【超ショートショート】「贖罪配信」など

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「贖罪配信」

「贖罪配信」というものが流行っている。
これは人々が望む罰と、
法律の定める罰の乖離を埋めるためのものだ。
例えば、芸能人が不倫をしたとしよう。
人々は芸能人を責め立てるが、
配偶者に裁判を起こされない限り、
法には罰せられない。
つまり、法に許されても、
世間からは許してもらえない。
このギャップを解消するため、
芸能人は自ら贖罪配信を行い、
人々が望む罰を受けるのだ。
具体的な方法としては、
生配信中にコメントの多かった罰を採用し、
芸能人がその通りに自らを痛めつける。

芸能人かどうかを問わず、
炎上したあらゆる人々が贖罪配信を行っている。
現代では人気商売であろうとなかろうと、
世間から嫌われては食べていけない。
一般的な会社員であっても、
炎上すれば勤めている会社を特定され、
会社にクレームが殺到。
売り上げに影響するので、
最終的に自主退職を迫られる。
さらに、
辞めた後もネット上に悪評が残っているので、
再就職が危うくなる。
だから炎上すれば皆が贖罪配信を行う。

ちなみに、
今まで贖罪配信を行って無事だった者はいない。

「神がいなくなった時代」

「もし神が死ななかったら、
こうゆうマウントの取り合いは起こらなかったのではないか?」
と、ニーチェは同窓会で言った。
すると先ほどまで唾を飛ばしながら収入の高さを自慢し合っていた元クラスメイトたちは、口を揃えてこう返した。
「当たり前だろ。
だからこうして、次の神の座を競い合っているんじゃないか。」
某大企業の社長が汎用型AIを開発し、
完全な管理社会を実現する数年前の出来事である。

「最期に行きたい場所」

変わった殺し屋がいる。
そいつは依頼があると、
依頼主の要望通り、
誰にも気付かれないようにターゲットを殺害する。
ここまでは普通の殺し屋と同じだ。
特徴的なのは、その殺害方法。
やつはナイフで刺殺したり、
縄で首を絞殺したりするんじゃなく、
地球儀でターゲットを撲殺するんだ。
しかもトドメを刺す直前に、
「旅行するならどこがいい?」
って聞いて、
ターゲットが答えた場所に当たるように、
地球儀を回して調節してから殴り殺するんだ。
なぜそうするのかは誰も知らない。
猟奇的な趣味という説もあるし、
ある種の情けという説もある。
とにかく、それがやつにとっての絶対的なルールなのだ。

ついこの間だ。
とある老人がやつのターゲットにされた。
やつはいつも通り、
老人の家に侵入し、
何回か地球儀で殴って弱らせた後、
「旅行するならどこがいい?」
と老人に尋ねた。
すると老人は、
意外なことを言って殺し屋を困らせたそうだ。
何て言ったと思う?
「あの世」とか「木星」とかの、
地球上にない場所?
それは違う。
「あの世」と言われたら、
やつは「じゃあ行かせてやるよ。」
と地球儀を振り下ろすし、
「木星」と言われれば、
鞄から木星の模型を取り出し、それで殴る。
やつは大概の答えに対する、
気の利いた返しを用意しているのだ。
ちなみに、マイナーな場所を言っても、
やつはあらゆる地名を知り尽くしているから無駄だ。
だけど、老人の答えはやつを困らせた。
それでは正解を発表しよう。
老人はこう言ったんだ。

「これだから最近の若者はいかん。俺が若い頃はがむしゃらに…。」

そう、老人は殺し屋の質問に答えず、
自分の武勇伝をベラベラと話し始めたんだ。
要するに、話の通じない相手だったわけだ。
だけどやつは、
どうにかして自分のルールを守ろうとして、
頭を悩ませた結果、
(お仲間が沢山いる場所に行きたいだろう。)と、
日本の部分で老人を殴り殺した。

「仕事」

居間には3人の男性がいる。
祖父、父、息子、三代の男たちだ。
彼等はちょっとした拍子に、
「仕事」をテーマに会話をしている。
祖父が言う。
「仕事っていうのは、
それぞれの方法で社会の人柱になることだ。
やらなくちゃいけないけど、
やりたくないことを、
誰かが犠牲になってやるんだ。
だからお給料をもらえるし、
感謝もされるんだよ。」
すると父がかぶりを振って、
吐き捨てるように言う。
「いや、世の中には、
自分の手を汚さずに、
人にやらせる連中がいる。
それに奴等の方が金を持っている。
俺たちをこき使って、
私腹を肥やしてやがるんだ。」
祖父は我が子からの反論を受けて一瞬たじろいだが、
いつか自分もした葛藤を思い出して、
まだ青い我が子に説諭した。
「そうゆう人たちはな、
誰もなりたがらない悪役、
っていう人柱になっているんだよ。」
しかし父はコップに並々と注がれた酒を、
一息で飲み干してしまうと、
「気休めだ」と言った。
「世間じゃ奴等は悪役どころか、
ヒーローみたいに扱われてる。
奴等は正義さえ金で買っちまったんだ。」
「ふぅむ」
祖父は返す言葉がないので、唸った。
どうやら、自分が現役の頃よりも、
社会は世知辛くなっているらしい。
とはいえ、祖父は自分の面目のためにも、
我が子の絶望を説き伏せなくてはならない。
「どう思う?」
祖父は孫に声をかけた。
子供であれば、仕事の本来の素晴らしさについて、
その純粋さで気付いているのではないか。
祖父にはこのような考えがあった。
しかし3人の中で最も若い男は、
スマホをいじりながら、
「働きたくないなぁ」
と漫然と言った。
「それはいかんっ」
先ほどとは一転、祖父と父の口が揃う。
人間は働かなくてはいけない。
感謝されなくても、
給料が低くても、
憧れなくても、
仕事は絶対にやるべきだ。
2人がそう思っていたが、
「なんで?」と聞かれたとき、返事に窮した。

読んでいただきありがとうございました。
あなたが無地の服を着るときに何回前後ろを逆にしてもしっくりこないことがありませんように。

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