小説「海を夢見た蛙(かわず)」ー最終回
「面会希望の方。どうぞ、お入りください」 入室を促され、刑務官に会釈する。ガラス越しに見えたのは、囚人服に身を包んだ織田明姫の姿だった。彼女は、窃盗罪、贈収賄の罪、そしてチャイニーズマフィアへの誘拐の幇助の罪で受刑している。
「……あなたが今更、一体何の用?」
猫背になり、恨めしそうに上目遣いで睨んできた彼女。よく眠れていないのだろう、目の下に深い隈が幾重にも刻まれている。
「ちゃんと、聞いておきたかったんです。どうしてあなたが、タオファさんを困らせるために財布を盗み、タオファさんが寝ている間に彼女のスマホで勝手にホテルの予約をキャンセルした挙句、マフィアに彼女の居場所を教えたのか」
財布とホテルだけならわからなかったが、盆コミのスペースの前にマフィアが現れた時点で、全て彼女の仕業だと気づくべきだった。なぜなら、チャイニーズマフィアならタオファさんの手紙を入手してアキさんの名前と住所を手に入れることも、来日していることを知るのも朝飯前だと考えたから。そして、直接アキさんを訪ね、タオファさんの居場所を教えれば金を出すと言われたはずだと思い至ったからだ。アキさんは、ドロポスやSNSの告知で俺たちのサークルのスペース番号を知っていた。だからこそ、スペースを離れてから電話して、マフィアにそれを伝えることができたのだ。
タオファさんが日本で行方不明になったと警察に伝えたのも、彼女だろう。タオファさんが俺の家にいることを知っていて、俺や母、姉貴を誘拐犯に仕立て上げるために。
「……そんなことを聞いて、何になるっていうの」
舌打ちをしてから、彼女が愚痴を零すように言う。
「何となく、で
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