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女の子、とっかえひっかえしてるみたいに見えるよ

翌日の放課後。教室の空気が、どこかざらついていた。悠真が席を立った瞬間、女子のひとりが、ふいに言った。「ねえ、ちょっとさ。」教室の視線が、ゆっくり集まる。「どういうつもりなの?」笑ってはいなかった。「陽菜とも帰ってるよね? 凪とも帰ってるよね?」空気が固まる。「女の子、とっかえひっかえしてるみたいに見えるよ。」ざわ、と小さな波。男子が軽く茶化す。「ひがむなよ。」笑いが起こる。でも、悠真は笑わなかった。ただ、一瞬だけ目を伏せた。その顔を、凪は見た。傷ついた顔だった。弁解も、反論も、しない。「そんなつもりじゃない」その一言さえ、飲み込んだ。凪の胸が、強く締めつけられる。“わたしのせいかもしれない”その考えが、頭を離れない。好きでいることが、悠真を追い詰めるなら。一緒に帰った時間が、彼を責める材料になるなら。わたしは——いないほうが、いいのかな。窓の外では、夕焼けが沈みかけている。悠真は静かに教室を出た。凪は、立ち上がれなかった。好きなのに。好きだから。動けない。それがいちばん苦しい。教室に残った夕陽が、赤いリボンを、やわらかく照らしていた。まるで、ほどけそうな糸みたいに。
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好きな気持ちは、簡単に消えてくれない

放課後の教室は、まだ少しだけざわついていた。凪は机の中を整えながら、無意識に悠真の方を見てしまう。悠真は、窓際で男子と話していた。笑っている。楽しそうに。(……あんな顔、最近見てなかったかも)胸の奥が、ちくっと痛む。凪は視線を落とし、カバンの持ち手をぎゅっと握った。(今日は、一緒に帰らない方がいいかな)そんな考えが浮かんでは、消える。決められないまま、時間だけが過ぎていく。「凪」不意に名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。振り返ると、悠真が立っていた。「先、帰る?」その問いかけは、やさしいのに、どこか他人行儀で。「……うん」凪は少し迷ってから、うなずいた。悠真は一瞬、何か言いたそうにしたけれど、結局、軽く笑った。「じゃあ、気をつけて」その笑顔が、今日いちばん胸に刺さった。凪は教室を出る。廊下を歩きながら、後ろを振り返りたくなる衝動を、必死に抑える。(私が離れた方が、楽なのかな)自分に言い聞かせるように、そう思おうとする。昇降口で靴を履き替え、外に出ると、冷たい空気が頬に触れた。夕方の空は、もうすっかり色を失いかけている。(今日は……ひとりだ)それだけのことなのに、足取りが重い。帰り道、ふと立ち止まる。以前、悠真と並んで歩いた場所。笑ったこと。何気ない会話。肩が触れそうになって、慌てたこと。全部、まだ近くにあるのに、もう戻れない気がしてしまう。「……ばかだな」小さくつぶやいて、凪は歩き出した。好きな気持ちは、簡単に消えてくれない。だからこそ、この距離が、こんなにも苦しい。夕暮れは、何も言わずに沈んでいく。凪の胸の中だけが、取り残されたままだった。
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期待させないでほしい。でも、気づいてほしい。

