ってもらえなかった。 継母にとってはパチンコ屋の若造=チンピラでしか無い。 その勝手な偏見が許せなかったが私が何を言っても説得力が無かった。 そして 「テルと離婚したい」 と言う私に継母は恐ろしい事を言ってきた。 なぜ私が求める理想の生活はこんなにも手に入らないのか… 幸せを手に入れる事とは何故こんなに難しいのか… 継母の言葉に泣き崩れる私がそこに居た。
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引き離される禁断の恋

シュウに電話をして状況を全部話した。 「実家になんか帰りたくない」 と泣く私にシュウは 「帰らなきゃダメだ。オマエの親が『帰って来なさい』って言ってるんだろ。オマエの事を心配してんだよ。しばらく会えないのなんて長い一生を考えたら一瞬みたいなもんだろ。今は親の言う通りにするんだ…オマエが1人で責められてツライ事になったら俺いつでも行っていっしょに頭下げるから!会えなくなるのは我慢しよう…」 と… 私は泣く泣く実家に帰る事にした。 そしてその夜テルは予想に反して機嫌良く帰って来た。 私の両親を初めて味方に付けた事でかなり気を良くしていた。 「オマエの親はいい人達だよなぁ」 と手の平をかえした意見。 今までは 「あんなオヤジに、とやかく言われたくない!」 など悪口ばかり言っていたのに… そんなテルを見ていて 【この人を好きになる事は二度と無い…】 と改めて思った。 テルの方は 【ただの浮気】 と軽く見ていたようだ。 そして翌日… シュウに会えなくなるつらさを胸に私はシゲを連れて実家へと帰ったのだった。
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旦那の作戦

渡さなかったシュウへの手紙とは… シュウが婚約していた彼女との別れ話でもめていて落ち込んでいた時に書いた物だった。 『元気出して。どんな事があっても私はシュウの事が大好きだよ…』 という内容。 テルにこれを読まれたとなるともぅごまかしようが無い。 【よしっ!バレたならバレたで仕方無い。テルとは別れよう!】 私はこれをテルと別れる良いキッカケだと思う事にした。 しかしテルは私が思っていた以上にしたたかな男だった。 私には無関心なギャンブルバカだとばかり思っていたのだが、そんなテルは私を責めるより前に私の両親を味方に付ける作戦に出た。 あんなに嫌っていた私の両親を… 正月すら顔を出したがらずにいた私の実家にテルはその日のうちに1人で出向き 「マユが浮気をしています」 とわざわざ報告したらしい。 すぐに継母から電話があり 「帰って来なさい!!」 と命令された。 次の日も私は仕事があり、それを告げたのだが、もともとパチンコ屋の仕事を認めていなかった継母は聞く耳を持たず 「そんな仕事は今すぐ辞めて明日には帰って来なさい!」 と大怒りであった。 実家になど帰りたくなかった。 シュウと会えなくなってしまう。 しかしそれがテルと私の両親の狙いだ。 ここに来て私は自分の 【テルにバレるわけが無い】 という勝手な思い込みを心底後悔した。 もっと気を付けていればこんな事にはならなかったはず… 気を付けるべき部分は沢山あったのだから… しかしいくら後悔してももぅ手遅れだった。
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不倫がバレた

クリスマスから何日か経ったある日… 夜テルとケンカになった。 この頃には会話も無くお互いに別の世界に生きている様だったが、ケンカだけは激しさを増していた。 また家からつまみ出される予感がしていたのでパジャマには着替えないでいた。 外のメーターボックスにもお金を多少隠してあり、その時に備えていた。 そして予感は的中。 暮れの寒空に私は上着も財布も置いたまま力ずくで外に出された。 しかし今までの様にテルがドアを開けてくれるのを待つ事は無く、私は初めてシュウの部屋に泊まった。 翌朝テルが会社に行く前に戻らなければシゲが1人になってしまうので朝早くに家に戻ると鍵は開いていたがテルは居なかった。 そして私の荷物をあさった形跡… テーブルの上には私が以前シュウに書いたが渡さなかった手紙と、財布に入れていたシュウの写真が置いてあった。 あれほど私に無関心だったテルが私のカバンをあさり手帳の中や財布の中を調べたのだ。 とても信じられなかった。 遂に私とシュウの事がテルにバレた。 そして夫婦間の悪者がテルから私へと立場が逆転してしまっ
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禁断のクリスマス

