【掌編】いつか来るその日が、せめて遠くでありますように
キッチンで洗い物をしている妻と、その足許にまとわりついている娘。 とても愛らしい絵だし、見ていて和むことは否定できないが、どうしてそこにお父さんも混ぜてくれないのか。
自分から近寄ればいいとわかっていながらも、なけなしのプライドがそれを許さない。
キッチンの入り口まではなんとか来ることができたが、この先はどうしたものか。
むぅ、と拗ねたままふたりを見ていると、俺の視線があまりにも羨望交じりだったのだろうか、妻が俺を見て溜息を吐いた。
「お父さんが寂しがってるみたいだから、構ってあげなさい」
妻の言葉に、我が家の天使様が、こてん、と首を傾げる。
「お父さん?」
妻の足にしがみついたままこちらを不思議そうに見る娘は、もう疑う隙もないくらいに天使だ。
パチパチと瞬きを何度か繰り返してから、その幼げな顔が輝かんばかりの笑顔で彩られる。
「お父さんっ!」
パタパタと覚束ない、それでも随分しっかりしてきた足取りで駆け寄ってくる天使の背中に純白の羽があるのは、きっと見間違いではないはずだ。 あまりの可愛さに崩れ落ちて床に膝をついてしまったが、この状況でそれは大正解だったらしい。
「お父さん、つかまえたっ!」
そう言いながら抱き着いてきた愛娘のキラキラした笑顔に、胸の奥がキュンとする。
呆れた顔の妻は、一旦無視しておこう。
今の幸せを噛み締めるのが、現時点で一番重要なことである。
「ぎゅー!」
わざわざ擬音を発しながら抱き着いてくる愛娘を、しっかりと抱き返した。
どうしよう。
天使以外の言葉が、見つからない。
「なぁ、妻よ」
呼びかけたのに、返事がない。
どうし
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