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【掌編】いつか来るその日が、せめて遠くでありますように

 キッチンで洗い物をしている妻と、その足許にまとわりついている娘。 とても愛らしい絵だし、見ていて和むことは否定できないが、どうしてそこにお父さんも混ぜてくれないのか。  自分から近寄ればいいとわかっていながらも、なけなしのプライドがそれを許さない。  キッチンの入り口まではなんとか来ることができたが、この先はどうしたものか。  むぅ、と拗ねたままふたりを見ていると、俺の視線があまりにも羨望交じりだったのだろうか、妻が俺を見て溜息を吐いた。 「お父さんが寂しがってるみたいだから、構ってあげなさい」  妻の言葉に、我が家の天使様が、こてん、と首を傾げる。 「お父さん?」  妻の足にしがみついたままこちらを不思議そうに見る娘は、もう疑う隙もないくらいに天使だ。  パチパチと瞬きを何度か繰り返してから、その幼げな顔が輝かんばかりの笑顔で彩られる。 「お父さんっ!」  パタパタと覚束ない、それでも随分しっかりしてきた足取りで駆け寄ってくる天使の背中に純白の羽があるのは、きっと見間違いではないはずだ。 あまりの可愛さに崩れ落ちて床に膝をついてしまったが、この状況でそれは大正解だったらしい。 「お父さん、つかまえたっ!」  そう言いながら抱き着いてきた愛娘のキラキラした笑顔に、胸の奥がキュンとする。  呆れた顔の妻は、一旦無視しておこう。  今の幸せを噛み締めるのが、現時点で一番重要なことである。 「ぎゅー!」  わざわざ擬音を発しながら抱き着いてくる愛娘を、しっかりと抱き返した。  どうしよう。  天使以外の言葉が、見つからない。 「なぁ、妻よ」  呼びかけたのに、返事がない。  どうし
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【超ショートショート】「飲食風俗店」など

「飲食風俗店」 デリヘルを呼んだら、 くたびれた様子の黒服が先に来て、 「お通しです。」 とAVを置いていった。 (居酒屋かよ。) そう思いながらも、 女の子を待つ間、暇なので観賞。 すると思いがけず内容が良く、 それで済ませてしまった。 基本的に一回戦が限度の俺。 結局、女の子とは楽しめず……。 (何がお通しだ。 妙なシステムを導入しやがって。) 憂さを晴らそうと、 後日ソープランドへ。 するとパリッとした黒服が、 「前菜です。」 とまたAVを出した。 嫌な予感。 いつ女の子が来るのか尋ねると、 スープとして出されるエロ漫画の後の、 魚料理として出される使用済みパンティの後の、 口直しのシャーベットとして出される官能小説の後に、 肉料理として出されるらしい。 ちなみにその後は、 デザートとしてエロアニメが、 最後に食後のコーヒーとしてグラビア雑誌が出されるんだと。 「面倒臭ぇよ!!」 俺は吐き捨てて、 (今度こそ……!) と、その足でピンサロへ。 到着するなり、 おばさんの黒服に、 「女の子はすぐ来るよな?」 と尋ねる。 頷くおばさん黒服。 (本当だろうな?) いぶかしみながらも個室で待つ。 すると少しして、 ちゃんと女の子は来た。 顔は可愛く、 スタイル抜群。 おまけにテクニシャンだった。 ストレスと共に、 全てを吐き出した俺は、 ぼんやりと天井を眺めた。 そんな時、 おばさん黒服の声。 「はい、じゃんじゃん。」 同時に別の女の子が入って来る。 廊下には、 何10人もの女の子が立っていた。 (しまった、わんこそばか。) 気付くのと同時に、 ドアが閉じられた。 「青ちゃん」「
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サンプル作品『動物園』全文

