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小説「海を夢見た蛙(かわず)」ー最終回

「面会希望の方。どうぞ、お入りください」 入室を促され、刑務官に会釈する。ガラス越しに見えたのは、囚人服に身を包んだ織田明姫の姿だった。彼女は、窃盗罪、贈収賄の罪、そしてチャイニーズマフィアへの誘拐の幇助の罪で受刑している。 「……あなたが今更、一体何の用?」  猫背になり、恨めしそうに上目遣いで睨んできた彼女。よく眠れていないのだろう、目の下に深い隈が幾重にも刻まれている。 「ちゃんと、聞いておきたかったんです。どうしてあなたが、タオファさんを困らせるために財布を盗み、タオファさんが寝ている間に彼女のスマホで勝手にホテルの予約をキャンセルした挙句、マフィアに彼女の居場所を教えたのか」  財布とホテルだけならわからなかったが、盆コミのスペースの前にマフィアが現れた時点で、全て彼女の仕業だと気づくべきだった。なぜなら、チャイニーズマフィアならタオファさんの手紙を入手してアキさんの名前と住所を手に入れることも、来日していることを知るのも朝飯前だと考えたから。そして、直接アキさんを訪ね、タオファさんの居場所を教えれば金を出すと言われたはずだと思い至ったからだ。アキさんは、ドロポスやSNSの告知で俺たちのサークルのスペース番号を知っていた。だからこそ、スペースを離れてから電話して、マフィアにそれを伝えることができたのだ。 タオファさんが日本で行方不明になったと警察に伝えたのも、彼女だろう。タオファさんが俺の家にいることを知っていて、俺や母、姉貴を誘拐犯に仕立て上げるために。 「……そんなことを聞いて、何になるっていうの」  舌打ちをしてから、彼女が愚痴を零すように言う。 「何となく、で
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小説「海を夢見た蛙(かわず)」ー7

「皆様、当機は間もなく離陸態勢に入ります。リクライニングシートとテーブルを元の位置に戻し、シートベルトをお締めください」 動き出した飛行機、響くCAのアナウンス。まるで初めて飛行機に乗った子供のように、緊張してしまう俺。まさか同じ飛行機にいないよな、と思って辺りをつい見回してしまう。 「ハルサン。怪しいでスよ」 「あ、ごめん」  小声で彼女から注意され、素直に従う俺。念のため、機内ではお互い偽名で呼び合うことにしている。それにしても、パスポートの姉の写真と今のタオファさんは本当に似ていて見分けがつかない。だからこそ無事飛行機に乗り込めたわけだが、姉の実力に感心してしまう。  やがて、機体は滑走路に辿り着き、徐々にスピードを上げていった。そして、勢いよく宙へ浮き上がる。  タオファさんは、黙って窓の外を見つめていた。まるで、日本との別れを惜しむかのように。 「仕方ないよ。またいつか来れば……」  いいじゃないか、と言いかけたところで俺は自らの唇を閉じた。彼女が、来日を育ての親に禁じられていることを思い出したからだ。  彼女は、黙って正面に向き直った。その瞳からは、一筋の涙が零れている。 「……ゴメンナサイ、ハルサン。迷惑をかけテ……」 「い、いや、別に……華(はな)さんのせいじゃないし」 「イイエ、私のせいデス。私のせいデ、一緒に上海まデ来てもらうなんテ……本当に、ゴメンナサイ」 「だから、気にしないでって……」  そんなことを言っても、恐らく効果はないだろう。諦めて、俺は別の話題を振ることにした。ずっと聞きたくて、でも言い出せなかったことを。 「……ねぇ、華さん」 「ハイ?」
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小説「海を夢見た蛙(かわず)ー6

 何とか自宅へ帰り着くと、先に帰宅していた姉貴とお袋が血相を変えて玄関から飛び出してきた。「おかえり、春夜、タオファさん!!」 「お母さん、それ大きな声で言っちゃダメ!! とにかく早く入って、二人とも!!」  母を咎めつつ、姉が叫ぶように言って俺たちを家に入れ、ドアを閉める。深呼吸をし、両手を腰に添えてから、姉は続けた。 「ニュース、見たわよね? タオちゃん、事情は説明してくれる?」 「……ハイ、もちろんでス。心配おかけして、申し訳ございまセン」  気落ちしたような声と表情で答え、頭を深く下げるタオファさん。謝るのはいいから、と言って姉は彼女をリビングのソファへ促した。 「私、大学の寮住んでいましタ。寮にハ、北京(ベイジン)や成都(チェンドゥ)、西(シー)安(アン)旅行する言ってまス。でも本当ハ、ビザを申請しテ、ホテルと飛行機予約しテ、日本来ましタ。ダッテ、日本行く言ったラ、おじいサン、絶対許してくれませんかラ」 「そう……。でも、どうして行方不明だなんていうニュースになったのかしら」  淹れた紅茶をテーブルに運びながら、母が呟く。 「そうね、誰かが棗紅(ツァオフォン)にわざわざ報告しない限り、彼女が行方を晦ましたなんて事実はわからないはずだものね。どうやらまだ日本にいるってことはバレてないみたいだけど、中国中を騒がせて、タオちゃんのお祖父さんを困らせて、一体誰が得するっていうのかしら。ライバル企業とか?」 「いや、違う。彼女は今、チャイニーズマフィアに追われているんだ。行方不明というニュースを知らせた奴は、マフィア共から金を受け取って情報を流したんじゃないか?」 「マ、マフィ
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小説「海を夢見た蛙(かわず)」ー5

 次の日から、俺たちは早速作業に取り掛かった。小説は未完成のものを使うことにしたので、ある程度のあらすじを彼女に伝え、挿絵と表紙の構想を練ってもらった。デジタルで絵を描くための道具とアプリは姉が持っていたので、彼女はそれらを借りて作業を進めた。 原稿は無事締め切りまでに完成し、印刷会社へのデータ送信を終えた瞬間、俺たちは万歳をして喜び合った。あとは、SNSでの告知を済ませ、会場へ向かうだけだ。  当日は、うだるような暑さと湿度だった。しかし、熱中症対策は万全である。冷たい水の入った水筒二本に生理食塩水の粉末、扇子に熱冷ましシート、濡らすだけで冷感を出す百均の首掛けタオル、保冷バッグの中に入った大量の保冷剤に帽子、そして日傘。気合い十分の装備で会場へ乗り込み、自分たちのスペースを探す。 「A21b、A21b……あっ、ありましタ! あそこでス、シュンヤサン!!」  彼女が指さした先に、確かに俺たちのスペースはあった。そこに、大きな段ボール箱が置かれている。その中に、完成した同人誌が五十部入っているはずだ。  高鳴る鼓動を静めるように、深呼吸をしてからカッターで浅めに切り込みを入れる。蓋をゆっくりと開けると、そこにはみっちりと俺たちの作品が詰められていた。 「シュンヤサン! スゴイでス、ちゃんとできてまス!! 素晴らしいでス!!」 「ああ、出来てるな! 良かった、本当に良かった!!」  当たり前のことに感極まってしまい、涙目になりながら俺たちはまた万歳をした。周囲の視線なんて気にしない。俺たちにとって今大事なのは、一生に一度かもしれない感動を共有することなのだから。  しばらくして落
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小説「海を夢見た蛙(かわず)」ー4

「お帰りナサイ、シュンヤサン!」「お、おう……ただいま」  バイトから帰って来たら、エプロン姿の可愛い女の子が笑顔で出迎えてくれる――少し前までは想像すらしていなかった、まるでライトノベルや恋愛ゲームのような非現実的な光景に若干狼狽えつつ、ぎこちなく返事をして靴を脱ぐ。  働き者の彼女は、うちに来てから毎日、積極的に家事を手伝ってくれた。買い出しは難しいが、掃除や洗濯、食器洗いなどはお手の物のようで、母はとても喜んでいる。 「シュンヤサン。朝ごはん作るしましタから、食べてくだサイ!」 「え……これ、タオファさんが作ったの!?」  食卓に置かれたのは、いわゆる中華粥だった。湯気と共に優しい匂いが漂い、鼻腔を擽る。蓮華で一口目を掬い、吐息で冷ましてから口に入れると、柔らかい食感と鶏の出汁が染み渡り、俺の胃袋を満たし、疲れ切った心を癒していく。 「あノ……美味しいでスか? シュンヤサン」  ずっと傍らで立っていた彼女が、俺の顔を伺いながら尋ねる。 「うん、美味い。すっげえ美味いよ、タオファさん」 「ホントでスか!? 嬉しいでス!!」  俺は親指を立てただけなのに、彼女は頬を赤く染め、満面の笑みでガッツポーズを決めて喜んだ。大袈裟な反応にたじろいでいたその時、俺に向けられていた母と姉のいやらしい視線に気づく。 「あらやだ、新婚さんみたい! そのままお嫁に来てもらったら?」  ド直球なワードを聞いた途端に咽てしまい、しばらく咳き込んでから言い返す。 「な、何言ってんだよお袋!!」 「とか言っちゃって、まんざらでもないんじゃないの? ねぇ、タオファさん」 「顔真っ赤だし。わっかりやす!」
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海を夢見た蛙(かわず)ー3

「あらあらあら、まぁまぁまぁ! あなたが、タオファさんなのねぇ!?」 日が傾き出した頃に帰宅した俺たちを出迎えた母の顔が、彼女の姿を捉えた途端に輝き出した。事情は、既に電話で説明済みである。 「ハイ、初めましテ。私、李桃華でス。突然、スミマセン」 「あらまぁ、日本語お上手ねぇ! さ、どうぞ入って入って!」  息子の文通相手との対面が、余程嬉しいらしい。こんなに上機嫌な母を見るのは久方振りである。客人用の真新しいスリッパをいそいそと取り出して、母は笑顔のままリビングへ彼女を促した。  滅多に使わない上等な陶器にジャスミンティーを淹れて、ソファーに座った彼女の前に置く。最後に母が腰を下ろしてから、俺たちは彼女の現状を説明した。 「それは大変だったわねぇ!! うちで良かったら、どうぞ泊まっていって!」 「え……でも、私、お金が、払えませんでス」 「そんなのいいのよぉ、うちの春夜と文通してくれてたってだけで十分有難いんだから!!」  笑って話しながら手を払うという中年女性特有の謎めいた仕草をしながら、母は調子よく答えた。 「私は、夕夏と春夜の母親で、星(ほし)恵(え)っていうの。よろしくね、タオファさん!」 「ハイ、よろしくお願いしまス、ホシエサン。お世話になりますでス」  ぺこり、と遠慮がちに頭を下げる。表情はまだ硬い。 「そうだ、今夜はタオファさんの歓迎パーティーにしましょ! ちょうどね、餃子の材料を買ってきたところなのよ!! ビールと梅酒もあるわよ!」 「ぎょーざ……?」 「チャオズ、だよ」  また首を傾げていたので横から中国語の発音を伝えると、彼女はすぐに納得した。 「嬉しいで
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小説「海を夢見た蛙(かわず)」ー2

「春夜。届いてたわよ、お手紙」 ある日の夕方。目が覚めてからいつも通り原稿作業に取り掛かると、母がドアをノックして一通の封筒を俺に差し出した。明るい茶色に染めた短いパーマの髪故か、実年齢より若く見られがちな母も、間もなく還暦を迎えようとしている。 「ああ、ありがとう」 「結構続いてるじゃないの。いいわねぇ、若いって」  口元を指先で隠しながら、意味深な笑みを浮かべる母。 「だから、そんなんじゃねぇんだって」  しっし、と手を振って母を追い払う。なぜ彼女がそんなコメントをするのかというと、これは文通相手からのもので、しかも差出人が女の子だからである。  逸る心を抑えながら、鋏で慎重に封筒の端を切る。中から出てきたのは、和紙でできた花柄の便箋。そこには、可愛らしく美しい字で丁寧なメッセージが綴られていた。  七夕祈先生  こんにちは、お元気ですか。いつもお返事が遅くて申し訳ございません。お手紙、いつもありが とうございます。楽しく拝読しています。 そういえば、最近よく青×白の作品を描いてくださいますね。先生の推しカプは青×朱 なのに、どうしてでしょうか。でも、とても嬉しいです。だって、それは私の推しカプですから。 もうすぐ七夕ですね。天の川が見えるといいですね。先生のペンネームとサークル名はとても素 敵ですが、それは本名が天川さんだからでしょうか。 七夕が過ぎたら、梅雨も終わりますね。暑い日が続くと思いますが、どうぞお気をつけてお過ご しください。作品の更新も、楽しみにしています。                                        モモカ 「モモカさん…
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小説「海を夢見た蛙(かわず)」ー1

