心配で心配でたまらないの。
わかる?
あなたが泣いているからよ。
生まれた時からずっとずっと、傍で見守ってきたのよ。
そんなあなたが泣いているのに、心配でないわけがありますか。
あなたはクッションを抱きしめて鼻を鳴らすばかり。
どうして泣いているのかっていう理由すらも、私にはわからないの。
あぁ、もう。
あなたのお気に入りのクッションじゃないの。
安心するのはわかるけれど、鼻水なんてつけてみなさい。
あとで後悔するのは、あなたなのよ?
ほら、あなたが泣いている理由を教えてごらんなさい。
学校でなにかあったの?
お友達と喧嘩したのかしら?
まさか、いじめられたなんてことないでしょうね?
もしそうなら、私が噛みついて、引っ掻いてやるわ。
そう伝えてあげたいのに、私の口から出るのは、にゃあにゃあ、なんて甘えた声だけ。
あぁ、口惜しい。
こんなにもあなたのことを心配しているというのに。
こんなにもあなたのことをを愛しているというのに。
それが伝わらないということが、ただひたすらに口惜しかった。
私の可愛い可愛い子。
ずっと妹のように……今となっては娘のように思っている、大切な子。
可愛い可愛いあなたが泣いているというのに、なにもできないなんて。
そんな残酷なことがあるかしら。
あぁ、あぁ、口惜しい。
ねぇ、お願い。
独り言で構わないの。
私に伝えようなんて考えなくてもいいの。
だからね、どうか。
あなたが泣いている理由を教えてちょうだい。
恨み言でも言うように、ひとりで呟いてくれればいいのよ。
私はそれを聞いて、勝手に心配するから。
ねぇ、お願いよ。
理由もわからないまま泣き続けるあなたを見るのは辛いもの。
にゃあ、と鳴いてみた。
あなたはやっぱり、泣いたままだった。
にゃあ、と甘えてみた。
あなたはやっぱり、泣いたままだった。
にゃあ、と撫で撫でを強請ってみた。
あなたはやっぱり、泣いたままだった。
もう、私では駄目なのね。
私では、あなたを癒すこともできなくなってしまったのね。
困ったわ。
これが反抗期というやつかしら。
なんて、冗談を言っている場合じゃないわね。
いつだって、泣いていても怒っていても、私が擦り寄っていけば撫でてくれたあなた。
私を撫でているうちに、上機嫌になっていったあなた。
いつだって、私を撫でているうちにあなたは泣き止んでしまったから、こうして私はあなたが泣いている時に傍に置かれることになったわけだけれど。
大人に、なってしまったのね。
飼い猫を撫でるくらいでは収まらないような、そんな悩みを抱えるような年頃になってしまったのね。
子供の成長は素直に喜ぶべきだってわかっているのに、どうしてかしら。
少しだけ、泣きたい気分になってしまったわ。
親離れよりも子離れの方が辛いっていうのは、本当だったのね。
ねぇ、お願い。
泣き止まなくてもいいの。
笑ってくれなくてもいいの。
でもね、なにがあなたをそんなにも悲しませたのか、私に教えてちょうだい。
私だって、できるのよ。
あなたと一緒に悲しむことだって、あなたと一緒に悩むことだって。
だから、ねぇ。
そんな私の想いも伝わらなくて、あなたはクッションに顔を埋めたまま。
大丈夫? ちゃんと息はできているの?
そっと傍に寄って、隣に座った。
少しだけ、寄り添う。
こんな時、心から思うのよ。
あなたに撫でられるのは大好きだし、気ままな生活も気に入っている。
ご飯もおやつも上等なものをいただけて、本当に私、幸せなの。
でもね。
やっぱり、あなたと同じ言葉を扱う人間になりたい。
そんな風に、思ってしまうの。
そう伝えたいのに私の、口から出たのは「みゃーう」なんて甘えた鳴き声で。
本当に、困ってしまうわね。
こんな甘えた鳴き声じゃ、今のあなたを癒してあげることだってできやしないの。
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