 今にも雪のちらつきそうな休日、俺と宇井は近くの動物園に来ていた。今朝のニュースではお天気お姉さんが、 「今日は午後から雪が降るでしょう!」 と良い笑顔で言っていた。だから動物園の園内も人はまばらだった。当然だ。真冬のこんな寒い日に、動物園に来るような馬鹿がいるか? 「常々、動物園は冬に行くものだと思うの」  ここにいた。 「何で?」 「だって、夏はニオイが凄いじゃない」 「いや、春か秋か、もっと季節の良い時でも」 「ダメです」 「冬は寒いし」 「ダメです」 「動物たちだってさぁ」  寒すぎて、さっきから外に出てこないのだが。こんな寒空の下、外に出ている動物なんて温泉に浸かっているカピバラか、飼育員さんぐらいしかいない。俺はからっぽの檻を見に来たわけじゃない。しかし幸いなことに、この動物園は建物内からも動物たちの様子が見られるようになっていた。中からならよく見られるだろう。 それから、あっちへこっちへ、宇井の気の向くままに引っ張りまわされた。 「浅木! 見て見て、あの猿! 鼻長い! 天狗だ!」 「ホワイトタイガー! 本当に真っ白なんだ! ガオー!」 「ヒクイドリ? 火食べるの?」 「アイアイって、何か顔怖いよねぇ。ゲームのダンジョンかどこかのモンスターっぽい」  楽しそうで何よりだけど一つ思うのは、 「何でちょっとマイナーな動物ばっかり見てるの?」 「え、まさか、浅木って王道のライオンとかゾウとかキリンとか、そういうのが見たい感じの人? うわぁ、引くわぁ……」 「別に嫌いではないけど、そんなこと一言も言ってないだろ」  わざとらしくしかめ面して見せる宇井。それがちょっと腹立たし
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【ショートショート】「ハズレの同居人」

ゲージのガラスを指で小突くと、 中にいるカメレオンが目を覚ました。 寝そべっていた枝から、 右前足と左後ろ足、 左前足と右前足を交互に離し、 伸びをしている。 その様子が可愛らしくて、 思わず笑ってしまう。 あまりにも可愛いものを見ると笑ってしまうことを、 私は2年前に「カメちゃん」を飼い始めてから知った。 すっかり起きたカメちゃんは、 左右の目を別々の方向に動かしながら、 口をパクパクとさせている。 私はその様子を眺めながら、 ゲージの置いてある机の引き出しを開け、 2枚の色のある下敷きを取り出す。 赤、青、それらを合わせた紫。 1色ずつカメちゃんの前に掲げる。 緑色の体表は、それぞれの色に従って変わる。 なんて健気なんだろう。 また可笑しさが込み上げてくる。 私はその遊びを繰り返しながら、 (カメちゃんが巨大になって、 会社をぶっ潰してくれればいいのに。) なんて妄想に耽っていると、 不意に背後のドアがノックされた。 コンコンコン、コンコンコン、コンコンコン、コンコンコン…… 無視しているのに、3回も4回も。 きっとあいつだろう。 面倒だが、付き合いというものがあるから仕方ない。 溜息を吐き、ドアを開ける。 すると案の定、 そこには「ハズレ」の方の同居人がいた。 「何?」尋ねると、 そいつはモジモジとし、 長い前髪の隙間からニキビだらけの肌を覗かせながら、 「今忙しい?」とこちらの機嫌を伺う。 「用事によるかな。」 私がそう言うと、 ただでさえイライラしているのに、 躊躇いがちに何かの紙を渡してくる。 受け取って見ると、 習い事でやっているとかいう、 アコースティックギター
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【掌編】私じゃあなたを癒せない

 心配で心配でたまらないの。  わかる?  あなたが泣いているからよ。  生まれた時からずっとずっと、傍で見守ってきたのよ。  そんなあなたが泣いているのに、心配でないわけがありますか。  あなたはクッションを抱きしめて鼻を鳴らすばかり。  どうして泣いているのかっていう理由すらも、私にはわからないの。  あぁ、もう。  あなたのお気に入りのクッションじゃないの。  安心するのはわかるけれど、鼻水なんてつけてみなさい。  あとで後悔するのは、あなたなのよ?  ほら、あなたが泣いている理由を教えてごらんなさい。  学校でなにかあったの?  お友達と喧嘩したのかしら?  まさか、いじめられたなんてことないでしょうね?  もしそうなら、私が噛みついて、引っ掻いてやるわ。  そう伝えてあげたいのに、私の口から出るのは、にゃあにゃあ、なんて甘えた声だけ。  あぁ、口惜しい。  こんなにもあなたのことを心配しているというのに。  こんなにもあなたのことをを愛しているというのに。  それが伝わらないということが、ただひたすらに口惜しかった。  私の可愛い可愛い子。  ずっと妹のように……今となっては娘のように思っている、大切な子。  可愛い可愛いあなたが泣いているというのに、なにもできないなんて。  そんな残酷なことがあるかしら。  あぁ、あぁ、口惜しい。  ねぇ、お願い。  独り言で構わないの。  私に伝えようなんて考えなくてもいいの。  だからね、どうか。  あなたが泣いている理由を教えてちょうだい。  恨み言でも言うように、ひとりで呟いてくれればいいのよ。  私はそれを聞いて、勝手に心
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【ショートショート】「夢精と切れ痔(後編)」

