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夜に読む、恋の記憶 第1話

彼と最後に会った日は朝から雨が降っていました。駅までの帰り道、彼は何も言わずに傘を私の方へ傾けてくれました。彼の右肩だけが、少し濡れていた。「そっち、濡れてるよ」そう言うと、「大丈夫」彼はいつものように笑いました。その笑顔を見て、まだこの人の隣にいてもいいような気がしてしまったんです。でも駅に着くと、彼は改札の前で立ち止まりました。「じゃあ、また」いつもと同じ言葉でした。私も、いつもと同じように、「うん、またね」そう答えました。本当は、聞きたかった。次はいつ会えるの?今日、何か言いたいことは、なかった?それだけ、聞けなかった。彼が振り返らずに歩いていくのを、私は改札の向こうから見ていました。スマホが鳴ったのは、家に着いて少したってからでした。「傘、そっちにあるよね」その一言だけ。彼の傘は、私の手元に残っていました。返さなきゃ。そう思いながら、会う約束をする理由ができたことに、少しだけ安心しました。でも、その傘を返す日は来ませんでした。連絡は少しずつ減って、いつの間にか、なくなりました。玄関に置いたままの黒い傘を見るたび、何度も思います。返したかったのは、本当に傘だけだったのかな。言えなかった寂しさも。聞けなかった言葉も。「またね」を信じていた自分も。全部、あの日の雨の中に置いてきてしまった。それでも長い間、その傘を捨てられませんでした。彼を待っていたわけではありません。ただ、あの恋が終わったと認めるのが、少しだけ怖かった。あの日の「またね」は、結局、最後の言葉になりました。心葉(ここは)♡   *これからもココナラブログで、心に残っている恋の記憶(連載10話)を、少しずつ綴って
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夜に読む、恋の記憶 第2話

日付が変わる少し前から、スマホを何度も見ていました。今日は、彼の誕生日。去年は、0時になった瞬間に、「お誕生日おめでとう」と送った。彼から返ってきた、「一番乗り。ありがとう」その言葉が嬉しくて、なかなか眠れなかったことを覚えています。でも今年は、もう送る理由がありません。連絡を取らなくなってから、何か月もたっていました。それでも、誕生日だけは忘れられなかった。23時58分。LINEを開いて、彼の名前を探しました。トーク画面には、最後に交わした言葉が残っていました。「元気でね」そのあとに、彼から返事はありませんでした。私は文字を打ちました。「お誕生日おめでとう。元気にしてる?」少し考えて、最後の一文を消しました。「お誕生日おめでとう」これだけなら、送ってもいいかな。もう未練なんてないように見えるかな。ただのお祝いだって、思ってもらえるかな。時計は、もう0時を過ぎていました。送信ボタンに指を置いても、どうしても押せませんでした。本当は、誕生日を祝いたかっただけじゃない。返事がほしかった。私のことを、少しでも思い出してほしかった。もしかしたら、「久しぶり」その一言から、また何かが始まるかもしれない。そんな期待が、心のどこかに残っていました。だから送れなかった。何も返ってこなかった時、もう一度傷つくのが怖かったんです。しばらく画面を見つめてから、打った言葉を全部消しました。真っ白になったメッセージ欄を見て、少しだけ寂しくなりました。でも、不思議と涙は出ませんでした。今年は祝わなかったんじゃない。心の中で、ちゃんと祝って、送らないことを選んだだけ。「お誕生日おめでとう」心の中で、そっとつ
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