【詩】水神(みなかみ)

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海に深く沈んで 
水面より現れ出ずる 幻想(モザイク)の光の中を
揺蕩うている夢だった
あなたの髪の毛が 潮風のような匂いを孕んでいたので
惑わされたのだ

太陽の光は
水のフィルターを通して 段々細々となっていった
最後まで残った光の粒は 極上の砂金となって
海の底に 静かに落ち残る
そこは
誰の手にも渡ることのない
神の密かな安息地
荒らさぬように そっと泳いでいかねばならない

道中 神の化身である人魚たちが
優雅な尾鰭で 水を優しく掻き撫でていた
あの透明さと柔らかさは
あなたの髪の手触りと同じであることが 私には分かる
ここは 私とあなたが交じり合った世界なのだから

満たされている世界
深く深く透明で 私でさえ透き通ってしまいそうな
鳥のように羽ばたける 静穏なる海

原初
ここには空っぽの器があるに過ぎなかった
与えられるためだけに創られた器であったが
その目的のために
与えられぬまま 淋しく古ぼけていくかもしれなかった
器は気まぐれなシャボン色をしていて
他人が何かを与えない限りは 絶対に何も受け入れない
私は
誰かが何かを恵んでくれることを ずっとずっと待っていた
物乞いの私に あなたは命の水を なみなみと注いでくれ
今となっては 人の温かさに触れているかのように
心地よい居場所にしてくれた
あなたが分け与えた愛の海では
呼吸が出来ないはずの 水のなかでさえ
息苦しくはない

海中時計……赤い珊瑚の針が、時を刻む。
時間、時間。
それは恐ろしいもの、
夢の世界を流し終焉へと至らせる、残酷な生き物!
珊瑚の時計よ、お前のせいで、
人魚は黎明の声を聞き、
あなたは楽園を終わらせた。
あなたの髪の毛が、私からほろほろと、解けていく。
水が綻びて、
ほつれた絹糸のような流線が、
私の頬を撫で放す。
滅びを示す泡沫が、
人魚の鱗を、黄金の砂を、光の水を、
私から、あらゆるものを奪い去り、
歪みながら、浮かび上がっては消えていく。
浮かぶには重たすぎる私は、
一滴足りとも残さず奪われ、ただっ広く枯れた大地を、
独りで彷徨わなければならない予感がした。
泡を虚しく掻き抱けば、
散り散りに逃げ、憎らしい。
どちらが禍(まが)っているかという問い、
答えを拒絶、黙秘した。

海風の船頭 あなたの髪は
本当に風のように
私のあいだをすり抜けてしまって
二度と戻ってこなかった

なぜあなたは与えてくれたのですか。
もしもこの問いの答えが、
"ただの気紛れ"だったとしても、
その鋭い答えの刃を、この身で深々と受け止めて。
そのまま、夢のなかを漂って。
美しい景色を見るためだけに、
もっと、強く、抱きしめよう。
あのまま、あなたを捕まえたまま、
一緒に溺れてしまえばいい。
一人きりで目覚めた、青白い朝も、
今、この月のない夜も。
ただ、そんな風に、それだけを思う。



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