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いつまで続くか物語~№14

……しかし。私の疑問はここで確信に変わった。主任、私の分を買ってない。私は慌てて言った。「自分のも買ってきます」主任はあっさり返した。「お前はええんや。そんなもんいらんから」えっ? どういうこと???主任は、脱がせた古い作業服を私に差し出した。「これ、お前が着るんや」えっ? なんで?臭いの嫌。汚いの嫌。ましてや“誰かが着て寝てた服”なんて、イヤイヤイヤ!拒否権、発動します!……が。ここで「上司の命令は絶対!」が発動。軍配は、主任。こうして私のペアは、「主任=作業員(新品)」「私=浮浪者(本物)」という、世界一わかりやすい上下関係で始まった。警察官を拝命して、まさか浮浪者になるとは夢にも思ってなかった。でもこれは命令であり仕事だと割り切ることにした。そう、俳優だ。演じるのだ。高倉健さんも、菅原文太さんも、若い頃はきっと色々演じたはずだ。私はここから“一流の階段”を登るんだ——そう決意した。主任は言った。「焦らんでええ。ほんまの浮浪者になってくれ。ワシを信じろ」私は自分に言い聞かせた。「俳優なんだ、俳優。一流の。演技が全て」つづく・・・
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いつまで続くか物語~№13

建物の陰、段ボールのそば。昼間でも薄暗い場所に、寝転んでいる男がいた。浮浪者だ。主任は、驚くほど自然に近づいていった。声は穏やかで、妙に優しい。「兄ちゃん。カネいるか?」男が薄く目を開ける。警戒と諦めが混じった目。主任は続けた。「その服、買ったるから。すぐ脱げや」――え?頭が追いつかない。優しく追い剥ぎ、という矛盾した光景が目の前で起きた。しかし主任は、本当に“買った”。その場で男に現金三千円を渡し、さらに新品の作業服を一着、手渡した。「ほら、これも持ってけ。寒いやろ」男は何度も頷いて、くしゃくしゃの服を脱ぎ、代わりに新品を抱えた。主任は受け取った古い作業服を、何の躊躇もなく袋に詰めた。そして私に言った。「これや」私は、袋の中の、使い古されて汗と埃を吸い込んだ作業服を見た。新品よりも、圧倒的に“本物”の匂いがした。その瞬間――なぜだか分からないのに、胸の奥が少し熱くなった。この人、優しい。なのに、やってることは荒っぽい。でも筋が通っている気がした。(……なんやこの主任。優しくて、カッコええやん)そう思ってしまった自分に、少し驚いた。つづく・・・
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いつまで続くか物語~№11

ある日、ポケベルがまだ現役だった頃、腰のベルトにぶら下げた黒い端末が、けたたましく震えた。「ピピピ……」数字の羅列。短い合図。けれど、その並びを見た瞬間、背筋が勝手に伸びた。緊急招集。しかも内容は、強盗犯検挙に向けた“邀撃捜査(ようげきそうさ)”。選ばれたのは、たったの六名。なんで私が選ばれたのか?……いや、理由は一応、聞かされた。というか、半笑いで言われた。「おまえ、田舎臭い顔やろ。目立たへんからや」それを聞いた瞬間、心の中で全力で叫んだ。――なんでやねん!***署に集められた六人は、空気が違った。声のトーン、目の据わり方、疲れ方までが、普段の通常業務とは別のレイヤーにいる。会議室に入ると、すぐ作戦会議が始まった。「体制は二人一組。二十四時間、三交代制」「手法は自由。ただし相方とよく相談して決めること」「……あと、上司の指示命令は絶対」最後の一言だけ、やけに重たく響いた。そして、私のペアが発表される。「おまえの相方は菅原主任、四十二歳」主任は、こちらを一度だけ見た。目は鋭いのに、顔立ちはどこか素朴で、妙に“田舎”がにじむ。私と同じ匂いがした。土と汗と、少しだけ昭和のにおい。(ああ……この人も“選ばれた理由”、同じなんやろな)そう思った瞬間、主任が低い声で言った。「他のペアはどうすんの? まずはそこからやな」初手がそれかい、と内心ツッコミを入れながらも、私は黙って頷いた。上司の指示命令は絶対なのだ。続く・・・
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いつまで続くか物語~№17

現行犯の地獄:喧嘩と強盗の境界線ある日、労働者同士が喧嘩しているのを発見した。このままいくと刺すかもしれない。私は無線で主任に応援要請した。「今、喧嘩やってます。この勢いだと刺す可能性あり。こっちまで来てください」案の定、一人がアイスピックで太ももを刺した。私は、これだ!と思い、即座に確保して連行。ところが。単なる喧嘩の傷害事件で、路上強盗とは無関係。被害者は住居不定で被害届も出さない。救急車も断って、止血だけしてこう言った。「……あいつの気持ちを俺は受け止めたんや」意味が分からない。だが、現場とはこういうものだ。筋書き通りにならない。路上強盗と傷害の違いを、現行犯で見極めるのは難しい。捜査は難航した。つづく・・・
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いつまで続くか物語~№16

