【超ショートショート】「甘露(利権)」など

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「甘露(利権)」

探検隊(マスコミ)は、
鬱蒼と茂る植物たち(芸能事務所や芸能人)を掻き分けて
森(芸能界)の最深部に足を踏み入れた。

途端に、暗幕の内側に入ったかのように辺りが闇に包まれた。
それまで障害物を掻き分けるために
休みなく動かしていた両手が、空を切る。

ヘルメットのライトを点けても、
広がりながら薄くなる円状の光の中には何も現れない。
唯一、頭上に向けた時だけ、
青々とした葉が密集しているのが映る。

少しして、探検隊(マスコミ)は
自分たちが巨大で厚い林冠の下にいることに気が付いた。
林冠が日光を遮り(市場の一部を独占し)、
他の植物たち(芸能事務所や芸能人)が育つのを妨げているのだ。

そして、探検隊(マスコミ)はある仮説を立てた。

――ひょっとして、
「森の最深部をたった1本の木(ジャニー喜多川)が独占している」
のではないか?

探検隊(マスコミ)は真相を知るために足を速めた。
しばらくすると、ライトの光が壁のような幹を照らした。

手前に、いくつもの果物(ジャニーズアイドル)が垂れ下がっている。
それらは皺ができるほど縮んだり(性加害を受ける)、
皮が張り裂けそうなほど膨らんだり(富と名誉を受け取る)を繰り返している。

――この木(ジャニー喜多川)は、
果物(ジャニーズアイドル)に栄養を与えるだけではないのか?

この仮説は、先に立てたものと同様に正しかった。
しかし、探検隊(マスコミ)がそれ以上踏み込むことはなかった。

その後、探検隊(マスコミ)が持ち帰ったものは情報ではなく、
果物(ジャニーズアイドル)から溢れ出た甘露(利権)だった。

踵を返した探検隊(マスコミ)が歩き始める。
その地面には、まだ一枚も枯葉が落ちていない。

「鶴が人に化けるなら」

むかしむかし、
とある村に親切な男が住んでいた。
ある日、男が家路を歩いていると、
道で一羽の鶴が罠にかかっていた。
男はすぐに鶴の足を挟んでいたトラバサミを外し、
鶴を逃がしてやった。

その夜、男が夕餉の膳についていると、
誰かが戸を叩いた。
開けると、そこには1人の若い女が立っていた。

女は、「一晩泊めてください。」と言った。
男がその通りにしてやると、
翌日、女は「恩返しをする」と言い、
奥の部屋に入って、襖を閉めた。

しばらくすると、
バッタン……バッタン……
という音が聞こえて来た。
男は女から
「決して覗かないように」
と言われていたが、
こっそり襖を開け、
隙間から中の様子を見た。

(あれは……!)

男は我が目を失った。
そこでは、
バッタン……バッタン……
と音を立てながら
ひとりでに開閉するトラバサミがあったのだ。

「お前が今度こそ余計なことをしなかったら、
見逃してやったものを……。」

トラバサミは溜息を吐くと、
男の首元に食らいついた。

「パパ」

あの日のことは、
今でも鮮明に覚えている。

妻が抱える布の中に、
赤く皺だらけの顔があった。
腫れぼったい目や上を向いた鼻が、
微細に律動していた。
妻は自分の汗を拭う前に、
娘の額に張り付いている毛を丁寧に剥がしていた。

娘は毎日のように大きくなった。
俺はその成長を見逃さないように、
決まって会社から小走りで帰路を歩いた。
玄関で「ただいま」と言いながら、
蹴るように革靴を脱ぎ、娘の元に向かった。
その勢いは、
ベビーベッドの前に立った途端、弱まった。
俺は高価な割れ物を扱うような調子で娘に触れ、
それを妻に笑われた。

仕事が忙しく、
娘とまともに関われたのは
休日だけだった。
娘は俺が近付くと
手足をばたつかせて喜んだが、
初めに覚えた言葉は「ママ」だった。
しかも、2つ目は「まんま」で、
3つ目は「ばあば」だった。
俺は娘にとっての優先度を上げようと、
上司に無理を言って育休を取った。

