明日って、お弁当ある?

明日って、お弁当ある?

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コラム
その願いが、恋という名前を持つのは、
もう少しだけ先のことだった。

坂道を下りきると、住宅街へ続く小さな交差点が見えてきた。
ここから先は、二人の帰り道が少しだけ分かれる。

いつもなら、何気なく「じゃあね」と手を振るだけだった。

でも今日は。

「凪。」

陽菜が立ち止まる。

「ん?」

「明日って、お弁当ある?」

凪は少し考えてから笑った。

「あるよ。」

「よかった。」

陽菜はほっとしたように笑う。

「じゃあ、また交換しよう。」

その何気ない約束に、凪の胸がふわっと温かくなる。

「うん。」

それだけの約束。
なのに、明日が少し楽しみになった。

二人は交差点まで歩く。

信号は赤。
並んで立ちながら、夕暮れの街を眺める。

子どもたちの笑い声。
自転車が通り過ぎる音。
遠くで犬が鳴いている。

どれも昨日と同じ景色なのに、今日は違って見えた。

「ねえ、陽菜。」

「ん?」

「……ありがとう。」

陽菜は少し首をかしげる。

「何が?」

「今日も。」

凪は少し照れくさそうに笑う。

「一緒にいてくれて。」

陽菜は目を丸くしたあと、小さく笑った。

「こちらこそ。」

その返事は、とても自然だった。

「凪といるとね。」

少しだけ間があく。

「落ち着く。」

その一言に、凪の心臓が小さく跳ねた。

不思議と苦しくはない。

驚いたはずなのに、どこか安心している自分がいた。

青信号に変わる。

「じゃあ、また明日。」

「また明日。」

二人はそれぞれ反対の道へ歩き出す。

数歩進いたところで、凪は振り返った。

陽菜も同じタイミングで振り返っていた。

目が合う。
どちらからともなく笑う。

手は振らない。
声もかけない。

それでも、その一瞬だけで十分だった。

凪は前を向いて歩き出す。

(また明日。)

その言葉が、今日一番うれしい約束だった。

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