こんなふうに、何かを待ち遠しいと思うのは久しぶりだった。

こんなふうに、何かを待ち遠しいと思うのは久しぶりだった。

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コラム
その日の帰り道。
凪の足取りは、いつもより少しだけ軽かった。

家に着いて鞄を置いても、
頭の中には陽菜の言葉が残っている。

「もし来てくれたら、一番最初に枝豆を食べてもらうね。」

思い出すたびに、小さく笑ってしまう。

「何笑ってるの?」

夕食の準備をしていた母が、不思議そうに声をかけた。

「え?」

「なんでもない。」

凪は慌てて首を振る。

本当に、なんでもない。

……はずなのに。
自分でも気づかないうちに、頬がゆるんでいた。

夕食を終え、自分の部屋へ戻る。
机の上には、宿題と来週の時間割。

いつもなら先に終わらせる。
でも今日は、窓の外をぼんやり眺めてしまう。

(畑って、どんなところなんだろう。)

土の匂い。
夏野菜。
風の音。

そして、その景色の中で笑う陽菜。

想像するだけで、胸の奥があたたかくなる。

「……楽しみ。」
ぽつりとつぶやいた自分の声に、凪は少し驚いた。

こんなふうに、何かを待ち遠しいと思うのは久しぶりだった。

宿題を始めようとノートを開いた、
そのとき、スマートフォンが小さく震えた。

画面を見る。
陽菜からだった。

『日曜日、朝九時に駅で待ち合わせしよう😊』

続けてもう一通届く。

『動きやすい服がおすすめだよ。』

凪は思わず笑う。

『了解。』

短く返信してから、少し迷う。

もう一言送りたい。
でも、何を書けばいいんだろう。

「楽しみにしてる。」

その言葉を打っては消し、打っては消す。

少し考えてから、凪はゆっくり文字を打った。

『誘ってくれて、ありがとう。』

送信ボタンを押す。

数秒後。

『こちらこそ、一緒に行けてうれしい🌱』

その一文を読んだ瞬間、
胸の奥が、ふわっとあたたかくなった。

凪はスマートフォンを胸に抱きしめ、小さく目を閉じる。

言葉は少ない。
でも、それで十分だった。

窓の外では、夜風がカーテンをやさしく揺らしている。

明日は土曜日。
そして、その次の日には、
陽菜と過ごす、初めての学校の外での時間が待っていた。

凪はまだ知らない。
その一日が、自分の心を大きく動かすことになるなんて。

ただ今は、「早く日曜日にならないかな。」
その気持ちだけが、静かに胸の中で育っていた。

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