第8回:バリュエーション・モデル(DCF法)と企業価値評価、株価計算について
この度はお読み頂きまして誠に有難うございます。Taskaruです。本ブログではコーポレート・ファイナンスに関わる話題を幅広く取り上げていきたいと考えています。
エクセルによる財務モデリングの方法(第1~6回)に続き、今回はバリュエーション・モデルの代表的なものとして、Discount Cash Flow(DCF)分析について、説明したいと思います。このDCF法は一言で申し上げると、企業が将来に亘って生み出すキャッシュフローを現在の価値に割り引くことによって理論的な株価を算出することができる手法となります。
まず、一番重要なこととして、DCF法で割り引く「キャッシュ・フロー」について解説します。
⇒ DCF法で割り引くキャッシュ・フローは、(一般的には)Unlevered Free Cash Flowです。
DCF法を紹介する多くの書籍には単に「フリー・キャッシュ・フロー」とだけ記載されていることが多いですが、コーポレートファイナンスにおいては、2つに分けることができます:
(A)アンレバード・フリー・キャッシュ・フロー(Unlevered Free Cash Flow、あるいは、Free Cash Flow to Firm。以下、UFCF)
(B)レバード・フリー・キャッシュ・フロー(Levered Free Cashflow、あるいはEquity Cash Flow、Free Cash Flow to Equity。以下、ECF)
DCF法においては、(A)が主に使われるため、ここでは(A)について少し追加で解説します。
まず、(A)Unlevered Free Cash Flowというのは、企業の資本構成の違いを反映していない/バランスシート上の負債の影響を反映していないキャッシュ・フローとなります。少し違う表現をすると、負債債務等を勘案する「前」段階でどれぐらいのキャッシュ・フローがあるか、ということを測るものです。
計算式は次の通りとなり、ここからも、借入金の返済等は勘案されていないキャッシュ・フローであることが見て取れるかと思います。
⇒ UFCF = 税引後営業利益(NOPAT = 営業利益 x [1 – 税率]) + 非現金支出費用(のれん償却費や減価償却費)+ 運転資本(Working Capital)増減額 – 設備投資
【実際の計算例】
このUFCFの重要な概念としては、債務返済を勘案していないキャッシュ・フローであるということから、「UFCFは債権者と株主の両方に帰属するキャッシュ・フローである」という点です。
また、このことが理由で、UFCFを現在価値に割り引くことによって計算される”理論価値”は直接的には「企業価値(株式価値+負債)」になります。
次に、フリー・キャッシュ・フローを現在価値に”割り引く”方法ですので、何で割り引くのか、について解説します。
⇒ UFCFは、債権者と株主の両方に帰属するキャッシュ・フローであるため、WACC(Weighted Average Cost of Capital)を使用して、割り引きます。
WACCとは、端的に申し上げると、借入にかかるコストと株式調達にかかるコストを加重平均です。なぜこれを使うかというと、少し繰り返しになりますが、UFCFは、債権者と株主の両方に帰属するキャッシュ・フローであるため、借入にかかるコスト(債権者)と、株式調達にかかるコスト(株主)の両方を見てあげる必要がある、という観点です。
計算式は以下の通りです:
ここで、Cost of Debt は、社債金利や支払利息から計算される金利が参照されます。
Cost of Equity(株主資本コスト)については、CAPMといったモデルを用いて計算されます。CAPMについては今後紹介したいと思います。
【実際の計算例】
Cost of Equity = 6.5%、Cost of Debt = 0.5%、また、E/(E+D) = 0.9、D/(E+D)=0.1であることから、
⇒ WACC = 6.5%x 0.9 + 0.5% x 0.1 x (1-31.8%) = 5.9%
以上がDCF分析における重要なポイントとなります。あとは計算になります。
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計算方法の説明を進めます。さて、具体的には、
(1)ステップ1:予測期間中のUFCFの現在価値を計算します。