冷えきった家庭にクリスマスなどあるはずも無く私は、当然の様にクリスマスはシュウと約束をしていた。 プレゼントを何時間もかけて選びその日はシゲのお迎えの前に待ち合わせした。 そしてプレゼントを渡した。 シュウからもプレゼントをもらった。 しかし… 【!?】 お互いに渡したプレゼントの箱がまるで同じ… 同じ包装紙に包まれた同じ大きさの箱… 開けてみると… ( ̄□ ̄;)!! デザインこそ違うが同じブランドのライターだった。 お互いに同じ物をプレゼントしていた。 「ありがとう」 と言いながら2人で笑ってしまった。 それからシゲを迎えに行って何年かぶりに幸せなクリスマスを過ごした。 しかしそんな幸せは長く続くはずは無かった。 家に帰れば現実に引き戻される。 そしてその現実に私とシュウは引き離される事になるのだった…
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恐ろしい生活

シュウと会うと、ついついテルの愚痴ばかり言ってしまう。 そんな時シュウは1度もテルを悪く言った事は無かった。 そして 「離婚したいよ」 と嘆く私に 「今は我慢の時だよ。物事には順番があるんだ。階段を抜かして上がってもいつか絶対そのツケは回ってくんだよ。ちゃんと俺がオマエを幸せにしてやるから今は我慢して待ってろ」 とシュウは言った。 そんなシュウをどんどん好きになって… そしてある日シュウと会っている時にシゲの具合が悪くなってしまいデートを中断して家に帰る事にした。 シュウは心配して家まで送ってくれたのだがシゲは吐き続けた。 結局そんなシゲの面倒をシュウは夜中にシゲが寝付くまでしてくれた。 そしてその日からシュウはテルが居ない日は泊まったりする様になった。 テルがいつも 「俺の家だ!!」 と威張り散らしているその家へ… 今思えばスゴイと思う。 恐ろしく恐いもの知らずで常識外れな行為だ。 しかし家にほとんど寄り付かないテルを近所の人達もほとんど知らず、そのうち周りの人達は私とシュウが夫婦なのだと思い普通に挨拶されたりパチンコ屋のお客さんにも 「旦那が迎えに来たよ」 などと言われる様になっていた。 【みんなが思ってる様に本当に夫婦だったらどんなに幸せか…】 そんな風に思いながらシュウとテルと二重生活みたいな日々を送っていたのだった。 そしてやって来たクリスマス…
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愛する男と憎い男

シュウと付き合い始めた私と、何も知らずに私をゴミの様に扱うテル。 この頃のテルは、ケンカになると暴力をふるう様になっていた。 夜中にパジャマのまま家の外に無理矢理出される。 「ここは俺の家だ!出ていけ!」 と… では、私の家は一体どこにあるというのか。 テルの親が借りてくれた家がテルの家だと言うのならその中の家財道具はほとんど私の両親やその友人が買ってくれた物… 空っぽな家で 「俺の家だ!」 と威張っていればいい。 しかし実際力では勝てるわけも無く… 寒い中パジャマ姿で立ち尽くしているのだ。 たとえ家の中に居たとしても寒い事には変わりはないが… テルの事が心底憎かった。 なぜ心から愛する男がいながら心から憎い男と暮らさなければならないのか… 自分が選び歩んできた人生だが、やるせない気持ちでいいっぱいだった。
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彼女の視線