教室は、まだ笑い声の余韻を残していた。凪は自分の席に座ったまま、教科書を開いているふりをしていた。ページは、さっきから一度もめくられていない。奥で、悠真が笑う。その声だけが、やけに輪郭を持って耳に届く。こんなに遠かったっけ。距離は、教室の端と端。たったそれだけなのに。凪は、ペンを握り直した。指先に力が入る。目が合うときはある。廊下で、ふとした瞬間に。名前を呼ばれることも、増えた。でも。あの輪の中に、自分はいない。悠真が、誰かの肩を軽く叩く。自然な仕草。いつもの笑顔。その横顔を見ているだけで、胸の奥が少しずつ冷えていく。私、何を期待してるんだろう。好きになる前は、こんなことで苦しくならなかった。ただ同じクラスの男子。それだけだったのに。チャイムが鳴る。男子たちがばらけていく中、悠真がふとこちらを向いた。一瞬、目が合う。凪は、反射的に視線を落とした。呼ばれなかった。何も言われなかった。それだけなのに、何かを失ったような気持ちになる。帰り道。夕焼けはもう薄くて、空は灰色に近い。凪はひとりで歩く。足音が一定のリズムを刻む。スマホが震えた。画面には、悠真の名前。心臓が、跳ねる。『さっき元気なかった?』たったそれだけ。凪は立ち止まる。どうして。どうしてそんなこと、気づくの。苦しいままでいいと思っていたのに。期待させないでほしい。でも、気づいてほしい。矛盾が、胸の奥で絡まる。『べつに』短く打って、送信ボタンの上で指が止まる。ほんとは、違う。でも。長い文章を送る勇気はない。結局、そのまま送った。すぐに既読がつく。『そっか。ならいいけど』ならいいけど。その一言が、優しいのか、突き放しているのか分
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……ずるいよ、そういうこと言うの

冬の冷たい空気が、校舎の廊下にゆっくりと入り込んでくる。チャイムが鳴る前のホームルーム教室は、いつもより静かだった。凪は席につきながら、窓の外の沈んだ空を見た。(なんだろ……   今日はずっと胸が落ち着かない)昨日の並木道での出来事。風でマフラーがめくれた瞬間、体勢を崩した凪を、悠真が本気で抱きとめたこと。その時の 手の強さ。息が触れそうな距離。そして、あの赤くなった耳。全部、まだ胸に残っていた。1限目。現代文。席は斜め後ろ。ちょうど振り返れば悠真が見える位置。……だから凪は、振り返らないように必死だった。(気づいたら見ちゃいそう……   いや、見たくない……   いや、見たい……)ノートの上に書いた文字が少し震える。そのとき。ふと、視線を感じた。(……え?)ゆっくり後ろを向くと――悠真がじっと、凪を見ていた。目が合った。凪の心臓が跳ねる。悠真はわずかに目を見開き、それから照れたように視線を逸らした。(なんで見てたの……?)胸がざわざわして、授業の内容が頭に入らない。休み時間。凪は教室の後ろでノートを整理していた。そこへ悠真が近づいてくる。「凪、今の……」凪は咄嗟に言ってしまった。「見てないよ!全然っ!」悠真は一瞬きょとんとし、そこからゆっくり笑った。「俺が見てたって話なんだけど」凪の顔が一気に熱くなる。「……っ、なんで……見てたの?」悠真は少しだけ真剣な表情になって言った。「今日の凪、   いつもより落ち着かなく見えたから」「お、落ち着いてるよ……」「うん。そう見えたらいいんだけどさ」悠真は指でノートの端を軽く触れ、目を逸らさずに続ける。「……本当は、  今日ずっと気になって
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私、今、どんな顔してるんだろう?

放課後の教室は、いつもより少しだけ騒がしかった。凪は廊下の窓際に立って、何も考えていないふりをしていた。本当は、教室の奥のほうを見ている。悠真が笑っていた。男子に肩を叩かれて、少し困った顔をして、それでも笑っていた。その笑い方を、凪は知っている。あの顔、私の前ではあまりしないのに。胸の奥が、じわっと重くなる。別に、特別なことじゃない。男子と笑っているだけだ。普通だ。それなのに。凪は視線を外した。見なければよかった、と思いながら、見てしまった自分を責める。廊下を歩く足音がやけに大きく響く。誰も気づいていないのに、自分だけが取り残された気がした。「私、今、どんな顔してるんだろう?」家に帰っても、電気はつけなかった。制服のまま、ベッドの横に座り込む。赤いリボンだけが、暗がりの中でかすかに形を持っている。悠真が、好きだ。それはもう、どうしようもない。でも。あの笑い声を思い出すと、自分の場所がどこにもないような気がする。近づいたはずなのに。話す回数も増えたのに。目も、ちゃんと合うようになったのに。触れない距離。触れないほうが、壊れない距離。凪は膝を抱えた。「……ばか」小さく呟いて、すぐに後悔する。悠真は何も悪くない。ただ、普通に笑っていただけ。苦しいのは、勝手に期待してしまう自分のせいだ。窓の外で、風が鳴った。空気は冷えてきている。凪はゆっくり目を閉じる。もし明日、悠真がまた笑っていたら。私は、ちゃんと教室に入れるだろうか。それとも、また廊下に立ったまま、見ないふりをするのだろうか。答えは出ないまま、夜だけが深くなっていった。まだ、苦しいままでいい。そう思ってしまう自分が、いちばん、厄介
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この時間が続くほど……きっと苦しくなる