 北海(ほっかい)若(じゃく)曰(いわ)く、井蛙(せいあ)には以(もっ)て海を語るべからざるは、虚に拘(かかわ)ればなり。夏(か)虫(ちゅう)には以て冰(こおり)を語るべからざるは、時に篤(あつ)ければなり。曲士(きょくし)には以て道を語るべからざるは、教えに束らるればなり。今 爾(なんじ)は崖涘(がいし)を出でて、大海を観、及ち爾の醜を知れり。爾将(まさ)に与(とも)に大理を語るべし。  黄河の神・河(か)伯(はく)が初めて海を見た時、その大きさに驚いた。河伯に対し、北海の神・若(じゃく)は言った。  井戸の中の蛙に海の広さを語っても、彼は理解できない。夏の虫に氷の冷たさを言ってもわかってもらえない、なぜなら彼らは夏しか知らないからだ。己の世界が狭い者に対して真理を解いても、伝わるわけがない。彼らには、乏しい知識や経験しかないからだ。  しかし今、あなたは海の広さを知り、己の愚かさを知った。今、あなたは、真理が理解できるようになったのだ。                    *  世間の理想通りに生きていける人間なんて、きっとほんの一握りしかいない。きっと、子供の頃の俺が今のこの有り様を見たら、大いに失望することだろう。 「お買い上げありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」  斜め三十度の会釈、手は臍の前、左手が上。マニュアル通りの、機械的な所作。返事がないのは当たり前、蔑みの眼差しと舌打ちならまだいい方。絡まれて罵詈雑言を浴びせられた時は、申し訳ございません、申し訳ございませんと平謝り。ただひたすら、相手が満足して帰って行くまで。 「お先に失礼します……
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小説「人魚を祀る者たち」ー5(最終回)

 打ち寄せる波が、青白く光っている。夜光虫と呼ばれる海洋プランクトンがその正体で、波による刺激に反応して発光するという。 波音に耳を澄ませ、海面を照らす満月を見つめる。その白い光は、俺のことを待ってくれている人の姿を指し示す。ウェットスーツを着た俺は、ダイビングの器材を携え、そこへ向かっていた。  俺が、初めてダイビングをした場所。俺が、初めてかの人と心を通わせた場所。波打ち際に飛び出た岩の上に、その人は腰かけていた。月明かりに、下半身の青い鱗が煌いている。 「紫月さん」  呼ぶと、すぐこちらに振り返った。瞳は潤み、頬には幾筋もの涙の痕がある。  彼女は上半身もほとんど鱗に覆われていて、脇には鰓のような線、腕には鰭があり、指と指の間には薄い膜がついていた。奇妙な感覚ではあったものの、それでも彼女は紫月さんで間違いない、という確信があった。  俺は、公衆電話から神社に電話をかけて、彼女をここへ呼び出していた。あなたの正体と島の秘密がわかりました。話をしたいので次の満月の日の午前0時に月海浜まで来てくださいませんか、と。  なつき、と呼ぶように彼女の唇が動いた。しかし、声は出ない。駆け寄り、触れることも叶わない。そのもどかしさに、指を震わせている。 「話せなくなるっていうのは、アンデルセン童話と同じなんですね。だけど……まさか、人魚の血を飲んだ人が、不老不死になるだけじゃなくて、人魚そのものになるだなんて思いもしませんでした」  あの日、高槻潮音が見せてくれた写真。その端に写っていたのは、間違いなく、『今』と全く変わらない紫月さんの姿だった。笑いぼくろが同じ位置にあったのだから、別
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小説「人魚を祀る者たち」ー4

「ああ、荻野さんですね! お待ちしておりました、どうぞこちらへ!」  煩わしいことに、方向音痴だという教授に宿までの道案内までさせられてしまった。出迎えたのは島にある唯一の民宿の主人、高槻(たかつき)孔(こう)明(めい)である。名前だけで父親が大の三国志好きだったことがわかるその人は笑顔を絶やさない豪快な男で、胡麻塩のような顎鬚と綺麗に剃った頭、これでもかという位膨れた大きな腹が特徴だ。彼は雄二朗さんの悪友で、鮪の解体を得意とする元漁師。腰を痛めて現役を引退し、今では一人前の料理人として宿泊客を喜ばせている。 「じゃあ、俺はこれで」 「ああ。有難う、凪月くん」  礼を言う相手の顔を見もせずに、踵を返す。ズカズカと音を立てて廊下を歩き、座り込んで靴を履こうとする。  直後、目の前の扉が開かれた。現れたのは、少し長めの髪を二つに分けて結んでいる少女。聞き慣れた小さめな声で、あれ、癸くん、と続けて口にする。教室以外で、彼女――高槻潮(し)音(おん)と会うのは、この時が初めてだった。 「そうか、ここが君の家だったのか」 「うん。……あのね、癸くん」  すれ違おうとした瞬間、遠慮がちに引き留められた。苛立ちを隠せないまま、黙って振り向く。 「余計なお世話かもしれないけど……癸くんは、元の学校に戻った方が、いいんじゃない、かな」 「えっ……」  らしくもなくストレートな発言を聞いて、一瞬耳を疑った。いつも優しげな表情をしている彼女もまた、俺を疎ましく思っているのだろうか。嫌味な東京者を追い出して、平穏な学校生活を取り戻そうとしての提案なのだろうか。 「あ、ごめん、そんなつもりじゃなくて……
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小説「人魚を祀る者たち」ー3

 俺はライセンス取得のための講習を放課後に雄二朗さんから受け、週末の僅か二日間で海での実習を終わらせ、新米ダイバーとなった。学ぶことは数多く、テキストも約二センチという分厚さで初めは戸惑ったが、紫月さんがつきっきりで教えてくれたので難なくダイバーデビューを果たせたのだった。 彼女と海に潜るようになってから、教室の扉が軽くなった。伯父と顔を合わせることも億劫だったはずなのに、家に帰れば彼女がいて、すぐに海の世界を二人で満喫することができた。しかも、二人っきりで。それが、今の俺にとって最も大切なひとときとなっている。  恋をしているんだ。好きなんだ、紫月さんのことが。これまでは恋愛に何の関心も持たなかった俺でさえ、認めざるを得ないところまで来てしまっている。  彼女に恋人がいるという噂はない。だが、毎日一緒に潜ることができる幸せを壊したくなくて、俺に想いを告げる勇気はなかった。我ながら、この臆病っぷりに自分でも呆れてしまう。  そうだ、このままでいい。これから何があったとしても、現状維持に徹しよう。彼女にとっての可愛い後輩であればそれでいい。それ以外は、何も望まない。  せめて、彼女に相応しい男になるまでは――。 「……くん、癸くん。どうしたの、もう帰っていいんだよ?」 「えっ、あ、そうだな、ごめん。何でもない」  いつの間にかホームルームが終わっていたらしく、慌てて席を立つ。殆ど担任の話を聞いていなかったが、恐らく問題はないだろう。  一学期が幕を下ろし、明日からは遂に夏休みだ。しかし、一応受験勉強をしなければならない三年生にとってはあまり有り難くないものかもしれない。ダイビング
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小説「人魚を祀る者たち」ー2

 蝉が鳴き始めた。太陽がアスファルトの地面を照らし、風は湿り気を帯びている。俺はようやく慣れない学ランから解放されて、白襟の半袖シャツ一枚で学校へ向かう。 季節が変われば、新しい環境にも順応するものだ。目的地への道のりも、途中で顔を合わせる島民も、どの家に誰が住んでいるのかも、家主がどんな仕事をしているのかも、どの畑で何が育てられているのかも、全てわかるようになった。  しかし、教室の扉は、いつまで経っても重いままだ。 「おはよ、癸くん」 「あ、うん……おはよう」  四人しかいないクラスメイト。その中で、声をかけてくれるのは大抵隣の席の女子だけだった。残りの男子二人も、相手にしてくれないわけではなかったが、どこか余所余所しく、なるべく関わらないようにしようと顔に書かれてあるようだ。先程の彼女にしても、親しいと表現できるような仲ではない。他学年と廊下ですれ違っても、反応に差はない。要するに、友達と言える存在が未だにできていないのだ。  他所者が簡単に受け入れられるとは思っていなかったが、ここまでとは――頬杖をつき、窓の外を眺めながら、無意味にシャーペンの芯を出し続ける。ぽろ、と力なく机の上に芯が落ちた時、ちょうど担任の教師が入ってきて、教壇に出席簿を置いた。  こんな状態だから、部活動という名の同好会にも所属していない。こんな田舎の離島に学習塾なんて気の利いたものがあるはずもなく、放課後の俺の居場所は伯父と伯母の住む家だけだった。  我ながら、情けないと思う。受験生とはいえ、遊ぶ相手も場所もろくにないなんて。東京にいた頃とは何もかもが違った。こんなはずじゃなかった、母さんが死んだ
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小説「人魚を祀る者たち」ー1

 親父は、海で命を落とした。  遺体は、地元のダイバーが偶然見つけたらしい。鮫に腹部を噛まれた痕があり、死因は容易に想像できたが、不可解な点がいくつもあった。  まず、服装。ウェットスーツでもなければ水着でもなく、ただの普段着のままだったという。つまり、意図的に海へ潜ったわけではないということだ。死亡推定時刻が深夜であったことから、溺れていた人を助けようとしたという仮説が成り立つ余地もない。  次に、鮫の歯型には合わない鋭利な刃物の痕跡。それは見事に親父の心臓を貫いていて、そこから流れ出した血が鮫を誘き寄せたと想像できる。よって、海難事故ではなく殺人――親父を刺殺した後、何者かが遺体をそのまま海へ打ち捨てたという結論に至る。  自殺する理由もなければ、殺される覚えもないはずだった。何故なら彼は、どこにでもいる平凡な漁師としてその島で過ごしてきた男だったからだ。人あたりが良く、島の皆と顔見知りで、人間関係のトラブルも、金銭関係の諍いも起こしたことがないという。  そんな彼と俺の母さんが東京で出会い、恋に落ち、想いを遂げた。母さんが俺をその身に宿した時、結婚しよう、と彼は言った。彼女は喜んで頷いた。  だけど、すぐにはできない。一度島に帰って両親に伝えて来るから、東京で待っていて欲しい。大丈夫、必ず戻るから。子供が生まれる前に、必ずお前のもとへ行くから。  しかし、二人が再会を果たしたのは、彼岸でのことだった。母さんは、事故で他界した。パートの帰り道、歩道橋の階段で足を踏み外し、転落死してしまったのだ。  けれど、俺はそれを事故死だとは思っていない。何故ならその頃、母さんはストーカ
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小説「ニライカナイ」ー5

 容疑者・大城雅貴の供述は、次のようなものだった。 被害者・金城辰巳は雅貴の恋人・新垣美穂に思いを寄せていた。しかしその恋は叶わず、美穂は雅貴と恋人同士になり、更に将来まで誓い合うまでの仲になった。辰巳は恐らくそれに嫉妬し、東京で働いていた彼女の後を尾行して強姦したのだろう。彼女は、辰巳の子を身籠ってしまったことに絶望し、多摩川の橋から身を投げ、自殺した。  そして、辰巳はあの日、遺跡のポイントへ向かう途中の船で雅貴にこう言ったのだ。  お前の女、最高に良かったぜ、と――。  その瞬間、雅貴の心に殺意が芽生えた。辰巳が、残圧など碌に気にしない性格であることはわかりきっていた。雅貴はそれを利用し、大海のセッティングしたタンクのバルブを僅かに開け、空気を漏らした。そうして、あの事故は起きたのだった。  金城辰成を殺したのは、辰巳をこの世に産み落とした存在を生かしてはおけないと考えたからだ。彼の母親は既に他界していたので、狙いは父親一人に絞られた。雅貴の計画に協力したのは、美穂の母親である喜友名朝美――夫とは既に離婚していた――、兄である新垣武、そして武の先輩であった高橋慎吾。彼らもかつて琉球国際大学のダイビングサークルに所属していたのだ。そして、慎吾は武から借金をしていたため、彼の申し出を拒むことができなかった。  計画の内容は以下の通りだ。まず、息子が死亡したことによって頭に血が上った辰成を例のホテルに泊めさせるため、部下である武が部屋を予約。そして、清掃スタッフである朝美が辰成と武が泊まる部屋を清掃している間、ベッドの裏側に武のダイビングナイフを用意した。凶器をそれにしたのは、
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小説「ニライカナイ」ー4

