うつ病と運動の関係

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さて、今回のテーマですが『うつ病と運動の関係』について書いてみたいと思います。
とはいっても、うつ病だと「運動ができない」という意見が大半だと思います。かくゆう私も、薬との相性が合わず、以前は「まったく」運動ができませんでした。
まして、今は「立冬」です。「寒いから運動なんて・・・」というのが皆さんの正直な気持ちでしょう。
それを承知のうえで「運動をする」ことによって、どの様な効果があるのかを紹介したいと思います。

まず「運動」の話しをする前に「生活習慣」について触れてみたいと思います。
うつ病の治療には、薬物療法が非常に有効なのは、皆さんご存知かと思います。通院して薬物療法を行うことは大切ですが、一方で更に「生活習慣」を改善することで、より健康な心身をつくり「うつ状態」を改善し「うつ状態」に再び陥らない「生活習慣」を身につけることも大事だと言われるようになっています。
2013年の精神科医の一番大きな集まりである日本精神神経学会では「生活習慣病としてのうつ病」という題名でトピックフォーラムが開かれました。
健康な心身をつくる「生活習慣」は、大きく3つあり「運動」「食事」「睡眠」です。これらはどれも重要ですが「運動」はこれを行うことにより「食欲の増進」や「睡眠の改善」が期待できるので、これら3つの中で特に重要です。このような「生活習慣」の改善から心身ともに改善をしていくということが必要になってくるのです。
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では「運動」について、少々堅苦しい内容から。
1985年に発表されたノルウェーの精神科医エギル・マーチンセン氏の臨床試験があります。この試験は日常生活を送るのもままならないほどの「うつ病」と診断された49人を半分に分け、一方は1週間に3日、1時間程度ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を、残りの半分はその時間に作業療法を行うものでした。
すると9週間後、有酸素運動のグループの男女は作業療法のグループよりも「うつ病」に大幅な改善が見られたそうです。

また、デューク大学医学部ジャームズ・ブルメンサル教授は、有酸素運動のみを行ったグループ、抗うつ薬を服用したグループ、抗うつ薬と有酸素運動を併用したグループ、の3つに分け4ヶ月間の治療効果を比較しました。
すると有酸素運動のみを行ったグループの回復率が最も高いことがわかりました。そして6ヶ月後の再発率は、有酸素運動のみを行ったグループが最も低いこともわかっています。

さらに「運動や身体を動かすことが、うつ症状を軽減する。」について、スイスとドイツの科学者たち(ミルコ・ウェグナー氏が率いるベルン大学・スポーツ科学センターの研究チームと、ハンブルク大学医学部の研究者)がそれを裏付ける発表を行ないました。
それによると「運動」によって刺激された脳内の動きは抗うつ薬と同じ効果をもたらすことを証明したというものでした。

それから、1999年アメリカのブルメンタールという研究者は、一定の条件を満たすうつ病患者さんたち合計156名を選びこれを約50名ずつの3グループに分けました。これらの人の中には、かなり重症のうつ状態の人も含まれています。そして、それぞれのグループを、抗うつ剤(Sertraline)だけで治療するグループ、薬は飲まずに「運動(療法)」だけで治療するグループ、薬と「運動」の両方を行うグループ、の3つに分けました。「運動」は、中からややきつい有酸素運動を週に3回30分間、16週間にわたって指導者のものとで行わせるというものです。
この結果、16週間の後にはどのグループも同じようにうつ状態が回復しました。そして、当たり前のことですが、「運動」をしたグループは体力が著しく向上していました。

この様に「運動」がうつ病患者に対して治療的に働く、つまり症状を改善させるという報告は次第に増えています。しかし、本当に「運動」だけでも「うつ病」が良くなるかどうかは、まだ研究が進んでいる最中でもあります。
一方で、これまで「運動」によって「うつ病」が悪化したという研究は殆どありません。ではなぜ、「運動(有酸素運動などのエクササイズ)」が、うつ病を改善するのでしょうか?

「運動」をすると、脳内のセロトニンが増えると考えられています。セロトニンはトリプトファンという必須アミノ酸からつくられているといいますが、通常トリプトファンがアルブミンというたんぱく質とくっついて存在しているため「血液脳関門」という脳に入るための関所を通ることができません。
しかし、「運動」をすることによって、体内での脂肪の分解がすすみ、血液中に遊離脂肪酸が増えると、アルプミンはトリプトファンを手放し、遊離脂肪酸とくっつきます。
すると、トリプトファンは「血液脳関門」をスムーズに通過して、脳内に入ることができ、セロトニンに変換されます。現在あるセロトニンを有効活用しようとする抗うつ薬と違い「運動」には脳内のセロトニンを増やす効果があるというわけです。
また、「運動」にはセロトニンだけでなく、ドーパミンやノルアドレナリンといった気分を高揚させたり、やる気を起こさせたりする神経伝達物質があるという説もあります。
いずれも、脳を元気にする精神伝達物質ですから、うつ状態に陥った心も、徐々に回復してくでしょう。

