【詩】【ショートショート】「人間鳥コンテスト」

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入道雲に向かって

両翼をピンと伸ばした人力飛行機が飛んでゆく

「まだ、いける」

操縦士の耳には

もう随分離れているのに

いや、むしろ遠くに行くほど

仲間たちと他の出場者たちの声が届いている

「まだ、いける」

視界が汗に食い荒らされても

喉から笛音のような音が鳴って血の味がしても

それでも操縦士は

「まだ、いける」

そう繰り返し

限界を超えた足を騙し続けるのだ

これで何度目だろう

また機体が海面すれすれで持ち上がる

そう

「まだ、いける」

人間達が鳥人間コンテストで盛り上がっている頃、とある小さな島では、鳥達による「人間鳥コンテスト」が行われていた。

人間鳥コンテストは鳥人間コンテストとは真逆だ。

鳥人間コンテストは人力飛行機に乗った人間によるレースゲームだが、人間鳥コンテストは、人間を模した駒を使うボードゲームだ。

「ボードゲーム」といっても、ボードではなく地球儀を使う。駒の底には磁石が仕込まれており、逆さまになっても地球儀に張り付くことができる。

また、駒はシャチハタになっており、参加者達は駒を移動させることで自分の駒のマークを地球儀に記すことができる。

人間鳥コンテストでは、このマークが最終的に最も多かった者が優勝できるのだ。

ここからはルールの説明に入るが、これが酷い。「ルール」と呼ぶにしては余りにも煩雑だ。

ルール①:1人が使える駒は1つまで
ルール②:駒は80歩したところで使えなくなる(80歩を超えた参加者は、速やかに駒を回収して大人しく結果を待つように)
ルール③:集計をする際に有効とされるマークは、明らかにそれと認められるものでなければならない(上から他のマークに塗り潰されていたり、印字が甘いものは無効)
ルール④:①~③を守るなら、あとは何でもあり

一見、ちゃんとルールが定められている。しかし、このルール④の「何でもあり」が問題なのだ。

おっと、もうすぐ始まるようだ。百聞は一見に如かず。実際に見てほしい。

地球儀の周りに、コンテストの開始を待つ鳥達が集まっている。その群衆の規模は凄まじく、小さいといえども半径50メートルはある島からはみ出す程だ。

皆、片足を浮かせてブラブラさせたり、首を捻って骨を鳴らしたりしながらその時を待っている。

(頃合いだな)上空にいるコンテストの主催者が、肺一杯に空気を吸い込み
、吐く。

一帯に響き渡る鳴き声。人間鳥コンテスト開始の合図だ。

直後、鳥達が雄たけびを上げながら地球儀に群がった。互いを羽で殴りながら地球儀を奪い合い、運良く地球儀を持った者は、他の者に奪い取られるまでの僅かな時間に大急ぎで自分の駒を何度も押し当てる。

鳥達は地球儀を中心に団子状態になって、縦横無尽に動き回る。辺りに血の付いた羽が舞い、怪我を負った鳥と壊された駒が降り注ぐ。

これで分かってもらえただろう。人間鳥コンテストは暴力が許されるボードゲームなのだ。普通のボードゲームのように行儀良く自分の順番を待つ必要はないし、相手の順番が永遠に来ないように相手の駒や相手本人を壊すのもありなので、このようにしっちゃかめっちゃかになる。

30分程経った頃、地球儀の行方を目で追っていたコンテストの主催者が、終了の鳴き声を上げた。

鳥達の団子が解けてゆく。その中心に、コンテストの主催者が降り立つ。

(今年もか……)コンテストの主催者が溜息を吐く。視線の先には、粉々になった地球儀がある。

無理に奪い合ったのだから、当然の結末だ。人間鳥コンテストは例年通り、優勝者なしで幕を閉じた。

心地よく海面を漂う人工飛行機の上を

ステルス戦闘機が無呼吸で通り過ぎる

読んでいただきありがとうございました。
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