どうして、あの一言のほうが、こんなに残るんだろう。

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コラム
夕焼けの色が、少しずつ薄くなっていく。

教室の窓に映る空が、
オレンジから青へ、ゆっくり変わっていく。

凪は、スマートフォンを持ったまま、
しばらく動かなかった。

『見ちゃう』
その短い言葉だけが、
まだ胸の奥に残っている。

廊下から、誰かの笑い声が聞こえる。

部活へ向かう足音。
遠ざかる声。

教室の中は、少しずつ静かになっていく。

凪は、もう一度だけ画面を見る。

トーク画面。
最後の一言。

たったそれだけなのに、
閉じるのが、少し惜しい。

「まだ帰ってなかったんだ」

後ろから声がする。

振り返ると、悠真が立っていた。

バッグを肩にかけて、
いつもの顔で、こっちを見ている。

「……うん」

凪は、スマートフォンを伏せる。
反射みたいな動き。

悠真は、それに気づいたのか、
気づいていないのか、
そのまま近くの席に軽く腰をかけた。

「珍しいな」
窓の外を見ながら言う。

「凪、いつもすぐ帰るのに」

その言葉に、
凪の心が、ほんの少しだけ止まる。

“いつも”。
その言葉が、妙に引っかかった。

確かに、そうだった。

放課後は、特別長く残らない。
誰かを待つこともない。

でも、今日は、まだここにいる。

理由を考えようとして、やめる。

「……なんか」
凪は、小さくつぶやく。

悠真が、「ん?」と顔を向ける。

凪は、その続きを探して、
でも、見つからない。

言葉にした瞬間、
何かが変わってしまいそうで。

「……ううん」
結局、そう言って、首を振る。

悠真は少しだけ不思議そうな顔をしたあと、
「そっか」とだけ返した。

沈黙が落ちる。
気まずくはない。

安心できる静けさ。
ずっと知っている温度。

でも、その静けさの中で、
凪は、別の空気を思い出していた。

夜の公園。
風。
ブランコの音。

そして、“見ちゃう”
あの短い言葉。

凪は、そっとポケットに触れる。

そこにある熱が、
少しだけ、近い。

「じゃ、帰ろうかな」
悠真が立ち上がる。

凪は、小さくうなずく。
「……うん」

いつも通りの返事。

でも、
悠真が教室を出ていく背中を見ながら、
凪の中で、ほんの少しだけ、
何かがずれていく。

安心なのに。
やさしいのに。
ちゃんと、落ち着くのに。

どうして、あの一言のほうが、
こんなに残るんだろう。

窓の外は、もう夕暮れだった。

凪は、ゆっくりスマートフォンを取り出す。
画面を開く。
指先が、少しだけ迷う。

それから、静かに文字を打ち始めた。
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