「何これ?」 煌々とした白い照明の中で、自分の精液と血の付いたパンツを広げられ、比嘉冷射士は肌を粟立てた。そして反射的に奪い取ろうとしたが、相手は闘牛士のようにパンツをはためかせながら躱した。 「君、溜まってんの?」 ルームシェアしている同居人が、鼻で笑いながら比嘉冷射士のベッドに腰かける。 比嘉冷射士は必死に激情を抑えながら、同居人がいきなり開けて入って来たドアを閉じ、相手に関する情報を整理した。 ――こいつは先週の木曜日に入居している。名前は加藤だったか、川藤だったか……とにかく、シングルマザーであることは確実だ。挨拶に来た際にそう言っていたし、傍らには4、5歳の子供がいた。 「そんな怖い顔してないで、お喋りしようよ。」 同居人が口を尖らせながらベッドの脇を叩く。比嘉冷射士は誘いに乗らず、相手を観察する。 ――化粧っ気のない顔。剃ってある眉毛のせいで、人相が悪い。根元が黒くなっている茶髪のポニーテールに、上下灰色のスウェット。そのポケットからアイコスを取り出し、断りもせずに人の部屋で吸っている。そして立ち上がってこっちに……。 比嘉冷射士は思索を中断し、接近する相手に身構えながら後ずさりした。同居人は不敵な笑みを浮かべたまま、比嘉冷射士を壁際に追い込み、壁に手をつけて鼻息が当たる距離まで顔を近付けた。 唇の前に垂れている前髪が発声に合わせて揺れる。 「そうゆう風に構えて生きるのって、しんどくない?」 不意に本音を代弁された気がして、比嘉冷射士は息が止まりそうになった。そして相手の胸を押しながら、 「プライバシーの侵害ですよ。」 と言うと、同居人はアイコスの水蒸気を吐きながら
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【超ショートショート】「甘露(利権)」など

「甘露(利権)」 探検隊(マスコミ)は、 鬱蒼と茂る植物たち(芸能事務所や芸能人)を掻き分けて 森(芸能界)の最深部に足を踏み入れた。 途端に、暗幕の内側に入ったかのように辺りが闇に包まれた。 それまで障害物を掻き分けるために 休みなく動かしていた両手が、空を切る。 ヘルメットのライトを点けても、 広がりながら薄くなる円状の光の中には何も現れない。 唯一、頭上に向けた時だけ、 青々とした葉が密集しているのが映る。 少しして、探検隊(マスコミ)は 自分たちが巨大で厚い林冠の下にいることに気が付いた。 林冠が日光を遮り(市場の一部を独占し)、 他の植物たち(芸能事務所や芸能人)が育つのを妨げているのだ。 そして、探検隊(マスコミ)はある仮説を立てた。 ――ひょっとして、 「森の最深部をたった1本の木(ジャニー喜多川)が独占している」 のではないか? 探検隊(マスコミ)は真相を知るために足を速めた。 しばらくすると、ライトの光が壁のような幹を照らした。 手前に、いくつもの果物(ジャニーズアイドル)が垂れ下がっている。 それらは皺ができるほど縮んだり(性加害を受ける)、 皮が張り裂けそうなほど膨らんだり(富と名誉を受け取る)を繰り返している。 ――この木(ジャニー喜多川)は、 果物(ジャニーズアイドル)に栄養を与えるだけではないのか? この仮説は、先に立てたものと同様に正しかった。 しかし、探検隊(マスコミ)がそれ以上踏み込むことはなかった。 その後、探検隊(マスコミ)が持ち帰ったものは情報ではなく、 果物(ジャニーズアイドル)から溢れ出た甘露(利権)だった。 踵を返した探検隊(マスコ
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【詩】【ショートショート】「人間鳥コンテスト」