育児に本腰を入れると、
妻がどれほど苦労していたのかを思い知らされた。
ミルクを飲ませた後に
縦に抱っこしてゲップさせたら
肩にゲロを吐かれたり、
おむつを交換している最中に
おしっこを出されて
顔に引っかけられたりなど、
散々な目に遭った。

そして、情報共有のために
定期的に連絡してくる同僚から
「俺も休みたいよ」と言われる度に
怒りを覚えようになっていた頃、
遂にその時がやって来た。

夜泣きしている娘を抱っこしている時、
娘が何か言おうとしているのに気付いた俺は、
急いで電気を(もちろん弱いモードで)点けた。

娘が、大きな黒目を輝かせながら
口を動かしている。

「パ……」

「うん」

目頭が熱くなるのを感じながら、相槌を打つ。

「パァ……」

「そうそう、パパ。パァパ」

大げさに口を動かしながら繰り返していると、
娘はもどかしそうにぐずった後、言った。

「パァ、パ……活、終了の、お時間、です。」

娘の言葉に俺は驚いた。
しかし少しして、
(遂にこの時が来たか)と受け入れた。

俺は床に娘を下ろすと、
妻を起こして
サービスが終わったことを告げた。
そして泣き喚く妻を説得した後、
財布を取り出した。

「カードで。」

俺が言うと、
娘は拳が凹んでいる手で
オムツからカードリーダーを取り出し、
それをこちらに向けた。
俺はカードをスキャンし、
暗証番号を入力した。
娘は俺の手元から目を背けていた。

支払いが終わると、
娘は覚えたてのずり這いで玄関まで進み、
迎えに来た派遣業者と共に
俺たちの元を去った。

あの日のことは、
今でも鮮明に覚えている。

俺は今、
妻と再びパパ活を利用しようかと話し合っている。

「花の実相」

ある雨の日、
濡れたズボンの裾に顔をしかめながら
街中を歩いていた私は、
ふと足を止めた。
ビニール傘を上げると、
そこで紫陽花が咲いていた。
桃色から紫色まで、
バリエーション豊かな紫陽花が
跳ねる雨に彩られている。
私の憂鬱な気分は途端に和らいだ。

そして私は、
次のようなことを思った――。

花とは植物の性器だ。
おしべがチンポ、めしべがマンコ。
どちらも備えている花は、
フタナリというわけだ。

私たち人間はフタナリが好きだ。
あらゆる場所にフタナリ壇を作り、
フタナリを育てる。
小学校ではゾウの形をした
ジョウロを持った用務員が、
様々な色と形のフタナリを水で濡らす。
小学生たちは、
そこにあるフタナリと同じように、
各々の個性を伸ばしていく。

その様子は、
「世界に一つだけの双成り」
で歌われている通り、尊いものだ。

ハレの日には、フタナリを束にして
親しい間柄の人や
イベントの主役にプレゼントする。
フタナリの束は、
渡す相手や状況によって変わるものの、
どれも愛が込められている。

ちょうど、
「愛を込めて双成り束を」
の歌詞のように。

また誰に渡すわけでもなく、
そっと思い出を閉じ込めるように
ドライチンポにすることもある。

春になると、
そこら中がフタナリだらけになる。
私たちは無数のフタナリの下で
ビニールシートを敷いて酒を酌み交わす。
時には、酒の水面に落ちた
チンポの皮に喜んだりする。
全国の学校では卒業式が執り行われ、
卒業生たちはフタナリのトンネルの中を
胸にフタナリをつけた状態で歩く。

この時期に咲くフタナリを歌った曲は、
以下のように沢山ある。

「ふたなり」
「ふたなり(独唱)」
「ふたなりんぼ」
「双成り」
「双成り坂」
「千本双成り」
「フタナリ咲ケ」
「HUTANARI」
「HUTANARIドロップス」
「hutanari」

色々な歌を思い浮かべていると、
私はくしゃみをした。
(風邪を引いたか)と思ったが、
そろそろ秋だと気付いて
再び憂鬱な気分になった。

チンポが日本中に精子を撒き散らす、
フタナリによる顔射の季節だ。

読んでいただきありがとうございました。
あなたが傘の水気を切りたいときに、ちょうど通行人が途絶えますように。
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