夕焼けの光が、教室の床をゆっくりと染めていく。窓際の席で、凪はノートを閉じたまま、外を見つめていた。背後から聞こえる、明るい声。「悠真くん、この問題さ……    ちょっと教えてほしいんだけど」振り向かなくてもわかる。その声の主は、クラスの人気者——陽菜(ひな)だった。悠真は少し困ったように笑いながら、それでも丁寧に椅子を引いた。「うん、どこ?」その声は、いつもと同じ。誰に対しても変わらない、誠実で優しい声。それが、凪には苦しかった。鉛筆が紙の上を走る音。二人の距離が、ほんの少し近づく。凪の胸が、きゅっと締めつけられる。(悠真は、悪くない)わかっている。悠真は誰かを選ぼうとしているわけじゃない。ただ、優しいだけ。陽菜は楽しそうに悠真の顔を見上げた。「悠真くんってさ、本当に優しいよね」「……そんなことないよ」「あるよ。クラスのみんなそう思ってるもん」照れたように視線をそらす悠真。その仕草ひとつで、凪の心は揺れた。(わたしは……どうしたらいいんだろう)声をかけたい。そばに行きたい。いつものように笑いたい。でも、足が動かない。この距離が壊れてしまいそうで。悠真が、遠くへ行ってしまいそうで。そのとき——悠真がふと、こちらを振り返った。夕焼けの中で、凪と目が合う。「……凪」小さく呼ばれた名前。それだけで、胸が熱くなる。陽菜も気づいて振り返り、にこっと笑った。「凪ちゃんも一緒に勉強しよ?」その笑顔は本当にやさしくて、嫌なところなんてひとつもない。だからこそ、凪は断れなかった。その瞬間、悠真がそっと凪の方へ近づく。「無理しなくていいよ」低く、穏やかな声。「凪が嫌なら、今日はやめよう」凪は驚いて
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……凪、それ言うの反則

図書室の扉を開けると、いつもの冬の光が静かに差し込んでいた。凪は胸の奥の高鳴りを落ち着けるように深呼吸をひとつしてから、窓際の席に向かった。(見られると、弱い……)自分で言った言葉が頭の中で何度も反芻され、頬がまだじんわり熱い。ほどなくして扉が静かに開き、悠真が姿を現した。目が合った瞬間――また胸の奥で跳ねるような音がした。「来てたんだ」「……うん」悠真は席につくと、いつもより少しだけ距離を近く座った。ほんの数センチ。でも、その数センチが心臓の位置を揺らす。「今日の授業のときさ――」悠真が切り出す。凪はピクリと肩を揺らした。「そんなに見てなくてもよかったのにって、 思ってる?」「……ちょっと」「じゃあ……」悠真は意地悪に笑うかと思いきや、驚くほど真剣な目をして言った。「俺が見ても困らない方法、 ひとつあるけど」凪は息を飲んだ。「何……?」「見られたくないなら、 凪も見ればいいんだよ」「……は?むり」即答した凪に、悠真はくすっと笑った。「じゃあ今日は、 見たいだけ見ていいよ」「な、なんでそうなるの?」「凪が僕のこと見たときの顔、 好きだから」(……ずるい。ほんとにずるい)心のどこかがふわりと甘く溶けていく。ページをめくる音だけが響く図書室。二人の影が机の上で少し重なる。ふいに――凪のペンがころん、と転がった。「……あ」ペンは机の端から床へ落ち、悠真がそれを拾おうと同時に凪も身をかがめた。指先が――触れそうになって止まる。(……っ)肩が触れそうで触れない。指先も触れそうで触れない。その距離は、呼吸ひとつで埋まるような近さだった。「凪……」小さな声。耳の奥まで届く距離。凪は慌てて手を
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