私、今、どんな顔してるんだろう?
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コラム
放課後の教室は、
いつもより少しだけ騒がしかった。
凪は廊下の窓際に立って、
何も考えていないふりをしていた。
本当は、教室の奥のほうを見ている。
悠真が笑っていた。
男子に肩を叩かれて、少し困った顔をして、
それでも笑っていた。
その笑い方を、凪は知っている。
あの顔、私の前ではあまりしないのに。
胸の奥が、じわっと重くなる。
別に、特別なことじゃない。
男子と笑っているだけだ。
普通だ。
それなのに。
凪は視線を外した。
見なければよかった、と思いながら、
見てしまった自分を責める。
廊下を歩く足音がやけに大きく響く。
誰も気づいていないのに、
自分だけが取り残された気がした。
「私、今、どんな顔してるんだろう?」
家に帰っても、電気はつけなかった。
制服のまま、ベッドの横に座り込む。
赤いリボンだけが、
暗がりの中でかすかに形を持っている。
悠真が、好きだ。
それはもう、どうしようもない。
でも。
あの笑い声を思い出すと、
自分の場所がどこにもないような気がする。
近づいたはずなのに。
話す回数も増えたのに。
目も、ちゃんと合うようになったのに。
触れない距離。
触れないほうが、壊れない距離。
凪は膝を抱えた。
「……ばか」
小さく呟いて、すぐに後悔する。
悠真は何も悪くない。
ただ、普通に笑っていただけ。
苦しいのは、
勝手に期待してしまう自分のせいだ。
窓の外で、風が鳴った。
空気は冷えてきている。
凪はゆっくり目を閉じる。
もし明日、
悠真がまた笑っていたら。
私は、ちゃんと教室に入れるだろうか。
それとも、
また廊下に立ったまま、
見ないふりをするのだろうか。
答えは出ないまま、
夜だけが深くなっていった。
まだ、苦しいままでいい。
そう思ってしまう自分が、
いちばん、厄介だった。