一番最初に枝豆を食べてもらうね。

一番最初に枝豆を食べてもらうね。

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コラム
陽菜はいつものように、穏やかに笑っていた。

「もちろん、無理だったら気にしないでね。」

「おばあちゃんも、人が来るの好きだから。」

凪は少しだけ戸惑う。
誰かの家へ遊びに行くことなんて、いつ以来だろう。

「私で……いいの?」

思わず口をついて出た言葉に、陽菜は首をかしげた。

「凪だから誘ったんだよ。」

その一言が、胸の奥へ静かに落ちていく。

「ありがとう。」

凪は小さくうなずいた。

「行ってみたい。」

陽菜の表情がぱっと明るくなる。

「ほんと?」

「うん。」

「じゃあ、おばあちゃん喜ぶなあ。」

その笑顔を見ているだけで、凪までうれしくなる。

「でもね。」

陽菜は少し照れくさそうに笑う。

「畑だから、おしゃれな場所じゃないよ。」

「土だらけになるし。」

「虫もいるし。」

「それでもいい?」

凪は思わず笑った。

「陽菜は?」

「え?」

「陽菜は好きなんでしょ?」

「うん。」

迷いのない返事だった。

「土の匂いとか。」

「風の音とか。」

「野菜が少しずつ大きくなるのを見るのも好き。」

話している陽菜は、本当に楽しそうだった。

その表情を見ていると、凪は思う。

(私、この顔を知らなかった。)

学校で見る笑顔とは少し違う。
もっと柔らかくて、もっと自然な笑顔。

そんな表情を見られたことが、なぜだか特別に感じた。

「凪。」

「ん?」

「もし来てくれたら、一番最初に枝豆を食べてもらうね。」

「ふふっ。」

凪は笑う。

「そんなにおすすめなんだ。」

「うん。」

「世界で一番おいしいから。」

その言い方がおかしくて、二人はまた笑い合った。

チャイムが鳴る。

昼休みの終わりを知らせる音だった。

「続きはまた今度ね。」

陽菜は立ち上がる。

「うん。」

凪も席を立つ。

授業が始まるというのに、不思議と心は軽かった。

黒板に向かう先生の声を聞きながらも、
凪の頭の中には、まだ見たことのない畑の景色が浮かんでいた。

土の匂い。
夏の風。
笑う陽菜。

その景色を想像しただけで、胸の奥が少しだけ弾む。

(楽しみだな。)

そう思った瞬間、凪はふと気づく。

楽しみなのは、畑だけじゃない。
陽菜と一緒に過ごす、その時間が楽しみなんだ。

そのことに気づきかけた凪は、
小さく頬を赤く染めながら、そっと教科書を開いた。

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