「えーっ、台風が発生したぁ!?」  昼下がりのキャンパスの片隅で大声を上げたのは、遼平だった。 「うん、そうなの。石垣に行く便には乗れそうなんだけど、もうあっちは波浪警報が出てるし、ダイビングはできないと思うわ」  そう言ったのは、発案者である渚だった。 「そんなぁ、楽しみにしてたのにぃ!!」  悔しそうに頭を掻きむしる真珠。せっかくセットした髪が台無しよ、と窘める渚。 「それじゃあ、あっちに行ってもほとんど何もできないな。残念だが、キャンセルして大人しく俺たちも台風対策をしよう。こっちにも来るようだからな」  そう言ってスマホを取り出したのは、篤志だった。冷静に発言する彼を、恨めしそうに睨みつける遼平。 「いいよな、大海?」 「……えっ? あ、ごめん、何の話?」 「お前、こないだからずっと上の空だよな。台風で石垣行きが中止になったって話だよ!」 「あ、そうなの? じゃあ、仕方ないよね。キャンセルしよう」 「……大海。お前、本当に大丈夫か? まだ気になっているのか、あの事件のこと」 「うん……ごめんね、心配かけて」 「気にすんなって、あれはお前のせいなんかじゃねーんだから! 警察も納得してくれたろ?」 「そうだよ、ヒロミちゃん! あれは金城先輩本人が悪いんだから!」 「……うん、ありがとう。二人とも」  遼平と真珠が懸命に励ましてくれたが、大海が気にしているのは一件目の事故ではなく、二件目の殺人事件の方だった。あの数字が、どうしても犯人の残したメッセージであるような気がしてならないのだ。  13579、2468……その数字のことばかり考えながら、石垣行きを諦めた同級生たちの後を
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小説「ニライカナイ」ー3

「ダイバーズナイフなんか、持ってきてるわけないじゃないですか!!」  ホテルのロビーで刑事から取り調べを受けていたのは、山内友和だった。その隣には、口を噤んだままの友弥が座っている。 「私と息子のものは器材と一緒に船の上に置きっぱなしですよ、疑わしいなら島の駐在に調べさせてください!! 第一、私たちは八丈島から飛行機で来たんですよ!? 飛行機に刃物なんか持ち込めるわけないじゃないですか!! それに、私たちは一歩も部屋から外に出てないんだからそんな凶器買えやしないんですよ、なぁ、友弥!!」  傍らの息子に聞いても、彼はコクコクと頷くだけだった。 「しかし、あなた方には動機が……」  刑事がたじろぎながら反論すると、友和は更に語気を強めて言った。 「娘が殺された恨みから殺したとでも言うのですか、まだ事件なのか事故なのかもわからないのに!? もう我々の心をいたずらに傷つけるのはやめてください、刑事さん! まだ家族を喪った痛みも癒えていないんですよ!?」  静かに泣き出した友弥を、強く抱きしめる友和。とうとう、刑事は何も言えなくなってしまった。  ホテルのスタッフに監視カメラを調べさせると、確かに山内親子は部屋の外へ出ていないようだった。チェックイン前に被害者の部屋に入ったのは清掃スタッフの喜(き)友名(ゆな)朝(あさ)美(み)、チェックイン後に入ったのは被害者とその部下である新垣(あらがき)武(たけし)、そしてルームサービスのために訪れたホテルのスタッフである高橋(たかはし)慎(しん)吾(ご)だった。 「喜友名さん。清掃の時、不審なものは確かに何もなかったのですね?」 「はい、もちろ
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小説「ニライカナイ」ー2

「だから、何度も言ってるじゃないですか!! おれは、金城先輩のタンクが満タンだったことをちゃんと確かめたって!!」「しかしね、もはやそれを証明する術はないんだよ。友弥くんの証言によると、被害者の金城辰巳はエア切れを起こしていたらしいじゃないか」 「でも、おれはセッティングのあと器材に触ってないし、船が移動している間にタンクを取り換えられるわけないじゃないですか! それに、空気の入ってないタンクが最初から船にあると思いますか!? あるわけないでしょう、まだ誰も潜ってなかったんだから!!」  事件が発生した後、ダイビングサークルの面々は従姉妹島に残り、警視庁から派遣された刑事たちから事情聴取を受けていた。真っ先に疑われたのは、辰巳の器材をセッティングした大海だった。彼らは島の小さな交番で向かい合って話していたが、先ほどから押し問答が続いている。 「刑事さん、ちょっとよろしいでしょうか?」  そこへ、雅貴が割って入った。君は、と尋ねられる前に、事故が起きたのは辰巳自身の責任であると彼は言った。 「彼は僕の二つ上の先輩で、卒業して東京へ行ってもよく潜りに来ていました。彼は傲慢な性格で、いつもセッティングは後輩にさせていました。そして、いつも碌に残圧を確認せずに潜っていたことも知っています。加えて、あの体型では通常よりもエアを消費しやすいことはダイバーなら誰でも察しがつきます。なので、大海くんに責任は一切ありません。これは、金城辰巳本人が引き起こした事故です」  堂々と話す雅貴を前に、思わず口を噤んでしまった刑事たち。迷ったように視線を泳がせてから、しかし、と片方の刑事が続けた。 「今の
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小説「ニライカナイ」ー1

 ニライカナイとは、琉球神道における「神々の国」及び「生命が生まれ、死んだ者の魂が祖霊神として蘇る国」のことである。言わば、「常世の国」にあたるものだ。 琉球の島々では、東の海の果て、またはその海底にニライカナイがあると信じられてきた。つまり、太陽の昇る場所にそれがあると考えられてきた。そしてニライカナイからやって来る神々によって豊穣がもたらされ、人々の生活が支えられているのだと語り継がれてきた。  その存在が証明されたことは、未だかつてなかった。そう、あの日までは。                 *  琉球国際大学ダイビングサークルの面々は、夏休みの初日、那覇空港発羽田空港行きの飛行機の中にいた。彼らは到着後ホテルで一泊し、翌朝フェリーに乗って小笠原諸島父島・母島を経由し、従姉妹(いとこ)島(じま)へ向かう予定だ。  従姉妹島は、母島と硫黄島の間にある小さな有人島である。主な観光資源はなく、ダイバーぐらいしか訪れない知る人ぞ知る島であったが、あるものが発見されたことで、昨今注目を浴びている。 『次のニュースです。先月、小笠原諸島従姉妹島近海で発見された海底遺跡の件で、経済産業省資源エネルギー庁は、その下に大量のメタンハイドレートが発掘される可能性が高いとして、調査を積極的に進める方針であると発表しました。一方で、東京神道大学神道学部神道学科の入(いり)江(え)奈(な)津(つ)彦(ひこ)教授は、その遺跡は我が国にとって重要な史跡であると述べ、メタンハイドレートの発掘に反対する意思を表明しています。続きまして……』  琉球国際大学二年・赤(あか)郷(ざと)大海(ひろみ)は、イヤ
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小説「ユナイタマの島」ー11(最終回)

 震源地は石垣島の北北西沖約六十キロ、マグニチュードは六・八。赤間島の最大震度は五強、石垣・西表・鳩間・多良間(たらま)島は五弱であった。津波の被害は当然あったが、計算よりも波は低く、赤間島以外に幸い大きな影響はなかったという。威力が抑えられたことに多くの専門家たちが首を捻らせたが、大海たちにだけはその理由がわかっていた。ユタとしての彼の願いが、自身が最後の生贄になることで天に通じたのだ。 波は三度往来したが、赤城山の頂上に避難した島民たちと東側の牧場の家畜、そして空港は全て無事だった。日が沈む前に自衛隊ヘリが下山の困難な老人たちを優先的に救出し、他の人々は空港で一夜を明かしてから飛行機で那覇や宮古、石垣へ運ばれていった。大海たちは石垣へ渡り、島の中学校を卒業。そして全員で示し合わせて、那覇にある甲子園常連校へ進学したのだった。 「ヒロミ、今日ってミオウさん来るんだったよな!?」  部室で制服に着替えながら、遼平が尋ねる。 「うん、もう空港着いたって! じんべえざめで待っててって伝えてあるよ」  じんべえざめとは、彼らが足繫く通う沖縄料理の食堂のことである。 「おい、アツシも行くよな?」 「ああ、勿論。五年振りの再会だからな」 「じゃあ、とっとと着替えちまおうぜ!」 「バカジマ、ボタンずれてるぞ」 「げっ、マジか!!」  篤志に指摘されてようやく気づき、慌てて直す。一度寮に戻って通学鞄とエナメルバッグを置き、財布とスマートフォンだけを持って、彼らはじんべえざめへ向かった。 「いらっしゃい……って、またあんたたちかい! そうだ、県大会優勝おめでとう!」 「ありがとう、リエコおばあ
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小説「ユナイタマの島」ー10

※このページの最後に津波の描写があります。ご注意ください。「大海、そこのパイナップルを全部切ってお皿に盛りつけて。美桜さんは、このお刺身をお願いします」  上客を迎える日の夕方。聡美と大海、そして美桜の三人は、与那覇家の台所で次々と仕事をこなしていた。その日は朝からベッドメイキングや食材の調達で忙しかったが、休んでいる暇はない。聡美はあぐーじゅーしぃ――あぐー豚の炊き込みご飯――を炊く準備をしながら、二人に指示を出している。  リビングの中央に置かれたテーブルで、美桜と大海は作業に取りかかる。しばらくして、向かい側で刺身を切っている美桜が、大海に目配せをした。テーブルに置いたスマートフォンで、録音を開始したという合図だ。頷き、パイナップルの皮を剥ぎながら、聡美に尋ねる。 「……ねぇ、お母さん。どうしてわざわざ社長をここに呼んだの?」 「だって、おじいちゃんは元気のないご老人だもの。最初は東京に来てくれって言われたけど、老体を労わって欲しいって食い下がったのよ」  おばあちゃんが亡くなった後すっかり弱っちゃったからね、と言いながら二品目の調理を始める。 「社長さんは、何でおじいと話がしたいのかな?」 「決まってるでしょ。あの人たちはおじいちゃんに、リゾートホテル建設に反対する島民たちを説得して欲しいのよ。島のみんなはもう町長になんか期待してないけど、昔漁労長だったおじいちゃんの信頼はまだ厚いみたいだからね」  食材棚から車麩を取り出し、薄く切って水に戻している。どうやら、副菜はフーチャンプルーのようだ。 「でもさ、おじいだって本当は、リゾートホテルなんて建てて欲しくないんじゃない
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小説「ユナイタマの島」ー9

 ランタンを掲げながら、二人で暗い山道を歩いた。ハブに咬まれないよう用心しながら登っていたが、幸いそれに遭遇することはなかった。 山頂に辿り着いた時、満天の夜空に一筋の閃光が走った。天の川も見える。 「凄い……」  まるで宇宙にいるかのような光景に圧倒されていると、東の方角から、地響きのように何者かの声が聞こえてきた。咄嗟に跪く波音。 「ヒロミ、私と同じ姿勢になって! 東(あがり)方(かた)大(うふ)主(ぬし)よ!!」  やはりここも御嶽だったのか、と一人納得しながら彼女に倣う大海。 ――来たか、ティダヌファ。そして赤間のユタよ。 「……初めまして。お話ししたいことがあって参りました、東方大主様」  こんな言葉遣いでいいのだろうか、そもそも本当にこれは自分と神との対話なのだろうか。緊張と困惑で手が震える。しかし、頬を抓ると確かに痛むので、やはり夢ではないようだ。 「彼女と、ユナイタマから聞きました。島を守るために、おれの祖父が生贄を捧げていることを」 ――ああ、そうだ。それがどうした? 「……何故、この島なのでしょうか? あなた様が、人間による傲慢な行いによってお怒りになっていることはわかります。けど、環境破壊が進んでいるのはこの島だけではないはずです。それなのに、どうしてこの島に天罰を下すのでしょうか」 ――貴様がいるからだ、ティダヌファ。 「おれが……!?」 ――ああ、そうだ。貴様が邪魔なのだ、ティダヌファ。貴様はティダから特別な力を与えられ、そして守られている。我々が下す罰から、次々と人間を救い出してしまう。それでは罰を与える意味がない。人間を悔い改めさせることができなく
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小説「ユナイタマの島」ー8

「大丈夫、大海!? ねぇ開けて、お願いだから! 返事もできないくらい痛むの!?」 息子の部屋のドアを、叫びながら叩く聡美。中からは、苦しそうな呻き声と荒い呼吸が聞こえてくる。 「だい、じょぶ……だから、ほっといて、おかあさ……っ」  島を出ようと聡美に言われてから、大海は毎晩激しい頭痛に襲われるようになった。割れるような痛みと吐き気に耐えながらベッドで一人悶える夜が続いたが、聡美が診療所へ連れて行っても身体に異常はなく、ストレスのせいだろうとしか言われなかった。 鎮痛剤を飲んでも治まらず、その恐怖と苦しみに怯える日々。やがて、彼は痛みを感じている間、何者かの声を聞くようになった。それは人魚の歌ではなく、他の誰にも届いていないようで、初めはほとんど言葉として聞き取れなかったが、少しずつわかるようになっていった。  ティダヌファヨ、ウタキ、イケ。ユタ、オマエ、ムカエ、クル……。 「大海、波音ちゃんが来てくれてるわよ。どうしても、あなたに会いたいって言ってるんだけど……」  波音。不思議と、痛みが彼女の名を聞いた途端に和らいだ。よろめきながら鍵を開け、ドアの隙間から制服姿の彼女の顔を覗く。その瞳から感情を推し量ることはできなかったが、彼女が彼の手に触れると、嵐が去って凪いだ海のように痛みは完全に静まった。  行くわよ、と唇だけで告げて、波音はジャージを着たままの大海の手を引いて外へ出た。キャンピングランタンで夜道を照らし、突き進む。何かを悟ったのか、聡美が二人を引き留めることはなかった。  大海が連れて来られたのは、赤間御嶽だった。鳥居を潜り、聖域に足を踏み入れる。 「……聞こえたで
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小説「ユナイタマの島」ー7

 人魚の謎も事件の真相も解き明かされないまま、大型連休は幕を下ろした。体験ダイビングのブログは読者に好評だったが、残念ながら予約に直結することはなかった。学校にいる間、大海は波音の様子をさり気なく観察していたが、特に大きな変化は見られなかった。普段通り無言で学校生活を送り、渚や真珠と手話で楽しそうにお喋りをしている。  しかし、気を抜くことはできない。一月から四月まで、満月の夜に事件は必ず起きているのだ。五月も間違いなく、ネットで誘われた自殺願望者が来島して殺されるに違いない――そう信じて大海と美桜、そして篤志は毎晩SNSを確認していたが、それらしきやり取りは何一つ見つけることができなかった。 「どうしよう、満月の日まであと一週間くらいしかないのに……」  疲れ果てた大海は、自室のベッドで仰向けになりながら篤志と電話をしていた。網戸の向こうには、上弦の月が浮かんでいる。 「なぁ、大海。今更だが、犯人はもう同じ手口を使わないんじゃないのか?」 「えっ……!?」  驚きのあまり、思わずガバリと起き上がる。 「三月までは謎の行方不明事件のままで済んだのに、四月の岩田さんは遺体が見つかってしまったせいで、毒が盛られていたことがわかっただろう。警察は自殺だと断定してしまったが、他殺を疑っている人間が俺たちの他にもいるかもしれない」 「そ、そうだよね……」  そういえば、入水自殺で毒が検出されるのは不自然だと美桜も言っていた。 「例えば、今までの犠牲者の遺族たちだ。岩田さんの母親が県警に再捜査を何度も頼み込んでるっていうネットニュースがあっただろう? それに感化されて、他の犠牲者の遺族も訴
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小説「ユナイタマの島」ー6

 連休の最終日は、爽やかな風の吹く晴天だった。ヘルパーとして働いている美桜はそれまで宿とダイビングショップの大掃除や草刈りに専念していたが、我慢の限界に達したのか、居間で大海と顔を合わせた途端にこう言った。「ねぇ、ヒロミくん。今日一緒にダイビングしない?」 「いいけど……ミオウさん、昨日お酒飲んでないよね? ちゃんと寝れた?」 「飲んでないし、ぐっすり九時間寝たから大丈夫だよ」 「わかった。じゃあ、カズキさんに聞いてくるね」  ダイビングをしたいと以前から言ってはいたが、もしかすると気晴らしのためではなく、喜一に冷たくされたことで泣いてしまった自分を慰めるためかもしれない。そう思うと、大海は胸の奥が熱くなるのを感じた。  突然の申し出にも関わらず、一喜は二つ返事で了承してくれた。彼は船に燃料を積んでくると言って先にビーチへ向かい、大海はその間必要な器材を軽トラックに乗せることになった。  美桜の身長・体重・足のサイズが書かれたメモを確認しながら、ショップの奥にある器材置き場を物色する。ちょうどいいサイズのウェットスーツを探していると、美桜が大海のもとにやって来た。 「ヒロミくん、ボクも手伝うよ。何したらいい?」 「いいよ、ミオウさんはお客さんなんだから」 「でも、ヘルパー待遇で半額にしてもらっちゃってるもの。何もしないわけにはいかないよ」 「そう? じゃあ、ちょっと重いけど、タンクを運んでもらいたいな」  少し遠慮がちな口調で、敷地の奥のコンプレッサー小屋を指差す。 「タンクって、酸素ボンベのこと?」 「厳密に言うと、酸素ボンベではないんだ。周りの空気を取り込んでそれを圧縮して
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小説「ユナイタマの島」ー5

 大型連休は結局一件の予約もないまま始まってしまったが、その数日間は大海たち赤間中学校野球部ナインにとっては大忙しであった。八重山(やえやま)諸島――石垣島から与那国島まで――の各中学校球児のための軟式野球大会『カンムリワシ杯』が開催されるためである。  それは十年前、『冠鷲』という泡盛を製造している石垣島の酒造会社社長が八重山地区中学校野球協会に頼み込んだことがきっかけで始まった。社長曰く、自身もかつて球児であったことから、八重山の野球少年たちにもっと活躍の場を与えたいという思いがあったのだそうだ。  会場は石垣市内の野球場なので、大海たちは開会式前日に飛行機で石垣島へ渡る必要がある。そのため、彼らは学校で集合してから一斉に空港へ向かう予定になっていた。 「待たせたな、大海」  玄関で持ち物を確認していると、後ろから一喜がやって来た。上半身は黒いキャップと青いかりゆしウェア、下半身はベージュの半ズボンに紫のギョサンという軽やかな出で立ちをしている。不幸中の幸いと言うべきか、ダイビングショップの方にも連休中の予約は入らなかったので、今回は珍しく一喜が保護者として同伴することになったのだ。 「……おじいは? 来てくれないの?」 「大海、親父はもう若くねぇんだ。ワガママ言うな」 「うん……」  公式戦の機会は滅多になく、本来なら心待ちにしていたはずなのだが、事件のことが気掛かりで大海は素直に喜べていない。師匠であり憧れの存在でもある喜一が来ればと淡い期待を抱いていたのだが、それもあっけなく砕け散った。 「ほら、とっとと行くぞ」  赤毛の頭に手を乗せ、促す。黒いエナメルバッグを肩に掛
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小説「ユナイタマの島」ー4

 岩田(いわた)俊史(としふみ)、三十二歳無職、独身、東京都在住。それが、遺体となって発見されたてぃだぬかじの宿泊客の身元であった。県警による司法解剖の結果、胃からは大量の塩酸テトラヒドロゾリンが検出された。その物質には目の充血を解消させる血管収縮作用があるため市販の目薬や点鼻薬に含まれていることが多いが、過剰な経口摂取により人を死に至らしめることが確認されている。海外では、目薬による毒殺事件や毒殺未遂事件が後を絶たないという。 捜査によって宿に残された岩田の荷物から遺書と鬱病の診断書が見つかり、またレシートから彼自身が都内のドラッグストアで目薬を購入していたことも判明し、県警は自殺という結論を出した。新聞はもちろん、ネットニュースでも大々的に取り上げられた影響で、ゴールデンウィークの予約は全てキャンセルになってしまった。 「そっかぁ。まぁ、しょうがないよねぇ……」  予約状況の報告をしようと、大海は美桜の部屋を訪れた。美桜はただそれだけ言って、意味もなく天井を仰ぎ見る。 「ごめんなさい。せっかく協力してもらったのに」 「何で謝るの? ヒロミくんのせいじゃないでしょ」  美桜のぎこちない笑みが、大海の胸をより強く締めつける。 「あの……もう、帰ったっていいんですよ」 「えっ?」  真意を問うように、目を見開く美桜。 「だって、イヤじゃないですか? こんな気味の悪いところ」 「…………」  正座をした膝の上で拳を握り、俯く大海。声は震えていて、今にも泣き出しそうになっている。 「ミオウさんは、神秘的で面白いって言ってくれたけど……もし、あなたにまで何かあったら……」  言葉も絶え
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小説「ユナイタマの島」ー3

「あの……大丈夫ですか、ミオウさん」  マッコウクジラの死体を目の当たりにしてから数日間、美桜は思いつめた表情で虚空を見つめることが多くなった。大好きなギターにも手をつけておらず、流石に不安になり、大海は部活帰りに彼の部屋を訪ねた。 「ああ、ごめんね、心配させちゃって。ちゃんとご飯は食べてるよ? でも、やっぱり、どうしても悲しくて……」  胡坐を掻いて壁に寄り掛かり、ふわりと揺れるカーテンの向こうの水平線を見つめながら呟く。 「ボクたち人間のせいで、一体どれだけ罪のない生き物たちが犠牲になっているのかと思うと……」 「…………」  涙を流していなくとも、彼の悲しみは痛いほど伝わってくる。居た堪れなくなった大海は、何とか彼を元気づけようと、作り笑いをしながら歩み寄った。 「でもねミオウさん、いいことだってあったよ!」  ほら見て、と宿の予約台帳を広げた。空白だったゴールデンウィーク中の予約表が、少しずつ埋まり始めたのである。 「きっと、あの投稿を見た人たちが申し込んでくれたんだよ! ミオウさんのお陰だよ、ありがとう!!」 「……そっか、それは良かった。でもヒロミくん、お客さんの個人情報を人に見せちゃダメってお母さんに言われなかった?」 「あっ……」  しまった、と思い台帳を即座に閉じる。宿のスタッフとしてはまずいことをしてしまったが、暗い表情をしていた美桜がようやく笑顔を見せてくれた。胸を撫で下ろした大海は、その勢いのまま彼の興味を引きそうな提案をした。 「ねぇ、ミオウさん。三線、弾いてみたくない?」 「三線って、写真撮った時に貸してくれたあの楽器のこと?」 「そう! 三線の先生
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小説「ユナイタマの島」ー2

「ねぇ、ジャン・ミシェル美桜って知ってる?」  翌日、大海は同級生にCDを見せながら彼のことを聞いた。宿のパソコンを借りてチェックしてみたところ、彼が主にネット上で活動しているミュージシャンであることがわかったからだ。 「うん、知ってるよー! お母さんがフランス人っていうギタリストでしょー?」 「いや、シンガーソングライターって言ってたけど……」 「言ってた?」  しまった、と思い口元を隠す。有名人なら下手にうちに泊まっているなんて言わない方がいいのではと考えてのことだったが、それは杞憂に終わった。 「なーんだ、ヒロミちゃんのところに泊まってるんだー!」 「え? 知ってたの、島にいること?」  後ろの席の女子・宇留間(うるま)真珠(しんじゅ)は、驚いている大海を不思議そうに見つめ返した。 「だってー、うちのお母さんが空港で見たって言ってたもーん! お忍びなんてこの島じゃ無理だよー!」  当たり前でしょー、と呆れた調子で言う彼女を前に、そうだよなと納得する。離島ならどこでも同じだろうけれど、どこの誰が何をしたかなんて、すぐさま知れ渡ってしまうのは百も承知だったのに。 「よぉ、ヒロミ! わりぃけど、あとで数学の宿題よろしくな!」  バシン、と肩を強く叩かれ振り返る。そこには、愛用のサンバイザーを付けて来た遼平が白い歯を見せて立っていた。 「また宿題見せてもらうのー? だからみんなからバカジマくんって呼ばれちゃうんだよ、リョウヘイちゃーん!」 「うっせーな、オレは野球を極めんだからいーんだよ! お前こそそのダセェ団子頭なんとかしろよ!」 「いいんだもーん、こういうのがオシャレなんだか
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流行遅れ

