言葉にしたら、何かが変わってしまいそうで。

言葉にしたら、何かが変わってしまいそうで。

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コラム
小さな変化に、凪はまだ気づいていなかった。

昼休みが終わり、午後の授業が始まる。

いつもなら長く感じる時間が、
不思議と今日は早く過ぎていく。

窓の外では、初夏の風が校庭の木々を揺らしていた。

放課後。
「終わったぁ。」

誰かの声と同時に、教室が一気に賑やかになる。

凪は教科書を鞄へしまいながら、ふと見た。

陽菜も帰る支度をしている。

その姿を見ただけで、胸の奥にほっとしたものが広がる。

「あ。」

二人の視線が重なる。

陽菜が小さく笑った。

「一緒に帰る?」

その一言に、凪の心がふわりと軽くなる。

「……うん。」

たった二文字なのに、思ったより声が弾んでしまった。

教室を出ると、廊下には夕日が長く差し込んでいた。

部活動へ向かう生徒たちが、
楽しそうに話しながら通り過ぎていく。

二人は並んで歩く。

急ぐわけでもなく、立ち止まるわけでもなく。
歩幅が、自然と揃っていた。

「今日は疲れた?」

陽菜が尋ねる。

「うん。でも……。」

凪は少し考える。

「今日は朝より元気かも。」

「ほんと?」

「うん。」

理由は言えなかった。

言葉にしたら、何かが変わってしまいそうで。

「それならよかった。」

陽菜はそれだけ言って笑う。

その笑顔を見るたびに、胸の奥が少し温かくなる。

沈黙が訪れる。

少し前までの凪なら、焦って何か話題を探していただろう。

天気のこと。
宿題のこと。
テレビで見たこと。

とにかく、この静かな時間を埋めようとしていた。

でも今日は違った。
風が木の葉を揺らす音。
遠くから聞こえる運動部の掛け声。

夕日に照らされた二人の影。
その全部を感じながら、ただ歩いている。

不思議と、何も話さなくても落ち着く。

その静けさを破ったのは、陽菜だった。

「ねえ、凪。」

「ん?」

「今、何考えてた?」

凪は少し笑う。

「秘密。」

「えー。」

陽菜も笑う。

「じゃあ、私も秘密。」

二人は顔を見合わせて、声を立てて笑った。

また沈黙が訪れる。

でも、その沈黙はもう気まずくなかった。
むしろ、言葉がなくても隣にいられることが、
少しだけ嬉しかった。

凪は夕焼けに染まる空を見上げる。

(こんな時間が、ずっと続けばいいのに。)

その願いが、恋という名前を持つのは、
もう少しだけ先のことだった。

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