新しい自分へ…8

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それから彼からはしばらく連絡はなかった。

私は、バイトや子供たちのことに専念していた。

けれど実際問題、お金が貯まるなど何年先になるかわからない状態が現実だった。
それでも「諦める」という考えはなかった。

児童養護施設では最低2年施設に入所してもらう、というのが条件だったが、私はそれより早く子供を引き取りたかった。

気づけばもう1年が経とうとしていた。

小学校入学前までには…一緒に生活していたい…。

今のバイトでは無理だ…。
その頃の秋田県はパートでもアルバイトでも「副業」ということが原則「禁止」されていた。

そのころ、ちょうど「某牛丼チェーン店」は「牛肉輸入制限」かなにかで肉が入ってこなくなる事態に陥り、店は混雑、シフトも人数も増やして対応していた。
帰るのは、シャワーを浴びに帰るだけの日々が2週間くらい続いた。

これでは「副業」どころの話ではない…。体力的にも限界に近かった。

忙しかったせいもあり、色んなことを忘れて仕事に打ち込むことができた。

そして、牛肉がなくなりシフトも通常に戻った…
やっと休める…

それを見計らったかのように「彼」から電話がきたのである。

私はハッとした…。

そうだ、返事も返していない。
返事だけはしようと電話にでた

そうすると相変わらず何事もなかったかのように接してきた。

そうか、ただの気の迷いだったんだな、
私はあの話には触れないようにしていた。

そうして、今までの仕事のことや彼の仕事のことなど他愛もない話をしていた
そうすると
「それで、考えてくれた?あの話」
と…

え?

私はどうやって返していいのか分からなくなった。
断る、ということをしたことがないからどうやって断ったらいいのか分からなかった。

黙っていると彼が
「俺は同棲しようと思っている。お前さえよければ、ただその部屋では子供を受け入れるにしても狭すぎると思う…」
と話していたが
私は咄嗟に
「親から結婚を迫られてるからそうやっていうんでしょ」と言ってしまった…
彼は
「それもなくはない、けれど電話でこんなに話した人もいないし、子供のことやお前の生活をみたり状況を見たりしていくうちに一緒にいたいと思うようになったんだ」
と…。

そして彼は続けざまに「もう一度会って話を聞いてくれないか」と…

私は「わかった…」とだけいい電話を切った。

どうしよう…。
親から言われたことも認めた、焦っているだけではないように感じた。

もう一度会うしかないか、それでどう思ってくれているのか、どこまでが本当の気持ちなのか、どうしていきたいのか、その気持ちは本当なのか、私は知りたかった。

ただの「同情」ではないか…
「かわいそうな人を救う自分」に酔っているだけではないのか
色々考えた。

なぜなら「自分を好きになってくれる人などいない」
これが私の前提にあった。
もちろん子供も含めて…。

そして、約束の日になった。
私はどうしても、彼の気持ちが理解できなかった。
だから断ろうと思った。

彼と待ち合わせの場所まで行き、合流した。

そして、ご飯を食べ終わったその時
「こんな話を車とかファミレスでする話じゃないから家にいっていい?」
と言われた。

確かに…
そう思い私のアパートに入れた。

彼は、いつになく「真剣」な顔で話してきた

「どうすれば子供を引き取れるの?」
と聞いてきた
私は、引き取ることは、そんなに簡単ではないこと、所得の証明や「児童相談所」が中に入ること、色々な「縛り」があることを説明した。

私は「自分が考えているほど簡単じゃない」ということを前面に出した。

そして、なんでそう思ったか、実家にはなんて伝わっているのか、
聞いた

彼は「最近家に帰ってないから、なにかは感づいているとは思う、けれどちゃんと言ってないから不安なら今ここで親に電話する」
といった。
続けて「簡単には思っていない、ただ俺は子供らも含めて幸せになりたいと思ってる、仕事が長距離だからそんなに家にはいれないかもだけど、電話ならいつでも出れる状況だし、なんならお前は仕事しなくていいし、子供のことだけやっててくれればいいと思ってる、その分俺が稼ぐから」
と…。

私は何も返せなかった…。

親にも今ここで言うと言われたし…
実際、部屋も子供がいるには狭すぎることも確か…。
仕事のことも実際「中卒」で働くにはとても雇ってもらうもの大変だった。
せいぜいパートが限界…それでも子供と一緒となるとそうもいかない状況もある…。
今はどこまで「育児」に関して柔軟になったか、私は今の人たちが羨ましく思えるほどだ。
学歴でも大変なのに「子供がいる」となると一気にパートでさえも雇ってはもらえない…
そのうえ、祖父母がいないとなれば尚更…。

その難しさはよく知っていた…。

彼は黙って考えている私にしびれを切らしたのか
「これから親に電話するわ」
といって電話をし始めた!

え?!

止める間もなく電話をかけていた

「あ、母さん?俺だけど、最近家に帰ってないじゃん?実はさ、俺今付き合っている人の家にきてんだよね、結婚も考えてるから!詳しいことは後で帰ってから話すよ!じゃあね」

と…。

なにかやり取りはあったけれど、彼のおかあさんの話声までは聞こえなかった…。

「ほら!大丈夫、俺ちゃんと親も説得するし、できなければ親と絶縁したっていい、別に親と仲よくないしな」
と…。

私は「ここまでする⁈」
とビックリしてしまった。

私はこの人を勘違いしていたのかもしれない

元旦那から比べれば雲梯の差がある。
ちゃんと仕事もしてるし、将来のことを考えて車も購入している。
給料もほぼ安定しているし、養えるだけの給料までいっている。
そして、子供を早く引き取れ、とまで言ってくる。

全く真逆だった。
それだけに「こんな人が私のことを好きでいるはずがない」

私のその歪んだ気持ちがそう相手に押し付けてしまっていた。

けれど、私はその時「よろしく」とは言えなかった。
やっぱりどこか怖かった。

考えていると彼は
「あ、給料な、はい、これ、給料明細」
と明細を見せてきたのだ

「証拠」と言わんばかりに

明細を受け取ると、そこには私が生活している金額の3倍以上の金額が書いてあった。

確実に生活していける…。

実際、「好きだ」のだけでは結婚生活は成り立たないことは元旦那で懲りた…。
そもそも「好きだ」もなかったが…。

そこに関しては「申し訳ない」と今なら思う。
それはまた別の機会に話すとして…

私と子供にとっても「なにも文句の一つ」も出てこない、いや…
文句など一切ない話だった。

金銭だけでなく、親にも報告し、子供のことまで考えてくれている…。

そこでやっと私は
「ここまで考えてくれてありがとう、お願いします」
と言えた。


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