歴史的なインフレや労働力確保を背景に、
大胆な賃上げや初任給の引き上げを迫られています。
「競合に負けない基本給の設定はどうすべきか」
「既存社員との給与バランス(賃金格差)をどう調整すべきか」という、
原資の確保とセットになった
賃金制度の見直し相談が急増しています。
1. 「競合に負けない基本給水準」の考え方
① 自社の「上位水準」と「下位水準」を決める
賃金制度を組み立てる際は、
まず「どの層を基準にするか」をはっきりさせることが重要です。
◎上位等級の水準設定
例:若手~中堅の「標準的に育ってほしい正社員」の基本給水準を基準にし、そのレンジの上限をどこに置くか決める。
◎下位等級の水準設定
新卒初任給や第2新卒クラスの採用競合(同業他社・同地域企業)の水準を参考にしつつ、
「最低ここまでは出す」ラインを決める。
この「上位水準(社内)×下位水準(市場)」の2つを起点にして、
等級ごとの支給レンジ(下限~上限)を設定していくと、
内部・外部の両方に整合しやすくなります。
② 等級ごとの「支給範囲(レンジ)」を設定する
各等級(役割等級)ごとに、
基本給のレンジ(例:〇等級 23万円〜27万円)を設定します。
レンジ幅は等級ごとに一定でなくても構いません(若手層は幅狭め、中堅層は広め 等)。
このレンジの中で、
昇給運用(どのくらいの頻度・幅で上がっていくか)を決めておきます。
2. 既存社員とのバランス(賃金格差)調整
初任給だけを急激に引き上げると、
「後輩の方が自分より高い/ほぼ同じ」という不満が必ず出ますので、
制度的に整理しておくことが重要です。
① 現行賃金と新テーブルとの「超過」「未達」を把握
新しい賃金テーブル(等級別レンジ)を作ったら、
既存社員1人ひとりについて次を確認します。
超過:新テーブル上の水準より現行賃金の方が高い状態
未達:新テーブル上の水準より現行賃金の方が低い状態
このギャップをどう扱うかが、
「不利益変更リスク」と「従業員の納得感」に直結します。
② 「超過」の場合の移行措置
単純に即時減額すると、
不利益変更となり得ます。
一般的には、
・一定期間は現行水準を維持し、その後は昇給を抑制する
・差額を「調整給」などに切り分け、段階的に縮小する
といった「調整期間」を設ける形で移行されることが多いです。
③ 「未達」の場合の調整
新テーブルの水準より低い場合は、
そのまま放置すると、
均等・均衡待遇の観点(特に非正規との比較)でも問題が生じ得ますし、
モチベーション低下・退職リスクにつながります。
可能であれば、
移行時に一気に引き上げるのが望ましいですが、
難しい場合は、
複数年に分けて、
昇給幅を通常より大きくするという段階的対応も考えられます。
このときに必要な追加人件費の合計が、
いわゆる「移行原資」になります。
3. 同一労働同一賃金・非正規との均衡への配慮
正社員だけでなく、
パート・有期契約社員を抱えておられる場合は、
賃上げの際に同一労働同一賃金の観点も押さえておく必要があります。
① 賃金制度を正社員と「対応づけて」設計
パート・有期についても、
正社員の等級と対応する役割等級を設計し、
・上位等級は、正社員の同ランク基本給水準を参考に設定
・下位等級は、労働市場(パート・有期の時給相場)を踏まえて設定
といった形で水準を決めることで、
均衡待遇を図りやすくなります。
そのうえで、
各等級ごとの時給(基本給)の支給範囲を定め、
昇給運用を検討します。
② 諸手当・賞与の扱い
役職手当、特殊作業手当など
「職務に直接関連する手当」は、
同一労働同一賃金の対象となり、
性質・目的に照らして不合理な差がないかを
待遇ごとに確認する必要があります。
通勤手当なども、
支給の目的が同じであれば、
正社員と非正規で差を設ける場合には合理的な理由が必要です。
4. 昇給ルール・就業規則上の整理
① 昇給の定め方
法令上、昇給を定期に行う義務はなく、
「随時」としても問題ありません。
ただし、
就業規則で「毎年4月に昇給する」などと定めている場合に、
そのとおりに実施しないと、
労働契約違反と評価されるおそれがあります。
実務上は、
「業績および勤務成績等を勘案し、
必要に応じて昇給を行うことがある」といった形で、
実施するかどうか・幅は
会社裁量であることを明確にしておくことが多いです。
② 賃金規程への反映
賃金制度を見直した場合は、
賃金規程において
少なくとも次の点を整理しておく必要があります。
・賃金の構成要素(基本給、各種手当、賞与など)
・各要素の支給目的・支給条件・算定方法
・賃金の締切日・支払日・支払方法(就業規則の絶対的記載事項)
・昇給の有無・判断の考え方(「随時」とする場合も含め)
実際の支給ルールと規程の記載内容が食い違わないよう、
整理されることが重要です。
5. 原資の確保と運用のポイント
賃上げ・初任給引上げは
単年度だけでなく、
翌年度以降の昇給原資・賞与原資にも継続的に影響します。
1.新テーブルに基づく「通常昇給 × 人数」
2.新テーブルに基づく「未達引上げに要する移行原資」
の合計を試算し、
売上・粗利計画と照合して
許容範囲を確認しておく必要があります。
小売・サービスなど、
パート・有期の比率が高い業種では、
非正規の小幅な昇給でも全体原資へのインパクトが大きくなりがちですので、シミュレーションが重要になります。