ドーランと段ボールと、ホッカイロの優しさ私はドーランを塗った。肌の露出部を“生活の荒れ”に寄せる。汚い服、そしてボロボロの段ボールをビニールテープで補強し、引きずりながら歩く。路上で寝たふりもした。すると、ある男が近寄ってきた。「兄ちゃん、まだ身体動くやろ。これやるから寒いけど頑張れよ」手渡されたのは、ホッカイロだった。顔も名前も分からないが、代紋入りの戦闘服。ヤクザだと分かった。(こんだけやっても警察ってバレてるのか?)いや、違う。(“兄ちゃん”って言うたな。若いのは分かっても、ポリだとはバレてへん)よし、いける。私はこの瞬間、「今後も邀撃捜査をやっていける」と確信した。——何を基準に?って、ホッカイロだ。ホッカイロは嘘をつかない。段ボールを敷いて横になること、二週間。つづく・・・
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いつまで続くか物語~№15

臭いが演技を超えてくる街を徘徊した。だが、服の臭いが強すぎた。演技の領域じゃない。臭いは演技を超えてくる。私は意識が遠のき、路上で少し休憩した。その時、近くに“本物”が寄ってきた。「お前さん、ポリやろ? 直ぐバレとるわ。そんな格好しても無駄や。早よ帰りや」……何故バレたんや?頭の中が一瞬で冷たくなる。私は浮浪者の首根っこを掴み、暗がりへ引っ張った。(ここで暴れたら終わる。まず理由や)浮浪者は、ため息のように言った。「身なり汚くしても無駄や。肌で分かる。ほんまの浮浪者は日焼けだけやない。目尻と首元の黒ずみがあるんや」そして、追い打ちをかけた。「最近このエリアにポリ入ってるやろ。バレバレや。やめとけ」なぜか、その言葉が胸に刺さった。でも、調子に乗らせるわけにはいかない。私は“弱肉強食の世界で生きていくための教育”を施した(ここはノンフィクションでも、詳細は省略する。だって万人受けを目指してるから)。そして思った。(犯人がこっちの動きを分かってるなら、私らがいない場所で犯行に及ぶ……)案の定、窃盗は路上強盗へと凶悪化していった。急がないといけない。つづく・・・
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いつまで続くか物語~№23

エピローグ:田舎臭い顔は、武器になる後日、主任は言った。「お前、ようやったな。……田舎臭い顔、役に立ったやろ」私は笑って返した。「主任も、めちゃくちゃ田舎臭い顔でしたけどね」主任はニヤリとした。「せやから、ワシら選ばれたんや」理不尽なようで、妙に納得してしまう。あの臭い服も、段ボールも、タクシー運転手の“誤認逮捕”も、全部ひっくるめて——“仕事”だった。そして私は知った。一流の俳優が演技で泣けるように、一流の現場は見た目で笑わせながら、心臓を冷やす。ポケベルの「ピピピ」は、今も私の中で鳴っている。あの時の私は、確かに浮浪者だった。でも同時に、確かに警察官だった。——終わり。
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いつまで続くか物語~№22

大手柄、だけど一気に解決とはいかない結果として、年配の男女は現行犯逮捕。証拠品であるお爺さんの金も差し押さえられた。路上強盗ではなかったが、スリ(窃盗)として検挙でき、大手柄だった。取調べで、この二人が属する路上強盗グループも判明した。「これで一気に解決や!」——誰もがそう思った。だが現実は、もう一段ややこしい。路上強盗が発生しても、誰も被害届を出していない。被害者は住居不定で所在不明。被害の特定ができない。それでは、グループ一斉検挙には踏み切れない。歯がゆい。でも、捜査はそこで終わらなかった。グループ全員の指紋を取ると、事務所荒らしの遺留指紋と一致——別件で逮捕に繋がったのだ。回り道のようで、最後は一本に繋がる。現場というのは、そういうものだ。こうして、なんとか解決した邀撃捜査。つづく・・・
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いつまで続くか物語~№21

刑事課員も私を羽交い絞めにする。私は混乱して叫んだ。「なにしてるんですか!? やめてくださいよ!」返ってきたのは、冷たい一言。「お前は逮捕されるんや。大人しくせい」待て待て待て。今日の私は確かに浮浪者だが、心は警察官だ。矛盾してるのは見た目だけだ!私が「そいつら盗人や! さっきパクったんや!」と叫ぶと、そこへ主任が駆けつけた。「この年配の男女は無線で説明した被疑者です。羽交い絞めされてるのは私の部下です。放してやってください」——その瞬間、全員が「あっ」となる。そうだ。私の格好が、どう見ても“浮浪者”だったから、上司以外みんな勘違いしたのだ。ここで私は気づいた。主任の作戦は、“敵に溶け込む”だけじゃない。味方にも溶け込んで、味方に捕まるリスクまで含めた、究極の擬態だった。……いや、それは聞いてない。つづく・・・
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いつまで続くか物語~№20