今頃コロナってなんだよ(笑)流行遅れも甚だしい。まあ、田舎者なので流行遅れには慣れているのですけれど。でもまあ、まだまだかかる人もいるだろうから、経過なんかを書いてみましょうかね。誰かのお役にたつ可能性も無きにしもあらず。まず家族が罹って濃厚接触者ということになりました。その5日後、喉の奥にずーっと炭酸飲料でも溜めている感じにジワジワしてきました。これは来たな、と色々覚悟しました(笑)熱は一旦38度くらい上がり、解熱剤を飲みましたが、その後は微熱が5日ほど続いただけ。しつこく喉がジワジワしましたが、普通の風みたいに痛くて食べ物を飲み込みにくい、みたいなところまでは至らず、不思議な体調不良でした。一番効いたのは、体の痛さ。予防接種の時みたいな痛さがずっと続き、これはもう5日連続で予防接種したみたいな感じだな、となんか笑えてきました。一瞬食欲がなくなりましたけれど、牛乳を沢山飲んで乗り切りました。さすがは完全食品。風邪には牛乳。北海道民からの宣伝も兼ねて(笑)そして咳がしつっこいです。もう良くなって10日くらい経ったので、ウイルスはそんなにまき散らしてないと思いますけれど、外で咳をするのはやっぱり体裁が悪いですねえ。家族も全員やられたので、買い物に出ないわけにもいかず。性質的に穏やかになったとはいえ、やはり伝染病って色々面倒くさいです。皆さんもおきをつけくださいませ。
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小説「ユナイタマの島」ー1

 これは、ある島で語り継がれる人魚と津波の物語である。  昔々、島の北東に小さな村があった。ある晩、村人たちが浜辺で三(さん)線(しん)を弾き、唄を歌いながら踊っていると、海の彼方から美しい歌声が聞こえてきた。村人たちは、一体誰が歌っているのだろうと不思議に思っていた。  そして、月のきれいなある夜のこと。漁師たちが小舟に乗って凪いでいる沖へ出ていくと、大量の魚と共に、麗しい人魚が網に掛かったのだった。どうやら、不思議な歌声の持ち主はこの人魚だったらしい。 漁師たちは、珍しいものを捕まえたと大喜び。しかし、人魚は泣きながら彼らに懇願した。どうか私を海へ帰してください、そうしたら皆さんに海の恐ろしい秘密をお教えします、と。  若者は渋ったが、翁は可哀想だから放してやろうと言い、人魚は海へ帰された。そして、人魚は彼らに伝えた。  明日の朝、大きな津波が島を襲いますので高い山へ避難してください、と。  漁師たちは人魚の言葉を信じ、村人たちを引き連れて山へ逃げることにした。その前に隣の村にも伝えたが、馬鹿馬鹿しいと一蹴され、信じてもらえなかった。  夜が明け、日が高く昇る頃、村人たちは山の上から潮が異様に引いていくのを目撃した。それはやがて化け物のような大きな水の壁となって島に襲い掛かり、村をあっという間に吞み込んでしまったのだった。  村人たちのほとんどは助かったが、人魚の言葉を信じなかった隣村は壊滅してしまったという。                  *  太陽が強く照りつけている。森のガジュマルも白い砂浜も碧い海も、夏の訪れを予感して胸を躍らせている。  光はオーロラの如く
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小説「生徒会長は名探偵!」最終話「さよなら名探偵」ー5

「ママ、おはよ!」 「おはよ、じゃないわよ! 今何時だと思ってんの!?」 「大丈夫大丈夫、アタシの瞬足を以ってすれば余裕っしょ!」  階段を大慌てで駆け下り、キッチンに置かれていた弁当箱を通学鞄に突っ込む。寝起きの髪のままランニングシューズを履いた彼女・霧崎玲緒奈(れおな)は、ゼリー飲料を数秒で飲み干し、その抜け殻をゴミ箱に投げ捨てて自宅から飛び出した。 「行ってきまーっす!!」 「レオナ! 帰りにケーキ買って来るの忘れないでよ!?」 「わかってるってー!!」  十字路の角で大きく手を振り、白い歯を見せる。そして彼女は晩秋の肌寒い風を物ともせず、陸上部の活動で鍛えられた自慢の脚で駆け出した。紺色の緩んだネクタイとスカートが揺れるのは少々煩わしかったが、構わず走り続ける。獅子座生まれの彼女の短い金色(こんじき)の髪は、まるでライオンの鬣のように靡き、朝日を受けて美しく輝いている。  彼女の母・霧崎昌子は、自ら法律事務所を経営する弁護士である。扱っているのは、主に性的マイノリティの人々が社会で抱える問題――学校でのいじめや職場での不当な扱い、そして未だ異性婚カップルと同じ権利が認められていない同性婚カップルの国に対する訴訟などである。  彼女がその道を志したのは、言うまでもなく夫の影響である。彼らが友情結婚を果たし、人工授精によって玲緒奈を授かった頃にようやく日本でも同性婚が認められるようになったが、立場は事実婚のカップルとほとんど変わらず、今でも悔しい思いをしている人々が多く存在する。そのため、昌子が現在取り組んでいるのは、専ら異性婚と同性婚の差を無くすための活動となっている。
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小説「生徒会長は名探偵!」最終話「さよなら名探偵」ー4

「良介が、鬱病になった」 「…………」  彼が学校に来なくなってしまってから、一か月程経ったある日の放課後。隼人は、役員会議の終わった生徒会室に前任者たちを集め、俯きながら伝えた。窓からは、既に傾き始めた太陽のオレンジ色の光が差し込んでいる。カーテンは、冷たく乾燥した風に揺らされている。迫り来る冬の気配を感じつつ、皆が皆、悔しげに唇を噛み締めて項垂れる隼人を見つめていた。 「オレ、毎日様子見に行ってたんだけどさ。俺のせいだってずっと自分を責め続けて、日に日に顔色が悪くなってって……心療内科に行かせたら、案の定……」 「……会長のお母さんには、連絡ついたの?」 「ああ、すぐ帰国するって返事が来た。問題は……」 「……良介くんの、お父さんね?」  薫が言うと、隼人は黙って頷いた。 「美緒さんが呼べば、恐らく聖(ひじり)さんも帰国して来るとは思う。けど、結構な堅物で冷血漢なんだよ。もうとっくに離婚してるし、多分美緒さんだけじゃ気持ちを変えてはくれねぇ。そこで、お前らに協力して欲しいことがあるんだ。オレや美緒さんと一緒に、聖さんを説得してくれねぇか?」  良介にヴァイオリンを続けさせてあげてください、って――顔を上げ、瞳を潤ませながらも強い眼差しで、全員と目を合わせながら隼人は言った。 「もう、それしかねぇと思うんだよ。アイツに、生きる希望を与えられるのは……」  両膝に乗せた拳と声を震わせて、遂に隼人は目尻から涙を零した。それはどんどん溢れて頬を伝い、彼の手元を濡らす。アンタも辛かったわよねと言う代わりに、昌子はそっと彼の背に触れた。 「勿論です。私にも、協力させてください!」  い
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小説「生徒会長は名探偵!」最終話「さよなら名探偵」ー3

「薫、薫っ! 気分はどう、大丈夫!?」 「百合川先輩!! ご無事で何よりです、本当に……!!」  目覚めると、そこには保健室の白い天井、そして泣き腫らした顔の昌子と葵。その奥に、隼人と達也の姿。しばらくしてから、薫は自身が意識を失っていたことに気づいた。窓の外は、既に夕闇に包まれている。 「みんな……ごめんね、心配させて……」 「何言ってんの、アンタが謝ることじゃないでしょ!?」  ずっと薫の手を握り締めていた昌子が、更に力を込めて叫ぶ。 「達也くん……その腕、もしかして……」 「ああ、気にせんといてください! もう痛くも何ともあらへんから!」  包帯を巻いた右腕でガッツポーズをしながら、白い歯を見せる。 「良介くん……良介くんは? ねぇ、良介くんは無事なの!?」  最愛の人のことを思い出し、起き上がる薫。激しい語気に臆しながらも、昌子はそれに答えた。 「大丈夫よ。輸血が間に合ったお陰で、一命は取り留めたって」 「そう……良かった……」  心から安堵し、瞳を潤ませた薫。たまらず、彼女の細い体を抱き締める昌子。 「……ところで、何でお前が美緒さんを? 直接の知り合いじゃなかったんだろ?」 壁に寄り掛かり、腕を組んでいた隼人が尋ねる。 「うん……実はね、聞いてたの。選挙の集計の後、隼人が良介くんと話してるのを」 「はっ!? お前、あの時バレエ教室に行ってたんじゃねぇのかよ!」 「あの日はね、お休みだったの。それをすっかり忘れてて、すぐ家に帰ろうとしたら、あの噴水公園の前で二人が話してるところを見ちゃって……入りづらい雰囲気だったから、つい、隠れて聞いちゃってたの」  ごめんね、と言
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小説「生徒会長は名探偵!」最終話「さよなら名探偵」ー2

「いやぁ、素晴らしい、実に素晴らしい!! 思った通りだ、やはり僕の目に狂いはなかった! なんて美しいカトルーシャなんだ、最高だよ百合川さん!!」 「あ、ありがとう……」  その頃、ホールの控室では、演劇部の面々が忙しなく準備を進めていた。部長兼脚本家、演出家である三年B組の高遠(たかとお)譲(じょう)治(じ)は、天然パーマの髪を振り乱し、丸眼鏡が飛んでしまいそうなほどの勢いで頭を振って興奮していた。赤い刺繍がほどこされた白いブラウスと同じく赤いスカートに身を包み、色とりどりの花の冠を乗せた薫は、困惑しながら礼を言う。これは、ウクライナの民族衣装を参考にして作られたものだ。 ミュージカルのタイトルは、『魔女の娘カトルーシャ』。ベースになっているのは、『キエフの魔女たち』というウクライナの伝承である。 戦士の集団・コサックに所属している男、ヒョードル・ブリスカフカは、魔女の娘と噂されている美しい女性、カトルーシャと結婚する。しかし、彼女は本当に魔女の娘で、毎晩のように密かに行っていた魔術をヒョードルが真似てみると、彼は魔女や怪物たちの集まるサバトに飛ばされてしまった。  後半は、オリジナルのストーリーとなっている。ただの人間であるヒョードルに秘密のサバトを知られてしまったことを理由に、魔女や怪物たちは彼を殺そうとする。剣で殺されかけるヒョードルだったが、それを受けたのは、愛する妻・カトルーシャだった。私が死ぬことによって魔法を発動させ、彼からサバトの記憶を失くして家へ帰らせるから、どうか彼を殺さないで欲しい――そう言い残し、カトルーシャは息絶えるのであった、という筋書きだ。  薫は
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小説「生徒会長は名探偵!」最終話「さよなら名探偵」ー1

 眩い日の光に照らされて、白樺の大地の雪と大河の氷が溶け出す。熊は長い眠りから目覚め、町の人々は春の訪れを予感して胸を躍らせる――そんな北国の光景を思い起こさせる、甘く優しい、しかしどこか切なさも感じさせるメロディー。ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲、ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品三十五番第一楽章は、そんな曲であると良介は感じていた。それは彼が高校生活最後の文化祭でソリストとして披露するものであり、そして、プロのヴァイオリニストである母・光(こう)元(げん)寺(じ)美(み)緒(お)のデビュー曲でもあった。  文化祭の前日、彼は一人では広すぎる家のリビングでⅮⅤⅮを再生し、ソファーで頬杖をつきながら若かりし日の美緒の姿を見つめていた。真っ赤なドレスと深紅のバラのコサージュを身につけた彼女の演奏は艶やかで、堂々としている。そして、たった一人で主旋律を奏でているにも関わらず、その音はオーケストラに決して引けを取っていなかった。それどころか、指揮者に代わってオーケストラを率いているようにさえ見える。  父を裏切って不倫をし、結果離婚して自分の元を去った母には冷たく接してしまう良介だったが、彼女に抱いた憧れだけは遂に消えることがなかった。一体、この映像を何度観たことだろう。この曲を、何度聴いたことだろう。願わくは、自身も彼女と同じように、プロとして演奏したかった。その夢が叶うことはなくなってしまったが、それでも、ヴァイオリニストとしての引退を華々しく飾る曲として申し分ない――否、これ以外に考えられない。良介は自らの想いを噛み締めつつ、瞼を閉じ、耳を澄ませる。  泣いても笑っても、
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小説「生徒会長は名探偵!」第7話「君とミルキー・ウェイを」