シュウに彼女がいると聞かされてからは、しばらくシュウの店には行かなかった。 なにしろシュウの彼女はシュウと同じパチンコ屋で働いているというのだから… でも色々考えた結果、やっぱりシュウの事が好きだった。 そして一週間位経ち、恐る恐るシュウのいる店に行ってみた。 店は凄い混んでいて私は沢山のお客に紛れてひっそりとパチンコを打っていた。 【どれがシュウの彼女だろう…】 するとシュウがやって来て私の手に何やら紙キレを渡して去っていった。 開いてみると 『この前は色々と話を聞いてくれてありがとう。お礼にメシおごらせて。】 と書いてあった。 そしてシュウが住んでいる寮の電話番号が書いてあった。 【わ~い!シュウから食事に誘われた~】 また何もかも忘れ浮かれモードに戻ってしまった。 そして帰り際… 視線を感じる… ふと見ると数人の従業員! しかも女!! 真ん中にいるのがシュウの彼女だと直感で分かった。 なんとも言えない表情でその子は私を見つめていた… 私の存在を知っている… シュウは彼女に何を話したのだろうか…
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人を好きになれた事が嬉しい

その日もニコニコしながら仕事をしていた。 すると店内にシュウが!! こちらに向かって歩いて来る。 「本当にここで働いてたんだ(笑)」 またまたニッコリ素敵スマイルを私の脳裏に焼き付けシュウは自分の店へと出勤して行った。 私は家に帰ってからも先輩であり友達のオカちゃんやユリちゃんに電話をしては自分が恋をしている話を喋りまくった。 テルから気持ちが解放された様で本当に嬉しかった。 しかし… いくらお互いに気持ちが離れていても私は所詮は人妻… いつまでも浮かれてはいられないのだが、この時はまだそこまで考えていなかった。 ただ自分がシュウを大好きになれた事が嬉しくて… もぅ何年もテルとの憎しみの中で生活して来た私には愛情は新鮮すぎて周りが何も見えなくなってしまったのだ。
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パチ屋の恋の始まり

「旦那とは打ちに来ないの?」 と聞くシュウに 「うん。仲悪いからね」 と笑って答えた。 そして次の日は店でファン感謝デーのクジ引きがあるからと誘われたのだった。 「これ以上負けられないし」 と言う私にシュウは 「クジだけ引いて帰ればいいよ(笑)」 とクジ引きの時間を教えてくれた。 次の日… 結局はクジだけに留まらず、懲りずに又打ったが今度は勝てた。 クジでも5000円相当の工具セットを当てて 【やっぱり来て良かった】 とつくづく思った。 何よりシュウと仲良くなれた事が嬉しかった。 自分も近くのパチンコ屋で働いている事を告げるとシュウは 「え!マジで?辞めてここで働けばいいじゃん!」 と言ってくれた。 ま、人の紹介だからそれは無理な話なのだが… 私は自分の仕事中シュウの事ばかり考える様になりいつもニコニコしていた。 私に意地悪を仕掛けてくる従業員のおばさんが居たのだが、どんな嫌がらせをされてもニコニコ… シュウに出会ってすっかりフヌケになってしまったのだった。
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何も報告し合わない夫婦

結局、妻である私に一言も無いままテルは会社を辞めた… そして 【私も今後テルには何も報告しないよ…】 と思っていた頃、報告しないチャンスが訪れた。 やっと仕事が見つかったのだ。 シゲの保育園のお友達のお母さんが行きつけのパチンコ屋に頼んでくれた。 本当にやっとだった。 私は仕事が決まった事だけをテルに知らせたが場所などは言わなかった。 そしてテルも聞いてこない。 改めて自分の存在を疑問に思ったが、テルにとっては、自分を無理矢理父親にさせた憎い女だったのかも知れない。 【私の事大嫌いなんだろな…】 いつもそう思っていた。 嫌いじゃなきゃ出来ない事をあまりにもされて来たから。 そんな中、テルは会社を辞め、深田さんという人の元で… 私はパチンコ屋の店員として働き始めた。 私21歳。 シゲ3歳の夏の事である…
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離婚を考えるが…