入道雲に向かって 両翼をピンと伸ばした人力飛行機が飛んでゆく 「まだ、いける」 操縦士の耳には もう随分離れているのに いや、むしろ遠くに行くほど 仲間たちと他の出場者たちの声が届いている 「まだ、いける」 視界が汗に食い荒らされても 喉から笛音のような音が鳴って血の味がしても それでも操縦士は 「まだ、いける」 そう繰り返し 限界を超えた足を騙し続けるのだ これで何度目だろう また機体が海面すれすれで持ち上がる そう 「まだ、いける」 人間達が鳥人間コンテストで盛り上がっている頃、とある小さな島では、鳥達による「人間鳥コンテスト」が行われていた。人間鳥コンテストは鳥人間コンテストとは真逆だ。 鳥人間コンテストは人力飛行機に乗った人間によるレースゲームだが、人間鳥コンテストは、人間を模した駒を使うボードゲームだ。 「ボードゲーム」といっても、ボードではなく地球儀を使う。駒の底には磁石が仕込まれており、逆さまになっても地球儀に張り付くことができる。 また、駒はシャチハタになっており、参加者達は駒を移動させることで自分の駒のマークを地球儀に記すことができる。 人間鳥コンテストでは、このマークが最終的に最も多かった者が優勝できるのだ。 ここからはルールの説明に入るが、これが酷い。「ルール」と呼ぶにしては余りにも煩雑だ。 ルール①:1人が使える駒は1つまで ルール②:駒は80歩したところで使えなくなる(80歩を超えた参加者は、速やかに駒を回収して大人しく結果を待つように) ルール③:集計をする際に有効とされるマークは、明らかにそれと認められるものでなければならない(上から他のマークに塗
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【ショートショート】「結婚」

エレベーターのドアが開くと、俺は眼前の光景に息を呑んだ。言葉も出ないまま、一歩外に踏み出す。ウェディングドレスを着た彼女の美しさは、この世のものとは思えなかった。影が全くない。きっとあらゆる方向から当てられている照明の光のおかげなのだろう。しかし自ら発光して影を跳ね除けているかのように見える。手前にある梯子は膨大な光量によって支柱や段が細く見える。なんだか梯子が輝く空間にそっと凭れているかのようだ。しかし見上げると、梯子の頂点は確実に彼女の口元に行くようセッティングしてある。人間離れした美しさを持ってはいるが、彼女は間違いなく実体があるのだ。そして、間もなく永久に俺のものになる。(早くそこに行きたい)そう思うと、喉が渇くのと同時に睾丸の裏にあるしこりの存在を感じる。 挨拶くらいはしておこうと振り返ると、親族一同が怪訝そうにこちらを見ていた。特に中央にいる父親の眉間の皺は深い。 以前にも増して痩せ、座っている社長椅子に似合わなくなっている。もし俺が代わりに座れば、この光景は立派な家族写真になるに違いない。母親が左肩にそっと触れ、叔父が右肩をがっしりと掴む。そして膝元には、跡取りになる俺の子供が座るのだ。きっとおもちゃの機関車を積み木に衝突させたりして、撮影に集中しないのだろうけど。 それでも、俺は一礼してから梯子に向かって歩き始めた。 「必ず後悔することになる。」 背後から父親の声。言い返そうとしたが、既にエレベーターの扉は閉まっていた。きっと言い負かされていたので胸を撫で下ろす。エレベーターは増え続ける従業員たちの山によって押し上げられて、ゆっくりではあるが確実に遠くなってゆく
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【超ショートショート】「タコ口の恋人」など6本

「タコ口の恋人」 恋人が、いつものようにタコ口でキスをせがんできた。 (今だ……!) すかさず、恋人のタコ口を切り取り、細かく刻んでタコ焼きの材料にする。 「なんでキスしないの?」 不満げな恋人。 私はその口に、できたてのタコ焼きを放り込んだ。 「……うま!」 恋人はご機嫌で海に帰った。「常識」橋本環奈がアーノルド・シュワルツェネッガーになるのは常識。 秋、東京都奥多摩町にある田園に植えられた橋本環奈たちは、春から夏にかけて筋骨隆々に育っていく。 秋になってサングラスの形をした花が開くと、食べ頃。 石臼で摺りつぶされ、薫り高い蕎麦粉になる。 通は塩でいただく。「家族のスタメン」玄関で家族のスタメン発表が始まった。監督が「父、斎藤!母、林!」とポジションごとのスタメンを発表し、家族に選ばれた者はリビングに移動する。 そして最後の一枠。 俺は自分の名前が呼ばれるのを祈る。 「飼い犬、関!」監督が言う。 俺じゃない。 はぁ。今年も二軍の家族で調整だ。「仕送り」故郷が恋しくなってグーグルアースに実家の住所を入力した。画面に映る地球が急速に近付いてきて、日本のとある地方が鮮明になっていく。 直後、少し地面が揺れた。 (地震か…?) テレビをつけると、ニュース速報が流れている。 俺は自分の目を疑った。 俺の実家に巨大な赤いピンが刺さっていた。「ほっこり」この前、落とし前としてよぉ、小指を詰めて兄貴に献上したんだよ。 それで昨日兄貴の部屋を掃除してたらよぉ、机の引き出しに俺の小指が入ってたんだよ。 折り紙で作った目とか口をつけて、小さい服まで着せてよぉ、兄貴ったら、マジの「指人形」作ってたん
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【ショートショート】「スターの誠実さ」

