凪は自分でも気づかないうちに、小さく微笑んでいた。
二時間目の終わりを告げるチャイムが鳴る。
先生が教室を出ると、あちこちで椅子を引く音が響き始めた。
「ふぅ。」
凪は大きく伸びをする。
「お疲れさま。」
いつの間にか陽菜が隣に立っていた。
「お疲れさま。」
自然と笑顔になる。
そのことが、もう特別ではなくなってきている。
「ねえ。」
陽菜が窓の外を見ながら言った。
「今度の日曜日、晴れるといいね。」
「何かあるの?」
凪は何気なく聞いた。
すると陽菜は少し照れたように笑う。
「おばあちゃんの家に行くの。」
「畑のお手伝い。」
「へぇ。」
凪は少し驚いた。
今まで陽菜のことをたくさん知っているような気がしていた。
でも、知らないことがまだこんなにある。
「何を育ててるの?」
「夏野菜かな。」
「トマトとか、きゅうりとか。」
「あと、おばあちゃんが作る枝豆がすごく美味しいんだ。」
話している陽菜は、とても楽しそうだった。
その表情を見ているだけで、凪までうれしくなる。
「凪は?」
突然聞き返される。
「休みの日、何してるの?」
「え……。」
凪は少し考えた。
休みの日。
何をしているだろう。
宿題をして。
家の手伝いをして。
来週の準備をして。
「……あんまり遊んでないかも。」
苦笑しながら答えると、陽菜は驚いた顔をした。
「ほんと?」
「うん。」
「なんか、もったいない。」
「もったいない?」
「うん。」
陽菜は笑う。
「凪って、ちゃんと休むのも上手じゃなさそう。」
その言葉に、凪は思わず笑ってしまった。
「それ、この前も言われた。」
「ふふ。」
「だって本当だもん。」
陽菜は悪びれもせず笑う。
その笑顔を見ていると、不思議と反論する気になれなかった。
むしろ。
(もっと知りたい。)
その思いが、胸の中に静かに生まれていた。
陽菜は何が好きなんだろう。
どんな音楽を聴くんだろう。
どんな景色を見ると笑うんだろう。
そんなことを考えている自分に、凪はまだ気づいていない。
窓の外では、白い雲がゆっくりと流れていた。
その雲を見上げながら、陽菜がぽつりと言う。
「今度さ。」
「うん?」
「一緒に、おばあちゃんの畑来る?」
凪は驚いて陽菜を見た。
陽菜はいつものように、穏やかに笑っていた。