これまでに何回か離婚を考えた事もあった。 ラチがあかず実家に帰った事もある。 テルとは話し合いで解決するのは無理だから… 自分が遊ぶ事以外には興味が無いのだから… 自分の息子より自分自身の方が可愛いのだから… しかし私の判断でシゲから父親を奪ってしまっていいものか。たとえ名ばかりの父親でも… しかし以前里帰りした時に1度は離婚を決心しシゲを連れてキャバクラの面接に行った事がある。 近くに24時間の保育所があった。 早くお金を作り自立して親に頼らずにシゲを育てて行ける様にと思ったのだが父に 「この家から水商売に通う事は絶対に許さんっ!」 と言われてしまった。 その頃は、まだ昼間の保育園にも入園出来て無かったので諦めるしか無かった。 そしてテルの元に戻ったが夫婦としてやって行ける状態では無かった。 一人で子供を育てて行く為の準備金を貯める事も許されず、ただ生活能力が無いという理由だけでテルと暮らす様になっていたのだ…
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私は透明人間??

確かに 「会社を辞めて独立した人の所で働きたい」 みたいな事は言っていた。 しかし!妻に一言も無く会社を辞めるなんて! そしてそんな事をこの場で話せば平井さん夫妻を間違いなく主旨の違う話に巻き込む事になるだろう。 仕方なく私は何も聞かされて無い事実をその場だけ封印する事にした。 「あなたはどぅ考えているの?」 いよいよ話が私へと振られた。 【どぅもこぅも無いよ!今すぐ離婚したいわ!】 と思いながらも 「実際に働くのはテルですから…私はテルの決断に従うまでです…」 などと心にも無い事を言った。 しかしそんな中でも 【もしかしたら話しづらかったのかなぁ…きっと平井さん一家が帰ってから『実は…』って話してくるかも…】 なんて考える自分もいた。 そして遂に平井さん一家帰宅… 「車まで送ってくるね」 テルの態度は明らかに普段と違って明るく感じが良かった。 【テルの奴…二人になったら何て言ってくるんだ?】 ソワソワ待っていると… テルは家に入ると私の前を黙って素通りして寝室へと入りそのまま寝てしまった。 一言も話さずに… この瞬間に過去の優しかったテルの思い出が私の心から全て消えたのだった…
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旦那が会社を辞める??

その日もテルの帰りは遅く、私とシゲはご飯もお風呂も済ませていた。 10時すぎにテル帰宅。 「ただいまぁ。今日は平井さんに送ってもらったんだ。お茶の用意して。」 【はぁ?いきなり何?】 平井さんというのは会社の取引先の人だ。 私も事務所で会った事は何回もあったが直接話した事は無かった。 そんな間柄の平井さんだがパジャマ姿でうろたえる私をよそに 「おじゃましま~す」 とズカズカ上がり込んできた。 しかも奥さんと2人の小学生の息子という私には全くもって関係の無いファミリー全員集合で! とりあえずテルを送ってもらったお礼を言い、慌ててお茶を出したのだが何やら話がおかしい… 「社長も社長だよなぁ~辞めるって言われて引き止めもしないなんて!」 …と平井さん。 黙って聞いていると会社に 「今月いっぱいで辞めさせて下さい」 と言ったのはテルの様だ。 【は?何事?】 チンプンカンプンな私。 「でも、いずれは独立考えてるなら奥さんの協力無しでは無理だよ~。ちゃんとに話し合ったの?」 と平井さんの奥さん。 【は?初耳だが…】ところがこの質問にテルは 「はい。話し合いました」 と答えた。 私は心底ギョッとしたが動揺を隠す為にうつむいて話を聞いていたのだった…
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夫婦に対する認識