街の一角に黒山の人集りができている。中央には、マイクロビキニを着た若い美女がいる。乳首と股間には電飾がついており、その桃色の光が汗で滲んだ全身に広がっている。 若い美女は腰をくねらせながら、喘ぎ声を上げている。それは暴走族の鳴らすバイクのエンジン音のようにけたたましいが、人々の歓声に掻き消されている。電飾の桃色の光は、若い美女を撮影する無数のカメラの焚くフラッシュによって薄まっている。 カメラは、どれも各々の持ち主の顔面から生えている。なぜなら、それが人々の目だからだ。耳は蓄音機で、口は小さなクチバシになっている。 「こっち向いて!」 「ポーズお願いします!」 人々が、親に餌をねだる雛のように鳴く。そして若い美女の一挙手一投足を、屈折したレンズや色つきのレンズで捉える。もちろん、わずかに聞こえる若い美女の嬌声を、ホーンアームや針のねじ曲がった蓄音機の耳で記録することも忘れない。 フラッシュが焚かれる度に、カメラと皮膚の隙間から、次々と写真が出る。人々はそれを拾って、3通りの使い方をしている。 ある人は、表面を拭いてから、折れ曲がらないように注意しつつ、額縁やアルバムに入れる。 ある人は、写真を両手で持って、体の大きさになるまで引き伸ばし、体の前に貼って若い美女を真似る。 ある人は、同じように写真を引き延ばした後、若い美女の顔を切り抜いて自分の顔をはめる。 そしてまた、歓声と撮影と録音を続けるのだ。 そんな人々を、若い美女は恍惚として眺めながら、しかし時折見える服装に苛立ちを募らせている。 エプロン、スーツ、作業着、学生服……目が留まる度、個々の人生が想像されてしまう。 若い美女
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【ショートショート】「夢精と切れ痔(前編)」

蒸気で曇ったガラスの向こうに、人影が見えた。(せっかく貸し切り状態だったのに)スーパー銭湯のサウナ室に、比嘉冷射士の舌打ちが響く。案の定、ドアは開かれ、腰に橙色のタオルを巻いた男が入って来る。一瞬、表の冷気と音が入る。 比嘉冷射士は(勝負を持ちかけられたら面倒だ)と顔を伏せた。濡れて束になった前髪の先端から、股間にかけたタオルに汗が落ちる。次第に、特有のぼんやりとした気分が戻って来る。 不意に、視界の端に足が現れる。慌てて前を向くと、男が正面に立っている。こちらを見下ろしながら、無精髭の間から歯を覗かせている。 「何ですか?」 努めて冷静に尋ねる。すると男は何も答えず、自身の腰に巻かれたタオルに手をかけると、それをはためかせながら解いた。目の前で、血管の浮いた黒っぽい陰茎が揺れる。 比嘉冷射士があっけに取られていると、男は一層歯を剥き出しながら屈み、自身の陰茎を比嘉冷射士の脹ら脛につけ、そこから太股の内側までを陰茎でなぞった。 比嘉冷射士は反射的に身を捩って逃れようとしたが、腰が抜けたのか立てない。その内に男の陰茎がタオルの中に侵入し、比嘉冷射士の陰茎を押し上げながら、ゆっくりと勃起した。男の陰茎は反り上がり、比嘉冷射士の陰茎とタオルを弾いて、男の臍の辺りに当たった。 あろうことか、支えを失った後も比嘉冷射士の陰茎は垂れ下がらない。タオルが僅かに膨らんでいる。比嘉冷射士は目を背けているが、陰茎がある程度の角度と固さを保っていることは、否応なく実感している。そして意識する程、陰茎は張り詰めていく。 男が比嘉冷射士の手首を掴んで引っ張る。腰が浮き、立ち上がる。同時にタオルが解け、互
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【ショートショート】「社畜のいつもより遅い出勤」

