連続小説『DNA51影たちの黒十字』20

記事
小説
連続小説『DNA51影たちの黒十字』第20回

(続ロザリンド・フランクリン物語) 〜20〜
Rosalind Franklin Photo51
Rosalind Franklin Photo#51

   21        バークベック・カレッジ
★★★★☆★★★★☆★★★★☆★★★★☆
 6月6日。エプソムダービーの決着がついて
からのロザリンドの脳裏からはピンザを祝福
していたクリックとペルーツのツーショット
光景が焼き付いて離れない。

 クリックとペルーツは賢振寺大学で近しい
関係で、さらに親密であった姿は、エプソム
競馬場での熱狂した群衆の光景を遥か彼方に
押しやって消し去り、ふたりの姿だけが残っ
て浮き上がってくるのだ。

 そして、ペルーツはロザリンドが提出した
非公開報告書の提出先である英国医療研究
機構の予算担当者。またクリックは3論文
同時発表した時の執筆者のひとり。さらに
クリック論文の二重螺旋説がロザリンドが
提出した医療研究機構への非公開年次報告
データと奇妙にも近似してくる事実。
 ロザリンドは自分が非公開報告書として
提出したデータが漏洩していたのではない
かとの疑念を抱かざるを得なくなっていた。

 ロザリンドがニューマーケットでクリック
と会ったとき、クリックはしきりに論文執筆
をロザリンドに勧めてきていたことをロザリ
リンドは思い出した。その時は単にクリック
が実験データを持ちあわせていないからだと
ロザリンドは勝手に思い込んでいたのだが、
その時点で既にクリックはロザリンドの獲得
したデータを知っていたのではないかとの疑
惑を今となっては感じざるを得ないのだった。
 ポール・スミスが以前にロザリンド研究室
を訪れた時に発していた 『企業秘密』 と
いう言葉が、今『情報漏洩』との言葉と絡み
合ってロザリンドの脳裏を駆け巡ってくる。

 エプソム競馬場を後にしたロザリンドは
終始無言で考え込む表情であった。その姿
を心配したポール・スミスは二人で乗車し
ていたスミス・サミュエ商会の車がリッチ
モンドの街にさしかかった時、話を切り出
した。

「ロザリンド先生?
倫敦大学の今のキングス・カレッジの研究
室から倫敦大学バークベック・カレッジへ
移籍して、新しい研究課題に取り組んでみ
ませんか?

 研究支援費用の一部をスミス・サミュエ
商会も銀行を通じて拠出して、農業研究評
議会からバークベック・カレッジへとその
資金を振向ける計画案が持ち上がってると
ころなんです。

 研究課題はウィルス構造解明なんですが
農業研究評議会が音頭を取っての研究支援
ということで、まずは取っ掛かりとして植
物、とくに農作物に害を及ぼすウィルスを
研究しようというところなんですが、まぁ、
ウィルスにもタンパク質構造があるのでは
ないかという事で製薬会社の方もこの研究
には大層関心を寄せとるとこなんです。

 できれば細胞の核酸構造研究で実績ある
研究者として、”ロザリンド先生” をですね
我がスミス・サミュエ商会としては推した
いと思っとるところです。
 もちろん、企業秘密に関するような部分
での情報には十分に注意を払って頂くこと
にはなるのですが・・・・・・」


 ロザリンドの頭の中では『情報漏洩・
企業秘密』の二つの言葉が、入り乱れてい
る最中であったため、バークベックという
新しい言葉が新境地に差し込む輝く光のよ
うにロザリンドには感じられてくるのだっ
た。

「ポールはんのその計画、前向きに検討し
ますわぁ。でも・・・・・・・・・・・・
バークベックの方が受けてくだはりますや
ろかぁ・・・・・・・」

「大丈夫です。ロザリンド先生さえ、その
気があるのなら、もう完全に大丈夫です。
スミス・サミュエ商会のいち推しの研究者
はロザリンド先生ですから」

二人の乗る車はリッチモンドを過ぎると、
テムズ川に掛かるキュウ・ブリッジを左岸
へと渡り終え、アクトンの街へと流れてい
くのだった。
CE114325-62EE-4719-82EF-2F5F34227B0A.jpeg

★★★★☆★★★★☆★★★★☆★★★★☆
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら