夜に読む、恋の記憶 第7話

夜に読む、恋の記憶 第7話

記事
コラム

彼と一緒に行くはずだった映画を
ひとりで観に行った日でした。

「公開されたら一緒に行こう」

そう言ってくれたのは、
まだ連絡がちゃんと続いていた頃。

予告を見ながら、
彼が少し楽しそうに笑っていました。

「これ、絶対好きだと思う」

そう言われたことが嬉しくて、
私は公開日まで覚えていました。

でも、映画の公開日が近づく頃には、
もう彼からの連絡は減っていました。

私から映画の話を出せばよかったのかもしれません。

「そろそろ公開だね」
「いつ行く?」
って、何気なく聞けばよかった。

でも、聞けませんでした。

彼が忘れていたらどうしよう。

もう行くつもりなんてなかったらどうしよう。

その答えを聞くのが怖くて、
私は何も言えないまま、
その日を迎えました。

映画館の前に着いた時、
少しだけ足が止まりました。

本当なら、
ここで彼を待っているはずでした。

チケットを見せ合って、
ポップコーンを買って、
どっちが飲み物を持つかで笑って。

そんな想像だけが、
頭の中に残っていました。

でも隣に、彼はいませんでした。

私は一人分のチケットを買いました。

座席を選ぶ画面で、
ふたつ並んだ席を見て、
少しだけ迷いました。

でも選んだのは、
端の方の一席でした。

映画が始まると、
暗い館内に音が広がりました。

周りには、恋人同士もいました。

小さな声で笑い合う人たち。
同じ飲み物を交代で飲む人たち。

私はまっすぐ前を向いて、
できるだけ何も考えないようにしました。

映画は、思っていたよりも面白かったです。

ちゃんと笑えた場面もありました。

でも、ふとした瞬間に、
隣が空いていることを思い出してしまう。

彼なら今のところで笑ったかな。

この場面、あとで話したかったな。

そう思うたびに、
胸の奥が少しだけ寂しくなりました。

映画が終わって、
明るくなった館内で、
私はしばらく立ち上がれませんでした。

泣いたわけではありません。

ただ、ひとつの約束が、
本当に終わった気がしました。

外に出ると、
夕方の空が少しだけ明るく残っていました。

私はスマホを開いて、
彼とのトーク画面を見ました。

最後のやり取りは、
何日も前で止まっていました。

映画、観てきたよ。

そう打ってみました。

でも、送る理由が見つかりませんでした。

本当は、感想を伝えたかったんじゃない。

あなたと行きたかった。

その一言を、
言いたかっただけでした。

しばらく画面を見つめて、
私は文字を消しました。

そして、映画館の前で、
小さく息を吐きました。

一人で観た映画は、
少し寂しかったけれど、
ちゃんと最後まで観ることができました。

彼と行くはずだった映画を、
私ひとりで観終えた日。

それは少しだけ悲しくて、
でも少しだけ、
あの約束を静かに手放せたような日でした。

あの映画の内容よりも、
帰り道に見た夕方の空を、
私は今でもよく覚えています。

心葉(ここは)♡

   *


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