改札を出て、数歩歩いたとこで足が止まる。動こうとしても全身が硬直している。 「何してんだよ。」 背中に衝撃を受ける。体がつんのめり、勝手に足が出て数歩歩く。右肩の後ろが痛い。前を向くと、スーツの上にロングコートを羽織った人がいる。こちらを睨んでいる。少ししてから視線を外し、右に折れて歩いて行く。 その道筋を辿るように、沢山の人が横を通っていく。時折背後からぶつかる。 「邪魔邪魔。」 「っどくせぇな。」 押されるまま、同じ要領で前に進む。やがて体に痛みを覚える頻度が減り、完全に足が止まる。 革靴の足音が聞こえる。気にすると、その数が急速に際限なく増えていく。振り返ると、通勤中の人々が目の前で曲がっている。そのカーブは少しずつ膨らみ、迫ってきている。喉の奥が詰まり、胸の辺りが冷える。瞼が震え、視界で光が瞬く。 顔が反対側を向き、車道の方に行こうとする。その動きに胴体と足が引っ張られる。 ガードレールに右手をつく。駅を見ないように俯きながら、ガードレールの礎石に座る。両手で顔を覆い、指の隙間から息を少しずつ吐く。耳の奥で心音がはっきりと鳴っている。 しばらくして両手を離す。汗で濡れている。右の掌にはガードレールの跡が残っている。視界で瞬いていた光が弱まっている。礎石とアスファルトの隙間に雑草が生えている。 尿意がして、直後に太股の裏に温かい感触が広がっていく。小便が脹ら脛を伝い、痒くなる。足元に水溜まりができて、数本の線に分かれながらガードレールの方に流れる。脹ら脛を搔く。 背後で車の行き交う音が聞こえる。左側からは、声が聞こえる。見ると、少し先の方で拡声器を持った若い男性が、駅に向
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【超ショートショート】「わがままと自殺」など

「わがままと自殺」 僕は辛い人生を歩んで来ました。 まず、父親が酷いやつでした。 母さんの妊娠が発覚した途端、 完全に姿を消しました。 母さんは必死に働き、 僕を育ててくれました。 だけど僕が中学生の頃、 母さんが彼氏を作ってから、 僕の生活はより辛くなりました。 いえ、暴力は受けていません。 母さんの彼氏はいい人だったんです。 ただ、だからこそ、 僕は片想いしてしまいました。 そうです。僕は同性愛者です。 僕は母さんの彼氏が好きになり、 だけど母さんの恋を邪魔したくなかったので、 高校は寮のある学校に進みました。 家庭の事情と、 生まれ持った性質によって、 仕方なく家を出たんです。 そしてこれが、 転落の始まりでした。 「女みたい」という理由から、 虐められるようになったんです。 先生にも相談できず、 退学して家に帰りたかったけど、 例の事情から帰れなくて、 僕はひたすら辛い3年間を過ごしました。 ようやく高校を卒業した後、 大学に行く選択肢はあったものの、 僕は働き始めました。 今まで誰かに与えられた環境は、 全て理不尽なものだったので、 自分自身の手で人生を切り開こうとしたんです。 だけど就職したのは、 家族経営の会社でした。 「よそ者」の社員には発言権がなく、 出世するには、 家族の一員になるしかない。 だから僕は嫌で堪らなかったけど、 その家族の娘と交際し、 婿入りしたんです。 そしてどうにか跡取りになる子供を作り、 会社の上役に登りつめました。 しかし、古くさい経営によって、 徐々に会社は傾き始めており、 僕は危機感のない連中の分まで、 昼夜を問わず働きました。 愛
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【超ショートショート】「盗撮の喜び」など

「盗撮の喜び」 電車に乗っていると 背後からシャッター音 (盗撮だ!) 私はすぐに気付いた 振り返ると そこにはキモいおっさん すぐに詰め寄り 写真を見せるように言うと キモおじは渋々 スマホの画面をこちらに向けた …… 嘘だろ 最高の映りじゃないか 下着とかは撮られておらず まるで街中のスナップ写真に モデルが映っているようだ 戸惑っていると キモおじは涙ながらに 「SNSにアップした」と自白した 慌ててそいつのアカウントを見ると 89ものいいね。あ、90、91…… い、いや違う だから何だと言うのだ 駄目なものは駄目 「撮りたいなら声かけないと」 説教すると キモおじは嗚咽しながら 「自然な表情が一番綺麗だから」 だって…… それからというもの 同じ時間の同じ電車の同じ車両に 私は乗るようにしている 「下手な歌」3人の下手な歌が終わりやっと俺にマイクが回ってきた  随分待った 永遠のように長かった 他の白けている皆に ようやく俺の美声を届けられる しかしその前に 互いを褒めているお前らに 言っておかなくてはいけない 「俺がボーカルだよな?」 俺はライブ中に急に我を出したギター、ベース、ドラムに言った 「パパの失敗」しまった 洗濯機と間違えた いやぁ、うっかりうっかり いつも嫁がやっているので 逆になってしまった 服を洗濯機に 子供を風呂に入れるんだったな 「喧嘩上等」やつの拳が 俺の頬にクリーンヒット! 野郎 いいパンチ持ってんじゃねぇか すぐに反撃してやるからな 俺には必殺のアッパーがあるんだ だけど、ちょっと待っとけよ お前も俺の頬から 拳を離すんじゃねぇぞ 今俺の頬か
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【ショートショート】「カメレオン大暴れ」

