【超ショートショート】「わがままと自殺」など

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「わがままと自殺」

僕は辛い人生を歩んで来ました。

まず、父親が酷いやつでした。
母さんの妊娠が発覚した途端、
完全に姿を消しました。
母さんは必死に働き、
僕を育ててくれました。

だけど僕が中学生の頃、
母さんが彼氏を作ってから、
僕の生活はより辛くなりました。
いえ、暴力は受けていません。
母さんの彼氏はいい人だったんです。
ただ、だからこそ、
僕は片想いしてしまいました。
そうです。僕は同性愛者です。
僕は母さんの彼氏が好きになり、
だけど母さんの恋を邪魔したくなかったので、
高校は寮のある学校に進みました。
家庭の事情と、
生まれ持った性質によって、
仕方なく家を出たんです。
そしてこれが、
転落の始まりでした。
「女みたい」という理由から、
虐められるようになったんです。
先生にも相談できず、
退学して家に帰りたかったけど、
例の事情から帰れなくて、
僕はひたすら辛い3年間を過ごしました。

ようやく高校を卒業した後、
大学に行く選択肢はあったものの、
僕は働き始めました。
今まで誰かに与えられた環境は、
全て理不尽なものだったので、
自分自身の手で人生を切り開こうとしたんです。

だけど就職したのは、
家族経営の会社でした。
「よそ者」の社員には発言権がなく、
出世するには、
家族の一員になるしかない。
だから僕は嫌で堪らなかったけど、
その家族の娘と交際し、
婿入りしたんです。
そしてどうにか跡取りになる子供を作り、
会社の上役に登りつめました。
しかし、古くさい経営によって、
徐々に会社は傾き始めており、
僕は危機感のない連中の分まで、
昼夜を問わず働きました。
愛していない家族のために、
自分を犠牲にしたんです。
その内、無理をしすぎたせいで、
僕は鬱病を発症しました。
それでも僕は、
「健康が一番だから休んで。」
なんて無責任なことを言う嫁とは違うので、
仕事を続けました。

そんなある日です。
あの人気のタレントが、
離婚したことを知りました。
びっくりしましたよ。
だって、離婚の理由が、
「同性愛者としてありのままに生きたいから。」
なんですよ?
僕は腹が立ちました。
当然でしょう。
僕も同性愛者ですが、
それを理由に人に迷惑をかけたことはありません。
というよりも、
人に迷惑をかけないように、
必死に堪え続けてきました。
母さんのために、
母さんの彼氏のために、
打ち明けずにただ黙々と、
たった一人で生きてきました。
それなのにやつは、
「同性愛者としてありのままに生きたいから。」
そのためだけに、
皆を振り回したんです。

僕はやつを、
SNS上で徹底的に糾弾しました。
だってやつのわがままが容認されたら、
僕の苦労が無意味だったことになりますから。
僕が打ち明けさえすれば、
皆から受け入れられたことになりますから。
まあこれは、
後になって気付いた動機ですけどね。
当時の僕は怒りの赴くままに、
ありとあらゆる暴言をやつに浴びせました。 

ええ、知っています。
亡くなったそうですね。
だけど僕は関係ありませんよ。
だってやつを追い込んだ、
あの頃の僕は、
アカウントと一緒に消えましたから。

正義じゃない僕なんて、
存在するはずないんですから。

「餌」
世界最大の養豚場に、
過激派のヴィーガンたちが忍び込んだ。
5、6人からなる2つのグループに分かれており、
片方の集団は、可哀想な豚たちを開放する役割、
もう片方の集団は、忌まわしき施設を爆破する役割を担っている。
養豚場に勤めているスパイが、
セキュリティーを麻痺させている間に、
各々の役目を、そして人類の使命を果たすつもりだ。

しかしトラブルが発生。
味方だったはずのヴィーガンが、
実は二重スパイだったため、計画が筒抜け。
彼等はあっけなく捕らえられてしまった。
そして2つのグループは、
異なる密室に連れて行かれて、
それぞれの仕打ちを受けることになった。

片方の密室には、
飲み水だけが支給された。

もう片方の密室には、
食べ物も支給される他、
広いベッドが置いてあった。

飲み水だけが用意されている部屋では、
飢えたヴィーガンたちが互いを食い、
最終的に一人だけが生き残った。

比較的設備が整っている部屋では、
飲み水と食べ物に仕込まれた、
性欲以外を頭から追い出す薬によって、
ヴィーガンたちが四六時中ベッドを揺すり、
せっせと子供を作った。
生まれた子供は連れて行かれて、
「安全な肉」として販売されたが、
親たちの興味は互いの体だけだった。

前者の部屋で生き残り、
自責の念で押し潰されそうになっているヴィーガンは、
たった一人で罪を抱え切れず、
「我々も罪人だ。」
と言う養豚場の者たちに懐柔され、
スパイのフリをして、
新たな餌を呼び寄せるのだった。

「世界平和に向かって」
帝国主義をグローバリズムと嘯く口と、
それに対抗するために自国民を騙す口が触れ合う。

「全人類の恋人」
その時代、
人類は幸福になるために、
たった一人の、共通の恋人を作ったんだ。
恋人は、森羅万象を司る力を持ち、
自由に自然災害を起こしたり、
人々を操ったりできる。
そして、その力を使うにしては、
余りにも我が儘で気分屋。
という設定になっている。

恋人は機嫌が悪いと、
地震を起こしたり、
暴風雨を降らせたり、
ズルい連中だけが得をする法律を作ったり、
地位の低い人々だけを、
戦地に送り込んだり……。
とにかく色々な手段を使って、
徹底的に嫌がらせをしてくる。

まったく、困っちゃうよな。
だけど人類は幸せだ。
だってありとあらゆる理不尽は、
恋人の「ちょっかい」なんだから。
ほら、
予想されていた隕石が、
遂にこちらに向かって来ているけど、
堪らなく可愛いもの。

読んでいただきありがとうございました。
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