その言葉は、なぜだか自分に向けられたような気がした。

その言葉は、なぜだか自分に向けられたような気がした。

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コラム
夏は、まだ始まったばかりだった。

「さあ、枝豆を採ってみようか。」

おばあちゃんは畑の中へ入っていく。

凪と陽菜も後に続いた。

枝には、ふっくらとした莢がいくつも揺れている。

「いっぱいある……。」

凪が目を丸くすると、おばあちゃんは笑った。

「でもね。」

一本の枝を指さす。

「どれでもいいわけじゃないんだよ。」

「そうなの?」

陽菜がうなずく。

「ほら、この莢。」

指でそっと触れる。

「まだ少し細いでしょ?」

凪も恐る恐る触れてみた。

確かに、少し柔らかい。

「じゃあ、これは?」

隣の莢を指さす。

「うん。」

おばあちゃんはにっこり笑う。

「これは食べ頃。」

「見分けるの、難しい……。」

凪がつぶやくと、おばあちゃんは優しく言った。

「慣れれば分かるよ。」

「毎日見てるとね。」

その言葉を聞いて、凪は枝豆をじっと見つめた。

毎日見る。

少しずつ変わる。

だから分かる。

陽菜がそっと莢を外していく。

手つきがとても自然だった。

「陽菜、上手だね。」

「小さい頃からやってるから。」

陽菜は照れくさそうに笑う。

その笑顔を見ていると、おばあちゃんが楽しそうに言った。

「この子ね。」

「昔は待てない子だったんだよ。」

「えっ?」

凪は思わず陽菜を見る。

「うそ。」

陽菜は恥ずかしそうに頬をかく。

「まだ青いトマトを採ろうとして、よく怒られてた。」

「だって早く食べたかったんだもん。」

三人で笑う。

おばあちゃんは枝豆をひとつ摘みながら言った。

「そのとき教えたんだよ。」

『まだ早いよ。』

「無理に採ったら、おいしくならない。」

「ちゃんと待ったら、一番いいときが来る。」

風が吹く。
枝豆の葉が、さわさわと揺れた。

凪は、その言葉を静かに聞いていた。

"まだ早い。"

その言葉は、なぜだか自分に向けられたような気がした。

何でも急いで答えを出そうとしていた。
失敗しないように。
迷惑をかけないように。
正解を探そうとしていた。

でも、
まだ分からないなら、分からないままでもいい。
まだ答えが出ないなら、急がなくてもいい。

そんなふうに思えたのは、初めてだった。

「凪ちゃん。」

おばあちゃんが、ふっくらした枝豆を手のひらにのせてくれる。

「はい。」

「これは今日、一番のおいしい子。」

凪は両手で受け取った。

小さな枝豆なのに、不思議なくらい温かく感じた。

その様子を見ていた陽菜が、そっと笑う。

「よかったね。」

凪も笑い返す。

「うん。」

その笑顔は、以前よりずっと自然だった。

青い空の下で、セミの声が響く。
夏の畑では、野菜だけではなく――

誰にも気づかれないくらいゆっくりと、
一人の少女の心も育ち始めていた。

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