今から、少しだけ外に出られる?
通話の向こうで、陽菜が小さく息を吸う。「じゃあさ」その一言で、空気が変わる。「今から、少しだけ外に出られる?」凪の指が止まる。「え……今?」夜。部屋。さっきまでの“安全な距離”。全部が、一瞬で揺れる。でも、陽菜は続ける。「5分だけでいい」やわらかい声。でも、逃がさない。「同じ空気って言ったじゃん」少し間。「ほんとに、同じとこで感じてみない?」凪の心臓が、大きく鳴る。怖い。でも。逃げないって、決めた。凪は立ち上がる。パーカーを羽織って、ドアに手をかける。「……出る」短く。でも、ちゃんと前を向いた声。陽菜が、少しだけ笑う。「いいね」その声が、背中を押す。凪は、静かな廊下を抜けて外へ出る。夜の空気。少し冷たい。心が、はっきりしていく。「どこ?」凪が聞く。陽菜は、すぐに答える。「学校の近くの公園」あの場所。今日の続きが始まった場所の、少し先。「先に着いたら、ブランコね」軽く言う。でも、意味は重い。「ちゃんと見るって言ったでしょ?」凪の胸が、また鳴る。「……うん」歩き出す。夜道。街灯。静けさ。でも――もう一人じゃない。同じ方向に、同じ速度で、もう一人も動いている。凪は、少しだけ笑う。(ほんとに、来るんだ)その気持ちが、少しだけ嬉しい。そして、止まりかけていた物語が、一気に“動き出す”。
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