ある夏の日… 公園で仲良くなったお友達に海へ誘われた。 シゲを海に連れて行ってあげたくて喜んでお誘いにのったのだが、行きの車の中でさっそくある事にビックリしてしまった。 お友達夫婦が仲良く会話をしている。 ただそれだけの事にビックリしてしまったのだ。 【結婚してもこんな仲良しな夫婦っているんだぁ…】 ほとんど家族で出掛ける事も無く、たまに行ったとしても必ずケンカして別々に帰ってくるような私達夫婦からは想像も出来ない。 仲良く車の中で笑い合っているなんて… 夫婦なんてつまらないものだと思い込んでいた。 お互い愛し合っているのなんて恋人の時だけだって… だから、すごくショックで… 海に行っても楽しいどころか淋しい気持ちでいっぱいになった。 【こういう所は家族で来る所だよね…よその家族にくっついて来るなんて違うよね…】 としみじみ感じてしまった。 しかしその後そんな事をしみじみ感じている場合では無いような大事件が起こる… 改めて妻の立場を無視される大事件が… 家族で海なんて夢は所詮叶わぬ夢。 車の中で笑い合うなんてやっぱりありえない事なのだった…
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【夫婦崩壊】"修復可能 or 不可能" あなたのケースはどっち!?

「夫婦崩壊」を引き起こす原因日常生活の中でもとりわけ悩みのタネとなる人間関係ですが、その最たるものともいえる「夫婦関係」。元は他人同士の男女が家族を築くのですから、そこにさまざまな障害が生じるのは不思議なことではありません。とはいえ、結婚してからというもの、その夫婦関係の悪化に悩む人は後を絶ちません。中には”夫婦崩壊”といえるほど、その関係が壊れてしまった夫婦も珍しくないのです。そこで今回は、壊れてしまった夫婦関係にお悩みの方のために、『あなたの夫婦関係は”修復可能か不可能か』これを判断するヒントをお伝えします。ぜひとも自身のケースと照らし合わせながらご覧ください。【参考】夫婦関係の修復が困難なケースそれでは、“夫婦関係の修復が可能かどうか”判断するための材料となるケースをご紹介します。これからお伝えする項目にひとつでも該当すれば、その修復は困難を極めます。※決して無理だと断言するのではなく、自分一人での「夫婦関係修復」は時間やストレスなどを考慮すると難しいということです。まずは各項目を確認していきましょう。DV(家庭内暴力)やモラハラ(精神的暴力)がある夫婦関係の修復において、最も困難を極めるケースです。なぜなら、DVやモラハラはその改善が非常に難しいからです。DVは「ドメスティック・バイオレンス」の略称で、この日本語訳として「家庭内暴力」という言葉が一般的ですが、これは『夫婦間暴力』と呼ぶこともできます。DVを行う人の代表的な特徴といえるのは以下のとおりです。暴力を振るった後に・・・異様に優しくしてくる泣いて詫びる“二度としない”と許しを請う・・・しかしまた暴力を振るう“こ
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遂に家を出た

家出計画実行の日。 朝いつも通りテルは仕事へと出掛けて行った。 そしてドアが閉まった瞬間に荷造りを始めた。 テルに家出を悟られない為に一切準備はしていなかったのだ。 どちらにしても私の服や持ち物のほとんどはテルに捨てられてしまったので荷物は少ない。 とりあえずビデオデッキと炊飯器、電話機、コンポは持って行く事にした。 そして問題はお金… テルの名前のカード類は置いて行った。 でも現金はどうしても必要だ。 悩んだ末にテルが両親に返さずにパチンコに使いはじめていたお金を持って出た。 そして置き手紙に一言「さようなら」 と書き残し私は家を出た。そしてその日は皮肉にもテルの誕生日だった…
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出した結論

さすがに悩んだ… 私は水商売の面接に行ったのであって、風俗の面接に行ったわけでは無いのだ。 しかし子供を1人で育てて行くには、学歴も知識も経験も何も無かった。 あるのは若さゆえのガッツだけだった。 そして普段の生活を振り返る事で決心がついた。 毎晩好きでもないテルに体を求められていた… ただ無表情でされるがままな私… 同じ様な事ならお金を貰えた方がいい… テルは私にとってはもぅ風俗店に足を運ぶオジサンと同じだった。 そして私は風俗店へと連れて行かれた。
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動き始める

