誰かと同じ歩幅で歩けること。それだけで、こんなにも心は軽くなる。

 誰かと同じ歩幅で歩けること。それだけで、こんなにも心は軽くなる。

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コラム
見えないものは、本当に大切なものほど、
静かに、心へ届くのかもしれない。

二人はしばらく、その景色を眺めていた。

風が草を揺らす。
雲がゆっくりと流れていく。

誰も急がない。
誰も、何かを話そうとはしなかった。

それでも、不思議なくらい満たされていた。

「そろそろ戻ろうか。」

陽菜が立ち上がる。

「うん。」

丘を下る道は、来たときより少し急に感じた。

草の間を縫うように続く細い道。
凪は足元を見ながら慎重に歩く。

そのときだった。
小さな石につま先が触れ、体がふらりと傾く。

「あっ……。」

転ぶほどではなかった。

でも、一瞬だけ体勢を崩した。

「大丈夫?」

陽菜がすぐに振り返る。

「う、うん。」

凪は慌てて笑う。

「平気。」

陽菜は少しだけ考えるような顔をして、それから歩き出した。
さっきより、ほんの少しだけゆっくりと。

凪も後ろから歩き始める。

不思議だった。

歩きやすい。
急かされている感じがしない。

「陽菜。」

「ん?」

「歩くの、遅くなった?」

陽菜は振り返り、小さく笑った。

「ばれた?」

「うん。」

「凪が歩きやすいかなって思って。」

その一言に、凪は胸が熱くなる。

「でも。」

陽菜は続けた。

「合わせてもらうばっかりって、疲れるでしょ?」

「だから今日は、私が合わせたかった。」

凪は何も言えなかった。
今まで、自分は人に合わせることばかり考えてきた。

友達にも。
先生にも。
家族にも。

「みんなが歩きやすいように。」

それが当たり前だと思っていた。

だから、誰かが自分に歩幅を合わせてくれることが、
こんなにも温かいものだなんて知らなかった。

二人は並んで歩く。

どちらが前でもなく。

どちらが後ろでもなく。

同じ速さで。
その歩幅は、不思議なくらい心地よかった。

やがて畑が見えてくる。
遠くで、おばあちゃんが手を振っていた。

「おかえり。」

その声に、二人は同時に「ただいま」と答える。

顔を見合わせて笑った、その瞬間。

凪はふと思う。

(陽菜といると。)

(私は、急がなくていいんだ。)

誰かと同じ歩幅で歩けること。

それだけで、こんなにも心は軽くなるのだと、
夏の風が、そっと教えてくれた。

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