 霧崎隼人、十七歳。彼は健康な体を持ち、両親の愛を一身に受けて育った。西洋人の血を引いてはいるものの、頭脳も容姿も恵まれている方で、何不自由なく生きてきたように見える。しかし、彼の体と心の性別は一致していなかった。 戦隊もの、ロボットアニメ、サッカー――男子が好む傾向が強いものに、幼少期の彼は一切興味を示さなかった。その代わり、彼は女子に混ざっておままごとや人形遊びをするのが大好きで、お姫様が王子様と幸せになるストーリーの絵本をよく読んでいた。欲しがる玩具はヒーローやロボットのフィギュアでもラジコンでもなく、可愛らしいぬいぐるみ。それ故、特に男子たちからいじめのターゲットにされがちだったのだ。金髪碧眼という外見がそれに拍車をかけたのは、もはや言うまでもない。どっか行け、ガイジン。キモいんだよ、男のクセに――そのような罵声を浴び続けた結果、彼は登園を拒絶するようになったのだ。  この時、彼は悟ってしまったのだ。自分が、日本人としてのみならず、男性としても異端であることを。男性として生まれた以上、男性らしく生きていかなければ、また同じように迫害されるようになるのだということを。  それから彼は転園し、周囲の男子たちの言動を模倣して、自分が本当に好きなもの、本当に欲しているものを封じ込めた。もう二度と、攻撃されないように。せめて、『普通の男子』として振舞えるように。そして何より、新しい幼稚園で初めて友人になってくれた良介に、気味悪がられないように。  そうして、西洋人らしい特徴を除けば、彼は『ごく一般的な小学生男子』となり、滞りなく学校生活を送ることができた。両親も、あれは一時的なも
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小説「生徒会長は名探偵!」第7話「しらゆりさまの神隠し」

 雨が降り続いている。今年の七夕も、やはり星空を拝めそうにない。 そんなことを考えながら、窓際の席で頬杖をついて灰色の空を眺める。すると突然、指先で肩をとんとんと叩かれた。 「おはよう、梅宮さん」 「えっと……おはよう。どうしたの、紫(し)垣(がき)さん」  狼狽えたのは、普段話すことのない人物がそこに立っていたからだ。黒いセミロングの髪と大人しげな顔立ちの彼女・紫垣陽(はる)花(か)が昌子に話しかけるのは、入学以来初めてのことだった。 「いきなりごめんね。ちょっとだけ、聞きたいことがあって……」 「いいわよ、何?」 「えっと……その」  なかなか本題を切り出さず、視線を泳がせるだけの陽花。どうやら、他のクラスメイトには聞かれたくないらしい。 「……どこか、人気のないところに行く?」  そう言って立ち上がると、陽花は頷いて彼女の背を追った。賑わう朝の雑踏を抜けて、二人は屋上の出入り口前の階段に腰掛ける。ドアの向こうから、雨の音が激しく響いていた。 「何かしら、聞きたいことって」 「うん、あのね……」  両膝を抱き、頬を赤らめて、陽花は言った。 「梅宮さんって……付き合ってるの? 霧崎くんと」 「はっ……!?」  予想だにしなかったことを聞かれ、再び狼狽する昌子。その反応を見て誤解したのか、悲しげな表情を浮かべる陽花。 「あっ、違うの、別にアイツと付き合ってなんかないから!! ただ、ビックリしただけでね!?」 「本当? 修学旅行で梅宮さんが溺れた時、人工呼吸をしてまで助けてくれたのに?」  真っ赤になった昌子の顔を、疑い深い目で覗き込む。 「本当よ、あれは、アイツが救急措置に慣れ
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小説「生徒会長は名探偵!」第6話「マンタ・スクランブルの陰謀」

 沖縄の梅雨は、他の地域より早く始まり早く終わる。ゴールデンウィーク頃に梅雨入りし、六月の中旬には夏至南風(カーチバイ)と呼ばれる強烈な季節風が梅雨の終わりを告げ、本格的なシーズンの幕開けとなる。「わぁ! 見て薫、海が凄くキレイよ!!」 「本当、ガイドブックの通りだね!」  眼下に広がるのは、アクアマリンの海と白い砂浜。窓際の席の昌子は、高度を下げ始めた飛行機の中で興奮を抑え切れずにいた。  彼らの通う鳳凰学園高校は、三年の六月下旬に修学旅行をすることになっている。何故なら、学園長がここ――石垣島随一のリゾートホテル・エルシオンリゾート石垣のオーナーと親しい仲だからである。夏休み直前なら予約が取り易く、気候も安定していて台風の心配もほとんど要らないという理由で、毎年この時期に訪れることになったのだそうだ。  飛行機は予定通りの時刻に着陸し、生徒たちは他の観光客たちと混ざって、次々と空港内へ流れ込んでいった。昌子だけでなく、ほぼ全員がこの日を心待ちにしていたようで、速足で手荷物受取場へ向かってしまう者も少なくない。  到着口から出てロビーに集まった生徒たちは、クラスごとに分かれて整列。それから、担任の引率に従って大きな観光バスへと乗り込み、青々と茂るサトウキビ畑の道を進んで目的地へ向かった。  彼らが宿泊するリゾートホテルは、島の北西部に位置する川平(かびら)という有名な観光スポットの岬にある。目の前には珊瑚礁の海、夜になれば満点の星空が楽しめるという贅沢な立地だ。 「ねぇ、薫! 早く行きましょうよ、プライベートビーチ!!」  部屋に到着するなり、窓の向こうの浜辺を指さす昌子。そ
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小説「生徒会長は名探偵!」第5話「たとえばコランダムのように」

 連休明けの登校日。校内は、オーケストラ部の指揮者が実の娘に殺害され、その事件を良介と隼人が解決へ導いたという話題で持ち切りになっていた。「凄いじゃない、会長! また有名人になっちゃったわねー!!」 「おいおい、梅宮! オレだって結構貢献したんだからな!?」  放課後の、会議前の生徒会室。昌子は、何故か得意げになって校内新聞の一面記事を眺めていた。そこには満面の笑みとブイサインでご機嫌な隼人と、いつも通りの仏頂面で写っている良介の写真が大きく掲載されている。 「同じ生徒会役員として鼻が高いわー! ね、薫!」 「……うん、そうだね」  興奮気味な昌子とは裏腹に、薫の笑みにはどこか影があった。もしかしたら、自分と良介が共演した舞台『眠れる森の美女』の練習中に起こった事件だから素直に祝福できないのかもしれない。 「ところで、会長さん! 今回のポイントは、ズバリ何だったんでしょうか!?」  記者になり切ったつもりなのか、葵がペンをマイクに見立てて良介に向ける。彼は、少し思案してから呟くように言った。 「敢えて言うなら、違和感……だな」 「違和感?」 「ああ。例えば、被害者はカフェイン中毒だったのに現場にあったのがカフェイン入りコーヒーだったり、留守にしているはずの時間帯にデリバリーの注文が入っていたり……そういった不自然な点が多かったからこそ、解決できたという印象だな」 「なるほど! さすが会長さん!!」  左手の掌に右の拳を置き、合点した様子の葵。その傍らでいちごオレを飲んでいた達也は、頬杖をつきながら呟いた。 「違和感、なぁ……」  まぁ、わいには関係のない話や――と思いつつ、飲み
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小説「生徒会長は名探偵!」第4話「眠れる森の指揮者」

 春爛漫、とはまさに今日のような日のことを言うのだろう。満開になったソメイヨシノの並木道の下で、日の光を浴びながら、入院患者たちが歓喜の声を上げている。 彼――真田良介は、明日ようやく退院することになった。リハビリの甲斐あって、既にヴァイオリンの演奏も許されている。しかし、流石に病室で弾くわけにはいかないので、彼は瞼を閉じ、愛器を構えるポーズをとって右腕と左手の指を動かしていた。 「イメージトレーニングか?」 「……剣持先輩!」  目を開くと、そこには前生徒会長・剣持学の姿があった。彼と話すのは、およそ半年ぶりだ。傍らの椅子を勧めると、彼は遠慮なくそれに腰掛けた。 「ご無沙汰しています。……どうされたんですか、その怪我は」 「ああ、これか。……君にはまだ、話していなかったから驚くかもしれないが」  眼帯をした左目の周囲の痣に手を添え、他に誰もいないことを確認してから、彼は衝撃の事実を告白した。 「これは、父親に殴られた痕だよ」 「えっ……」  笑顔で言われ、一層困惑する良介。しかし、学は何事もなかったかのように続ける。 「いわゆる、家庭内暴力というやつだ。僕は、成績が少しでも下がると殴られるというプレッシャーの中で学校生活を送ってきた。だが、先日の受験でしくじってしまってね……遂に、目立つところに食らってしまったというわけだ」 「そんな……暴力は犯罪ですよ、通報はしないんですか!? お父さんに殴られたという証拠は!?」 「証拠、か。探偵業が板についてきているな、真田」  乾いた笑いを零してから、彼は続けた。 「僕はすぐに通報すべきだと、母に何度も言っているよ。しかし、どうしても
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小説「生徒会長は名探偵!」第3話「星空のダイイングメッセージ」

「ねぇ。皆で、スキー実習に行かない?」 木枯らしの吹き始めた、ある晩秋の日のこと。生徒会役員会議が終わった時、薫がスキー実習参加者募集と書かれたプリントを掲げながら言った。それは二年次の生徒が体育の授業の一環として選択できるもので、その単位を取得した者は翌年度の体育が三カ月間免除されるというシステムとなっていて、受験期の授業を減らしたいという学生に有難がられている。申し込み締め切りは、翌週末と記されていた。 「ああ、それか。オレはやるつもりだけど、良介と梅宮は?」  俺はもう申し込んでいる、と良介が答えると、皆の視線は自然と昌子一人に向けられる。何故か、彼女は返答に困っているようだった。 「わ、私は……その」 「何だよ、もしかしてスキーやったことねぇのか?」  隼人が尋ねると、昌子は身を縮めて小さく頷いた。 「ちょっと……怖いのよね、滑る系は……」  明後日の方向を見ながら、彼女にしては珍しく歯切れの悪い返事をする。薫は、あからさまに悲しげな表情になった。 「そっか……昌子とも一緒に行きたかったけど、怖いならしょうがないね」  眉尻を下げて残念そうに呟いた薫の顔を見て、昌子は恐怖と罪悪感の板挟みに遭った。そして数秒間の自問自答を経て、勇気を振り絞り宣言する。 「いっ……行くわよ、私も! この際、苦手を克服してやるんだから!!」 「本当!? 嬉しい、一緒に頑張ろうね!」  若干手を震わせながらも、ガッツポーズを決めた昌子。薫の顔は明るくなったが、強がっている昌子を見て不安になる良介たち。 「あの、梅宮先輩……無理しない方がいいんじゃないですか?」 「せやで、わいなんてスキーで骨折
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小説「生徒会長は名探偵!」第2話「ジャック・オ・ランタンと毒入りアップルパイ」

 暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったもので、九月も二十日を過ぎると流石に夏の名残も消え去っていく。桜の葉は黄金色や朱色に染まり始め、爽やかな風と高くなった空が秋の気配を感じさせる。 その頃、鳳凰学園高校も新たな時代の風を受けていた。 「生徒会長の、真田良介だ。引き続き、よろしく頼む」  生徒会役員選挙開票日の翌日、新しい生徒会役員たちは生徒会室に集まり、今期初の会議を執り行っていた。新規で入会した一年生もいるので、会長席に座った良介はまず互いの自己紹介から始めた。 「庶務から副会長になりました、霧崎隼人です。よろしく!」 「引き続き会計をすることになりました、梅宮昌子です。弓道部です。よろしく」 「今月転入したばかりですが、広報として活動することになりました、百合川薫です。よろしくお願いします」  二年生の四人がそれぞれ起立して挨拶をすると、緊張の面持ちで待っていた一年生が慌てて立ち上がった。 「あいたっ! あ、すみません、えっと、一年A組の吉川(よしかわ)葵(あおい)と申します! 小説が好きなので文芸部に所属しています! 将来は作家になれたらいいなと思っています、あ、書記です! よろしくお願いいたします!」  立ち上がった瞬間、膝と机で両手を挟んでしまい、一層落ち着きをなくしてしまったショートボブに赤いカチューシャの彼女・葵は、照れ隠しのためか、頬を赤くしてずれていない眼鏡を直してから着席した。 「えーっと、庶務になりました、同じく一年A組でバスケ部の渡邊(わたなべ)達也(たつや)いうもんです! 大阪寄りの兵庫出身なんで、関西訛りは堪忍したってください。将来の夢は……まだ探しと
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小説「生徒会長は名探偵!」第1話「妖精になれる薬」