宿泊所エリア、そしてタクシー私は年配の男女を追尾した。二人は労働者が泊まる宿泊所エリアへ入っていく。受付で何か話し、すぐ出てくる。これを別の宿泊所でも、さらに別でも、合計四回。(部屋が空いてないのか?)しかし進む先にはもう宿泊所がない。私は無線で言った。「もしかしたら国道に出るかもしれません」主任の返答。「今マル害をパトカーに乗せた。俺も国道方面に向かう」そして読み通り、二人は国道に出ると、待っていたタクシーに乗り込んだ。男が先、女が後。——アカン!このままだと逃げられる!私は段ボールを捨て、全力で走った。後部座席のドアが閉まる直前、手を突っ込み、無理やり開けた。そこで私は、浮浪者スタイルのまま、年配の男女を車外へ引きずり出し、逃げられない形に押さえた。息が切れる。心臓が喉まで上がる。そして告知する。「お前ら、おっさんからカネ取ったな? その件で現行犯逮捕や。時間は午後十一時三十五分——」その途中で、応援の刑事課員が到着した。助かった、と思った瞬間。タクシー運転手が私を指さして言った。「この人です。タクシー強盗の犯人です」……えっ?つづく・・・
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いつまで続くか物語~№19

集中力が上がり、会話がくっきり聞こえ始める。年配の男:今日は何処に泊まるの?お爺さん:え? ま、まだ決めてない。年配の男:早く宿とっとかないと泊まられへんで。年配の女:近くにあるやん。綺麗やし安いし。年配の男:ほんまやな。そこにしよう。お爺さん、いくらもってんの?お爺さん:えっ? いくらって……年配の男:契約してあげられへんから、ポケット探すで。お爺さん:それワシのカネや。年配の男:ようさんあるやん。今から契約してくるから、ここで待っといて。ここにおってや。お爺さん:それワシのカネやぞ……私は、その一部始終を現認した。千円札を十枚以上、その場で数えていた。私は小声で無線に流す。ただ——不安材料もあった。本当に宿を契約して、お爺さんを泊める可能性がゼロではない。そうなると「窃盗」かどうかの判断が難しい。年配の男女は笑いながら立ち去った。私はお爺さんの直近に行き、地面に座らせ、耳元で聞いた。「お前、カネ取られてないか?」お爺さんは怯えながら、黙って頷いた。私はドスの効いた声で言った。「必ず取り返してやる。バス停の柱にしがみついとけ。おらんくなったら知らんからな」お爺さんは震えながら柱を抱いた。私は主任に「被害者確保」を依頼した。似たようなお爺さんが多く、識別が難しい。警察手帳を見せて騒ぎになるのも避けたかった。秘密裡にやる必要があった。つづく・・・
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いつまで続くか物語~№18

10メートル先の笑い声が、事件の匂いに変わるそんなある夜。私は段ボールの上でうたた寝していた。10メートルほど先で、酔っぱらいのお爺さんと、少し小綺麗な年配の男女が笑いながら話している声が聞こえた。うるさいな、と思って見上げた瞬間、胸の奥がざわついた。取り囲んでいる。距離が詰まっている。笑い声が、妙に軽い。——何か起こる。第六感が鳴った。私は無線で主任に伝えた。「今、うちらが捜してるガラを見つけたかもしれません。まだ着手してませんが、もう少しですると思います。逐一報告入れます」すると主任だけでなく、刑事課からも返事が来た。「お前を信じとる。自信もってやれ。失敗してもケツ拭いたるから」その言葉が、心に染みた。つづく・・・
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いつまで続くか物語~№12

すぐに他のペアの手法が共有された。作業員――いわゆる土工の格好で、現場付近を練り歩きながら目を光らせる。いかにも“そこにいても不自然じゃない”偽装。現場の空気に溶け込む、定番の手だ。それを聞いた主任は、腕を組み、ほんの数秒だけ考えた。そして、言い切った。「ワシらは、それの上をいかなあかん」なんの“上”なのかは分からない。ただ、妙に自信だけがあった。主任は立ち上がり、短く言った。「ワシについてこい」***連れて行かれたのは、署近くの作業服屋だった。蛍光灯の白い光に照らされた棚には、ツナギ、軍手、安全靴、反射ベスト。現場の匂いがそのまま服になったような店だ。主任は迷わなかった。新品の作業服を、二着。レジで支払いを済ませると、店を出た。「主任、これで土工の格好ですね」私がそう言うと、主任は鼻で笑った。「ちゃう」ちゃう、って何がちゃうんだ。そう思った瞬間、主任は道端へ視線を向けた。つづく・・・
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