どうですか?
「運動」をすると、何かよくわからないけど「イイことがあるみたい」と、感じてもらえましたでしょうか。「運動」による効果として、ほかにも「睡眠の改善」や「体力の向上」というものがあります。「運動(習慣)」のある人は、寝付きが良い、睡眠時間が長い、深い睡眠が多い、夜の途中で目を覚ます中途覚醒が少ない、などの良質の睡眠をとっていることが知られています。「運動」により睡眠の質が向上すれば、これがさらに日中の気分の向上を作るということも言えるのです。
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では「運動(治療)」における注意点を。
これまで「運動」をしていない人が、いきなり「運動」をするときには気をつけなければならない点が多くあります。
まずは、自分がこれまで「運動」した経験があれば、その経験に基づいて無理のないところから「運動」を始める。最初は、ウォーキングや、ゆっくりした短距離のジョギングで良いと思います。
また、「運動」したことがなければ、ちょっと周りを歩いてみるというだけでも良いと思います。プールに行って、水中ウォーキングなども良いかもしれません。
もし、関節痛や心疾患などが指摘されている人であれば、整形外科医や内科医とも相談しながらやったほうが良いと思います。しかし「運動(療法)」が向かない人もいることも知っておいて下さい。
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お勧めする「運動」とは。
現在までの研究を総合的に考えた場合にうつ病患者の「運動」としてお勧めするのは、
1.中強度以上の(有酸素性)運動を。
2.週3日以上行う、ということです。
これは、結局のところメタボリックシンドロームなどのために推奨される健康運動とほぼ同じようなことです。つまり、心身ともに健康になるという視点では、うつ病は生活習慣病の一つと考えても良いケースも少なからずあると考えられます。また、体が重い時にでも簡単にできる軽い「運動」もあります。

・深呼吸・
呼吸は普段無意識に行っている事なので「運動」と呼ぶには大げさですが、呼吸を整えると気持ちも不思議と整ってくるものです。
うつの症状が重い時は息苦しくなって呼吸が短くなる傾向にあるので、窓を開けて新鮮な空気を取り込んでから、鼻で大きく息を吸って口から吐きます。5分ほど続けると体内のリンパ液が綺麗になるという情報もありますが5分は辛いので、5回程度でも一時的にスッキリできます。

・首を回す・
首を回す「運動」を行うとセロトニンを作る縫線核(ほうせんかく)を刺激してセロトニンの分泌が良くなるそうです。右回り、左回りにそれぞれ20回ずつゆっくり回してみましょう。首を回す「運動」には他に顔部への血流を良くしたり、首のつぼを刺激して目の疲れにも効くようです。実際にやってみると頭の中もスッキリした気持ちになります。

・咀嚼(そしゃく)・
咀嚼という表現をしましたが簡単に言うと噛む事です。一定リズムで噛む「運動」もセロトニンの分泌を活性化させる事が知られています。だから栄養補給をサプリメントに頼るよりしっかりした食事で栄養を取った方がうつにも効果がありそうです。でももし、うつで食欲がない時はガムで「(咀嚼)運動」を行うといいかもしれません。但し5分以上行わないと効果が薄いようです。

・ストレッチ・
少し元気が出てきたら体全体のストレッチをお勧めします。ストレッチが体全体の血流を良くするのはよく知られていますが、軽い汗をかく程度の「運動」をすると心も活発になります。本格的なものじゃなくてもラジオ体操のように体をひねったり反ったり伸ばしたりするだけでも効果があります。ひざの屈伸運動なども効果的です。

・部屋の掃除・
部屋の掃除は最も実用的な「運動」です。運動効果だけでなく部屋が綺麗に片付くと気持ちいいものです。うつ病の時には掃除も辛いかもしれませんが、これも少し元気が出てきたらやってみてはいかがでしょうか。
一度に全部やりきってしまう必要はないので部分的に少しずつ部屋を片付けていくだけでも充分です。

ちなみに、こんな検証結果もあります。
米コロラド大学ボルダー校のBenjamin Greenwood氏がおこなった調査では「強制されたとき」でもエクササイズによるメンタルヘルス効果が得られるのかどうかを検証しました。
実験では、マウスを「自分の好きなときに運動」ができるグループ、「決まった時間に強引に運動」をさせるグループ、そして「全く運動をしない」グループの3つに分け、6週間様子を見た。
その後、故意的にストレスを与え、そのときの不安レベルを検査したところ、「運動」していなかったマウスほど感じるストレスが多大であることがわかったとか。
しかし、「運動」を自主的にしていたグループと強制されていたグループの不安レベルには、歴然とした違いは見られなかったという。
Greenwood氏によれば「自ら進んでエクササイズをした方が、不安やうつを取り除く効果は高いかもしれない。しかし、暗い気持ちから心を守るという面では、無理強いされてでも体を動かした方が、動かないよりはマシだ」とのこと。
マウスでの検証なので「人間」も同じという事にはいかないかもしれませんが、参考までに載せてみました。
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「運動」=「日光浴」の意味もある!?
「運動」をするのがいいと言われるのには「日光を浴びる」という意味合いも大きく含まれています。昔から日光を浴びるというのは体に良いと言われていますが、科学が発達した今でもそれは変わらず、よりその効果が解明されて推進されています。
日光には「うつ病」にありがちな生活リズムの乱れを整えてくれる作用があり、特に朝起きて一番に朝日を浴びるのは効果的です。
例え夜眠れなくて朝が辛くても、朝日だけは浴びるようにしましょう。朝日はあなたの体に一日の始まりを告げてくれます。
その他にも日光から摂取できる栄養分というのもありますので、総合効果で健康に向かう事には大きな意味があります。
「運動」は継続する事で効果を見出すのが一般的ですが「うつ病」の場合は、それが最優先事項では無く「何かをしたい!」という意思を持ち続けるのが第一です。
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今回は「運動」に焦点を当てましたが、それは「運動」の有用性を語る為のものなので、「運動」以外にやりがいとやる気を見せるのももちろん改善に繋がります。その中でも「運動」により体を動かしたいと思うのは特に大事なので、やりたい事に「運動」が浮かぶようになれば、完治もぐっと近付くでしょう。
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