【ショートショート】「スターの誠実さ」

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街の一角に黒山の人集りができている。中央には、マイクロビキニを着た若い美女がいる。乳首と股間には電飾がついており、その桃色の光が汗で滲んだ全身に広がっている。

若い美女は腰をくねらせながら、喘ぎ声を上げている。それは暴走族の鳴らすバイクのエンジン音のようにけたたましいが、人々の歓声に掻き消されている。電飾の桃色の光は、若い美女を撮影する無数のカメラの焚くフラッシュによって薄まっている。

カメラは、どれも各々の持ち主の顔面から生えている。なぜなら、それが人々の目だからだ。耳は蓄音機で、口は小さなクチバシになっている。

「こっち向いて!」
「ポーズお願いします!」

人々が、親に餌をねだる雛のように鳴く。そして若い美女の一挙手一投足を、屈折したレンズや色つきのレンズで捉える。もちろん、わずかに聞こえる若い美女の嬌声を、ホーンアームや針のねじ曲がった蓄音機の耳で記録することも忘れない。

フラッシュが焚かれる度に、カメラと皮膚の隙間から、次々と写真が出る。人々はそれを拾って、3通りの使い方をしている。

ある人は、表面を拭いてから、折れ曲がらないように注意しつつ、額縁やアルバムに入れる。

ある人は、写真を両手で持って、体の大きさになるまで引き伸ばし、体の前に貼って若い美女を真似る。

ある人は、同じように写真を引き延ばした後、若い美女の顔を切り抜いて自分の顔をはめる。

そしてまた、歓声と撮影と録音を続けるのだ。

そんな人々を、若い美女は恍惚として眺めながら、しかし時折見える服装に苛立ちを募らせている。

エプロン、スーツ、作業着、学生服……目が留まる度、個々の人生が想像されてしまう。

若い美女が望む優越感は、独裁者が整列している軍隊を宮殿から見下ろしているときに感じる類いのものだ。言うなれば、自分のファンは人間ではなく、道具であることが望ましい。

不意に、横からフラッシュが焚かれた。若い美女は後ろに回り込まれないように背後の壁に向かって一歩下がりながら、内心で舌打ちした。そして、(常に視界に目や口や耳だけがあればいいのに。)と思った。

人群れに隙間が目立つようになった頃、若い美女は颯爽とその場を立ち去り、路地裏に逃げ込んだ。そして誰にも見られていないことを確認すると、背中に手を回し、そこにあるファスナーを下ろした。そして、皆の注目を集めていた着ぐるみを脱いだ。

若い美女が再び街中に姿を現したとき、周囲の人々はその前を素通りした。人々は一様に目と口と耳の部分に小さな穴が開いているだけの、質素な顔で歩いており、その中に若い美女も紛れていた。若い美女だった見た目は他の人々と瓜二つだった。

(一般人のふりをしていると気楽でいいわ。)

若い美女がそう思いながら歩いていると、不意に遠くで絶叫が上がった。途端に皆の顔面に開いた小さな穴をこじ開けて、中からカメラの目や蓄音機の耳が現れる。

若い美女は、流されるまま街の一角に向かった。するとそこには、星の輝きを放つ王冠を戴いた孔雀がいた。

誰も小さなクチバシの口を現さなかった。それが使命であるかのように、ただ黙々と撮影と録音を続け、写真は額縁やアルバムに入れられた。他の使い方は一切されなかった。

若い美女も同じだった。彼女は普段自分がファンに求めている態度を、無意識に取っていた。

人々は星の輝きを放つ王冠を戴いた孔雀にとって、道具になっていた。
撮影に夢中になる余り服ははだけ、人間性を失っていた。そのような人々が無数にいる光景は、一層物質的だった。

しかし孔雀は、縋るように道路に散らばったエプロンやスーツを見つめていた。でなければ、ファンを人間として見られなくなり、プレッシャーを感じる誠意さえ失われてしまう。

だが確実に、病は進行している。孔雀の背後から、雨垂れの形で影が伸びる。

少しして、星の輝きを放つ王冠を戴いた孔雀が去った後、若い美女は他の人々と同様に呆然としていた。そして(モノが違う)と思った。

若い美女は涎のように出ていたカメラの目と蓄音機の耳をしまい、素朴な顔に戻った。

その姿は元々、若い美女の正体だった。しかし現実を否定し続ける内に、本当の姿も偽物になってしまったのである。もはや着ぐるみはリバーシブルになっており、内側には誰もいない。

(やってらんないわ。)

若い美女は内心で舌打ちを鳴らしながら、歩き始めた。しかし実のところ、若い美女は孔雀よりも幸福だった。

読んでいただきありがとうございました。
あなたの好きなスターが誠意の持ち主でありますように。
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