金銭感覚の違いや一般常識に対する感覚の違いは、結局埋める事は出来なかった。 ある程度の妥協が出来るほど大人では無かったし、それを補うだけの愛情も無かった。 心の奥ではシュウを想っていたのだから… シュウを想うからこそテルと幸せにならなければと考えていた位である。 しかしそれもとうとう終わりが近付いていた。 私は今度こそ完全にテルと別れる事を決心し、密かに準備を始めた。 シゲを連れて出る以上、今回は実家に帰るわけにはいかない。 まずは仕事を探し始めた…
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人は変わらない

やっぱりテルは変わっていなかった。 人間そんなに簡単には変わらないものなんだ… とつくづく思った。 2階にやって来たテルは何やら白々しい言い訳を始めたが私の耳には入って来なかった。「私が何言ったってアンタは変わらないし、そんなアンタにアンタの親は借金したってお金を渡すんだろうよ。だからもぅ好きにすりゃあいいじゃん」 とだけ言ってやった。 そしてその通りにテルの親はテルにお金を渡し、テルはそのお金を深田さんに貸した。 それでもその後の事をきちんとしてくれていたら… そうしたらその先の展開も違うものになっていたかも知れない…
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金銭感覚が致命的

散々お金の事で嘘を付き、私を傷つけてきたテルが又もお金の事で変な話をもって来た。 自分の生活も危ない中、どうして他人にお金を貸したがるのか。 そしてキレた私は、そんなテルに黙っていられず文句を言った。 「はぁ??何アンタ威張ってんの?アンタが貸したいお金ならアンタが自分でなんとかしなよ!なんとも出来ないから人に頼んでるなら頼んでるなりの態度があんだよっ!なんで頼まれてる人間が怒鳴られなきゃなんないんだよ!ちょっと考えろ!」 私はテルをテルの両親の前で怒鳴りつけ、言いたい事だけ言って2階へとドカドカと上がって行った。
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どちらか

シュウとの関係は相変わらず続いていて、大好きな気持ちも変わらないでいた。 しかしシュウは少しづつ変わっていた… パチンコ屋で働きながらゴト師(今でもそぅ呼ぶのかな…?!)と組んで配線を細工したりして裏金をかなり稼いでいた。 ヤバイ男の匂いをプンプンさせていたのだった。 シュウへの気持ちが変わらない様にシゲが恋しい気持ちも変わらなくて… テルとやり直すか、シゲを諦めるかどっちかだ。という究極の選択に頭を抱える日々がまだ続くのだった…
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我が子の幸せを考える

しかし自分の気持ちだけを考えるわけにもいかなかった。 肝心なのはシゲの幸せだ。 ただ母親が手放したくないという理由だけで簡単に引き取ってしまって良いのだろうか… そこが悩みどころだった。 テルと違い、私は親に頼る事は一切出来ないのだ。 学歴があるわけでも無く、手に職があるわけでもなく、お金持ちの親がいるわけでも無いのだ。 こんな母親に育てられる事が本当にシゲにとって幸せなのか… 寂しさの中、毎日毎日悩み続けていた。 だいたいどうやって生活して行くというのか…
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出会い

パチンコ屋での仕事は立ち仕事なので慣れるまでは足がつらかったが慣れてしまえばそれなりに楽しかった。 しかし見ていると自分もやりたくなってしまい、帰りにシゲを連れてパチンコ屋で遊ぶ様になってしまった。 当時は子連れでもパチンコ屋に入れたのだ。 テルは深田さんの所で斎場の管理を任されており、一日おきに斎場に泊まっていた。 ますます母子家庭化した中で私も自分の給料をもらえる様になり、シゲを連れてのパチンコ屋通いを楽しんでいた。 そして、出会ってしまった… 私の人生観を変える男と… 3年間の闇の中に一筋の光を見つけた。 そんな感じだった。 禁断の大恋愛の始まりである。
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