その言葉に、凪は静かに目を閉じた。

その言葉に、凪は静かに目を閉じた。

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コラム
その願いの先には、いつも、陽菜がいた。

「ねえ、凪。」

麦茶を飲み終えた陽菜が立ち上がる。

「もう一か所、見せたい場所があるんだ。」

「見せたい場所?」

「うん。」

その言い方が少しだけうれしそうで、凪も自然と立ち上がった。

「行こう。」

三人は畑をあとにして、小さなあぜ道を歩き始める。

風が吹くたび、稲が波のように揺れる。

さらさら。さらさら。

その音に合わせるように、二人の歩幅も自然とそろっていた。

しばらく歩くと、小さな丘が見えてきた。

「ここ。」

陽菜が振り返る。

「私が落ち込むと、いつも来る場所。」

凪はゆっくり辺りを見渡した。

見渡す限りの田んぼ。
遠くには青い山並み。
白い雲がゆっくり流れ、その下を風が渡っていく。

派手な景色ではない。
観光地でもない。

でも。
「……きれい。」

その一言しか出てこなかった。

「でしょ。」

陽菜は満足そうに笑う。

「ここにいるとね、自分の悩みが、小さく見えてくるの。」

二人は草の上に並んで腰を下ろした。

風が前髪を揺らす。

しばらく、誰も話さない。

セミの声。
風の音。

遠くで動くトラクターのエンジン音。

それだけで、十分だった。

「凪。」

陽菜が空を見上げたまま言う。

「前にね。」

「私、ここでおばあちゃんに聞いたことがあるの。」

「何を?」

「どうして風って見えないのに、あるって分かるんだろうって。」

凪は少し考える。

「……なんで?」

陽菜は微笑む。

「おばあちゃんね。」

『風は見えないけど、葉っぱが教えてくれるんだよ。』

そう言ったの。

陽菜は一本の草をそっと指先でなでる。

「人の気持ちも、少し似てるのかもしれない。」

「気持ちは見えない。」

「でも。」

「笑顔だったり。」

「声だったり。」

「隣にいてくれることだったり。」

「そういうもので、ちゃんと伝わることがある。」

何も答えられなかった。

胸の奥が、じんわりと温かくなる。

言葉にできない。

でも、その温かさは、確かにそこにあった。

風は見えない。
だけど、葉っぱが揺れる。

安心も見えない。
だけど、陽菜といると心が軽くなる。

凪は草の上に手を置いた。
夏の土は、太陽のぬくもりをそのまま残していた。

「ありがとう。」

小さくつぶやく。

「この景色、連れてきてくれて。」

陽菜は照れくさそうに笑う。

「うん。」

「凪なら、きっと好きになってくれると思った。」

その言葉に、凪は静かに目を閉じた。

風が二人の間を通り抜ける。

見えないものは、本当に大切なものほど、
静かに、心へ届くのかもしれない。

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