 彼は、夢を見ていた。  煌めく満天の星々、時折走る一筋の光。月はなく、暗闇の森の中を、一人で歩いている。梟の子守歌を道標に進むと、開けた場所に出た。  湖だ。波一つない水面が、鏡のように夜空を映している。  遠くに、微かな青白い光が見えた。白鳥だ。物音一つしない世界で、優美に泳ぐ姿につい見入ってしまう。  すると、淡い光がそれを覆って、輪郭がぼやけてきた。彼は、目を凝らして見つめようとする。  白鳥は、少女の姿になった。純白のワンピースを着た、銀の髪にサファイアの瞳の美しい娘が、湖面で嘆き悲しんでいる。  夢の中では、水の上を歩けるらしい。気づけば彼は、彼女のもとへ駆け寄っていた。  それに気づくと、彼女は顔を上げた。彼が手を差し出すと、そっと触れてから、ゆっくりと立ち上がる。  彼女が唇を開き、何かを呟こうとした瞬間――聞きなれたアラーム音によって、彼は覚醒してしまったのだった。スマートフォンの画面に触れ、音を止めてからゆっくりと起き上がる。 「……夢、か」  彼の名は真田(さなだ)良介(りょうすけ)。文武両道を掲げる名門・私立鳳凰学園高校に入学してから、二年目の夏休みを迎えていた。眩い朝日に透けるカーテンの向こうでは、既に蝉が大声で鳴き始めている。  世界的ヴァイオリニストである母は頻繁に海外遠征をしているため、滅多に会えない。外交官の父は単身赴任をしていて、今はベルリンに滞在中。よって、彼は今、一人では広過ぎるマンションの一室で孤独な毎日を過ごしている。 母の影響で幼い頃からバイオリンを習っている良介は、現在オーケストラ部に所属して演奏活動に励んでいる。だがその日、彼は
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じこけんじー! とか 偽善だよね とか

小説書いてネットで誰かにみせようとするのは自己顕示欲すごすぎ!仰るとおりです。自己顕示欲のない人は、そもそもネットで自分の作文なんて出しません。で? というところからが本当のお話のはじまりです。そういう君は果たして純粋無垢なる批評意識とか、完全無欠な正義から道筋を構築して、かの批判に至ったのか。そんなわけもないですよね。己のうっぷんなんかを晴らすため、逃げられない相手を一人捕まえて「自己顕示」して、溜飲をさげようという黒い何かが何パーセントかでも混じってるはずです。偽善だよねー、も同じようなことで、偽善であることを指摘して、自分の方が本当の善に近いと主張したいとか、殆ど何も考えず、ヒールであることに喜びを感じちゃってるか。改めて文字にすると酷い話ではありますが、結局は「にんげんだよねー」ということなのかもしれません。完全な人間、パーフェクトヒューマンはあっちゃん以外居ないんでしょう。ちょっと古かったか・・・。誰しも何かをしでかすのに、純粋無垢な目的だの、正義感だので動けるものでもない。タンジロウじゃないんだから。だからきっと、我々もやればいいんです。やっちゃいなよー、です。やって、その後なんて知らねえや、でいいんです。なろうで一発ラノベ作家になってやろうとか、中央の新人賞で大賞取ってアクタガワまで行こうじゃないの! 程度の単純な動機でいいんです。後ろ指はさされるでしょう。でもそれは必要経費です。タクシーに乗ったら運賃とられるし、コンビニでおにぎり買ったら150円とか払うのと同じことです。ただ、忘れてはいけないのは、無意識にしろ意識してにしろ、そういう感じで俺ははじめた、というこ
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ものがたりの内と外

物語を構築できたから人間ってやつは繁栄できたんだ。みたいなことが言われて結構経つけれど、今更ながら、それはそうだなあと思うわけです。まだ言葉の種類も少なっただろう、10万年前のご先祖だって、きっとそうだったのでしょう。マンモスを狩って肉を持っていったら奥さんも子供も大喜びで、機嫌を良くした近所の家族とも、一緒に歌ったり踊ったりできるだろう。だから、皆で協力してマンモスを狩り続け、何回も冬が越せるように集落を作って皆で仲良く暮らして行こう。これはいいぞ!くらいの未来予想、即ち「物語」を共有できたから、大きな獲物も団結して仕留められたし、ヒョウとか他の大きなサルっぽいものを退けてもこられたのでしょう。そのうちモノが多くなり、貨幣という、これまた物語的なものが現れて、お金の貸し借りだの株だの先物だのと、どんどんそれが膨らみ続けます。そんな物語の余りで武器が作られ、これがあったら喧嘩に勝てる、抗争に勝てるだろう、紛争を生き残れるだろうと、これまた物語でもって、あれこれと要らないものを作りまくるのも、人間の能力がそうさせているのでしょう。こんな風に考えると、日々コンビニでコーヒーだの菓子パンだのを仕入れる行為から、年に一回行くか行かないかの神社みたいなものまで、人間の空想や簡単な未来予測、つまり「お話」の外側にあるものはどのくらいあるのか、と不安になってきます。残念ながら農作物の成長と収穫をメインにした感動超大作映画も、気象予報をテーマとした涙必至の凄いゲームも出来ません。悔しいですけれど。こういった地に足のついた系の職業の方々や、自然科学でもって何かをやられている方々などは、ある意味物
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【あなたの作品の○○は?】作品のオリジナリティを考える冴えた方法

僕の小説感想サービスでは、感想文そのものに負けず劣らず、トークルームでのやり取りを大切にしています。そんなやり取りの中で「作品のオリジナリティってどうやって見つけるんだろう?」という話題になり、僕なりの考えをお伝えしました。今回はそのときの内容をシェアしますね。(お客さまの情報は書けないので、僕がお伝えした内容のみをまとめます!)以下は僕の小説感想サービスです↓あなたの作品を書店に並べるならどんなアオリ文になりますか?結論から言うと、作品にオリジナリティを生みたいならこれがベストだと思います。「この小説が書店に並ぶとして、どんなアオリ文で宣伝するだろう?」この”問い”の優れた点は、以下の2つと思っています。①書店でのアオリ文(宣伝)という縛りにより、少ない文章(多くても数行)で考える必要があり、作品最大のオリジナリティを厳選できる。②ありきたりな長所表現から離れることができる。それぞれ説明していきますね!そして最後には実際に販売されている書籍から、いくつかアオリの例も挙げるので参考にしてみてくださいね。①その作品最大のオリジナリティを厳選できる作家が作品に込める熱量ってスゴいものがありますよね。ある種の執念染みたものだと思います。大半の作家にとって「ぜひともここに注目して欲しい……!」ってポイントは一つや二つではないと思います。「ここの伏線、我ながらスゴい発想だと思うんです! それから、このキャラは難産だったんですよ……! あ、ストーリーに込めたテーマも感じ欲しいんです。それから——」↑こんな感じに、自作を宣伝しようと思ったらいくらでも挙げられるのではないでしょうか?でも、一つ
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小説を書いたり読んだりする頭

本屋で買ってきて、夢中で読んで「ああ面白かった」と、本を閉じた時、既に深夜の二時を回っていた。なんてことは多くの人が経験したことでしょうけれど、私にもそういう経験がありました。中二の頃だったでしょうか・・・。いや、象徴的な意味ではなくて、現実として誰しもが通る14才のことですよ?念のため(笑)開いて数ページで引き込まれ、先がどうなるのか気になり過ぎて、本を片手に夕食のテーブルにつき、母親に怒鳴られながらも本を放さず、自動人形のように冷蔵庫から麦茶を、食器棚の奥からせんべい的なものを取り出してそのまま自室にこもり、トイレも忘れて読みふけったのでした。むろん、本は好きでした。小学校上がる前から読み始め、おみあげは何がいいとか父親が言い終わる前に「本」といい、たまに行くデパートでは、でっかい図鑑なんかを買ってもらうようなガキでした。でも、そこまで引き込まれた「小説」はあれが初めてだったと思います。未だに憶えているし。本は好きだったけれど、小説が好きというわけではなかったのも、あの体験を特別な思いで記憶させている要因だと思います。めくるめく場面展開、登場人物がイキイキと立ち上がる。物語は一直線に盛り上がり、私の中の不満や不安なんかとらせんを描いて絡み合ってゆく。そしてクライマックス。一抹の哀しさと寂しさを匂わせつつ、優しい融解とともに盛り上がり続けた硬いその世界を霧のような優しさで作者は抱きしめました。今になって思えば、本当に子供達を愛しておられたのだろう、と思います。読み終えてすぐ、私にもこのような物語が書けるだろうか! とえんぴつを手に取り、ノートに向かった! の、だったらまあ格好
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【そこが引き際です】「シーンの役割」を意識することのすすめ

小説感想サービスにて「シーンの意図」について指摘させていただきました。拝読した作品は「すごくキャラが起って」いて、「ストーリーにオリジナリティ」があって、なおかつ「シーンの演出が巧い」という魅力的なものでした。なのにどこか惜しいというか、もったいない感じがしたんですよね。この作者さん、もっと面白く書けるよな……と。で、何が不足してるのか考えて、いくつかアドバイスさせていただいたのですが、そのなかで特に「これを変えるだけで作品が化けるな」と思ったのが、今回お話しする「シーンの役割」でした。シーンの演出は最高! ……なのに作品トータルで見ると活きていない拝読した作品ですが、シーン単体ではすごく良い演出だったんですよ。個性的なキャラたちが躍動して、感動的なシーンに仕上がっていました。でも作品全体で考えると、そういったシーンたちがストーリーに活きていない感じがしたんですよね。言い方を変えると、「それぞれのシーンが、一つのストーリーに集約していない」「シーンが独立してしまっている」といった感じです。この問題は、「このシーンの狙いはなにか?」という視点で眺めるとよく分かりました。一見魅力的なシーンですが、シーンの狙いを意図しきれていなかったんです。・新登場のキャラが好き勝手に動いてしまっていて、主人公が絡めていない。・伏線や前フリのなかった(もしくは弱かった)出来事が単発で起きる。キャラが良く、演出も巧い作家さんだったので、上記の状態でもシーンとして成り立ってしまうのですが、そのシーンでストーリーを前に進めることができていませんでした。極端に言えば、そのシーンをカットしてしまっても作品とし
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【持論ありますか?】小説における「ストーリー」「構成」「プロット」の定義と違い

販売中の小説感想サービスにて、作家さんと創作談義するなかで「そもそもストーリーってなんだろう?」という話題になりました。小説家に限らず物語を提供する創作家なら誰もが熟考すべきことですが、なんとなくで済ませてしまっている場合も多いのではないでしょうか?(かくいう僕も明確に定義したことがありませんでした……)とはいえ「ストーリーとは?」という疑問に対する答えは一つではないと思うし、作家の色が出るものだと思うんですよね。今回トークルームでお話しさせてもらうなかで、現時点での僕なりの定義ができたので記録として残しておこう思います。みなさんの参考にもなれば幸いです!小説感想サービスはこちらです↓小説の「ストーリー」「構成」「プロット」とは?トークルーム内でお伝えしたことを転載しますね。(トークルームでは、漫画『五等分の花嫁』を例にしてお伝えしたのですが、未読でネタバレを避けたい人もいるかもしれないので、今回は童話の『桃太郎』を例に書き変えます)なお、「ストーリー」「構成」「プロット」に加えて、「物語」と「シーン」についても定義してみました。【物語】出来上がった作品のこと。例:『桃太郎』という絵本【ストーリー】○○の変遷のこと。○○に入るのは「主人公」が一般的。主人公が成長(絶望でもいいです)する過程全体がストーリーだと思います。他に○○に入るのは「世界」「他のキャラ」など。この場合は、欠点のない主人公が「世界」や「他のキャラ」を変えていきます。1巻で主人公が成長して、2巻から成長した主人公が世界や他のキャラを変えるという手もあります。小説って、大抵は主人公の人生全部じゃなくて特定の期間を
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小説を読むときのチェックポイント7+5