(そうだ!おふぃすびるに擬態しよう!) 巨大な人食いカメレオンは思った。 人間はなぜかおふぃすびるに入りたがる。 だからおふぃすびるのフリをすれば餌には困らない、という算段だ。 早速実行に移した巨大な人食いカメレオン。 胴体に窓を、口元に自動ドアの模様を浮かべる。 しかし期待とは裏腹に、人間は入って来ない。 (擬態が甘いのかなぁ……?) 首を捻っていると、周囲のおふぃすびるが目にとまった。 「……あっ!」 思わず声を上げるカメレオン。 よく見ると、辺りのおふぃすびるは、どれも自分と同じように擬態した生き物じゃないか! しかも観察すると、実に巧妙なやり口だ。 体に取り込んだ人間を、死なない程度に精力を吸ってから吐き出し、精力が戻った途端、また体に取り込んでいる。 こうしてずっと腹を空かせずに済むというわけだ。 (しかし、どうして人間はあいつらのところに通うんだ?) カメレオンは頬杖ついて目をギョロギョロさせながら考える。 すると、擬態した生き物たちの用意周到さが分かった。 なんとやつらは、じょうげかんけいとかじょうしきとかぎむとかで、人間が自分で来るように仕向けているのだ! 擬態した生き物の口に、いくつもの人間が足元に目線を落としながら入って行く。 カメレオンは無性に腹が立った。 胃の中がムカムカとして仕方がなかった。 そして算段もないのに、近くのおふぃすびるのフリをしているやつを殴りつけた。 (俺はやつらほどは頭が働かない。) (だけど、踏み越えちゃいけない一線だけは、分かる。) カメレオンは緑色の体を現しながら見栄を切るように周囲を睨み、叫んだ。 「俺の餌なんだぞ!」 そして
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【ショートショート】「最高の音楽体験を」

「最高の音楽体験を」そんな謳い文句の商品を買った。 値段は7000億ドルくらい。私がちょっとした石油王じゃなかったら買おうとも思わなかっただろう。 支払い後、その場で商品を渡された。ウォークマンの類いかと思ったが、見た目はただの携帯だった。しかも電話しかできないタイプ。 「オーディオ機器でもないのに、「最高の音楽体験」?」 私は訝しげに店長を見た。すると店長は余裕たっぷりに、 「皆さんそうおっしゃいます。とにかく電話帳をお開きください」 と言った。 その通りにすると、電話帳には有名なミュージシャンの名前がズラリと並んでいた。途端に鼓動が速まる。 「も、もしかして彼らと通話できるのか……?嘘だろ……?」 興奮しながら尋ねると、店長はゆっくりと首を振って、 「皆さんそうおっしゃいます。とにかく、お好きなミュージシャンに電話をかけてみてください」 と言った。私は訳も分からぬまま、「ポール・マッカートニー」と書かれた番号を押した。ビートルズの曲には、私がまだ駆け出しの石油王だった時代に、随分勇気づけられたものだ。 プルル、プルル、プルルルルル…… しばらく発信音が鳴った後、誰かが電話に出た。 「あ、は、初めまして!私昔からあなたのファンでして……」 私は緊張から矢継ぎ早に喋った。しかし、私の挨拶には返答がなかった。 その代わり、演奏が始まった。 曲は「Hey Jude」。歌っているのは、間違いなくポール・マッカートニーその人だ。 しかも「Jude」の部分を私の名前に変えてくれている。 私は涙を流しながら理解した。 この携帯は、直接ミュージシャンに電話をかけ、リアルタイムで演奏してもらう
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【超ショートショート】「贖罪配信」など

「贖罪配信」 「贖罪配信」というものが流行っている。 これは人々が望む罰と、 法律の定める罰の乖離を埋めるためのものだ。 例えば、芸能人が不倫をしたとしよう。 人々は芸能人を責め立てるが、 配偶者に裁判を起こされない限り、 法には罰せられない。 つまり、法に許されても、 世間からは許してもらえない。 このギャップを解消するため、 芸能人は自ら贖罪配信を行い、 人々が望む罰を受けるのだ。 具体的な方法としては、 生配信中にコメントの多かった罰を採用し、 芸能人がその通りに自らを痛めつける。 芸能人かどうかを問わず、 炎上したあらゆる人々が贖罪配信を行っている。 現代では人気商売であろうとなかろうと、 世間から嫌われては食べていけない。 一般的な会社員であっても、 炎上すれば勤めている会社を特定され、 会社にクレームが殺到。 売り上げに影響するので、 最終的に自主退職を迫られる。 さらに、 辞めた後もネット上に悪評が残っているので、 再就職が危うくなる。 だから炎上すれば皆が贖罪配信を行う。 ちなみに、 今まで贖罪配信を行って無事だった者はいない。 「神がいなくなった時代」「もし神が死ななかったら、 こうゆうマウントの取り合いは起こらなかったのではないか?」 と、ニーチェは同窓会で言った。 すると先ほどまで唾を飛ばしながら収入の高さを自慢し合っていた元クラスメイトたちは、口を揃えてこう返した。 「当たり前だろ。 だからこうして、次の神の座を競い合っているんじゃないか。」 某大企業の社長が汎用型AIを開発し、 完全な管理社会を実現する数年前の出来事である。 「最期に行きたい場所」変わ
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【超ショートショート】「不忍池」など

「不忍池」 上野公園の不忍池を歩いていると、 濛々と茂る草木に囲われて弱まった街灯の光の下に、 一人の女性が立っている。 その脇を抜けながらチラリと見ると、 白いシャツにホットパンツ、 黒いハイヒールを履いている。 髪は金色で長くゴワゴワとしており、表情は分からない。 シャツのボタンは外されて、 中に何も着ていないのか、素肌が覗く。 思わず胸元に視線が移る。 「おい」 声をかけられて体がビクッと跳ねる。 罪を咎める口調だったから、だけではない。 その声は明らかに男のものだったのだ。 恐る恐る視線を上げると、 髭の生えた角張った顎が視界に入り、 次いで顔の全容が見える。 ポカンと開いた目と口。 それを見て、俺も全く同じ表情をする。 「……俊。」 男が俺の名前を呟く。 そこにいたのは、 間違いなく親父だった。 俺たちは数瞬の間目を合わせた後、 慌てて逸らし、各々の足元に落とした。 言葉はない。 俺は硬直した状態で、 必死に知っている親父の姿を浮かべた、 「出世をしなければ人間じゃない」を合い言葉に、 悪い成績を取った兄に手を上げていた、 あの恐ろしい親父の姿を。 俺は初めて自らトラウマを呼び起こし、 現実を塗り潰そうとした。 しかし女装している老人は、 親父の声で話しかけてきた。 「金貸してくれ。」 俺は堪えきれずに走り出した。 これ以上辛い現実を受け止められない。 公園を出て横断歩道を渡ると、 ガードレールに凭れて呼吸を整える。 喉から笛のような音が鳴り、 視界が汗で滲んでいる。 しかし俺は理解してしまった。 親父は男娼をしているのだ。 背後で葉が音を立てて落ちた。 「郵便ポスト
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はじめまして。

はじめまして。朽葉と申します。この度coconalaにて主に小説作品の販売を開始することになりました。このブログでは日常で起こったあれこれをエッセイのような形で綴っていきますが、まず私のことを知っていただくために第一回目は自己紹介ということにします。私は某大学の文学部小説創作科に通う大学生です。日常的に小説/エッセイ/詩/シナリオ/脚本等を書いており、複数のペンネームを用いて様々なSNSに投稿。某YouTubeチャンネルの専属シナリオライターとしても活動しています。短編小説集を自費出版しており、芸術展覧会への展示経験があります。専門は小説で、ジャンルは純文学/幻想文学です。cocoalaでは「少し不思議で、どこかもの哀しいあなたのための小説」をコンセプトに、基本的に「1文字1円」で掌編〜長編までの全ての小説に対応します。しかしながら中編と長編は時間がかかるので一度メッセージにてご相談ください。またライトノベルのような小説の創作法については疎く、専門外ですのであくまでも純文学の提供になります。coconalaブログの使い方がいまいちわかっていないので、短いですが初回はこの辺りでご勘弁願います。これからこの機能も使いこなしていければと思います。ではまた。朽葉
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