わたしはふだん小説などを読むときに、とくに何を意識して読むわけでもないのですが、それでも無意識のうちにチェックしているポイントが、いくつかあるような気がしてきました。書き手が意識していない部分このポイントは、おそらく一般的な評価の基準とはちがっています。ちがっていますが、おそらくこちらの方が正しいと実感しています。  たとえば、一般には主人公のキャラクターが立っているかどうかが問われているはずです。たしかにそれは間違いではありません。ですが、わたしはむしろ「話者」のキャラの方が重要だと考えています。そして、それを意識できているか否かが、印象にのこる作品が書けるかどうかを左右すると考えています。作品として7つ、文章として5つここでは小説を読む際のチェックポイントとして、作品そのものに対しての7つ、文章そのものに対しての5つあげてみました。【作品として】1 書き出し  → 書き出しが作品世界を切り開いている/作品世界に従属している 2 話者のキャラクター   → 立っている/フラットである 3 主人公の人間率  → 何かの象徴である(ゴン)/内面を抱えている(キルア)4 主人公の行動原則   → 強い動機を持っている/受動的である 5 プロットの構成   → プロット優位である/ストーリー優位である6 モチーフのつよさ  → ひとつのモチーフが全体を支配している/ストーリーに従属している7 印象にのこるフレーズがあるか   → 作家性のあるフレーズがある/フラットである 【文章として】1 読みやすさ   → 読みやすい/読み応えがある 2 時制の使い方   → 過去形のみ/現在形も
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【若手作家&作家志望向け】:1年間で40万字の文章を書き、3冊の本を出版して分かった文章力上達のコツ

※この記事はアップデートし続けていきますので、定期的に見返してください。(比較的すぐ追記&軽微の修正を加える予定です)まだ執筆途中になっていますので、説明不足な所が多々見受けられると思います。他の有益な1万字を超える記事をたくさん書いているので、少し完成に時間がかかるかもしれません、、。※最初にお伝えしておこうと思いますが、この記事の内容は少し抽象度が高いうえに、実行するのは楽じゃないです。その代わり、忠実に実行してくれたら再現性は高いと思います。きっと、一年経つ頃にはあなたの小説だったりエッセイだったり、詩だったりの作品が、満足いく形であなたの手元に残っていると思います。この記事は、『全くの未経験』『今まで作品を書いたこと一切なし』『本の虫と言えるほど小説を読み漁った経験も無し』『多読というよりは、気に入ったものを何回も読むタイプ』だった私が、ふと思い立ってエッセイを書き始め、そこから小説、論説、詩とたくさんの作品を続々完成させていき、一年後に三つの作品を紙版まで完成させた具体的な方法を書いています。作家志望だけれど何をしたらいいのか分からないという人や、実際に文筆活動をしているけれど上手くいかないという人達は、なにかのスクールとかに通う前に、これみて自分で実際にやってみて下さい。文章力上達の方法をかなり解像度を上げて、本気で列挙していきます。『スパルタ』という言葉が適切なのかは分かりませんが、私が本当に『こうやればいい作品を作れるようになるだろう』というものを全部盛り込みました。作家志望の方に向けて、暴力的なまでの有益な情報達を叩き込みます。無料で公開する意味が分からないで
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小説の構成について<四部構成>

<はじめに>こんにちは。 個人で小説を書いたり、作家さんの作品を拝読させていただいたりしているものです。 この度、小説の分析を行って自分のインプットを増やし、作家の皆様に役立つものをアウトプットして盛り上げられたらと思い、記事を書いております。 小説の書き方ってHOW TO本がたくさん出ているかと思います。 今回はフィルムアート社さんから出ている、「工学的ストーリー創作入門」から<四部構成>の部分を取り上げてみたいと思います。 小説を書いている中で、「書きたいシーンはあるけど、そこまでどうやってもっていったらいいんだろう」「物語が平坦で、盛り上げ方がわからない」となったことはないでしょうか。 「何を、どういう順に書くべきか」 それには「答えなどない」と思われるでしょうか。 この著書の作者であるラリー・ブルックスさんは、それは間違いである。と言っています。 建設と同じで、「構成」は建物の基礎や設計図にあたる。建物を支える骨組みである、と。まずはその骨組みがないと壁や床を造り、装飾していくことなどできない。ということです。 「構成」がしっかりいているからこそ、魅力的な人物、テーマ、意図、斬新なコンセプト、文体で物語を飾ることが可能である。 「構成」に才能は必要なく、知識を得て努力すればみなさんの物語づくりに落とし込むことができるというのです。 私はその「構成」の知識を画像で完結にして見やすくし、飲み込みやすくしていきます。 そしてこちらの記事にて補足を行ってまいります。 もし物語をどうやって展開させていくのか悩んでいる場合、こちらにあてはめて作成してみるのはいかがでしょうか。 ※小
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小説の基礎力をつける3つの講義

1:「たくさん読んだら小説が上手くなる」は本当か? いま、小説の書き手というのはかなり多い。すくなくとも、肌感ではあるけれど10年に比べて「はるかに多くなった」という感覚がある。それは「小説家になろう」や「カクヨム」といった小説投稿サイトの功績が大きいだろう。 小説投稿サイトに自作を公開する以上、読者を獲得したいというのは当然の発想だ。これについてはぼくも経験がある。ただサイトに自作を放置しているだけでは「よっぽどのもの」でない限り反響というのはない。そこで作者はサイト内で読者となって他の作者の作品にコメントをつける。 するとその「お礼」としてコメントを返してくれることがある。これを繰り返していくと読めば読むほどコメント数は増えていき、コメントの多い作品はサイト内で目立ち、するとじぶんが読んだ作家以外の作家や「読み専」からの感想も増える。 ぼくが小説投稿サイトを利用していた当時、そうしたユーザー間のコミュニケーションの活発さが「読まれるため」の基本戦略だった。 ただ、ぼくやぼくの友人は一部を残して小説投稿サイトを短期間でやめてしまった。 使用しなくなった理由は個々によってちがうだろうし、特に聞いてもいないのだけれど、ぼくに関していえば、・じぶんの小説の是非を問うに信頼できるひとが見つかった・別に大勢に読んでもらいたいわけではない・文学賞に応募する小説の公開は原則できず、小説を投稿する余裕がないという理由があった。大勢に読んでもらいたいわけではない、という点に関しては複雑な事情があって、あくまでも興味は反響以上に「じぶんは次にどんな小説が書けるか?」にあったためだ。 するとサイト
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小説のネタ(3)お題提供・設定探し・場面追加・アイデア

出品者が考えたオリジナルのネタ一覧リストです。商用可能・著作権フリー。 ご購入者の使用に限ります(転載・配布等不可)。リンク歓迎。 小説・漫画・脚本など、執筆する方を応援するために お題を箇条書きで羅列しました。 例文1夕飯どきに、教養のあるリーダーが、恋心を感じながら「かまって」例文2五つ星ホテルで、ペンギン好きな弟子が、取捨選択しながら「好きなの?」例文は、本ブログの有料範囲に含まれている文章です。28パターンあります(上記をのぞいて26パターン)。 すべて「○○で、○○な○○が、○○ながら『○○』」です。「○○で」は「○○時代に」、「○○中」などの場合もあります。 不自然な組み合わせと感じられた場合にはご自由に組みかえてくださいませ。 (3)以外の記事では、本記事と同じ要素が使われる場合がございます。 パターンは重複しません。現時点で各要素185個です(全740個)。
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小説のネタ(2)お題提供・設定探し・場面追加・アイデア

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小説のネタ(1)お題提供・設定探し・場面追加・アイデア

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大手出版社が主催する新人賞に応募すべき理由

こんにちは。S Natsumiです。小説家デビューは賞への応募が一般的になってきています。純文学の場合はいわゆる五大新人賞、エンタメの場合も、大手出版社が主催する文学賞は人気が高く、何百、何千という応募作が毎年届きます。そんな大勢のライバルたちと競う自信がない、自分にはハードルが高い、と、最初からあきらめ、小さな賞を選ぶ方もいると思います。私が思うことを書きます。①自信がないなら自信がつくまで推敲を重ねましょう。半端な作品は賞に失礼です。あなた自身が「書き切った」「これ以上のものは書けない」と思う作品でなければ、どんな賞も厳しいでしょう。②応募するなら、やっぱり大手です。または中堅でも老舗の会社、権威のある賞を主催しているなど、とにかくしっかりした出版社の賞を選びましょう。新人を育ててくれ(そのための予算や人、書くための媒体がある)、デビューの先が一定期間は保証されているところがベストです。③自費出版・協力出版は最後の手段です。「お金が余っている・とにかく本だけ出したい・デビューには興味がない」という人以外、これらには近寄らないようにしましょう。
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時間に余裕を持つこと

小説がなかなか進まず、気づいたら締め切り間近になっていた。短期間で集中して仕上げ、何とかぎりぎりに提出……。プロでもよくあることです。文章の内容、長さによっても異なりますが、私は締め切りから逆算し、余裕のあるスケジュールを組みます。その通りにならないことも多いのですが、締め切り当日や前日には外出の予定を入れない、など、あらかじめ工夫をしておくことで、締め切りに間に合わせることができます。急な事情などでどうしても間に合いそうにないときは、編集者さんに連絡をし、締め切りを伸ばしてもらえるようにお願いします。雑誌などの場合、原稿を落とされるのが一番困るので、編集部のほうも、余裕のある日程を作家に伝えていることが多いです。たいていは数日程度ならOKとなります。また、雑誌でも書籍でも、入稿したあと原稿が「ゲラ」(実際の本や雑誌のレイアウトに文章が落とし込まれ、校正の方がチェックを入れた原稿)になって戻ってきて、それを作家が確認し、必要に応じて修正するという作業がありますが、締め切りを伸ばしてもらった場合は、ゲラチェックをなるべく早く行うなど、配慮します。(ちなみにこの「ゲラ」の前に、小説では「手直し」が必要な場合もあります)応募原稿の場合、プロと違って、「ゲラチェック」や「手直し」があるわけではないので、応募の段階の原稿が「本番」です。ですので、締め切りぎりぎりに書き上げるのは避け、少なくとも1か月前には書き上げ、十分な手直しや推敲の時間をとるべきだと思います。
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5歳の私から45歳の私へのメッセージ「パパは生きているの?」

親の離婚というのは、子供にとって、この世の中で死別の次につらい出来事だ。私は大通公園の信号をが青になった時に流れる信号のメロディを聴いた時、「親の離婚がどれだけ子供にとってつらいことなのかを今の気持ちを将来世の中に広めていきたい」と、思ったのを今でも鮮明に覚えている。この内容は、文字通り5歳の私から聞こえてくる、人の親ともなった45歳の私の視点で、子供にはどうしようもない定められた運命に苦しんだ気持ちを鮮明なトラウマとなった一方、あの時母親父親はそうするしかなかった、その中で精いっぱい成し遂げてきた人生であったこと、そして何より、血縁がない人が自分の子供と同様に育て生計を立てることの苦しみ。赤裸々にノンフィクションとして記していきたい。いつか、家庭不和で悩んだり孤独を感じたり、そのことでいじめにあった自殺を考えてしまうような子供たちの助けになることを祈って、私の壮絶な体験談を記していく。
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異性の幼馴染と42年の歴史、そして今伝えること

大樹(仮名)は今大会社の社長 私はずっと営業職42年間一度も恋愛感情をいただいたことはない 共通の友達もいないだけど大樹は私の人生に欠かせない家族のような存在で今まで生きてきた一つだけ大きなことがあったのは、大樹が「今の彼女と結婚する」と言ってきたことだ。大樹との出会いは42年前、クラスの同級生だった。でも子供のころ私は学校で一番のいじめられっこで一度も友達ができたことがなかった。授業中に、手紙が回ってきて、返事を書かないと放課後呼び出されてグループにぼこぼこにされるので、授業に参加したことはなかった。朝学校に行くと、椅子に大量のがびょうがちりばめられていた。黒板に、お前気持ち悪い と書かれたクラスは全員、私の1m以内に近づかないように避けて歩いた。先生は見て見ぬふりだった。むしろ、先生がいじめの種を作ったこともあるくらいだった。私は我慢強かったし、死のうとすると、年の離れた妹の顔が浮かんで何度も飛び降りることをやめた。毎日が「今日も私、生きているんだ」と思いながら、ただ手のしわを見つめたり、時々息を止めたりしながら、日々を過ごした。あのいじめ体験がなく、授業も参加して、友達と普通にすごす普通の子供時代を経験したかった。でも自分で変えられるのは未来だけ。過去は変えられない。一生の傷を負った。でも運命とは不思議なもので。大樹は、そのいじめの主犯格だった。それなのに、中学を卒業した後からの40年間、私が生きてこられたのは、紛れもなく大樹がいたからだ。前世というものがあれば、間違いなく大樹は家族だったはずだとさえ思う。その大樹が経営者となり、結婚する。大樹についてきてくれたすべての人
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